部会長挨拶






さらなる自己改革を目指して

    



 社会・環境部会長 諸葛 宗男(東京大学)

 東京電力福島第一原子力発電所事故により原子力の平和利用が1956年のスタート以来、最大の試練に直面している今、我々社会・環境部会は今後どのような活動をすべきであろうか。自分達の将来を論ずる前に、真っ先に行うべきことは事故の被害を受けている住民の方々に寄り添う活動を行うことではないかと私は考えている。それが事故を起こした原子力界の一員としての最低限の務めではないか。既に「原子力安全」調査専門委員会クリーンアップ分科会が中心になって献身的な活動を進めている。この活動はまだまだ小規模なものであるが、これを拡大し、長期にわたって続ける必要がある。今後とも多くの会員がこの活動に参加することが望まれる。

 事故の原因調査はまだ道半ばであるが、既にはっきりしていることも多い。「原子力安全」調査専門委員会技術分析分科会はいち早く5月9日に津波対策の見込みが甘かったこと、停電対策が不十分だったことなど12項目の教訓を公表した。政府も6月7日にはIAEA閣僚理事会向け報告を公表し、この中で28項目の教訓を挙げている。原子力学会の各専門部会では津波PSAの作成など、既に教訓に対する対策活動に着手している。

 9月19日から4日間北九州で開かれた秋の大会では様々なセッションでその活動報告が行われ、多くの会員や一般参加の市民の方々から真摯な意見が寄せられた。会員の報告ではいまだかつてない率直な自己批判の言葉が数多く発せられた。特に印象的だったのは安全神話に対する自己批判である。原子力に対する信頼を得ようと、繰り返し安全性の説明をしているうちに、自分自身がいつのまにか安全が絶対的なものであるかのごとく錯覚し、「事故は起きない」という安全神話を信じるようになってしまったという反省の弁である。これが安全設計の見直しや事故発生に備えた過酷事故対策や防災対策への取り組みの真剣度を減じさせ、事故発生を防止できず、さらには大量の放射能放出を防止できなかったとの反省である。

 私はリスクコミュニケーションのあり方にも責任があったと考えている。チェルノブイリ事故後にその教訓を活かし、原子力安全の憲法とも言える「深層防護の考え方」の国際的見直しが行われた。事故の発生防止、事故の拡大防止、事故の影響緩和というそれまでの3層の深層防護に加え、過酷事故対策と防災計画の2層を加えた5層の深層防護に改められ、IAEAの安全原則の冒頭に明記された。それにも関わらず、我が国のリスクコミュニケーションでは5層の深層防護はおろか3層の深層防護すら説明せず、単に事故の発生防止の対策の1つである「5重の壁」による多重障壁の説明しかしてこなかった。このため関係者の多くにこれがあたかも深層防護であるかのごとく思い込ませてしまっていた。国際的には過酷事故対策と防災対策が安全設計と同レベルの位置づけに引き上げられ、手厚い対策が施されてきたのに対して、我が国の対策の真剣味が欠けていたのはリスクコミュニケーションで5層の深層防護の思想を徹底的に説明してこなかったことが影響していたのではないかと反省している。

 事故の発生防止の対策をいかに完璧に行っているかを説明する時に、事故が発生した時の対策を説明することは難しいことではあるが今後のリスクコミュニケーションのあり方を改めて考え直す必要がある。原子力には厳然として潜在的危険性が存在し、どれだけ安全性を高めたとしても、リスクがゼロになることはあり得ないと言う基本的なことを説明することや、IAEAの安全原則に5層の深層防護の原則が謳われ、事故発生時の対策を行うことが示されていることを説明することが必要なのである。

 原子力界にはいまだに「自分達は正しいことを言っているのに世の中の人たちが不勉強だから理解されない。一般の人達にもっと勉強してもらわないといけない」と考えている人が多い。社会環境部会の重要任務のひとつは原子力界に依然として残っているこの発想を払拭することである。すなわち「理解されないのは自分達の情報発信の仕方に問題があったからで、世の中の人達に理解されるような情報発信の仕方を我々が勉強し、改善しなければならない」と考えるようにならないと真の自己改革は進まないのではないかと考えている。

 社会環境部会では6月に「福島勉強会」を立ち上げて今回の事故の社会的要因分析を行ってきたが、10月からはこれを正式に「福島事故に関する社会的要因分析コアグループ」として発足させることとした。今回の事故に関する社会的要因を分析し、人間、社会、環境、技術の相関系における原子力のあり方を探求するという部会の設立趣旨に即して今後の活動にどのように活かすのかを考え、提言するのが目的である。

 最後にポジション・ステートメントの活用についてPRをしたい。原子力の専門家であっても自分の専門分野を含め、一般の人に原子力のことを説明できる人は案外と少ないのではないか。しかし、一般の人から見ると原子力学会の人であれば原子力のことは何でも知っていると思われているので、学会員は様々なことを聞かれる機会が多い。当学会ではそのような機会に学会員が使うためのツールを提供している。「ポジション・ステートメント」がそれである。ホームページに掲載している。原子力に関する様々な最新のイシューに対して日本原子力学会がどう考えているかを一般の人向けに解り易く纏めたものである。会員が一般の人からそのイシューについて尋ねられた際は、これを引用して「学会としてはこう考えている」と説明できるよう作成したものである。是非幅広く活用願いたい。

(平成23年10月1日)






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