14. 高レベル放射性廃棄物地層処分における粘土の利用

小崎 完
北海道大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻
〒060-8628 札幌市北区北13条西8丁目


1.はじめに
2.放射性廃棄物とその処分
3.地層処分システムとベントナイト緩衝材の役割
4.ベントナイト緩衝材の性能評価研究
  4.1. 処分環境下における圧縮ベントナイトの諸特性
  4.2. ベントナイト緩衝材中の放射性核種の移行挙動
  4.3. オーバーパックとの相互作用
  4.4. ベントナイト中のコロイドの挙動
  4.5. ベントナイト緩衝材の施工性
5.今後の研究課題
6.まとめ

1.はじめに
 原子力発電とは、ウラン(235U)やプルトニウム(239Pu)を核分裂させ、その際に生じる莫大なエネルギーを利用して発電を行うものです。わずかな燃料で長期間の発電が可能であり、その燃料資源も石油のように一部の地域に偏在していないことから、エネルギーセキュリティー上、重要な資源です。また、炭酸ガスを放出せずに大量のエネルギーを安定に供給できる(厳密にはウランの採掘、運搬、発電所の建設・保守において若干の炭酸ガスを放出します。この量は電力1KWh 当たり、炭素換算で6〜36 gです。これに対して、石油では200 g、石炭では270 gに達します。)ことから、地球温暖化対策を進める上で頼らざるを得ないエネルギーでもあります。しかし、その一方で、原子力発電では運転に伴って放射性廃棄物が発生します。我々が原子力を利用する以上、この放射性廃棄物を安全に処分して、我々の生活に害を及ぼさないようにすることが大きな課題と言えます。特に、高レベル放射性廃棄物と呼ばれる廃棄物は、後で述べますように長期間にわたって高い放射能を有することから、我々だけでなく、我々子孫の安全も確保できるように廃棄物を生活圏から確実に隔離しなくてはなりません。
 地層処分は、多重の人工的なバリア(障壁)を備えた処分場を地下深部に設けて、そこに高レベル放射性廃棄物を埋設するもので、最も有力な処分方法とされています。そして、この処分システムでは、地下深部の環境下で長期間機能する人工的なバリアの一つとして、粘土(圧縮したベントナイト)の使用が考えられています。そこで本稿では、高レベル放射性廃棄物とその処分方法を簡単にご説明した後、その処分における圧縮ベントナイトの利用とそれに関連した諸研究をご紹介致します。

2.放射性廃棄物とその処分
 原子力の利用によって発生する放射性廃棄物には、大きく分けて低レベル放射性廃棄物と高レベル放射性廃棄物があります。我が国では、このうち低レベル放射性廃棄物を、原子炉の運転ならびに廃止措置に伴って発生する「原子力発電所等廃棄物」、ウランの取り扱いに伴って発生する「ウラン廃棄物」、再処理工場等で発生する超ウラン元素(TRU)を含む「TRU廃棄物」、さらに研究施設から発生する「研究所廃棄物」に分類しています。これらの放射性廃棄物の処分方法については現在検討を進めているところですが、原子力発電所等廃棄物のうち放射能レベルが比較的低く、またその半減期が比較的短い廃棄物は、すでに青森県六ヶ所村の埋設施設にコンクリートピット処分されています。なお、この埋設施設では遮水を目的としてベントナイト混合土がコンクリートピットの上面と側面の締め固めに用いられています。その詳細はここでは割愛させて頂きます。関心のある方は、日本原燃株式会社のホームページ等をご覧下さい。
 一方、高レベル放射性廃棄物とは、原子力発電所で用いた燃料を再処理工場において化学処理して、再び燃料として用いることのできるプルトニウムと未燃焼のウランとを取り出した後に残る廃液です。核分裂で生じた高いレベルの放射能を持っていることから、この呼び名があります。我が国ではこの廃液をガラスと混ぜて溶融したのち固めた、ガラス固化体にして安定化を図っています。一方、再処理を行わないことにしている国では、使用済みの燃料そのものを高レベル放射性廃棄物と呼ぶ場合があります。図1にガラス固化体1本あたりの放射能レベルの経時変化を示します(核燃料サイクル開発機構,1999a)。高レベル放射性廃棄物には、90Sr、137Csといった寿命(半減期)の比較的短い放射性核種の他、99Tcや237Npといった比較的長い寿命の放射性核種が含まれています。従って、図1からもわかるように、高レベル放射性廃棄物は最初の1000年ほどは比較的短い寿命の核分裂生成物に起因する極めて高い放射能を有します。しかし、その1000年をすぎると、短い寿命の核分裂生成物のほとんどは消えてしまうため、放射能は最初の約1万分の1まで低下し、それ以降の放射能は超ウラン元素と長寿命の核分裂生成物の崩壊に従ってゆっくりと減少することとなります(毒性的には1万年ほどでウラン鉱石と同等になります)。そこで、高レベル放射性廃棄物については、まず、放射能レベルの高い最初の千年間は、廃棄物を我々の生活圏から確実に隔離し、またその後も超長時間スケールで安全性を確保することとしています。実際には、人間による監視が千年から数万年という単位の時間スケールで確実に継続されることを保証することは難しいので、監視やモニタリングに依存しないで長期の安全性を確保できる手法が望まれます。さらに、処分方法を決定する上で、子孫に負担をかけるべきではないとの考え(「高レベル放射性廃棄物を発生させた世代、つまり原子力発電による恩恵を受けた世代がその対策を講ずるべきであり、またその対策は将来の世代の努力に頼って初めて長期の安全性が確保できるという性質のものではない[1989年国際原子力機関報告書]」)も考慮する必要があります。ちなみに、100万kW級の原子力発電所を1年間運転すると約30トンの使用済み燃料が発生し、これを再処理した場合、0.9トンの核分裂生成物と少量の超ウラン元素が高レベル放射性廃棄物となります。また、これをガラス固化するとその量は約3m3(約30本)となります。高レベル放射性廃棄物の発生量が極めて少量であることは、多少のコストをかけても安全・確実に処分することを可能にしています。このように、我々は高レベル放射性廃棄物の特性や発生量を把握した上で、その対策に必要なコストや時間、さらに責任の所在も含めて、最適な処分方法を選定する必要があるわけです。

