東 正治
高知大学理学部自然環境科学科
〒780-8520 高知市曙町2-5-1
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1.はじめに 2.熱水と熱水変質作用 3.金鉱床および黒鉱鉱床の粘土鉱物 3.1. 金鉱床変質帯の粘土鉱物 3.2. 黒鉱鉱床 3.3. 黒鉱鉱床変質帯の粘土鉱物 4.陶石鉱床およびロウ石鉱床の粘土鉱物 4.1. 陶石鉱床とロウ石鉱床 4.2. 天草陶石の粘土鉱物特性 4.3. 含NH4雲母鉱物の加熱特性 5.おわりに |
1. はじめに
粘土の生成には水が関与し,地表水による岩石の風化作用だけでなくマグマの活動に関連した熱水の作用でも粘土は生成します。わが国の代表的な粘土資源の例をあげれば,愛知県瀬戸地方を中心に産する木節粘土や蛙目粘土は花崗岩が風化してできたカオリン質粘土が堆積濃集したものですが,各地の陶石鉱床やロウ石鉱床は火山岩類が熱水変質作用を受けて生成したものです。これらはともに良質の窯業原料として昔から利用されてきました。また有用金属成分を含んだ熱水から金属鉱床が形成される場合にはその周囲に特有な粘土化変質帯を伴うことが多いので,変質帯に産する粘土鉱物の性質を調べて鉱床探査や鉱山開発に役立てることができます。日本列島は全世界的にみても火山活動が盛んな地域にあたり,多くの熱水性粘土鉱床や金属鉱床が開発されてきました。本講座では熱水変質作用で生成する粘土鉱物の性質や特徴を中心に紹介することにします。
2.熱水と熱水変質作用
我々が直接見ることのできる熱水としては地表付近に湧き出る温泉水や地熱発電に利用される地熱水などがこれによく該当し,一般的には地下増温率(3℃/100m)に相当する地温よりも高温の水を熱水として考えればよいことになります。地表の大気圧下では100℃で沸騰する水も地下で圧力が加わると沸点が上がり,374℃(臨界点)に達する程までの高温となる水が存在するのです。なぜこのような高温の水が地下には存在するのでしょう。それには地下のマグマが関与していると考えられており,マグマが貫入して形成される火成岩の周りではこれを熱源として地下に浸透してきた天水(地表水)が熱せられ大規模な熱水循環系を形成していることが水に含まれる水素・酸素安定同位体などの研究からわかっています。大規模な金属鉱床を形成するような熱水にはその起源としてマグマ水(マグマ起源の水)の直接的な関与ももちろんありますが,その場合でも熱水の主体はやはり天水が占めるようです。
熱水変質作用とはこのようにして生れた地下の高温熱水が岩石(または地層)の小さな割目や断層を通過上昇する過程で岩石と反応し,粘土鉱物や沸石鉱物に代表されるさまざまな変質鉱物を生成させる現象です。岩石との反応には温度とともに熱水の化学的性質(pH,溶存成分)が深く関与しますが,さらには反応に与る熱水と岩石との相対的な量比(水/岩石比)によっても変質の進み方と様子が大きく変わります。図1は地熱変質帯などの研究から明らかにされた熱水変質作用の累帯構造を示すモデルであり, 図2には代表的な変質鉱物について生成温度条件やpH条件の違いを示してあります。
熱水変質作用では高温マグマの貫入後間もなくプロピライト変質作用が先行して広範囲に拡がります。この初期の変質作用では,熱水の循環がまだ十分でないことから水/岩石比が小さい変質作用の特徴として源岩の化学組成や組織をあまり変化させずに変質が進行することになります。特徴的な変質鉱物は緑泥石,Na斜長石,緑簾石であり,さらにこのプロピライト帯の周辺部には,緑泥石/スメクタイト混合層鉱物帯を挟んでスメクタイトと沸石鉱物の特徴的な生成(スメクタイト・沸石帯)がより低温部の変質として拡がります(図1a)。そしてマグマ貫入から時間が経て熱水の循環が次第によくなると,既にプロピライト化した岩石中の大きな割れ目を大量の熱水が通過することによる新たな変質作用が起こります(図1b)。この変質作用は水/岩石比の大きな反応となるので,源岩からの著しい成分溶脱や添加を伴い,源岩の鉱物はもちろんその組織などもすっかり消失してしまうほどです。