17. 環境浄化材としての粘土および機能性粘土の利用

小野寺嘉郎
独立行政法人 産業技術総合研究所メンブレン化学研究ラボ
〒983-8551仙台市宮城野区苦竹4-2-1


1.はじめに
2.主な環境汚染問題
3.廃棄物の処分問題と粘土
  3.1. エネルギー消費量と電力発電量の推移
  3.2. 放射性廃棄物の処分問題と粘土
  3.3. 産業・一般廃棄物の処分問題と粘土
4.酸性雨問題と粘土
  4.1. 酸性雨の原因と対策
  4.2. 酸性雨の影響と粘土
5.自動車排気ガス問題と粘土
  5.1 自動車排気ガスによる環境汚染
  5.2 自動車排気ガス対策と粘土
6.生活環境汚染問題と粘土
  6.1 身近な環境汚染問題
  6.2 殺・抗菌材としての粘土
  6.3 調湿材、揮発性有害物質除去材としての粘土
7.粘土による各種環境汚染物質の浄化関連研究
  7.1 最近の研究事例から
  7.2 浄化材としてのハイドロタルサイト
8. おわりに

1. はじめに
 科学技術の進歩はこれまで人類に多大の恩恵をもたらしてきましたが、その過程で環境中に多量に放出された種々の有害化学物質により、例えば、地球の温暖化やオゾン層の破壊といった様々な環境汚染問題が起きています。これらの環境汚染問題は、それが光化学スモッグや重金属による土壌汚染のような地域規模の汚染であれ、地球温暖化やオゾン層破壊のような地球規模の汚染であれ、詰まるところ、われわれ人類によるエネルギーと地下資源の多消費がその原因であることは疑いのないところです。進行中の環境汚染は、地球上の生物そのものの生存さえも脅かしかねない、かって人類が経験したことのない規模と深刻な内容を孕んでいると言っても過言ではありません。現在、様々な化学物質による身近かな環境汚染から地球規模での環境汚染まで、それらの改善・解決に向けた努力が世界のいたるところで展開されています。例えば、環境浄化を目的とした各種高機能性材料の開発研究や、それらを用いた浄化システムの開発なども、汚染問題の改善・解決に向けた重要な努力の一環と言えましょう。
 粘土は地球表層の代表的な構成成分の一つであり、微細な粒子からなるためその表面は極めて化学的に活性が高いのが特徴です。このため粘土は土壌中において、各種イオン類の交換・吸着・固定、反応の触媒などに深く係わっています。そしてこれらの諸反応を通じて粘土は、植物養分の保持・供給や生育環境の維持・制御といった農業的に重要な機能を果たしているばかりでなく、重金属や種々の汚染物質の吸着固定、分解浄化といった自然環境および生活環境の保全機能をも担っています。その一方、粘土はO, Si, Al, Mgのような自然の物質循環系に取り込まれ易い、いわゆる環境低負荷成分のみから構成されている無機物質です。このことと上記の諸機能を併せて考えますと、粘土は太陽系の惑星の中で水惑星とも呼ばれている地球にのみ存在する、天然の貴重な無機環境材料の一つと言えます。
 本稿では、環境中における様々な汚染物質の浄化材としての粘土および機能性粘土の使用例と、進行中の開発研究事例の概要をご紹介します。現在の有害化学物質による環境汚染の実体は、極めて複雑かつ多岐にわたっていますので、ここでは幾つかの代表的な汚染問題に焦点を絞って、そこでの使用例と開発研究事例について述べたいと思います。天然の粘土あるいはその精製粘土自体がもっている浄化機能を利用した除染技術の幾つかは、将来的な課題もありますが既に実用化されており、さらに近い将来実用化が予定されているものもあります。一方、粘土に何らかの化学的修飾を施して作製される機能性粘土の多くは、未だ研究段階にあり、浄化材として実用化されるまでには解決されなければならない課題も多いように思います。 なお、本稿では国際粘土研究連合(AIPEA,1995)の定義に従い、層状の結晶構造をもつケイ酸塩鉱物の他に、非晶質や低結晶質の鉱物もまた粘土として取りあげました。また、機能性粘土は粘土自体がもっている諸特性を利用して作製されていますので、機能の設計や発現する機能を理解するうえで、粘土の構造や化学組成と物理化学的特性との関係を知ることが重要です。これらは、既に本講座にあります。粘土鉱物の生成・構造や化学組成については、本基礎講座Iの河野(2001)や上原(2000)を、また粘土の特性と利用については佐藤(2001)を参照して下さい。