 高レベル放射性廃棄物の処分方法として、現在まで様々な手法が世界各国で検討されてきました。その中には、廃棄物を南極地域の大陸氷塊中に置くことを考えた氷床処分、あるいは廃棄物をロケットに積んで打ち上げる宇宙処分などのユニークなアイディアもありましたが、最終的に各国とも地層処分がもっとも実現性の高い合理的な手法であるとの結論に至っています。我が国においても、昭和62年の原子力開発利用長期計画において、「高レベル放射性廃棄物は安定な形態に固化し、30〜50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地下数百メートルより深い地層中に処分(地層処分)する」との基本的な方針が示されています。また、平成6年の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」では、2000年を目安に処分事業の実施主体の設立を図り、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでに処分場の操業を目途とすることなどが示され、これに基づき、2000年には「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が公布され、処分の実施主体として「原子力発電環境整備機構」が設立されています。

3.地層処分システムとベントナイト緩衝材の役割
 図2および図3に、我が国の地層処分の概念図を示します(核燃料サイクル開発機構,1999a)。地層処分の方法は、国によって多少の違いがありますが、我が国ではスイスと同様に、ガラス固化した廃棄物をオーバーパックと呼ばれる金属製容器に入れ、地下数百メートルより深い安定な地層中に埋設することになっています。その際、オーバーパックと岩体の隙間を緩衝材によって充填します。この処分システムでは、オーバーパックが人工的なバリアの一つとして地下水のガラス固化体への接触を抑制し、その健全性が維持されている期間の放射性核種の溶解を確実に阻止します。また、放射性廃棄物そのものであるガラス固化体は、ガラスが化学的に安定で水に対する耐浸出性が高いことから、地下水が接する状態になっても、放射性核種の溶出を抑制します。

