川地 武
滋賀県立大学 環境科学部
〒522-8533 滋賀県彦根市八坂町2500
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1. はじめに
人類は衣食住のさまざまな分野で粘土と付き合って来ました。特に、「住」生活では人類が定住生活を営み始めた時から、住居の立地、居住環境の整備等にはすでに地盤が重要な要素となっていたことが、三内丸山遺跡や吉野ヶ里遺跡などの発掘調査の成果でもわかります。それは遺構の立地場所や復元された構造物の様子などからも想像されます。これらの集落遺構はいずれも地盤の安定した水はけの良い高台にあり、環濠や河川により周囲からの外敵の侵入や雨水の侵入を防いでいたようです。また、古墳では埋葬された遺体や木棺を浸透水や地下水から保護するために粘土を塗り固めていたことや、石室などの構造物の目地を粘土で埋めていたことなどが知られています。これらの遺跡や遺構は当時の縄文人をはじめとする古代人がすでに地盤の排水性(透水性)や強度に関し経験的な知恵を有していたことを示すものであり、また粘土を防水材料として活用していたことを示します。このように、人間の生活空間を創造、整備する土木では人類の定住とともに土や粘土との付き合いが始まったと言ってもよいのではないでしょうか。一方、現代の土木技術は鉄とコンクリートに代表される高強度、高性能な均質な素材に支えられていますが、最近では天然素材の見直しも活発で、粘土や土に関する知見や扱い方がますます重要になっています。ここでは、土木分野の粘土の扱いや関係を最近の話題を交えながら概説します。
2. 土木における土の分類と粘土
2.1 土の大分類
土木では土を土木工事の対象として扱う場合と土木工事の材料として捉える場合とがあります。いずれの場合もまず土を分類し、材料としての適否や工事対象としての性格を明らかにする必要があります。その際、粘土が重要な分類要素となるのです。土の締め固めの難易や強度、排水性や止水性などの工学的性質は含まれる粘土、シルトの含有量や性質に支配されるからです。土木分野ではまず、地盤材料を石分の含有割合により、岩石質材料、石分混じり土質材料、土質材料に分類します。ここで用いられる石、れき、砂、粘土等は図1のように粒径によって区分されています。とくに、粘土は5μm未満のものである点が農業などの分野と異なります。土木分野で主な対象となるのは石分を含まない、すなわち粒径が75mm未満の土質材料です。土質材料はさらに細粒土と粗粒土に分けられます。細粒土とは細粒分(粘土、シルトの合計)が50%以上の土です。細粒土はさらに図2に示すように細分化されます。このように、細粒土と粗粒土の区分を細粒分含有量が50%の点としているのは、この近辺が盛土材料や排水材料の適否の境界となるからです。
2.2 コンシステンシー
土木分野で土を対象とする地盤工学の分野では土の分類に粘土の含有量とともにコンシステンシーが重視されます。コンシステンシーとは土の性質が含有水分により図3のように固体状から塑性体を経て液状へと変化することに着目したものであり、それぞれの境界となる含水比を収縮限界、塑性限界、液性限界と呼んでいます。したがって、土には固有の液性限界、塑性限界があり、これらの数値は含有する粘土、シルト分の含有量とそれらの表面活性、界面化学的性質を反映しています。そこで、地盤工学では土のコンシステンシーを比較的簡便な方法で測定する方法を規格化(JIS A1205)し、土の分類や判別の重要な指標としています。JIS A1205では土の425μm以下の部分について液性限界WLと塑性限界WPを求め、両者の差(WL−WP)を塑性指数IPとしています。WLとIPの値を図4の塑性図上にプロットすれば細粒土の分類が可能になります。ここで、液性限界は土の圧縮性の、塑性指数は土の粘着性の指標とされ、地盤の沈下性状や施工性能などを予測するのに重要な数値です。したがって、地盤調査の際の土質試験では細粒土については必ずコンシステンシー試験が行われ、液性限界、塑性限界、塑性指数が求められ、これに基づき土の分類が行われます。