その結果として珪化岩や比較的単純な変質鉱物の組合せ(場合によっては単一鉱物種)からなる粘土変質岩がよく生成します。変質鉱物の組合せとしては斜長石を欠くことも大きな特徴です。地質構造などによる大きな割目を中心にして酸性条件下の変質が進行するとSiとAl以外はほとんど溶脱しながら石英を主体にする珪化岩(珪化帯)がしばしば形成され,パイロフィライトとカオリンの粘土鉱物が特徴的によく伴います。マグマ水にSO2が含まれた場合などは,天水との混合酸化によって硫酸酸性の熱水になるので明礬石などの硫酸塩鉱物が生成することもあります。この酸性変質帯の外側には中性変質帯が形成されるのが一般的で,酸性変質帯では溶脱されたFe,Mg,Na,K,Caを主要構成成分に含む雲母,緑泥石,スメクタイトが生成します。深部の高温域で雲母と緑泥石が生成し,スメクタイトとの混合層鉱物を経て浅部の低温域でスメクタイトが生成しますので,この地下深度との対応関係はプロピライト変質帯とスメクタイト・沸石帯との関係にも比較することができます(図1b)。
以上述べた変質帯の累帯構造は一般的なモデルとして説明したものです。個々の熱水変質帯では熱水の拡がる範囲や規模がそれぞれに異なり,また1回だけの単純な変質作用を受けただけとも限りません。実際にはそれぞれに特有の変質帯が形成されると考えるべきでしょう。
3.金鉱床および黒鉱鉱床の粘土鉱物
地下深い場所に形成された鉱床はなかなかその存在がわかりません。このような潜頭鉱床の探査や開発には,地表での地質調査とともに進められる物理探査や地化学探査が有効で,鉱床周囲の変質帯を構成する粘土鉱物についてその性質を細かく調べることも地化学的探査手法の1つとして役立ちます。金鉱床および黒鉱鉱床の変質帯と粘土鉱物の例をみることにします。
3.1. 金鉱床変質帯の粘土鉱物
鹿児島県北部の菱刈地域では金の平均品位が80g/トンと極めて高く,全体の埋蔵量としても250トンの金量が見込まれる世界的な金鉱床が開発されました。また,鉱床生成が約100万年前と極めて若く地質学的にはまさにできたての金鉱床ということも驚きで,地下鉱脈周辺には金を沈殿させた熱水の残液が今でも温泉水として溢れており,この温泉水をポンプで汲み上げて十分に水位を下げてから採掘が行われています。
菱刈鉱山地域の鉱床母岩は大部分が安山岩類ですが,未変質岩(または微弱変質岩)では斜長石のほかにクリストバライト(Cr)またはトリディマイト(Tr)のシリカ鉱物が残存するのに対して,変質岩では特徴的な粘土鉱物の出現や消失が認められることから変質分帯することができます(図3)。最下部は緑泥石-雲母帯(IV帯)で,石英と緑泥石が主体で部分的に雲母と緑泥石/スメクタイト混合層鉱物(C/S)や雲母/スメクタイト混合層鉱物(M/S)も伴います。その上位が混合層粘土鉱物帯(III帯)で緑泥石と雲母がともに混合層鉱物を形成しています。さらに上位になると緑泥石や雲母とともにこれらの混合層鉱物も産出しなくなってスメクタイトが主要な粘土鉱物となり,シリカ鉱物の違いによって石英-スメクタイト帯(II帯)とさらに最上位(外側)のクリストバライト-スメクタイト帯(I帯)が分布します。I帯とII帯ではスメクタイトに代わってカオリナイトもしくはハロイサイトが主体となる部分もあり,カオリン亜帯として細区分することもできます。これらの変質帯分布には熱水温度の違いが反映されていることは明らかですから, 図2に示した主要粘土鉱物についての生成温度の違いを参考にすれば,I帯(100℃以下),II帯(100-150℃),III帯(150-200℃),IV帯(200℃以上)の大まかな温度変化を見積もることができます。熱水の温度を直接的に調べる方法としては石英などに含まれる流体包有物を加熱しながら測定される均質化温度が有効です。IV帯の石英についても均質化温度が測定され,その結果は大部分が190-230℃の範囲に集中して213℃が中間平均値となっていますので変質鉱物の特徴から推定した温度ともよく一致します(Izawa et al., 1990)。