 一方、この処分システムでは、緩衝材に多くの機能が期待されています。まず、その一つが、その名の示すとおり、緩衝機能です。地下の処分場では、岩体からオーバーパックに機械的応力が加えられ、それによってオーバーパックおよびその内部のガラス固化体が早期に破損する恐れがあります。また、地下水などの浸入に伴って化学的雰囲気が大きく変化する可能性もあります。従って、緩衝材にはそうした変化を緩和する機械的および化学的緩衝機能が要求されます。次に、バリア機能も求められます。これは、緩衝材が低透水性を有していれば、岩体からオーバーパックへの地下水の浸入を抑制でき、オーバーパックと地下水の接触およびそれに伴うオーバーパックの腐食反応を出来る限り遅延させ、結果的にオーバーパックの寿命を引き延ばすことができるためです。また、緩衝材が放射性核種に対して高い収着性を有していれば、オーバーパックがそのバリア機能を喪失した後の、ガラス固化体から溶出した放射性核種の岩体への移行を遅延させることができます。これと同様に、緩衝材がコロイドの移行を止めることができれば、ガラス固化体から溶出した放射性核種のうち、コロイドとなった成分の移行を止めることもできます。緩衝材に求められる機能はこれだけではありません。ガラス固化体はその内部で放射性核種が崩壊するため発熱体となっています。この熱を周囲の岩体に逃がすために、緩衝材は十分な熱伝導性を有している必要があります。また、緩衝材は膨潤性であり、岩体の細かな亀裂などを自然に埋めてくれる性質(自己シール性)を有していることが望まれます。そして、以上の性能が、比較的温度が高く(最大で約95℃まで上昇)、放射線に曝される地下の環境下で、超長期間にわたって保たれる必要があります。当然、入手しやすく、加工し易く、取り扱いやすい、低コストな材料が求められます。
 こうした様々な要求に対し見事に応えてくれそうな材料が圧縮したベントナイトです。圧縮したベントナイトは、その主たる構成鉱物であるモンモリロナイトの働きにより、低い透水性と陽イオンの放射性核種に対する高い収着能を有しており、また、地下水を吸収すると膨潤し、割れ目や孔の中に塑性流動していくこと、砂などの混合物を添加することにより好ましい熱伝導性を示すことなど、緩衝材に要求される諸条件を見事にクリアできます。さらに、ベントナイトが天然に存在する材料であり、地下のある特定の環境下で安定に存在していた実績があることなども、地層処分に用いる材料として好都合と言えます。なお、地層処分では、放射性廃棄物の埋設後に行われる処分坑道の埋め戻しにも、砂などと混合して、ベントナイトを用いることが考えられています。

4.ベントナイト緩衝材の性能評価研究
 上述のように、高レベル放射性廃棄物の地層処分において、ベントナイト緩衝材は大きな役割を担っています。従って、地層処分システムの安全性を検討する上で、処分環境下におけるベントナイト緩衝材の性能を評価することが不可欠となっています。また、実際に処分場を建設し、放射性廃棄物を埋設する上での施工性も検討する必要があります。こうした要請に対して、現在まで多くの研究・開発が精力的に行われ、データの蓄積が図られてきました。限られた誌面内でそれらのすべてをご紹介することは困難ですし、また他分野での研究と重複している部分もありますので、ここでは地層処分に特徴的な研究の一端をご紹介することとします。

4.1 処分環境下における圧縮ベントナイトの諸特性
 放射性廃棄物の地層処分で特徴的なのは、ベントナイトのおかれる特殊な環境です。すでに述べたように、処分場は地下数百メートルより深い地層中に位置し、周りの岩体から高い応力を受けます。従って、ベントナイトの圧密度もケイ砂を30%ほど混ぜた状態の乾燥密度で1.6 Mg m3前後と高くなっています。ベントナイトに浸入する地下水の化学組成も多様です。我が国では現段階で処分場位置が定まっていませんので、降水系と呼ばれる比較的塩濃度の薄い地下水から、海水系と呼ばれる海水を起源とした塩濃度の高い地下水までを想定しなくてはなりません。また、温度も大きく変わります。地熱(45℃程度)とガラス固化体からの熱で、緩衝材の温度は処分後10年ほどで最大95℃程度(オーバーパックとの接触部分)まで上昇するとされます。これは10年後以降は徐々に低下しますが、緩衝材と岩体の温度差が消えるには1000年ほどの期間が必要との予測がなされており、その間、緩衝材の内側と外側では温度勾配が持続します。従って、ベントナイト緩衝材の基本性能として、膨潤特性、透水性、力学特性、熱伝導性などのデータを求める際には、圧密度(乾燥密度)、ケイ砂混合率、温度、含水率、湿潤する溶液(地下水)組成などのパラメータを、幅広くとる必要があります。また、当然、これらのパラメータはお互いに関連し合っていますので、それぞれのデータを詳しく分析して、相互作用の影響を評価した上で、地下処分環境での諸現象を理解しなくてはなりません。
 図4は、点熱源法によるベントナイト試料の熱伝導率の測定例です(Ould-Lahoucine et al., 2002)。密度および含水状態を変えた試料中に、図に示すように微小のサーミスタを埋め込み、サーミスタに電流を流した際の電圧の変化からサーミスタの温度および発熱量の経時変化を求め、熱伝導率を決定しています。また、こうして得られた実験結果から、ベントナイト緩衝材の伝熱モデルの検討がなされています(坂下ら、1998)。