2.主な環境汚染問題
 主な環境汚染問題とその原因物質および実施中の削減対策を、表1にまとめて示します。現在の環境汚染は、その規模において光化学スモッグや土壌の重金属汚染のような地域規模的なものから、酸性雨のような半地球規模的なもの、あるいは地球温暖化やオゾン層破壊のような地球規模的なものまで、空間的・時間的スケールが実に様々です。また、地球温暖化問題一つとってみても、温暖化による気温上昇によって1)海水温が上昇する結果、海水に溶存するCO2量が減少し、大気中のCO2濃度が増加する;2)シベリアの凍土地帯に存在するメタンハイドレートが分解し大気中のCH4濃度が増加する、などの地球温暖化を加速させるメカニズム(岡本, 2002)が予測されています。さらに、例えばフロン、SOX・NOX、ダイオキシン類のような化学物質は、幾つかの汚染問題共通の原因物質(表1)となっているなど、環境汚染のメカニズムが極めて複雑であることが推察されます。一方、環境汚染問題の根本的な対策は、従来のエネルギーおよび資源の多消費を控え、地球上の生態系が維持され得るような社会システムをいちはやく確立することだと考えられます。表1に示した削減対策をみても分かりますように、省エネルギーが多くの問題に共通の対策であり、そのための具体策が色々と講じられています。代替燃料やクリーンエネルギー転換技術等の開発も、同時に図られてきています。また、環境ホルモンのように微量でも重大な影響を生態系に及ぼす化学物質は、それらの使用を規制するとともに管理・回収を徹底させることが重要でしょう。

3.廃棄物の処分問題と粘土
 有害化学物質による様々な環境汚染問題の多くは、エネルギーと資源の多消費にその端を発していることは論を待ちません。そこで、本項ではその象徴とも言える放射性廃棄物および産業・一般廃棄物の処分問題と粘土の係わりから述べたいと思います。
 近年、原子力発電所から排出される放射性廃棄物や管理型産業廃棄物などの処分が、産業界において重要な課題となっています。現在、管理型産業廃棄物は地中に処分する方法が採られており、放射性廃棄物の処分においても、埋設深度の違いはありますが、同様に地中に埋設して処分する方法が有力と考えられ、それに応じた技術開発が進められています。これらの廃棄物の地層処分においては、スメクタイトを主成分とするベントナイトがもっている優れた止水性や種々の有害物質に対する吸着性などの機能が期待されています。

3.1. エネルギー消費量と電力発電量の推移
 過去20年間の国内最終エネルギー消費量の推移を図1に示します。わが国のエネルギー消費は、2度の石油危機後、とくに1985年以降急激に増加の一途を辿っています。これを部門別にみますと、産業部門の構成比は減少傾向にありますが、民生・運輸部門は景気の動向にかかわらず豊かさを求めるライフスタイルなどを反映し、一貫して大きく伸びています。これらのエネルギー消費の大半を賄うわが国の電力発電量を、世界のそれと比較して表2に示します。1998年度末におけるわが国の電力発電量は約1.05x106GWhであり、これは世界の総発電量の7.2%に相当し、実に一国で南米およびアフリカ地域の全発電量に匹敵する膨大なものになっています。これらの発電量は、それぞれ火力・水力・原子力・地熱発電などで賄われていますが、原子力発電の構成比が31.8%と極めて高いことがわが国の電力発電の大きな特徴です。わが国の原子力発電の構成比は世界各国平均の約2倍、ヨーロッパのそれに比べても4.3%も高くなっています。この結果、以下に述べるような種々の放射性廃棄物が多量に発生しており、その処分が今後の大きな課題となっています。

