佐藤 努
金沢大学大学院自然科学研究科
地球環境科学専攻
〒920-1192 石川県金沢市角間町
e-mail : tomsato@earth.s.kanazawa-u.ac.jp
1.はじめに
粘土は,我々の生活する地球表層環境系においてどこにでもある身近な無機化合物の集合体です.粘土を使った泥遊びや泥団子作りは,誰しもが持つ幼い頃の経験でしょう.また,多くの読者は小学校等で楽焼きを作った経験も持っていることでしょう.これらの経験を少し思い出してください.粘土と呼ばれる土は,指先でこすり合わせても粒がわからないくらい滑らかな微粉末で,水を加えるとぬるぬるして,練るといろいろな形を自由に作ることができ,乾かすと固くなって,焼くとさらに固くなるという特徴を持っています.上述のような土の特徴は,言い代えると^微細粒子であって,_水を含んでいるときに粘性と可塑性を示し,`焼成すると固結する物質の3つにまとめることができます.粘土の性質は,粘土鉱物以外の無機物質,有機物質,交換性陽イオンと可溶性塩類の組成,構成粒子の組織によっても変わりますが,基本的には構成粘土鉱物の性質に支配されています.
粘土は我々にとってごく身近でありふれた物質ではありますが,上述のように他の物質にはない珍しい特性を持っています.それゆえに,人類がその歴史のはじめから粘土を様々な場面で利用してきたことは容易に想像できることでしょう.粘土はどのような特性を持っていて,その特性の発現機構はどのように説明されているのでしょうか.そして,どのような場面でどのように利用されているのでしょうか.本稿では,まず粘土の性質の源となっている粘土鉱物の物理・化学的性質を紹介し,それらの性質の発現機構を解説するとともに,粘土鉱物の特性を活かした利用例を紹介します.
2.粘土鉱物の特性
化学進化における粘土の役割を提唱したことで有名なバナールは,その著書「The Physical Basis of Life」の中で,「起源の研究を通じてのみ構造と機能が理解され,構造と機能が適切に理解されてのみ,それらを利用することができる」と述べています.この基本理念は粘土鉱物に限ったものではありませんが,ややもすると利用が先行しておろそかにされがちな材料の起源,構造,機能を理解すること,利用や応用にもrationale(理論的解釈)が不可欠であることを説くものであります.粘土の様々な分野での利用や応用を考案し,新しい応用分野を開拓する場合も,粘土鉱物の生成,構造,性質の理解が不可欠なのです.ここでは,バナールの基本理念にしたがって,粘土の利用や応用例を示す前に,粘土の性質について解説いたします.粘土鉱物の生成や構造は,本基礎講座氓フ河野(2001)や上原(2000)を参照してください.
自然界に産する多くの粘土鉱物は微細粒子からなり,粒子の大きさはミクロンまたはサブミクロンオーダーで,コロイドとしての挙動を示します.非常に小さく平らな粒子なので,比表面積(単位質量あたりの表面積)が非常に大きいことが特徴です。また、その表面は正または負の電荷を帯びているので,高い表面活性を持っています.粘土鉱物の機能の発現はこの表面活性にあり,粘土鉱物に特徴的な^イオン交換性,_吸着性などの化学的性質や,`分散・凝集に代表されるコロイド性,a膨潤性などの物理的性質となって現われます.以下にこれら4つの特性について説明します.
2.1. イオン交換性
粘土鉱物の表面は,負または正の電荷を持っているので,その電荷と反対符号を持つ陽イオンまたは陰イオンの吸着が起こります.これらの吸着イオンをもった粘土鉱物が他のイオンを含む溶液と接触すれば,吸着イオンと溶液中の異種イオンとの間で交換反応が瞬時に起こります.この現象をイオン交換と呼んでいます.イオン交換反応によって溶液中に放出される陽イオンまたは陰イオンの量を測定すれば,反応に関与する粘土鉱物の正または負の電荷量を見積もることができます.この量をそれぞれ陽イオン交換容量 (Cation Exchangeable Capacity: CEC)と陰イオン交換容量(Anion Exchangeable Capacity: AEC)といい,普通100g当たりのミリ当量数(meq,当量はイオンの価数にモル数を乗じたもの)で表されます.表1に主な粘土鉱物と関連物質のCECを示します.