 一方、図5は、釜石鉱山の坑道を利用して行った、粘土充填・熱負荷試験の概念図です。現場にて実際にベントナイト緩衝材をヒータによって加熱した際の、温度、水分分布、応力状態などのデータが報告されています(核燃料サイクル開発機構, 1996)。また、このようなデータに基づいた、コンピュータシミュレーションも行われ、諸現象の理解が進められています。

4.2 ベントナイト緩衝材中の放射性核種の移行挙動
 ベントナイト緩衝材中の放射性核種の移行挙動に関する研究も、地層処分の安全性を評価する上で不可欠なものです。ここでの特徴は、着目しているのが高圧密で温度も比較的高い地層処分特有の環境条件下での挙動であり、また移行する物質の中に、TcやAm、Npなどの原子力以外の分野では極めてマイナーな元素が含まれていることです。なお、圧縮ベントナイトは透水性が極めて低いので、そこでの放射性核種の移行挙動に密接に関連しているのは、放射性核種のベントナイトへの収着とベントナイト中での拡散とされています。一方、地下の環境下では、放射性核種の化学形態は必ずしも一つとは限りません。従って、ここでは、問題となる放射性核種の化学形態毎にそれらのデータを丹念に収集する必要があります。
 収着係数は主にバッチ法と呼ばれる実験で決定されます。これは放射性核種を含む溶液中にベントナイトを入れて収着平衡を達成させ、その後固液を分離して液相中の放射性核種の量を測定し、液相から固相への放射性核種の移行量から値を求めるものです。収着係数の値が高ければ高いほど、放射性核種はベントナイト緩衝材にトラップされて、周りの岩体への移行速度が遅くなります。ですから、この値は高い方が望ましいことになります。一方で、この値は浸潤している地下水の組成(特にpHや塩濃度)、固液比(圧縮度)に強く依存していることが知られています。表1に、安全評価の際に用いられる各放射性核種の収着係数の例を示します(核燃料サイクル開発機構,1999b)。同じ条件でも、核種によって何桁も値が異なることがわかります。図6は、懸濁させたモンモリロナイトに対するNpの収着係数のpH依存性を調べた例です(Kozai et al., 1993)。この図から明らかなように、Npの収着係数はpHによって大きく異なっています。特に、この研究では、Npが高pH領域だけでなく極めて低いpH領域においても高い収着係数を示すユニークな現象が見出されています。

 ところで、地層処分で収着係数を考える際に大きな問題になるのが固液比です。地層処分で評価が求められている条件では固液比が極めて高く、この状態で固液を分離することは実質上不可能です。このため、固液分離が可能な条件下でバッチ実験を行い、その結果から参考値を推定する場合があります。ただし、こうして求めた参考値は、後に述べる拡散実験で求めた値と必ずしも一致しません。
 ベントナイト中の拡散挙動は、見かけの拡散係数と実効拡散係数の2つで示されます。両者の最も大きな違いは、見かけの拡散係数が収着による遅延の影響を含んでいる点です。これらは、主としてin-diffusion法やスルー法によって実験的に決定されます。
 前者のin-diffusion法は非定常の拡散実験法の一つであり、ベントナイト試料中に微量の放射性核種を導入した後、所定時間拡散させ、その際の放射性核種の濃度分布から見かけの拡散係数を決定する方法です。図7に実験に用いるセルの一例を示します。この手法は、実験が比較的容易で再現性の高い結果を得ることができます。また、微量のトレーサーで実験が可能なことから、実際の処分環境と同じ条件下での拡散現象を模擬できるメリットがあります。しかし、この手法で得られるのは見かけの拡散係数のみであり、拡散現象そのものを直接反映した値ではありません。