3.2. 放射性廃棄物の処分問題と粘土
 1999年度末の国内の主な原子力施設における放射性廃棄物の保管量を図2に示します。高レベル液体廃棄物(使用済核燃料の再処理で、Uと Pu回収後に残る廃液)は、そのガラス固化体化が進み保管量は減少していますが、高レベル固体廃棄物(ガラス固化体)と低レベル廃棄物量は、年々増加の一途を辿っています。とりわけ高レベル廃棄物はその発生量は少ないのですが、放射能が高くかつ長期に継続することから、ガラス固化体とした後、オーバーパックと呼ばれる金属容器に封入して、地下数百メートルの深部地層中に埋設することになっています。この際、周辺環境となる地盤(花崗岩等;天然バリアーと呼ぶ)と廃棄物の間には、それらを隔離する緩衝材(遮水材)が充填される計画です。放射性廃棄物処分では、非常に高い止水性が要求されることから、緩衝材の候補材としてベントナイトが有力視されています。

3.2.1. 低レベル放射性廃棄物の処分
 低レベル放射性廃棄物は、図3に示すような放射能が低く比較的半減期の短い核種からなっていますが、その排出量が極めて多いのが特徴です(図2)。国内の低レベル放射性廃棄物は、発生施設においてセメントで固めるなど適切な処理をしてドラム缶内に密閉・保管後、最終的に青森県六ケ所村の低レベル放射性廃棄物貯蔵センターでまとめて効率的に埋設することになっています。貯蔵センターでは、図4に示すようなドラム缶を収納する鉄筋コンクリートの専用の地下室(ピット)を安定した地盤の上につくり、その中にドラム缶を整然と並べ、隙間にモルタルなどの充填材をつめ、上部を鉄筋コンクリートで固め、放射性物質を閉じ込める方策がとられます。ピットには水を通しやすいポーラスコンクリートの層が設けられており、仮にピット内に水が侵入しても廃棄体に達する前に排水されます。ピットの上面および側面はベントナイト(スメクタイトを主成分とする)混合土で締固め、岩盤よりさらに水を通し難くします。さらに周辺を土砂等で覆い、植生を施します。六ケ所村の低レベル放射性廃棄物貯蔵センターは、最終的には300万本埋設可能な規模になる予定です(原子力読本,1990)。

3.2.2. 高レベル放射性廃棄物の処分
 高レベル放射性廃棄物の地層処分の際にも、ベントナイトが緩衝材として用いられる予定ですが、その詳細は既に本基礎講座I(小崎:2003)にありますので、そちらを参照して下さい。なお、ベントナイトの主成分であるスメクタイトは典型的な無機陽イオン交換体ですので、種々の放射性核種のうちセシウムやストロンチウムなどの陽イオン類に対しては、それらの拡散を遅延させる効果はありますが、ヨウ素やテクネチウムなどの陰イオン性核種の遅延効果は期待できません。このようなベントナイトの吸着機能を補完する材料として、高い陰イオン交換能をもつハイドロタルサイト様化合物(後述)や粘土類似の化学組成をもったSi-Al-Mg3元系含水酸化物などによるI-, IO3-,TcO4-, ReO4-イオン類の吸着性や分配挙動が検討されています。

3.3. 産業・一般廃棄物の処分問題と粘土
 廃棄物の分類、産業廃棄物の種類別排出量と処理状況の推移を図5:a)-c)に示します。廃棄物は、産業廃棄物と一般廃棄物に分けられます(図5:a))。家庭からのごみは、一般廃棄物の一部です。廃棄物の中でも排出量の多い産業廃棄物の量は、2000年度には4.06億トンに達しており(図5:b))、その主なものは、汚泥・動物のふん尿・がれき類です。2000年度の産業廃棄物の排出量と処理状況を1995年度のそれと比較しますと(図5:c))、ここ5年間で排出量は3%程度増加していますが、再生利用量が大幅に増加したため埋立て処分の対象となる最終処分量は6900万トンから4500万トンへとかなり減少しています。しかし、それでも一人一日当たり0.97 kgの埋立て対象の産業廃棄物を排出している計算になります。また、2000年度のごみの量は5236万トン(環境省調査資料2000年度)であり、一人一日当たり1.13kgのごみを排出しています。これらのごみの5.9%(309万トン)が直接埋立てされています。