イオン交換性は,上述のように粘土鉱物の表面に電荷を有することに起因します.では,なぜ粘土鉱物は表面に電荷を持っているのでしょうか.
粘土鉱物の基本構造は,Si-O四面体が2次元的につながっている四面体シートとAl-O, Mg-O等の八面体がつながっている八面体シートから構成されます.この四面体シートでは,通常1個のSiが4個のOで囲まれていますが,Siの代わりにAlも入ることがあります(図1).また,八面体シートでは,Alの代わりにMgも入ることがあります.この様な置換は通常同じくらいの半径をもつイオン間で起こるので,結晶構造に大きな変化はなく,同形置換と呼ばれています.しかし,上述のような同形置換が結晶構造内で生じることにより,電荷の不足を生じ,その負電荷(層電荷)を補うために陽イオンが結晶層間や結晶表面に位置することになるのです.同形置換による負電荷は,外囲条件の影響を受けることなく一定であるので,永久電荷と呼ばれています.粘土鉱物で永久電荷が卓越しているのは,スメクタイト,バーミキュライト,雲母,緑泥石です.
|
| 図1 2:1型粘土鉱物の同形置換と電荷分布 |
もう1つの粘土表面の電荷は,結晶構造末端のOH基によるもので,接触する溶液のpH,イオンの種類と濃度,温度などの外囲条件に影響されて変化するので変異電荷と呼ばれています.図2は,溶液のpHに依存して,カオリナイトや酸化物の表面電荷が変化することを示したものです.例えば,接触している溶液のpHが7の場合,石英,カオリナイト,α-ニ酸化マンガンの表面は負に帯電しているのに対して,γ-アルミナ,ペリクレイスは正に帯電していることがわかります.表面がちょうど電気的に中性になるpHは各金属酸化物の金属の種類に依存し,このpHの値は荷電ゼロ点(point of zero charge:PZC)と呼ばれています.固体表面は,PZCより酸性側では正の電荷を持ち,アルカリ側では負の電荷を持ちます.
|
| 図2 溶液のpH変化にともなう代表的な鉱物の表面電荷の変化 |
変異電荷の発現機構は,表面水酸基のプロトン化と脱プロトン化によって説明することができます.粘土鉱物の結晶内部では,四面体シートの底面酸素は隣り合った2つの四面体のSiと結合していますが,結晶末端では外側のSiが欠けているために酸素は余った負電荷によってH+を引きつけてOH-の形になります(シラノールと呼ばれています).しかし,pH>3.0(石英のPZC; Sverjensky and Sahai, 1996)以上の場合は,末端OHからH+が離れて溶液中のOH-イオンと結合してH2Oになる割合が大きくなるので,結晶端面に負電荷が現れ,溶液のpHが高くなるほど負電荷量が増大します.また,結晶端面でAlと結合しているOHは(アルミノールと呼ばれています),pHが9.0(ギブサイトのPZC; Sverjensky and Sahai, 1996)以下では溶液中の多くのH+を引きつけてOH3+の形になるため,そこには正電荷が現れます.図3に示されるように,カオリナイトの表面電荷は,上述したシラノールとアルミノールのプロトン化や脱プロトン化を合わせて決定され,粘土鉱物の結晶端面では,接触しているpHが高くなると表面は負電荷が優勢となり,pHが低くなると正電荷が優勢になります.このような変異電荷は,カオリナイト,アロフェン,イモゴライト等,電荷が粒子表面の水酸基に生ずる粘土鉱物や金属酸化鉱物・水酸化鉱物で主要な表面電荷発現の源となっています.
|
| 図3 カオリナイトにおける表面水酸基 |
表1に示されたCECの値を見ると,バーミキュライトとスメクタイトのそれが卓越していることが分かります.これは,同形置換により発現した層電荷(永久電荷)を補うために陽イオンが結晶層間に位置していますが,層電荷が雲母に比べて小さく層電荷の発現位置が八面体シートにあるため電荷が表面に広く分布し(図1),層間陽イオンが外圏錯体としてケイ酸塩層と弱く結合しているために(図4),容易にイオン交換されると考えられています.一方,雲母は,スメクタイトやバーミキュライトと類似の構造を持っていますが,層電荷が大きくその発現位置が四面体シートにあるため電荷は同形置換のあるところに局在し,層間陽イオンは内圏錯体としてケイ酸塩層と強く結合して非交換性のために(図5)相対的に小さな値となっています.変異電荷に卓越する粘土鉱物の場合,表面水酸基のプロトンの解離によるイオン交換性によりCECが決定されるため,CECは接触する溶液のpHによって大きく変わります.