 これに対して、スルー法では、実効拡散係数を直接求めることができます。図8にスルー法で用いるセルの一例を示します。この方法では、片側のタンクからベントナイト試料を通じてもう一方のタンクへトレーサーを濃度勾配によって透過・拡散させ、その際のトレーサーの累積透過量の経時変化から実効拡散係数を、また試料中の放射性核種の遅延に関する情報から収着係数を決定することができます。ただし、スルー法では、用いる放射性核種の濃度をある程度高く設定する必要があり、また一般に実験に要する時間が長期化する傾向にあります。図9に、主な放射性核種のベントナイト中の実効拡散係数の乾燥密度依存性を示します(Sato, 1998)。収着係数と同様に、実効拡散係数も核種によってその値に何桁もの差があることがわかります。また、乾燥密度依存性も核種によって傾向に違いが見られます。こうした違いがどこから生じるのかについては、圧縮したベントナイトの微細構造との関連も含めて、現在も議論が行われているところです。

4.3 オーバーパックとの相互作用
 地層処分特有の問題の一つとして、ベントナイトとオーバーパックとの相互作用が挙げられます。地層処分のシナリオでは、処分後しばらくするとオーバーパックは地下水と接触し、徐々に腐食します。この際、オーバーパックとベントナイト緩衝材の界面に、腐食生成物として鉄の水酸化物あるいは酸化物が生じることとなります。この腐食反応は体積増を伴いますので、その結果応力が発生し、オーバーパックの健全性に悪影響を及ぼす可能性があります。オーバーパックは、その封じ込め機能を処分後300年〜1000年ほど維持しなくてはなりませんので、地層処分の安全評価では、ベントナイト中の腐食速度だけでなく、こうした腐食反応に伴う応力増加に関連する現象も考慮しておく必要があります。
 鉄腐食生成物の発生とは別に、オーバーパックの腐食は、カソード反応による水素ガスの発生も伴います。腐食速度が比較的遅い場合には、この水素ガスはベントナイト緩衝材中を地下水に溶存した状態で拡散して周りの地層中へ放出されます。しかし、水素ガス発生量が拡散で放出される量を超えるようですと、水素ガスは鉄腐食生成物と同じようにオーバーパックとベントナイト緩衝材の界面に徐々に蓄積し・高圧化します。そして最終的にはベントナイト緩衝材中の空隙部分のゲルを押しのけて、微小なガス道を形成して外部に吹き出す現象(キャピラリーブレイクスルー現象)を引き起す可能性があります。このガスの放出はせっかくベントナイト中に閉じこめていた放射性核種を一緒に放出させる恐れがあります。また、この時のガス道が、ベントナイトの有する自己シール性によっても即座に塞ぐことができずに残ったままになると、そこが放射性核種の逃げ道になってしまいます。従って、水素ガスの発生とその移行に関連した諸現象の解明も地層処分研究では重要な研究の一つになっています。図10は、ベントナイト緩衝材中のガスの拡散係数を求める実験例です(Higashihara et al., 2001)。この実験では、ガス(ここではヘリウムガス)を溶存させた水(地下水)とベントナイトをフィルターを介して接触させ、所定時間後のベントナイト中のガスの濃度分布から、ベントナイト中のガスの見かけの拡散係数を求めています。一方、ガス透過の実験も図11に示した装置を用いて行われています(核燃料サイクル開発機構, 2003)。この実験装置では、ヘリウムガスを35 MPaまで加圧して、流量制御あるいは圧力制御の下でのベントナイト中のガスの移行挙動を調べることができます。

 現在までの評価では、「腐食速度と溶存水素ガスの拡散速度のバランスにより、水素がガス相として蓄積する潜在的な可能性がある」とされています(核燃料サイクル開発機構,1999b)。しかし、その一方で、水素ガスの蓄積がオーバーパックの腐食反応を抑制する方向に働くとされること、ガス道がベントナイトの優れた自己シール性によって修復されるとの実験結果が示されていることなどから、その安全性に及ぼす影響は小さいと考えられています。いずれにせよ、これらの現象に対しては、より信頼性の高いデータと解析モデルによって、より確実な評価を行うことが求められています。