 以上のように、わが国では埋立て処分の対象となる最終廃棄物量が年間約4800万トンにも達しており、処分場の確保は大きな社会問題になっています。また、平野部が少ないわが国では、処分場の大半が内陸や山間部に立地することになり、浸出水の漏洩による飲料水源や地下水の汚染を招きかねない状況にあります。このため1998年に「一般廃棄物および産業廃棄物の最終処分場に係わる技術上の基準」が改正され、遮水工の構造基準が強化され遮水層の二重化が義務付けられています。 図6に国内処分場の大半を占める管理型処分場の一例を示します。従来の遮水材に加え、さらに粘土を用いその不透水性を利用して地層を経路とする有害物質の漏洩を防止する方策が採られています。遮水工の構造は処分場により異なりますが、いずれの場合も様々な遮水シートが用いられています。また、粘土ライナーとしては、厚さ50 cm以上、透水係数10-6 cm/s以下のベントナイト混合土が用いられています。なお、産業廃棄物処分場の詳細は、勝見(1999)および本基礎講座I(川地:2003)を参照して下さい。
 上記のように、二重化が義務付けられたとはいえ、現在の処分場の遮水システムに問題がないわけではありません。例えば、遮水シートとして近年、高密度ポリエチレンや塩化ビニールからなるジオメンブレンが良く用いられていますが、分子レベルでみた場合、有害有機化学物質の多くはジオメンブレンを拡散浸透することが指摘されています。また、粘土ライナーに用いられる粘土(ベントナイト)ですが、もともと粘土は多種多様であり、どのような粘土が優れているのかは資料の整備が不十分で明確ではありません。さらに、わが国では遮水工の要件として、透水係数のみが大きく取り上げられているように思われます。確かに、水溶性の有害化学物質が多いため、水の移動を封じることができれば良いとの考えもありましょう。しかし、後述のように実際には水に難溶性の有害化学物質や、水の移動がなくともそれらが拡散により移動し得ることが知られています(勝見, 1999)。処分場に対する社会の信頼を得るためには、用いる材料の機能の科学的裏付けが必要ですし、そのためには材料の構成要素個々の性質まで立ち戻った検討が必要であり、これらは今後の大きな課題ではないかと思います。

4.酸性雨問題と粘土
4.1. 酸性雨の原因と対策
 酸性雨は、火力発電所・工場・火山などの固定発生源から発生するNOx(NO, NO2など)、SOx(SO2, SO3, 硫酸ミストなど)、HClおよび自動車・船舶などの移動発生源から排出されるNOx、SOxなどが主な原因物質になっています(表1)。雨は一般に、大気中のCO2の溶解によりpH値が7以下となります。大気のCO2濃度(370ppm)と平衡な水溶液のpHは5.6となるため、通常pHが5.6未満の雨を酸性雨(acid rain)と呼んでいます。NOxおよびSOxが大気中で酸化されてHNO3やH2SO4などの酸溶液になる反応メカニズムは複雑ですが、NO2の酸化では太陽光により生成したOHラジカルやHO2ラジカルが、またSO2の酸化では上記のOHラジカルの他にH2O2の関与が指摘されています。これらの酸化反応の速度は、NO2の方が速く数時間で完結するのに対し、SO2ではその10倍の1〜2日を要すると考えられています。このため硝酸酸性雨の広がりが発生源から約200kmであるのに比べ、硫酸酸性雨は千数百kmにも及ぶとされています(岡本, 2002)。
 発電所や工場などの固定発生源からのSOxおよびNOxは、それらの排出量が大量なことから、従来わが国では図7に示すような種々の削減対策がとられてきており、この分野の技術は世界のトップレベルにあります。しかし、近年、中国などに起因する酸性雨中のSO42-イオンの割合が高くなっていることが指摘されており、国境のない酸性雨対策はグローバルな観点からの取り組みが必要となっています。