陰イオン交換性の起源は,表面OHにプロトンが付加して正に帯電した結晶端面に静電気的に吸着した陰イオンの場合が多く,リン酸やヒ酸等は水酸基との配位子交換によって結合するため,いったん吸着すると容易に交換しません.また,複水酸化物のハイドロタルサイトのように,八面体陽イオンの同形置換で過剰な正電荷を中和する形で層間に陰イオンを保持し,陰イオン交換性を示す鉱物グループも存在します.スメクタイトが陽イオン交換性を示し「陽イオン粘土(cationic clay)」と呼ばれるのに対し,高い陰イオン交換容量を持つハイドロタルサイト族の粘土は「陰イオン粘土(anionic clay)」と呼ばれ注目されています.
|
| 図4 スメクタイトの底面酸素とカルシウムイオンの表面錯体(外圏錯体) |
|
| 図5 雲母の底面酸素とカリウムイオンの表面錯体(内圏錯体) |
2.2. 吸着
吸着(adsorption)は,接触している2つの相の境界で二次元的に起こる物質の濃集過程と定義されています.固体と溶液の相互作用を考える場合,溶液の中の任意の成分が固体表面に濃集し,反対にその成分が溶液中から取り除かれる過程と考えることができます.固体表面における濃集は,表面において新しい固相が沈澱(surface precipitation)することによっても起こりますが,これは三次元的に起こる物質の濃集過程でメカニズムも異なるので,吸着とは別に取り扱います.また,重合過程も厳密には吸着とは区別されています.しかし,これら3つの濃集過程を区別することは非常に難しいので,メカニズムを断定することができない場合は,収着(sorption) という用語を用います.吸着という用語は一般的に用いられていますが,その場合は表面沈殿や重合とは区別されてメカニズムが断定できているものとして理解されるので注意が必要です.
さて,粘土鉱物は二次元的な層構造をしているために,層と層の間まで入り込む分子に対しては,極めて大きな表面積(10-800 m2/g)を提供することができます.また前述のように,粘土鉱物の表面は同形置換や結晶端面のプロトン化や脱プロトン化によって帯電しているので,無機・有機イオンや極性分子,有機酸等の物質が吸着することができます.特に水や極性有機分子の吸着は非常に顕著なものとして知られています.
一般に粘土層間での吸着は,様々な物理的・化学的駆動力によって達成されています.物理的駆動力にはファンデルワールス力や静電気的な引力による外圏錯体等,化学的駆動力は配位子交換,共有結合,水素結合を伴う内圏錯体等が含まれます.無機イオンに関しては「イオン交換」の項で説明しましたので,以下に,粘土鉱物表面への有機分子の吸着について解説いたします.もう1つの代表的な吸着物質である水分子については,「膨張・膨潤,コンシステンシー」の項で説明します.
一般的に粘土表面―有機分子相互作用は,有機分子の大きさ,形,極性,電荷に依存し,その特性によって粘土鉱物の吸着サイトが異なります.ここでは,有機陽イオン,有機塩基,極性・無極性有機分子,有機酸の粘土鉱物表面への吸着について解説します.
2.2.1. 有機陽イオン
このグループに分類される有機分子には,陽イオン性界面活性剤(アルキルアンモニウムイオン等),有機染料(メチレンブルー,アクリジンオレンジ等),除草剤(パラコート,ダイクオット等),光活性の殺虫剤,不飽和炭化水素の分解生成物などがあります.この中でもメチレンブルー吸着は,ベントナイトの品質管理で日常的に行われる試験法に用いられており,メチレンブルーはナトリウムイオンよりも百倍以上も層間に入り易いようです(図6).また,アルキルアンモニウムイオン吸着も,膨張性粘土鉱物の層電荷の大きさや分布を求めるときに用いられています.有機陽イオンの吸着は,普通、粘土鉱物の層間無機陽イオンとの交換反応によって起こります.この吸着反応は,粘土鉱物が持つ永久電荷や変異電荷サイトと有機陽イオンの静電気的な引力と有機陽イオンの疎水部と電気的に中性な表面酸素とのファンデルワールス力との合力によるものと考えられています.有機陽イオンのサイズが大きくなると,ファンデルワールス力の寄与が大きくなり,より強固に粘土鉱物層間と吸着するとともに,ある程度の大きさまでは吸着の選択性が高まります.