菱刈金鉱床で見られる変質帯分布の全体的な特徴としては,鉱床となる含金石英脈がほとんどIV帯付近だけに限られており,またその鉱化主部の上位50-100mには金を沈殿させた後の熱水が作用してスメクタイトやカオリンなどを主体にする粘土化変質岩が形成されていることです。このような変質作用の全体的な拡がりと特徴を捉えることは,金鉱床の探査と探鉱には欠かせない基礎データとして役立つことになります。わが国には各地に大規模な熱水性カオリン鉱床が開発されていますが,これらの下部には含金石英脈が伴う可能性も指摘できることになり,実際に山形県板谷,栃木県関白,鹿児島県入来などのカオリン鉱床には部分的に含金石英脈を伴うことがわかっています。
3.2. 黒鉱鉱床
黒鉱鉱床もわが国を代表する熱水鉱床の1つで,東北日本の日本海側を中心にして多くの鉱床が開発されました。この地域には海底に火山灰などが堆積してできた新第三紀の地層(緑泥石粘土による緑色が特徴的なことから“グリーンタフ”と呼ばれることが多い)が特徴的に分布しており,黒鉱鉱床も海底火山活動とそれに伴う熱水活動によって生成されたものです。鉱床形成は海底下での石英安山岩質マグマの活動に始まり,その貫入岩体頂部付近からの熱水噴出で珪化作用が起こって石英,黄鉄鉱,黄銅鉱からなる珪鉱が形成された後には海底に噴出した熱水から黄鉄鉱と黄銅鉱が主体になった黄鉱が沈殿し,さらにその上には方鉛鉱,閃亜鉛鉱,黄銅鉱,重晶石からなる黒鉱が層状に重なって堆積しています。熱水からの沈殿物としては石膏が主体になることもあります。このようにして形成された黒鉱鉱床では鉱石を沈殿させた熱水によって母岩である石英安山岩や凝灰岩などが著しく変質しており,また熱水活動が鉱床形成後にも継続したために鉱床の上に堆積した火山灰や泥岩も同じようによく変質しています。特徴的な変質帯としては,珪化帯を中心にして上位または外側に向けて層状鉱床を包みこむ粘土帯,雲母(セリサイト)-緑泥石帯,スメクタイト(モンモリロナイト)帯が分布します(図4)。
3.3. 黒鉱鉱床変質帯の粘土鉱物
黒鉱鉱床に伴う変質鉱物の主体は雲母,緑泥石およびスメクタイトです。中でも雲母はスメクタイトとの間にさまざまな成分比の雲母/スメクタイト混合層鉱物を形成しながら最も多量にかつ普遍的に産出します。X線底面反射パターンの特徴から雲母,少量(5-25%程度)のスメクタイト成分を含む不規則混合層鉱物,およびスメクタイト成分が約40-45%に達する規則型混合層鉱物の3タイプに大別することができますので, 図5にその代表的な例を示しました。非混合層タイプの雲母(試料D)は1次から5次までの底面反射がすべて10.0Åの整数分比の関係にあり,少量のスメクタイト層を含む不規則混合層(試料C,B)では底面反射がスメクタイト成分層の干渉によって少しずつ移動するので整数分比の関係が乱れます。もっと簡単な判別法としてはスメクタイト成分層の干渉に伴い奇数次底面反射が特に幅広くブロード化するので,半価幅を比べるのも非常に有効です。規則型混合層鉱物(試料A)になるとこれらの変化がさらに大きくなって25-26Åの長周期反射を伴うのが特徴です。変質帯別にみると非混合層タイプが珪化帯に特徴的に分布するほか,規則型混合層タイプも粘土帯の周縁部や雲母-緑泥石帯からスメクタイト帯へ移行する漸移帯などにその産出が限られるのに対して,不規則混合層タイプは最も産出範囲が広くなります。図6には,1次と2次底面反射の半価幅を比較することによって雲母および雲母/スメクタイト不規則混合層鉱物の相対的な混合層成分比変化が検討できる例を示しました。
なお,雲母/スメクタイト混合層鉱物の分類には従来からよく使用されてきた不規則型と規則型という区分を便宜的に用いました。混合層構造は成分層の比率と積層タイプ(連結の仕方)に確率論を導入することでより厳密な解析が可能ですので,それらの解析成果に基づいて雲母/スメクタイト成分比と基本的な積層タイプ区分(Reichweite S=0,1,2,3,4)が即座に判定できる便利な判定図も公表されています(渡辺,1986)。この場合にはエチレングリコール処理後のX線回折実験が必要になりますが限定された試料間での混合層成分比の変動や基本構造の違いなどを詳しく比較検討する時にはとても有効です。