4.2. 酸性雨の影響と粘土
 酸性雨が降るとpHは3.0〜4.5に低下し、土壌・河川・湖沼は酸性化し、それぞれ特有の働きができなくなり生態系に影響がでます。農業地帯では植物が育たなくなったり、都市では大理石建造物の石膏化などの被害が発生します。また、河川や湖へ水を運搬する金属パイプが腐食し、パイプから遊離した有害金属が飲料水に混入するなどの深刻な問題も生じます。さらに、酸性雨が浮遊する粉じんと化合して新しいスモッグを形成し、視界を悪化させ、さらにスモッグ成分が呼吸器官を傷つけ人間の健康を脅かす原因にもなっています。
 粘土には、酸性雨による土壌の酸性化を抑制する浄化機能があります。図8に示すように、土壌はpHに応じて異なったメカニズムでH+イオンを取込みます。そのため土壌水は容易に酸性化はしませんが、H+イオンを取り込む容量を超えると段階的に酸性化します。土壌がH+イオンを取り込むと、もともと土壌中の粘土鉱物に交換性陽イオンとして保持され植物にとって必要なCa2+, Mg2+, K+イオン類が代わりに土壌から溶脱し、土壌の肥沃度が低下することになります。さらに酸性化が進むと、植物にとって有害なAl3+, Hg2+, Pb2+ イオン類が土壌水中に溶出するため、根や土壌微生物の活性が低下し栄養補給が不十分になります(岡本2002)。
 酸性雨の類似物として、酸性雨よりもっと粒子の細かい酸性霧があります。これはSO2、 NO2などの酸性ガスが霧に吸収されて発生するものです。酸性霧は粒子が細かいため、対象物はあらゆる角度から長時間その攻撃を受けることになります。また、霧が晴れ水分が蒸発した時には高濃度の酸が全体にくまなく付着することになりますので、樹木などの被害が大きく、森林の枯渇化を見ることが多いといわれています。なお、曇天で酸性霧によって生ずるスモッグがロンドン型スモッグといわれるものであり、後述の光化学スモッグとは区別されています。

5.自動車排気ガス問題と粘土
5.1. 自動車排気ガスによる環境汚染
 自動車は、大気汚染物質の移動発生源の代表的な一つであり、その排気ガス中には地球温暖化ガス・酸性雨/光化学スモッグの原因ガス・有毒ガス(CO)が含まれています。さらにデイーゼル車の排気ガスには、これらに加えてSOx・発ガン性物質(ベンゾピレン,ベンゼン,ダイオキシンなど)、変異原生物質(3-ニトロベンズアントロン)などが含まれています。とくに、自動車排気ガス中の未燃焼の炭化水素(HC)とNOxは、光化学スモッグ(ロサンゼルス型スモッグ)の原因物質になっています。これらの一次汚染物質から太陽光の作用でオキシダントと呼ばれている酸素よりも酸化作用の強いオゾンや硝酸過酸化アセチルが生成し、それらがスモッグ発生の原因物質といわれています。また、オキシダントと同時に還元性物質のアルデヒド類(アクロレイン,アセトアルデヒド,ホルムアルデヒド)も光化学反応によって発生し、これらは呼吸器系の刺激物質となっています。

5.2. 自動車排気ガス対策と粘土
 現在、自動車排気ガスのクリーン化を目指し、様々な対策がとられています(図9)。この分野では、粘土あるいは各種機能性粘土が用いられています。先ず、図9に示した前処理法のうち、自動車の小型・軽量化に機能性粘土は大きく貢献しています。粘土―有機高分子ハイブリッド材料がそれです。一般に有機高分子材料は、熱には弱いのですが軽量で、柔軟性、強靱性、成形性に優れています。これに対し無機材料は脆く成形性は悪いのですが、弾性率や強度が高く、耐熱性、耐食性、光学特性に優れているといった特性をもっています。これらの有機高分子材料と無機材料を、分子あるいはナノメーターオーダーで複合化することによって、軽量かつ優れた物理/化学的特性をもつ材料としたのが有機―無機高分子ハイブリッド材料です。有機-粘土ハイブリッド材料は当初、モンモリロナイト層間でナイロン6のモノマーであるε-カプロラクタムを重合する手法により、シリケート層をナイロン6とナノメートルレベルで複合化したナイロン6クレーハイブリッド(NCH)が世界に先駆けてわが国で実用化されています(福嶋1991)。わずか数%のモンモリロナイトの配合でナイロン6の機械的強度、ガスバリア性が大幅に向上しました。その後、自動車部品等として多量に使用されているポリプロピレンークレイハイブリッド材などが開発されています。代表的な有機-クレイハイブリッド材であるポリプロピレン-クレイハイブリッド材の製造概念図を図10に示します。このような粘土のハイブリッド化は、様々な樹脂材料の標準的な補強手法として、また新しい機能を付与するための一手法として、今後の発展が期待されています。