|
|
図6 2:1型粘土鉱物表面とメチレンブルー(陽イオン色素分子)の相互作用 外部表面や表面酸素、結合破断面への吸着や層間へのモノマーやダイマーの吸着を示している |
2.2.2. 有機塩基
このグループに分類される有機分子には,トリアジン除草剤(アトラジン,サイアナジン,シマジン等),N-複素環化合物(キノリン等),アンモニア,アニリン(染料や合成樹脂の原料),ピリジン,尿素等があります.それぞれの有機塩基のpKa(-logK;Kは酸解離定数)にもよりますが,低いpHではプロトン化により陽イオンとして振舞うので,この場合有機塩基の主な吸着は,粘土鉱物の層間無機陽イオンとの交換反応によります.高いpHでも,ファンデルワールス力により電気的に中性な結晶端面と吸着する場合がありますが,低pHにおける陽イオン交換による吸着と比較しても極わずかしかありません.その他に,粘土鉱物にもともと存在する交換性無機陽イオンに配位した水分子が有機塩基にプロトンを与えるドナーになって(ブレンステッド酸),有機塩基を有機陽イオンとして吸着させるメカニズムも報告されています.
2.2.3. 極性有機分子
このグループに分類される有機分子は,アルコール,アルデヒド,ケトン,二トリルなどで,粘土鉱物層間の水分子を追い出して吸着します.エチレングリコールが膨張性粘土鉱物の層間に吸着して,スメクタイトの場合に1.7nmの底面間隔を示すことは非常によく知られていて,X線回折を用いたスメクタイトの同定のときは必ずエチレングリコール処理を行うほどです.
2.2.4. 無極性有機分子
このグループに分類される有機分子には,ベンゼン,トルエン,キシレンや,ナフタレン等の多芳香炭化水素,ポリ塩化ビフェニルなどがあります.これら無極性有機分子の粘土鉱物表面への吸着量は含水率によって変化し,一般的には含水量が増加するにつれて吸着量が減少するようです.非常に低い含水量では,無極性有機分子は水で覆われていない粘土鉱物表面にファンデルワールス力によって吸着します.しかし,含水量が多くなると,水分子が層間や結晶端面で剥き出しになっている陽イオンに水素結合するので,吸着していた無極性有機分子は追い出されます.長いアルキル鎖によって粘土鉱物表面を疎水性・有機親和性に修飾することによって,無極性有機分子の吸着性を高めるなどの方法も応用されているようです.
2.2.5. 有機酸
このグループに分類される有機分子には,カテコールやペンタクロロフェノールなどのフェノール類やカルボン酸(フタル酸やサリチル酸など)があります.この種の有機分子の吸着は,接触溶液のpH,含水量,層間陽イオン種により影響されることが知られています.接触溶液のpHがpKaと同じであれば,有機酸の水酸基が粘土鉱物表面に剥き出しになっている陽イオンや層間陽イオンと直接配位するか,水分子を介してそれらと結合することによって粘土鉱物表面に吸着しています.しかし,高pHでは,フェノール酸やカルボン酸は脱プロトン化して陰イオン種となり,電気的に中性のときに比べてより弱い吸着となるようです.
2.3. 分散・凝集
非常に微細な粒子である粘土鉱物は,多量の水に混ぜると泥水となり,懸濁して沈みにくくなります.この状態を分散といい,懸濁粒子が集合して沈降し,上澄みが透明になるような現象を凝集と呼んでいます.コロイド懸濁液としては,分散している場合を安定な状態,反対に凝集している場合を不安定な状態と呼んでいます.分散と凝集の状態を支配する力は,コロイド粒子間に作用する静電気的な反発力とファンデルワールス力であり,この2つの力の兼合いによってコロイド粒子の挙動が決まります.