4.4 ベントナイト中のコロイドの挙動
 ベントナイト中のコロイドの移行も、放射性廃棄物の地層処分において関心の高い問題です。地層処分環境では、カラス固化体から溶出した放射性核種のすべてが必ずしもイオンの形態をとっているわけではありません。その一部は、放射性核種自身がコロイドの状態になっており(真性コロイド)、また一部は地下処分環境に存在するコロイドに付着して、あたかもコロイドのように振る舞う(擬コロイド)可能性があります。従って、もし、コロイドがベントナイト緩衝材中を比較的早く移行するなら、その分ベントナイト緩衝材のバリア性能が低下することとなります。また、逆に、ベントナイト緩衝材が、コロイドの移行を効果的に抑制するならば、バリア性能の向上が期待されます。このため、地層処分ではこの様なベントナイト緩衝材中のコロイド透過の影響を評価する必要があります。ご存じのように、コロイドはとても扱いにくい研究対象です。しかし、例えば、分散剤を加えることによりコロイドを安定させることで実験を行うことができます。図12は安定化させた金コロイドを用いて行った、ケイ砂混合ベントナイト緩衝材中のコロイド移行実験の結果です(黒澤ら, 2002a)。緩衝材中にベントナイトが実質0.8 Mg m3以上の密度で含有される場合、金コロイドは緩衝材中を透過できないことがわかります。このことは、コロイド透過実験後のベントナイト中の金コロイドの分布をEPMAを用いて調べた結果(図13, Kurosawa et al., 1997)からも明らかです。ベントナイト内部への金コロイドの浸入は認められず、金コロイドはベントナイト表面で見事にろ過されています。

4.5 ベントナイト緩衝材の施工性
 地層処分を実際に行う上で、当然のことながら、施工性が問題になります。例えば、あるモデルケースでは、処分孔のサイズは、直径820mm、高さ1730mm(竪置きの場合。横置きでもサイズは同じで、幅が1730mmとなる)であり、オーバーパックのサイズは直径440mm、高さ1350mmとされています。また、ベントナイト緩衝材は、Na型ベントナイト70%とケイ砂30%の混合物で、その乾燥密度は1.6 Mg m3と設定されています。つまり、オーバーパックを地下の岩体に開けられた孔の中に納めると同時に、オーバーパックと岩体の間の隙間を均一に埋めるようにベントナイトを高圧密で詰め込む必要があります。この時、オーバーパック表面の放射線量(表面線量等量率)は、数mSv/hとかなり高いことから、坑道内の作業は遠隔操作が中心になります。従って、現場においてベントナイトの締め固めが可能か否か、あるいは別の場所でベントナイトをブロック状あるいは一体型に成型して処分場に持ち込んだ方がよいのか、これらは施工上の検討課題の一つになっています。図14は、冷間等方プレス(CIP)法によって一体型に成型したベントナイト緩衝材の写真です(Awano et al., 2001)。一般に同法は、形状が複雑であっても均質で高密度の成型が可能な手法とされていますが、果たしてベントナイト試料に対してはどうなのか、実スケールに近い条件(試験体外径:1.16 [m]、高さ1.6 [m]、肉厚0.28 [m])で試験を行い、その品質保証を含めた詳細な検討が行われています。また、出来上がった成型体の運搬・定置方法についても、図15に示した、ベントナイト成型体を真空で吸い上げて移動させる装置を開発し、その実証試験が行われています(Awano et al., 2001)。このように、現在も、地層処分の実施に向けた研究開発が進められています。