 図9に示した後処理プロセスにも粘土が実用されています。自動車の排ガス分解用の白金-ロジウム合金触媒担体として、コージエライト質ハニカム多孔体が使用されていますが、コージエライト結晶の配向制御のために異方的な結晶形態をもつカオリナイトが原料として用いられています。カオリナイトの添加により、ハニカム多孔体の耐熱衝撃性が向上しました。この触媒は、排ガス中の3種の有害ガス(CO, HC, NOx)を同時にCO2, H2O, N2に無害化するため三元触媒と呼ばれています。粘土は、上記のハニカム触媒のように、その可塑性、固結・焼結性を利用したセラミックスとしても利用されていますが、触媒あるいは触媒担体としての利用では触媒活性に及ぼす不純物の影響が避け難く、将来的には天然品から成分既知の合成品への転換が図られて行くものと思われます。また、研究段階ではありますが、後述のハイドロタルサイト焼成物によるNOxおよびSOxの分解触媒活性なども検討されています。
 代替燃料関連では、いずれも研究事例ですが、ハイドロタルサイトにRu3(CO)12を担持後、275℃で水素還元して得られる触媒が、従来にない低圧でC1-C4アルコールを高選択的に生成し、とくにメタノールの生成比率が74〜81%と高いことが明らかにされています。また、COの水素化によるメタノール合成では、ハイドロタルサイト基本層構造内にCuやZnを含むものの焼成物が高触媒活性を示したという報告があります。

6.生活環境汚染問題と粘土
6.1. 身近な環境汚染問題
 本項では、種々の化学物質による身の廻りの環境汚染問題と粘土の係わりについて述べます。先ず、われわれの生活に欠かせない水ですが、現在、生活用水の殺菌法は塩素殺菌に代表されるような化学的殺菌法が主に用いられています。これは、化学的殺菌法では殺菌処理の基本操作が、薬剤の混入操作のみで簡単かつ低コストなため、大量に必要な生活用水の殺菌法として適しているからです。しかし、近年、上水道の殺菌に使用される塩素だけでなく、下水や工場廃水のBOD(生物化学的酸素要求量)値達成および滅菌処理のために使用される塩素による、上水道源の回帰的汚染が社会問題になっています。すなわち、化学的殺菌に用いられた塩素が、発ガン性物質であるトリハロメタン類の生成を助長していることが明らかになっています。このため、従来の化学的殺菌に代わる疫学的に安全で新しい殺菌材およびそれを用いた殺菌法の開発が急務となっています。一方、近年、建物の気密性が大幅に向上したことにより、結露や不快臭の問題が顕在化していますし、また、新建材に用いられている溶剤や接着剤などの化学物質による室内大気の汚染がクローズアップされています。このような生活環境分野においても、粘土は浄化材の原料として用いられています。

6.2. 殺・抗菌材としての粘土
 近年のアメニテイー志向を反映して様々な製品の抗菌化が進んでおり、種々の抗菌性金属を無機担体に担持させた徐放性無機抗菌・抗黴材が開発され、生活、産業分野への応用がなされています。抗菌性金属の中でも銀は、抗菌スペクトルが広く比較的安全性も高いことから、抗菌性金属として良く用いられています。銀による抗・殺菌のメカニズムとして、試材から徐放されたAg+イオンが細菌の細胞膜などのタンパク質に吸着し、それらの-SH基と反応して-SAgとなり、細菌の代謝障害を引き起こすためと考えられています。しかし、銀は殺菌性に優れてはいますが抗黴性が低いことが知られています。モンモリロナイト層間に抗黴剤として知られているTBZ [2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール]に抗菌剤の銀をキレート化したものをモンモリロナイト層間に担持させた多機能型抗菌・抗黴材が開発されています(図11)。この方法は、化学物質の特性と粘土のインターカレーション特性を巧みに利用した多機能性材料の作製法として、シンプルかつ大変面白い方法であると思います。このような有機物カチオン系抗菌剤は、一般にスメクタイト層間に担持されますと耐熱性が向上し、例えば樹脂中への練り込み時の有機系試剤の昇華防止効果があるとされています。また、天然のナノマテリアルとして注目されているアロフェン(1-2SiO2・Al2O3・nH2O)の特異的な形態(ナノサイズの中空球状粒子の凝集体)と高い表面活性(高比表面積,イオン・配位子交換能)に着目し、配位子交換により生体親和性成分のリン酸基を、またイオン交換により抗菌成分の銀を共担持させた殺菌剤の開発も検討されています。さらに、基本層内のMgを抗菌性金属のZnで部分置換した(Zn,Mg)-Al-CO3系ハイドロタルサイトの焼成物は、抗菌活性が高いうえサブミクロンの微粒子であるため、ポリエステルなどの繊維への配合性も良く、良好な抗菌性を示すという報告があります。粘土系では、有機系試剤だけを担持したものが、極少量実用されているようです。