コロイド粒子は一般に,水中で正あるいは負に帯電しています.このとき持つ電荷は,コロイド粒子が粘土鉱物の場合,同形置換や表面水酸基のプロトン化・脱プロトン化によって生じたものであるので,この電荷と同価で反対符号の電荷を持つ対イオンを必要とします.一般的に,粘土鉱物表面は水中で負電荷を生じているので,粒子の外側を取り巻くように陽イオンが広がりをもって分布します.一方,粘土鉱物粒子表面と同符号の陰イオンは,表面から離れるにしたがって次第に増え,両者の濃度はある距離のところで等しくなります.これを電気二重層と呼び,粒子の周りの陽イオンと陰イオンの濃度が等しくなる距離が電気二重層の厚さとなり,粘土粒子の分散・凝集を考えるうえで重要な値となります.
電気二重層が厚いと,ファンデルワールス力が作用する前に二重層の同符号間の反発力が働き,粒子の結合が困難となり分散状態となります.しかし,二重層が薄くなると接近した粒子には反発力が働きますが,それ以上のファンデルワールス引力により粒子は結合し凝集することになるのです.電気二重層の厚さは,コロイド懸濁液のイオン強度やイオンの種類,pHによって変化しますので,イオン強度を低くして,電荷が低く水和数の多いイオンを選択し,pHを高くして粒子表面の負電荷を増大させることで電気二重層を厚くすることができます.逆に,イオン強度が高くて水和数の小さいイオンが多い時には,電気二重層が薄くなってコロイド粒子は凝集状態になります.大雨の降った後に細かい粒子が懸濁した「濁った河川」をよく見かけると思いますが,海に流れ込んでしばらくするとすぐに懸濁粒子は凝集・沈降します.これも,基本的には電気二重層の厚さの変化で説明される現象です.
上述の溶液の性質と電気二重層の厚さの関係を利用して,懸濁液の分散状態を変えることも容易です.もし懸濁液をよく分散させたい場合は,水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムを少量加え,反対に分散状態の粒子を沈降させたい場合は,塩化マグネシウムや塩化カルシウムを加えると容易に目的が達成されます.
2.4. 膨張・膨潤,コンシステンシー
スメクタイトやバーミキュライトは,膨潤性を有する粘土鉱物として知られています.特に,スメクタイトを主成分とするベントナイトは世界各地に産し,膨潤性が著しい粘土として有名です.ベントナイトは多量の水を吸って体積が数倍から十数倍に膨れ,水中にわずか数%のベントナイトの粉末を入れてかき混ぜるだけでゼリー状になります.膨潤(swelling)は,固体物質が液体を取り込んで体積が増大する現象で,結晶の層間に水や有機溶媒などが入って底面間隔が広がる(膨張:expansion)ことが起因しています.空気中では,スメクタイトの層間水の量は周囲の相対湿度によって変化し,相対湿度の上昇につれて底面間隔が約1.0nm,1.26nm,1.52nmと階段状に大きくなり,相対湿度100%では約1.8nmまで増加します(図7).この4段階の底面間隔はそれぞれ,層間水を含まない状態,1枚の水分子層を含む状態,2枚,3枚を含む状態に相当しています.このように湿度によって層間の水分子量が変化するスメクタイトが水中に加えられると,層間にさらに多量の水分子が入って無限に広がってしまいます.この現象には溶液の塩濃度が影響し,塩濃度の平方根に反比例して層間はある距離を保つのですが,塩濃度が低下すると底面間隔は次第に増大し,さらに低下すると無限に膨張してしまうようです.これは,外圏錯体として吸着している層間陽イオンが,水溶液中ではスメクタイトの層表面から電気二重層を形成すると同時に,スメクタイト粒子間に生ずる陽イオンの濃度勾配により浸透圧が発生し,濃度勾配を減少させようとしてさらなる水分子が層間に侵入することによるものと考えられています.いったん無限膨潤したスメクタイト粒子は,形成された電気二重層の反発により分散状態を保つことになります.この分散されたスメクタイト単位層はtactoidと呼ばれています.
