| (2005年1月6日記す) 神奈川県立川崎図書館見学記 and 村橋勝子氏(日本経団連)「情報源としての社史」講演会の記 山田幸雄(和光大学附属梅根記念図書館) 日本の1990年以後のバブル景気崩壊以来、日本経済がデフレの中で、ここ十数年もがき続けてきました。不良債権やら、どこがどうなったのかわからない銀行の統廃合、従来あった系列という装置の仕組み変えやら、規制緩和という名の下で経済体制のシャッフルが進行しています。 図書館でも公共図書館を中心にビジネス支援の図書館網がつくられています。どちらかと言えば起業とか、現に進行しているビジネスの現未来の支援をそのような図書館網は目指しているのに対し、今回の見学会・研究会は社史という、会社の過去を振り返る縁(よすが)としての資料に焦点をあてたものでした。 神奈川県立川崎図書館の「社史類コレクション」がそれであり、1万冊の社史を網羅している『社史の研究』(ダイヤモンド社 2002年刊)を著わされた村橋勝子さんの講演「情報源としての社史」でした。 私が図書館員になりたての頃、某大学の先輩図書館員と、談たまたま社史に及び、私の所属する図書館ではあまり集めてはいないと言った所、歴史のある大学の先輩図書館員は積極的に集めていると言いました。私は経済学部がある大学なので、その後不明を恥じたものでした。 とはいえ、あまねく社史を寄贈依頼をし頂くというようなことではなく、教員の研究対象図書の購入や寄贈の依頼をしただけではありましたが、企業研究の大事な道具なのだという認識は持てるようになりました。とはいえ、村橋さんも指摘していたように本のうちでも、読まれない代表のひとつが社史であるのも事実でしょう。ご当地ソングという歌がありますが、ご当地でしか大ヒットしない歌(たまには大化けするのもありますが)になぞらえれば、私の偏見かもしれませんが、社史と学校史(研究者にはあたりませんが)がさしあたり、それでしょうか。かかわっている人には情景や細部までが、頭の襞(ひだ)に入り込み、読めばいとも容易く思い起こせるのに、第三者にはさっぱり面白くない。 さて、では社史とは何かということで、説明してくださった川崎図書館資料課の青木さんの資料では、企業の生成発展の記録であり、その企業にしかない経営、技術、統計等の情報が掲載されているものとしています。 村橋さんの講演資料からみると、社史の定義と要件として、提供主体が「企業」であり、「自らの歴史」を語っていること、「自らの責任において」提供されていることとしています。いわば会社の自叙伝です。 神奈川県立川崎図書館のコレクションは社史類コレクションであり、社史だけにとどまらない経済団体史、公社公団史、労働組合史、実業家伝記・ノンフィクションまで集めています。 神奈川県立川崎図書館の開館は1959年1月だという。さすがに45年程経った建物は、他の図書館の建物に比べると古く、工夫して使っているようでした。 説明していただいた青木さんの資料からほとんど丸写しで、列挙しますが 1959年5月 商工資料室 開設(JIS 特許 業界誌 統計資料等) 社史 工場史 労働組合史 約1,000冊を公開するが、これが社史コレクションの出発点となる。 社史類は地域性を重視し、地域研究を目的に収集する。 1960年〜 収集を全国に拡大し、社史類コレクション発展の基礎を確立する。 1964年 1972年8月 機構改革により 商工資料室が産業資料室に名称変更。 社史類も産業資料の一部となる。 1975年〜 館外貸出可となる。 1984年 1984年4月 機構改革により、産業資料から図書資料へ、約5,900冊の特殊コレクションとして独立する。 1998年4月 リニューアルし、科学と産業技術系の県立図書館となる。 4階に社史閲覧室開設、約10,000冊の社史類公開。 このように歴史をみてくると、当初の資料収集は川崎という臨海に面した工業地帯の地域という特色を帯びた図書館であることがわかります。それから資料収集対象を全国へとひろげていっています。現在、社史類コレクションとして、会社史・団体史で約11,000冊 労働組合史が約1,900冊の13,000冊所蔵し、閲覧室に入りきれない分は少子化の時代か、閉鎖された県立高校の教室を書庫として利用していますとのこと。 産業資料とし、社史だけでなく、他の資料も集めたのは、社史の限界として、企業に不都合なことはのっていないため、組合史や産業史、新聞、雑誌その他の資料と併せ読む必要があると指摘しています。