雲母鉱物ではスメクタイトとの混合層構造のほかに,雲母層の積層構造の違い(ポリタイプ)が認められます。通常の雲母粘土鉱物によくみられるポリタイプは1M,2M1,1Mdの3種類ですが,このうち1Mと2M1はそれぞれが特徴的なhkl反射を示し,一方1Mdは明瞭なhkl反射が出現しない(積層構造に規則性がない)ことからX線回折パターンに注意すればポリタイプが混在する場合を含めて容易に識別できます(図7)。ただし黒鉱鉱床変質帯に見られる1Mdポリタイプは比較的スメクタイトを多く含む混合層試料に多いことからスメクタイト成分層を挟むことで雲母層の積層構造が乱されることによる言わば見掛け上の1Mdになっている点は注意が必要です。ポリタイプの違いについても変質帯産状との関係が明らかで,1Mと1Mdが変質帯全体に産出するのに対して,2M1は鉱床内部で混じるようになり特に鉱床中心部には特徴的に多く産出することから2M1には1Mよりも高い温度条件での生成が示唆されます。また,1Mと2M1の違いについては,化学組成との関係も明らかになっており,2M1では八面体組成が白雲母(muscovite)に近くほとんどAlで占められるのに対してAlの一部がFeやMgによって置換されてフェンジャイト(phengite)的になれば1Mになり,これらの組成変化はさらにd(060)の変化(1.498〜1.502Å)や赤外吸収スペクトルの波数変化(535〜528cm-1)などともよく対応します。
このように黒鉱鉱床変質帯では雲母鉱物の混合層成分比と化学組成が変質帯に対応しながら変化しますので, X線底面反射の半価幅や赤外吸収スペクトルの性質などを利用して変質帯全体の特徴や変化を追究することができます(東・白水,1975)。
ここでは雲母粘土鉱物の性質にしか触れませんでしたが,黒鉱鉱床変質帯では緑泥石とスメクタイトも同様に混合層構造や化学組成が変化し, X線回折データを利用すればこれらの変化も比較的簡単に検討することができます。緑泥石鉱物については底面反射(14Å,7Å,4.7Å)の強度比を利用した三角ダイヤグラムがよく用いられますし(Shirozu,1974),スメクタイトについては相対湿度を制御したX線回折実験を行えば特定底面反射の半価幅と強度比からCa,Mg,Na,Kの層間イオン分布による混合層構造が解析できます(図8)。
これら黒鉱鉱床を構成する雲母,緑泥石,スメクタイトの鉱物学的性質とその変化を変質帯全体の特徴として捉えると,黒鉱鉱床を形成した鉱化作用に伴ってNaとCaの溶脱ならびにKとMgの添加が起こったことが明らかで,秋田県北部に多く開発された黒鉱鉱床群の中にはこの地化学的特徴に基づいた探査方針で新鉱床が見つかった例も報告されています(石川,1991)。
4.陶石鉱床およびロウ石鉱床の粘土鉱物
4.1. 陶石鉱床とロウ石鉱床
火山岩マグマから長石・石英・黒雲母などの造岩鉱物が結晶化した後の残液には水が含まれており,陶石は流紋岩や安山岩などの貫入岩脈が形成された際に岩脈全体に熱水変質が拡がって形成されたものです。一般的には石英,カオリン,雲母(セリサイト)を主体にしながら一部にはレクトライト(雲母/スメクタイト)やトスダイト(Al緑泥石/スメクタイト)などの規則混合層粘土鉱物もよく伴います。一方ロウ石は陸上に噴出した流紋岩や安山岩などの溶岩と凝灰岩類が熱水変質したもので,陶石鉱床に比べて層準的な拡がりと規模の大きさを示して,複数の鉱床がまとまりながら広域的に分布するのも特徴です。また,ロウ石の構成鉱物は種類も多く,主体は石英,パイロフィライト,カオリン(カオリナイト・ディッカイト),雲母(セリサイト)ですが,ベーマイト,ダイアスポア,コランダムなどの高アルミニウム鉱物や紅柱石が特徴的に産出することもあります。このような変質鉱物の特徴は陶石鉱床の場合よりも温度が高く化学的にも元素溶脱がさらに進んだ熱水変質作用が起きたことを示しており,陸上に噴出した火山岩自体に熱水源を求めるよりも火山岩の活動とほぼ同時期に地下に貫入した花崗岩類を熱源として熱水循環系が形成された可能性が考えられています。