粘土の水分散系では,粘土粒子の無限膨張によってゼリー状になり,ねばねばした粘性の高いペーストになります.外力が小さいと粘性が高く構造が保たれますが,外力がある程度よりも大きくなると粘性が減少して変形速度が急に大きくなり,まるで液体のように振舞うようになります.一般に,粘土の物理状態は含水量に応じて変化し,高い含水量ではニュートン流動を示しますが,含水量が低下するにつれて非ニュートン流動に変化してしまいます.さらに含水量が低下すれば塑性を示すようになり,塑性状態で粘土はいろいろな形に成形することが可能となります.さらに含水量が低下すると,半固体状態を経て固体状態になります.このように,粘土は含水量によって異なった物理状態をとり,それに対応して変形に対する抵抗の大きさが変化します.このことをコンシステンシー(外力を受けた場合に流動や変形に対して抵抗する程度)と呼んでいます.塑性を示す含水比の範囲(塑性指数)が大きいほど粘土の粘りが大きくなりますが,これは前述の膨張や膨潤の程度と深く関係しています.
|
| 図7 相対湿度変化にともなうNa-モンモリロナイトの底面間隔の変化 |
3. 粘土の利用
粘土は,人類の歴史において最も早くから利用されている鉱物資源です.現在も多分野において様々な形で利用されていますが,基本的には上で解説したような粘土の特徴(微細で平らな粒子,広い比表面積を持つ二次元結晶など)や特性(イオン交換性,吸着性,膨潤性,可塑性,コロイド性など)を活かした利用となっています.以下に,化学工業,セラミック工業,土木・建設工業などで工業原料・材料としてすでに使用されている粘土鉱物について分野ごとに紹介します.最近開発された,または現在研究が進行している粘土で造る新素材については,本基礎講座氓フ小川(2001)を参照してください.
3.1 化学工業
3.1.1. フィラー
フィラーは,増量,物性や性能の改善,機能性の付与,加工性の改善のために紙,プラスチック,塗料,ゴムなどに添加される物質です.製紙用にはカオリン鉱物やタルクが利用されており,セルロース繊維の隙間を埋めて平滑性を出すための重要な働きをします.白くて美しい印刷に適したコート紙は粘土などで平滑な表面に仕上げられており,値段の高い紙ほど粘土の使用量が多いといわれています.プラスチック加工用にはタルク,雲母,モンモリロナイトなどが用いられており,力学的性質や熱的性質の改善や加工成型性の向上に多大な貢献をしています.フィラーとして利用されている粘土鉱物は,いずれも板状または葉片状の二次元的な粒子であり,微細で平らな結晶という粘土鉱物の形態的な特徴を活かした利用となっています.
3.1.2. 触媒
粘土を触媒として利用する場合,粘土自体を触媒として使う場合と触媒担体として使う場合があります.粘土鉱物の層間で起こる触媒反応として,結晶端面の水酸基や層間の金属イオンに水和した水分子が解離して生じるプロトンによる固体酸性により,ダイマー酸やアルキルフェノールの製造,炭化水素の炭素ム炭素結合を切断して低分子の炭化水素に変えるクラッキングなどがあります.この用途で用いられる触媒には,主に酸性白土や酸性白土を酸処理した活性白土が利用されています.一方,粘土を触媒坦体として使う場合には,粘土鉱物に触媒を吸着させることが必要です.これにより,触媒を固体上に固定化し,触媒の安定性や粘土層からの作用で選択性を向上させることも可能となります.触媒や触媒の担体としての利用は,粘土鉱物が持つ電荷やそれに起因する固体酸の発現という特性を活かしたものです.
3.1.3. 吸着
粘土が吸着性に優れた無機材料であることは既に解説しましたが,その吸着剤としての代表的な利用例は食用油の脱色であります.実際,食用油を製造している会社では,食用油を作る工程で粘土を使用しています.これに用いられる粘土は主に活性白土です.植物性の食用油はカロチノイドやクロロフィルにより着色しているのですが,活性白土はこれらの色素をよく吸着するために,その脱色剤として使われています.また,猫の尿を吸着させて臭気の発生を抑制する材料としてベントナイトが利用されています(猫砂).猫の尿でベントナイトが濡れると表面が固くなり,その塊を除くことによって猫のトイレを清潔に保つことができるというしくみです.
3.1.4. 化粧品・医薬品
化粧品における粘土鉱物の役割は多岐にわたっていて,ファンデーション,口紅,マニキュア,保湿クリームなど数多くの製品に利用されています.粘土鉱物は,固形タイプファンデーションの使用性向上剤,クリーム,マニキュアなどの増粘剤・品質安定剤,パックの清浄剤として利用されています.