5.今後の研究課題
 放射性廃棄物の地層処分の実施に向けて、現在まで多くの研究・開発が精力的になされてきました。このうち、ベントナイト緩衝材に関しても、その性能の評価に必要な多くのパラメータが求められ、それらは工学的には十分なレベルに達しつつあると言えます。しかし、その一方で、サイエンスとしては、地下深部環境におけるベントナイトの挙動にはまだまだ未知の部分が多く、研究の余地が残されています。
 例えば、ベントナイトの内部微細構造もその一つです。ベントナイト試料が高圧縮されると、主たる鉱物であるモンモリロナイトと随伴鉱物粒子の間にある隙間(空隙)は当然狭まります。また、ベントナイト試料が、地下水で飽和(膨潤)すると、その空隙部分はゲル化したモンモリロナイトで満たされると考えられています。それでは、こうした変化が、拡散係数や透水係数にどのような影響を及ぼすのでしょうか。そもそも、放射性核種や地下水は、ベントナイトのどの部分を主に移行しているのでしょうか。また、放射性核種はモンモリロナイトのどの部分にどのような形で収着しているのでしょうか。残念なことに、こうした諸現象の科学的な理解は未だ十分ではありません。
 しかし、近年の観察・分析機器の発展により、ベントナイトの微細構造や収着現象に関して、新たな知見が得られつつあります。含水したベントナイト試料表面のその場観察がESEM (Environmental SEM、環境制御型走査電子顕微鏡)によって行われ(Baker et al., 1995)、また、数ミクロンという高い空間分解能を有するX線マイクロCT装置によって、圧縮・含水状態のベントナイトの断層写真が撮影されています(Kozaki et al., 2001)。収着現象に関しても、陽イオン加速器を用いたマイクロPIXE(Particle Induced X-ray Emission、粒子線励起X線)分析法によって、元素の鉱物への収着における選択性が調べられており(Ohnuki et al, 2001)、モンモリロナイトなどへの応用が期待されています。また、シンクロトロン放射光を用いたEXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure、広域X線吸収微細構造)では、モンモリロナイト表面のイオンの収着状態に関する情報が集められ、分子動力学シミュレーション法(MD法)による解析と組み合わせた検討が行われています(Nakano, 2003)。なお、こうしたコンピュータを用いた解析は近年めざましく進展しており、収着現象だけではなく、ベントナイト中の核種移行挙動の解析などにも適用されています。例えば、MD法によってモンモリロナイトの層間や表面付近の水分子やイオンの動きをナノオーダーで解析し、さらにそれをマクロな動きにまで展開した計算結果(Ichikawa et al., 1999; 鈴木ら,2001)など、興味深い研究成果が次々に報告されています。これらは、地層処分環境下でのベントナイトの挙動に関する科学的な理解に今後大いに役立つものと考えられ、益々の進展が期待されます。
 一方、研究としてはほとんど未着手で、これからの展開が待たれる課題もあります。例えば、ベントナイトの超長期間の安定性に関する研究がそれです。一時、ベントナイトの主たる構成鉱物であるモンモリロナイトの地下環境中でのイライト化が懸念されましたが、現在ではその可能性はほとんど否定され、代わって、処分場で大量に用いられるセメント材料が長期間のあいだに徐々に地下水に溶出し、その周りのベントナイトが高アルカリ環境にさらされる問題(Sato et al., 2001; Kurosawa et al., 2002b)や、またオーバーパックの腐食によって鉄イオンが供給されてベントナイトが鉄型化(交換性陽イオンのNa+がFe2+に置き換わる)する問題(Kozai et al., 2001)の重要性が指摘されています。また、微生物の関与もこれから明らかにしていかなければならない課題として挙げられています。これは、バクテリアなどの微生物の一部が、その生物活動によって(あるいは生物活動が停止した後でも)、その個体に重金属元素などを収着する可能性があること、また微生物活動に伴う化学的雰囲気の変化によって、ベントナイトの溶解反応など、地層処分環境においても未知の反応が促進される可能性があるためです。幸いなことに、地層処分の実施までにはまだしばらくの時間的猶予があります。我々は、この時間を有効に利用して、こうした未解明な問題の理解を進める必要があります。その際、粘土科学はもちろんのこと、他の様々な観点から、幅広い検討を進める必要があると考えられます。

6.まとめ
 本稿では、高レベル放射性廃棄物とその処分法である地層処分について簡単に記述するとともに、その地層処分システムにおけるベントナイト緩衝材の役割およびそれに関連した研究・開発の幾つかの例をご紹介しました。地層処分は大きな国家的プロジェクトであり、その中で進められている研究・開発はベントナイトに関連したものだけでも多岐にわたっています。限られた誌面の中で、それらのすべてをご紹介することができませんでしたことをお詫び致します。ご紹介ができませんでした内容ならびに御説明が不足しました点につきましては、参考文献やホームページなどを参照頂ければと願っております。
 なお、本稿をまとめるにあたって、鹿児島大学・河野元治先生より多大なご助力を賜りました。また、核燃料サイクル開発機構 佐藤治夫 博士、三菱マテリアル(株)・黒澤 進 氏、産業技術総合研究所深部地質研究センター・鈴木 覚 博士、日本原子力研究所東海研究所・香西直文 博士、北海道大学大学院工学研究科・坂下弘人先生より、資料のご提供ならびに貴重なご助言を賜りました。核燃料サイクル開発機構様、石川島播磨重工業様よりは、資料の提供を頂きました。この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます。

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参考文献
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石原健彦、大橋弘士監修 (1997), 放射性廃棄物管理−日本の技術開発と計画, 日本原子力産業会議.
核燃料サイクル開発機構ホームページ(http://www.jnc.go.jp/)
財団法人原子力発電環境整備機構ホームページ(http://www.numo.or.jp/)
財団法人原子力環境整備促進・資金管理センターホームページ(http://www.rwmc.or.jp/)
日本原燃株式会社(http://www.jnfl.co.jp/)