ところが今や、労働組合史の発行が、ほとんど無いというのが実情だそうです。 収集方法としては「日本全国書誌」(国会図書館編)により、選定し、葉書きで寄贈依頼をしていること。1970年代には「納本週報」(国会図書館編)で必死の努力で収集したことや、『会社史・経済団体史総合目録』(専門図書館協議会関東地区協議会編)等々により収集したことが話されました。 その成果として『社史・労働組合史目録 1990』(神奈川県立川崎図書館刊)、『会社史総合目録 増補・改定版 1996』(日本経営史研究所刊)が発行されていることや、 今はインターネットで神奈川県立川崎図書館のホームページで、社史コレクションの資料検索が可能だそうです。 まことにどこかの会社や産業、実業家の伝記等を調べるのには、施設は古いが指折りの図書館と思いました。 村橋さんの講演のうち、本人の言をもとに私の記憶に残っていることを記します。 雑誌「情報管理」の埋草とし、1990年頃から、灰色文献シリーズとして20回くらい執筆していたが、その時、社会の通説に対し事実をもって対置するのが大切と思い、社史をみました。通説でいわれていることとは違う事実、そこに社史の魅力を感じました。 ダイヤモンド社の編集者がやってきて何を書いているのか聞かれ、そのようなことを話したところ、一冊の本にしないかといわれました。参考に『社史の作り方』というような大日本印刷刊行の本をみましたが、実は本の作り方が大半でした。類書がなく、切り口を考えれば出来るのだと思うと元気が出ました。 そこで上記神奈川県立川崎図書館に毎週通い、社史7,500冊をみることが出来ました。京都では龍谷大学で1億円で購入した社史の資料、長尾文庫があるそうです。 3年間かけ1万冊の社史を網羅した『社史の研究』を2002年に出しました。 社史の刊行目的は 1 経営者教育、社員教育であり、幹部社員に社史づくりをさせたりする。2 資料・情報の整理・保存 3 PR、イメージづくり であり、刊行する要因としては 1 経営資源の余裕 人的、費用の面 2 社史産業の台頭 アウトソーシングで発行出来るようになる 等があげられます。 社史の実態では明治22年から始まり明治30年頃より本格的になりました。『会社史総合目録 増補・改定版 1996』(日本経営史研究所刊)によると1万3千冊くらい発行され、現在毎年200点くらい発行されています。平均発行部数も2,000部くらいだったものが数千部にかわってきています。 最近の社史の傾向として、1 書名にバリエーション 2 ページ数が少ない 3 カラー化 大型化 ビジュアル化し明るい雰囲気を出している 3 多種編成 百年史でもターゲット毎に5種類くらい発行する。 出版物としての社史の特色とし刊行のあり方とし、ほとんどが非買品であり、本当に必要な人に届かないという需給バランスが生じること、内容からみると、企業の歴史的経営情報のエンサイクロペディアである。事実の解釈をめぐり、評価が変わる。ホンダの二十五年史と三十年史では会社の印象が異なる。海外との比較でいえば、企業自らが編纂、発行するが海外では、学者が書く学問的なものが多い。経営史以外の産業史の役割も果たす。 例えば、「花王史百年」の石鹸や「大塚製靴百年史」の製靴のようにです。 社史の魅力は埋蔵資源の宝庫だということです。企業戦略の事例集であり、多種多様なデータ、情報を満載していることです。 今後の課題としては編纂者、発行企業の課題とともに、ライブラリアン、図書館の課題として 1 編纂への積極的関わり、2 書誌データの標準化 3 社史に関するデータ、索引の整備 4 社史に関する広報、啓蒙 があげられます。 このようにかなり綿密に 村橋さんが社史を分析されたことは、やはり『社史の研究』という著作を上梓された人だけが持つ強みがあらわされていると共に、 類書が無く適切な切り口をみつければ出来るという思いで『社史の研究』をつくりあげた図書館員としての村橋さんには感服いたしました。 最後に、社史という過去の縁(よすが)が企業の歴史的経営情報のエンサイクロペディアとすれば、社史を使って、現未来への企業活動を支援する道具にもなるでしょう。才能あるビジネスマンが社史からヒントを得、そこからビジネスチャンスをとらえることも可能なのでしょう。 |