固形タイプのファンデーションには主に雲母,カオリン鉱物等,非膨潤性の粘土鉱物が用いられています.これらの粘土鉱物が持つ板状の粒子形状が,肌に適度な伸び,すべり感,密着感をもたらし,光沢感や仕上がり感を向上させます.クリーム・マニキュアなどの安定化剤には,ゲル形成能を有するスメクタイトが用いられています.特に,マニキュアのような有機溶剤を用いた製品では,主に四級アンモニウム塩を層間に吸着させた有機粘土ゲルが用いられています.パックやニキビ予防クリームにもスメクタイトが用いられ,スメクタイトが持つ皮脂吸着能を活かした応用例であります.
医薬品の分野でも様々な粘土鉱物が利用されています.イギリスでは昔,馬の傷薬にカオリン鉱物を用いていたそうです.カオリン鉱物は分泌物をよく吸収する吸着剤,タルクはすべり性や延展性が高く皮膚に付着しやすいので粉末製剤の滑沢剤,ベントナイトは患部からの水分や分泌物を吸収する吸着剤として利用されています.最近では,花粉を拭き取るシートや入れ歯安定剤の包装カバーにも,「スメクタイト配合」や「ベントナイト配合」の文字を見つけることができます.一方,粘土鉱物自身を薬剤(内服薬)として用いる例としては,酸性白土,カオリナイト,ハイドロタルサイトがあります.酸性白土やカオリナイトには,皮膜形成性,有機物吸着性などがあり,これらは胃壁の保護,胃腸内有害物質や細菌の吸着,胃腸内の過剰水分を吸収して下痢を止める作用等として働きます.また,ハイドロタルサイトとともに,胃の過剰な酸を中和し胃液のpHを高める制酸剤としての働きもあります.
3.1.5. その他
化学工業とは少しかけ離れますが,その他に鉛筆,複写紙,溶接棒,鋳物等にも粘土が使用されています.
黒鉛筆の芯にはカオリン鉱物やスメクタイトが,色鉛筆の芯にはタルクやパイロフィライトが使われています.黒芯は9Hから6Bまで様々な硬さのものが造られていますが,硬い芯ほど粘土の含有率が高く,一般的に用いられるHBで30〜35%の粘土を含んでいます.黒芯は,粘土懸濁液に黒鉛粉末を加えてよく混練して押し出し成型した後,約1000℃で焼き固めます.この工程で黒鉛粒子が緻密に配向し,その隙間に油成分を含浸させることで滑らかな筆感と高い強度が達成されています.粘土は押し出し成型や粒子の配向,油成分の含浸でその特性を発揮しているものと考えられています.
複写紙はノーカーボン紙とも呼ばれ,無色のロイコ系色素と呈色剤(酸性白土またはフェノール樹脂など)との反応により,カーボン紙を挟むことなく筆圧により発色させるものです.筆圧によって紙面の裏側に塗布されたマイクロカプセルが破れ,無色化された色素が,酸性白土を塗布した下の紙に吸収され,呈色反応が起こって発色するため複写が可能となるという仕組みです.これには,呈色剤である酸性白土の固体酸が関与し,色素と固体酸サイトとの電子の授受によって達成されています.
溶接棒には,芯の金属を溶けやすくするために,融点の低くなるフラックスが被覆されています.そのフラックスを被覆する際にセリサイトを少し混ぜると潤滑性が良くなり,製造効率が著しく向上するそうです.セリサイト粒子が薄くて広い平滑な面を持っていることに関係しているものと考えられています.
鋳物には,溶融金属を流し込み凝固させる型(金型と砂型)が必須です.砂型は砂をベントナイトなどの粘結剤で結合した鋳型で(ベントナイトを粘結剤とする砂型は生型と呼ばれている),安価であること,単純な圧縮で成型できること,再利用が可能であることなどの理由から頻繁に利用され,ベントナイトの粘結強度の高さや耐熱性などの特性を利用した用途であります.
3.2. セラミック工業
セラミックスという言葉がもてはやされて久しいですが,最近では無機固体材料をセラミックスと総称するようになり,陶磁器,耐火物,セメントなどのほか,アルミナ,窒化ケイ素,炭化ケイ素などの多様な無機化合物の焼成品が新たにつくられるようになってきました.しかし,今なお粘土を原料としたセラミックスが主流であります.