2.3 細粒土の分類
細粒土は土のコンシステンシー試験結果を活用して前述の図2のように分類されます。ここでは、試料土の塑性図(図4)上の位置および有機物含有量や土の来歴(火山灰質かどうか)とによって細分します。図4の塑性図ではA線とB線が土質分類の境界を与えるもので、A線は塑性図を提案したA.Casagrandeが示した線であり、現在では世界各国の土の工学的分類に用いられています。図のA線が粘土かシルトかの区分を与え、また、B線はωLが50%の線であり、土の圧縮性の有無を判断する境界とされます。このように、細粒土の分類にはコンシステンシーが重要な役割を果たしています。これは細粒土では土のコンシステンシーが締め固め、圧密、せん断、透水などの工学的性質と深く関係していることを考慮した結果といえます。
2.4 粘土の活性度
細粒土の物理的および力学的性質を支配するのは主として粘土の含有量と性質です。粘土の寄与を間接的に示す値がコンシステンシーですが、より定量的に示す指標として活性度があります。活性度Aは次式で与えられ、
活性度A=土の塑性指数IP/土中の2μm以下の粘土含有量(%)
各種の土について活性度が求められています。塑性指数が土の保水力、粘性等の指標となることから考えられるように、活性度は土に含まれる粘土鉱物の保水性や表面活性を反映し、スメクタイト質土(A:1.25以上)>イライト質土(A:0.75〜1.25)>カオリナイト質土A:0.75以下)の順となります。なお、活性度は粘土に吸着されるカチオンによっても異なり、例えばスメクタイトではNa>K>Ca>Mg>Feであり、後に述べる膨潤度などの場合と同様の傾向を示します。このような活性度の特徴を利用して土の堆積環境や含有粘土鉱物の推定などにも用いられています。
3. 土木工事の対象としての粘性土
3.1 堆積粘性土の構造
わが国では都市の大半が沖積層の厚い軟弱地盤にあり、土木・建築工事における掘削等の対象となるのは主に沖積層や洪積層です。沖積層や洪積層では多くの場合、粘土層、シルト層を含み、崩壊、圧密沈下、側方流動などの地盤の変形が問題となります。地盤の変形は荷重変化や排水等による土粒子の応力状態の変化による土粒子配列すなわち骨格構造の変化に基づきます。以前から土、とくに粘性土の骨格構造の重要性が認識され、カードハウス構造、綿毛化構造等のモデルが提案されてきましたが、実体を検証する手法に限界がありました。しかし、最近では走査型電子顕微鏡(SEM)やポロシメーター等を用いて乱さない堆積粘性土の骨格構造や間隙をミクロに観察し、構造の数値化や構造モデルの提案が行われています。現在、地盤工学分野でよく使われる土の構造の概念図を図5に示します。ここに示したように、構造をペッド(団粒)とポアの連続体として扱い、ペッドやポアの大きさを表1のように分類しています。このようなモデル化と数値化により自然堆積した粘性土や圧密等を行なった粘性土のミクロな構造からマクロな力学現象を解析、解釈する試みがさかんです。この分野は現在も研究が進行中で、粘性土のミクロな構造の定量的表現方法の標準化が課題となっています。
3.2 鋭敏な土
土は人為的あるいは自然のかく乱により、土粒子間の構造や土粒子を結合していたセメンテーション効果が失われ強度低下を生じます。かく乱前後の一軸圧縮強さの比を鋭敏比(St)と呼び、通常の粘性土では2〜4です。しかし、北欧やカナダにはこの鋭敏比が極端に大きく、かく乱後には液状、マヨネーズ状になる土が存在し、クイッククレーと呼ばれます。このため、クイッククレー地帯では大規模な地すべりを起こすことがあり、要注意な土とされています。クイッククレーは過去の海水環境下で堆積した粘性土地盤が陸化し、長年の塩分溶脱を受けた結果、初期の塩分濃度の高い間隙水で形成していた凝集構造がかく乱により破壊され分散、流動化するものと解釈されています。粘土の間隙水中の塩分濃度とStの関係を図6に示します。建設工事に先立つ地盤調査の際、粘性土の土質試験では鋭敏比が求められ、Stが8以上の粘土を鋭敏な粘土、10以上を超鋭敏粘土、16を超える粘土をクイッククレーと呼んでいます。わが国でも有明海沿岸の沖積粘性土には堆積時の塩分が溶脱し、Stが50以上に達する土が分布し、建設工事の際に問題とされます。ここでは主な問題として工事による振動や重量自動車の走行による衝撃などにより地盤が軟化したり、構造物が沈下する現象があげられます。なお、火山灰質粘性土にもStが大きなものがあり、土工の際に軟泥化して、施工機械の走行性(トラフィカビリティー)を低下させるなどの問題を起こすことがあります。