これらの陶石とロウ石はともに大事な窯業原料として利用されてきました。ここでは西日本の代表的な陶石鉱床とロウ石鉱床に産する雲母鉱物を中心として利用面からみた鉱物学的性質に注目してみることにします。
4.2. 天草陶石の粘土鉱物特性
熊本県の天草陶石はわが国最大規模の陶石鉱床として知られ,特に微粉砕しやすく,可塑性と成形性にも優れ,陶石単味(ほかに何も混ぜない)で磁器をつくることができることや着色の原因となるTiとFeの含有量も少ないことから,高級白磁,一般陶磁器のほかに高圧碍子の主原料としても広く利用されています。鉱床は堆積岩に貫入した数条の流紋岩岩脈(新第三紀)が熱水変質したもので,これらの陶石脈群の中では特に皿山脈が可塑性に優れて成形しやすいことが経験的にわかっておりましたが,この特性は含まれる雲母鉱物の性質と特徴から説明することができます。図9は海岸脈と皿山脈の陶石について2ミクロン以下の粒子部分を分離して両者のX線回折パターンを比較したものです。海岸脈の試料には石英のほかに,カオリン(カオリナイト)が少し含まれ,主要な粘土鉱物は雲母(セリサイト)です。この雲母は10.03Åと5.01Åの非常にシャープな底面反射を示し,エチレングリコールで処理しても変化が見られないことから,スメクタイト層を含まない非混合層の雲母です。一方可塑性に優れた皿山脈の試料は少量のカオリナイトを含むことは同じですが, 2種類の雲母/スメクタイト混合層鉱物が混在しています。1つは明瞭な長周期反射を示す雲母/スメクタイト規則混合層鉱物(成分層比が1:1に近く規則性が高い場合には特別にレクトライトの鉱物名で呼ばれる)で,もう1つは底面反射のd値やブロードなプロファイルの特徴から不規則型混合層です。有機薬品処理後の変化もスメクタイト層の存在を裏づけています。また,この試料の5-20ミクロンの大きな粒子には規則混合層はほとんど含まれず,不規則混合層でもスメクタイト成分層は非常に少なくなります。つまり,可塑性に優れた原料では微粒子として含まれる雲母/スメクタイト混合層鉱物が絡んでいるのです。粘土の可塑性とは水とよくなじんで成形しやすくなる性質ですが,この性質には個々の粘土粒子の周囲にたくさんの水分子が引き寄せられて互いによく繋がりあうことが関係していますので一般的には扁平な形をした微粒の粘土ほど可塑性がよくなるといわれています。スメクタイトはその典型で水に浸けると層間に水が入り込んで次第に膨潤し,最終的には水のなかでスメクタイト層の1枚,1枚が剥がれてしまうほどです。天草陶石の雲母/スメクタイト混合層鉱物でも水とこねた時にはこの現象が起こり,スメクタイト層部分で剥がれることによってさらに微粒子となり可塑性がよくなると考えられるのです。
4.3. 含NH4雲母鉱物の加熱特性
陶石やロウ石は1100〜1400℃で焼かれて固い陶磁器になりますので,窯業原料としての性質には可塑性のほかに高温で焼成したときの変化や性質が重要です。一般的にはアルカリ成分を含む長石や雲母が溶けることによってガラス化が進行し,他方カオリンなどの粘土鉱物からは熱分解によってムライト結晶が生成し,石英は一部がクリストバライト化しながらも大部分は石英粒としてそのまま残ります。この場合にガラス化が進行しすぎると変形して焼き崩れてしまいますが,ムライトが結晶化して素地全体に拡がれば耐火性が強まり焼成温度を高めることができます。陶石やロウ石に含まれる普通の雲母鉱物はKを含むのでガラス化に作用しムライト化にはほとんど作用しません。ところが面白いことに愛媛県の砥部陶石鉱床などから産する雲母鉱物にはKに代わってNH4が特徴的に含まれており,ムライト化しやすくなる性質も併せ持っています。NH4が多く含まれる雲母には産地の名前からトベライト(tobelite)の鉱物名が新しく与えられました(Higashi, 1983)。NH4が含まれる場合の性質をもう少し詳しく説明することにします。