陶磁器をつくるときには,まず形を作り乾燥したあとに焼き固めなくてはなりません.そのために原料である粘土は,形を自由に成型でき,かつできた形を保つ性質を持っています.このような性質は可塑性と呼ばれ,粘土の代表的な特性の一つであり,これには粘土粒子の微細で薄片状になりやすい性質が深く関与しています.日本で陶磁器に使われる主な原料には,カオリン,木節・蛙目(がいろめ)粘土,ケイ石,陶石,長石等があり,それぞれ主成分となる鉱物の種類や用途が異なります.焼き物としては食器等の用途が一般的かもしれませんが,我々の生活に欠かせない焼き物として送電線などで用いられている碍子(がいし)やトイレなどに用いる衛生陶器,瓦,煉瓦,タイルなどにも粘土は大いに利用されています.
3.3. 土木・建設工業
土木・建設工業では,主にベントナイトが用いられています.ベントナイトは,水で膨潤する薄く微細な粒子のスメクタイトを含むので,水中で高い粘性を持ち,懸濁安定性を示します.この特徴を活かして,ボーリング・掘削泥水,土木基礎工事用安定液,ダムの止水用グラウト等に利用されています.また,ベントナイトの顕著な膨潤能による止水性や様々な物質に対する吸着性を利用して,産業廃棄物処分場の漏水防止のための遮水システムや,放射性廃棄物処分場の緩衝材としての利用が考えられています.
ベントナイトを土木基礎工事およびボーリングに利用する主な目的は,掘削孔の崩壊防止と掘りくずの運搬です.石油の油井等の深いボーリングを行う場合は,水圧ロータリー掘削法が用いられます.この方法は,鉄管の先にビットと呼ばれるダイヤモンド製の刃先をつけ,鉄管を回転させながら掘っていくものですが,この時にベントナイトの水分散液(泥水)を高圧力で鉄管に入れて刃先から吹き出させ,回転する鉄管や刃先を冷却して潤滑にするとともに,掘りくずを地上に運び出し,軟弱な地層のところにベントナイトの泥壁をつくりながら壁が崩れるのを防ぐ働きをしています.これらは,ベントナイトのコンシステンシーによるところが大きく,流動速度が速いときには粘度が低く,流動速度が遅くなると粘度が高くなるというベントナイト分散液の特性を利用したものであります.
建設工事において地盤を強化することは,作業の安定性や効率性のため必須とされています.そのため,ベントナイトとセメントを配合したセメントベントモルタルを注入して地盤の土粒子の間隙を埋めて固化する工法が採用されています.これも,セメントにベントナイトを配合することによって流動特性が上がり,細かな間隙までセメントベントモルタルが浸透し,浸透した先で固化するという特性を利用したものであります.
産業廃棄物・放射性廃棄物の処分場では,周辺の地下水や土壌汚染を引き起こさないよう,処分場への水の侵入や処分場からの有害物質の漏洩を防ぐ必要があります.このためには,水が浸入してきたら水を吸って内部への浸入を遅らせる止水性や,処分場周辺の岩盤や遮水シートに亀裂が生じたら亀裂に入り込んでシールする自己シール性,外部から応力が働いても処分場の構造物への影響を最小限にする応力緩衝性,有害物質や放射性核種が漏れても吸着して移動を防止・遅延させる吸着性を持ち合わせるバリア材料が必要です.ベントナイトはこれらの機能を兼ね備えるとともに,上記の機能を長期間維持し続ける材料と考えられていることから,産業廃棄物処分場ではすでに遮水システム材(図8)として利用され,放射性廃棄物処分場では緩衝材(図9)としての利用が考えられています.
|
| 図8 廃棄物処分場のライナーシステムの概念図 |
|
| 図9 高レベル放射性廃棄物処分場の構成 |
引用文献
河野元治 (2001) 粘土科学,40,197-211.
上原誠一郎 (2000) 粘土科学,40,100-111.
Sverjensky and Sahai (1996) Geochim. Cosmochim. Acta, 60, 3773-3797.
小川 誠 (2001) 粘土科学,40,256-263.