3.3 膨らむ土
トンネルの掘削などの際、図7に示すように、支保工に異常に高い地圧が作用し、掘削切羽の崩壊や掘削盤の盛り上がりを生じたり、構造物に異常な圧力を作用させ、構造物を破壊させる岩盤があり、膨張性地山といわれます。膨張性地山は第三紀泥岩や断層破砕帯などに見られ、構成鉱物にスメクタイトが含まれる場合が多く、このような岩盤では、掘削等による応力解放や空気中の湿気や地下水との接触によりスメクタイトが吸水して体積膨張や膨潤圧を発生することにより、上述の障害を生じるものです。これまでの現場における測定結果では、2.0Mpa(20kgf/cm2)に達する大きな膨張圧力も発生することがあります。このため、工事計画の段階で、膨張の懸念される場合には掘削岩盤の膨張性の有無を含有粘土鉱物の同定や岩石片を用いた膨張性の試験により予測します。試験は圧密試験の容器を利用した膨張量測定装置などで行ないますが、この装置で膨張を抑制すれば膨張圧の計測も可能です。膨張性の地山における膨張圧の発生は水分との接触状態や時間、吸水履歴、拘束の程度などにより異なりますが、土木現場、とくにトンネル等の地下空洞の掘削現場では今も恐れられています。
4. 土木材料としての粘土
4.1 地中連続壁工法などにおける掘削泥水
粘土懸濁液を用いて地盤を掘削する技術は井戸掘削や地質調査ボーリングで古くから用いられてきました。この技術をさらに発展させ、地下に杭状あるいはや壁状の構造物を築造する場所打ち杭工法や地中連続壁工法が確立され、現在ではさらに横穴の掘削にもこの技術が活用され、泥水シールド工法として普及しています。代表的な泥水掘削工法である地下連続壁工法の施工手順を図8に示します。ここで掘削に用いられる泥水(安定液ともいいます)はベントナイトや増粘剤、分散剤を懸濁、溶解させたものであり、その機能は掘削溝の壁面崩壊の防止、掘削土砂の運搬、切削面の冷却などとされています。このような機能を発揮させるために泥水には次のような性質が要求されます。
@すぐれた造壁性 A適度なレオロジー性(粘性)B適度な比重
造壁性とは掘削壁面に緻密で不透水性の泥膜(マッドケーキ)を形成する性質であり、この泥膜を介して泥水の水圧が壁面に作用し、溝壁の崩壊を防ぎます。レオロジー性は泥水がスムーズに循環し、掘削機の先端で泥水中に混入する掘削土砂を地上に運搬し、地上では速やかに分離させるために必要な性質です。また、比重は通常は水と同程度ですが、地下水が高い場合などには高い比重が必要になる場合があります。泥水による掘削が行われた後、溝内に生コンクリートが打設され、杭や壁が完成します。地中連続壁工法等の最終目的は良好な壁や杭を築造することであり、泥水の調合や品質管理もこの点を考慮してなされる点が井戸掘削や調査ボーリングと異なります。なお、最近では泥水材料にベントナイトを主材とせずポリマー(水溶性高分子)を主材とする泥水も使用されます。表2に土木分野で用いられるスラリ−の調合と品質の例を示します。
4.2 ブリージング防止材