表1にNH4含有量が異なる4試料の雲母鉱物(佐賀県泉山陶石,広島県豊蝋ロウ石,岡山県三石地区八木ロウ石,愛媛県砥部陶石)と合成トベライトの化学分析値を示し,図10と図11にはこれらのX線底面反射パターンと示差熱分析曲線(DTA)を示しました。KとNH4の含有量は互いに逆増減しながら変化しますが,これはK-雲母(muscovite)とNH4-雲母(tobelite)の間に連続固溶体が形成されることを意味しますし,Kに比べてNH4はイオン半径が少し大きいことから底面間隔が10.00Å(K-端成分)と10.36Å(NH4-端成分)の間で連続的に変化する性質もこのことをよく物語っています。一方図11の示差熱分析の結果にはNH4を含むことによる加熱特性の特徴がダイナミックな変化として現れています。通常のK-雲母では600℃付近での構造水(OH)の脱水が起こるだけですが,NH4-雲母では先ず層間イオンのNH4がNH3ガスとして離脱する反応が430℃で起こり,その後に構造水の脱水が2段階に分かれながら緩やかに進行し(550℃と750℃),そして985℃でムライト化が特徴的に起こります(反応式:2NH4Al2Si3AlO10(OH)2(tobelite) = Al6Si2O13(mullite) + 4SiO2(cristobalite) + 3H2O + 2NH3)。KとNH4がともに含まれる固溶体組成の場合でも,砥部産試料によく特徴が現れているようにKに富むドメインとNH4に富むドメインに分かれて加熱変化が進行し,NH4の多いドメインからは同様にムライト生成が見られますし(試料TとN),また比較的NH4含有量の少ない試料(Y)の示差熱分析でも微妙ですがムライト生成が見られます。つまりKとNH4をともに含む雲母は溶融によるガラス化を進めながら,その一方ではムライトが生成して耐火性を強める性質も併せ持っていることになり,相反する2つの特性を備え持つ点では極めて興味深い窯業原料鉱物ということができます。ロウ石鉱床産の雲母鉱物については実際に耐火度が測定された例も報告されており,その結果によればK-雲母ではSK18(溶倒温度1500℃)と耐火度が低く,NH4が多くなるとカオリンに匹敵するSK36(溶倒温度1790℃)の耐火度が得られています(Yamamoto, 1967)。
以上の熱分析結果から明らかなように雲母鉱物のK/NH4組成比は窯業原料としての焼結または耐火特性を評価する基準に使えそうですので,4鉱床の多くの試料について可塑性評価に繋がる混合層成分比の変化とともにこれらの性質をX線回折パターンの特徴から比べてみました。(図12)。縦軸の1次底面反射半価幅からはスメクタイト成分層の見積もりとこれに関連する可塑性評価が可能ですし,横軸の底面間隔からは層間NH4比の見積もりとこれに関連する耐火性評価が可能になります。底面間隔としては便宜的に5次と4次の底面反射d値をそれぞれ5倍と4倍して求め,その平均値として測定しました。図12の結果にはそれぞれの鉱床別の特徴がよく現れており,特に砥部陶石と八木(三石)ロウ石の試料には可塑性と耐火性のいずれにも優れた特性を評価することができるようです。また江戸時代にわが国で最初に陶磁器原料として使われた泉山陶石の試料にも量的に多いわけではないですがNH4が普遍的に含まれており,良質の原料として利用されたことを伺わせる興味深い結果に思えます。
5.おわりに
わが国では多くの熱水鉱床が開発されこれらに伴う粘土鉱物についても多くの研究が行われてきましたが,筆者が直接研究した黒鉱鉱床や陶石鉱床の雲母粘土鉱物に関する話題を中心にして,特に基本的な鉱物学的性質が金属鉱床の探査や窯業原料としての利用面からも重要になることを強調しました。熱水性粘土鉱物は風化堆積作用などで生成する粘土鉱物に比べて種類も多くて多様性があり,しかも純度の高い試料が得やすいことで鉱物学的な研究にはこれからも重要な貢献を果たすことが期待されます。なお,この基礎講座では全く紹介できませんでしたが,熱水変質作用と極めて関連の深い続成変質作用とその変質鉱物については吉村(2003)の詳しい総説があります。また,熱水変質作用についても井上(2003)による詳しい総説があり,熱水変質作用のより本質的な問題から個々の変質鉱物に関わる問題までもがよくまとめられているので非常に参考になります。
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