図9に示すように、地下構造物と地山との隙間を充填したり、地盤や岩盤の強度や止水性を高めるためにセメント懸濁液(セメントミルク)を地盤や岩盤の割れ目に圧入し、セメントを硬化させる注入工法があります。この工法はトンネル構造物の背面の充填やダムの基礎岩盤の止水性の向上あるいは崩壊性の地山の強度増加に用いられます。また、土とセメントミルクを混合したソイルセメント壁(SMW工法)が簡便な土留め壁や遮水壁として普及しています。これらの工法ではセメント、ベントナイトと水からなるスラリー(セメントミルクと呼んでます、表2を参照)を用い、岩盤や地盤の空洞や間隙に充填されることあるいはミルクと掘削土砂が十分に混合することが必要です。セメントミルクを注入する際に、配合によってはセメントが沈降して上水と濃厚なセメントミルクに分離する現象(ブリージング)が見られます。ブリージングは注入液の不均一性により、スムースな注入を妨げ、作業能率の低下や注入後の硬化体の品質のばらつきの原因となります。ブリージングを防止するために添加されるのがベントナイトです。この場合、ベントナイトが水中で弱いゲル構造を形成し、構造粘性や降伏値を発生させることによりセメント粒子の沈降や分離水の発生を防いでいます。
4.3 廃棄物処分場の遮水材
近年、廃棄物処分場からの浸出水の漏洩防止に対する要求が強くなっています。とくに、わが国では処分場の大半が内陸、山間に立地するため、浸出水の漏洩は飲用水源や地下水の汚染を招きかねません。このため、処分場の大半を占める管理型処分場では底面、側面の遮水に関する構造基準が強化され、二重遮水システムが義務付けられています。現在用いられている遮水構造を図10に示します。いずれの構造でも遮水シートが用いられていますが、最近注目されている遮水シートがベントナイトとプラスチック材との複合構造のジオシンセティッククレイライナー(GCL)です。GCLには不織布あるいは織布でベントナイトを挟んだ製品やベントナイトをプラスチックシートに接着させた製品など各種が市販されています。合成高分子やゴム等によるシートの破損や耐久性への不安を補完する目的で粘土が併用されています。処分場の底面遮水にGCLを用いた場合、浸出水の漏洩が膨潤したベントナイトの高い遮水性能(透水係数で10−8cm/sec前後)により防止され、またシートが破損して穴があいた場合にもベントナイトの自己修復作用によりシールされることが実証されています。このように、廃棄物処分場では粘土、とくにベントナイトの膨潤・シール機能、止水機能、長期の安定性が期待されています。なお、処分場の浸出水は焼却灰等からの溶出物質により塩分濃度が高く、ベントナイトの膨潤が抑制される点を考慮する必要があり、高塩分条件でも膨潤可能なベントナイトも開発されています。
4.4 コンクリート用骨材の不純物
材料としての粘土は貴重な役割を果たしますが、不純物として障害をもたらす場合があります。それは、コンクリートの骨材(砂利、砂)に粘土が含まれると、セメントの硬化を妨害したり、硬化後のコンクリートのひび割れのもととなったりします。とくに、スメクタイ系の粘土が不純物として含まれる骨材は硬化コンクリートの膨張を生じたり、乾燥、湿潤の繰り返しによるコンクリート劣化を促進するため避ける必要があります。このため、コンクリート用骨材には有害な不純物として塩分、有機物とならんで粘土の含有量の規制があり、骨材(砂)の重量の1%未満とされています。
5. おわりに
土木における粘土はある時はやっかいものとして、またある時は貴重な材料として扱われています。ここではその事例をいくつか紹介しましたが、今後は土木工事も自然再生や環境修復を目的としたものが増加することが予想され、その場合、使用する材料も部位にもよりますが、より自然な材料、自然に調和した高機能材料が望まれると思われます。このような要請に応える材料として粘土などの天然材料があらためて評価されるものと思われます。また、地盤災害や工事施工時の障害の発生要因としての粘土についても、その発生機構が解明され、粘土による障害の予知・予測技術や障害を克服する技術の開発が期待されます。さらに、放射性廃棄物の地層処分のように、極めて長期の耐久性が求められ、鉄やコンクリートでは満足させられないあるいは実証できない場合があります。このような場合にも粘土の有する耐久性や安定性が見直されると思われます。いずれにせよ、土木と粘土はこれまで以上に密接な関係を保つと思われ、粘土に関する科学的知識や工学的知見の集積がおおいに期待されています。
参考文献
地盤工学会:土質試験の方法と解説、地盤工学会(2000)
地盤工学会:粘土の不思議、地盤工学会(1986)