6.3. 調湿材、揮発性有害物質除去材としての粘土
 室内環境の健康・快適性を得る目的で、粘土を原料とした調湿/揮発性有害化学物質の除去機能をもった幾つかの建材・壁材が開発、実用されています。アロフェンは、水との親和性が良くかつ吸着特性にも優れているため、これを使ったセラミックス壁材が市販されています。この壁材は、自立調湿機能の他、脱臭機能やシックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドの除去にも有効であるとされています。
 生活空間(大気や室内)の不快臭の原因物質として、アンモニアやアミンのような窒素原子を含む化合物、硫化水素やメルカプタンなどの有機硫黄化合物、アルデヒド類、有機酸類などがありますが、いろいろな形に成形できるセピオライト入りの粘土が脱臭粘土として市販されています。ただし、セピオライトは固体酸としての性質をもっていますので、アンモニアやアルキルアミン類の吸着には適していますが、アルデヒドや有機酸の吸着には適さないと思われます。また、粘土の吸着能と銅の悪臭成分分解触媒能に着目し、ハニカム状に成形焼結した粘土に硝酸銅を担持させたものが脱臭用ハニカムフィルターとして実用化されています。 さらに、合成ヘクトライトの透明で強固な水性ゲルに、様々な機能をもつ分子や微粒子を溶解・分散させた後、これを噴霧乾燥して得られる真球状の微粒子は、消臭剤をはじめとして種々の機能性材料としての利用が期待されています。

7.粘土による各種環境汚染物質の浄化関連研究
 前項までは、様々な環境汚染問題と浄化材としての粘土の係わりについて述べてきました。前述の分野では、既に粘土は浄化材として実用されており、一部は近い将来その実用化が予定されています。一方、近年、種々の微量化学物質、とくに有機系の化学物質による土壌や地下水の汚染が問題となってきています。それに供ない各種有害有機系化学物質の土壌や粘土への吸着や固定に関連した研究結果が、数多く報告されるようになってきました。いずれも基礎的な研究段階にあるものばかりですが、これらの研究結果が今後の新しい環境浄化材料の開発に反映されるものと期待されます。そこで本項では、各種有害化学物質の粘土への吸着や固定に関連した最近の研究事例について紹介したいと思います。

7.1. 最近の研究事例から
 粘土系試料による各種有害化学物質の吸着や固定に関連した最近の研究事例を、表3にまとめて示します。表3から分かりますように、粘土試料としてカオリナイトやアロフェンなどを用いた事例はありますが、極めて少数です。陽イオン交換体のスメクタイトと陰イオン交換体のハイドロタルサイトを試料とした検討例が、圧倒的に多くなっています。吸着質としては、鉛やクロムなどの無機イオン類もありますが、いわゆる環境ホルモンと呼ばれているアルキルフェノール類やダイオキシン類、各種有機系農薬類、種々の界面活性剤などの有機系有害化学物質が多く取り上げられています。粘土はもともと親水性、親油性双方の性質をもっていますが、有機系有害物質との疎水性相互作用(hydrophobic interaction)を高める目的で、その表面を予め有機陽イオンで処理した有機修飾粘土が良く用いられています。
 ここでは割愛しましたが、種々の有機汚染物質の土壌への吸着についても検討がなされています。従来、有機汚染物質の土壌への吸着は主に土壌中有機成分との疎水性相互作用によるものと考えられていましたが、最近、有機汚染物質が必ずしも土壌中の有機成分にのみ吸着されるわけではなく、土壌の有機成分含有量が少なく、無機成分(モンモリロナイト, 酸化マンガン)含有量が多い場合や、有機汚染物質が解離性あるいは極性を有する親水性基を含む場合は、上記無機成分への吸着を無視することができないことが明らかにされています。
 上記の他に、銅-スメクタイトによるダイオキシン分解、酸化チタン・酸化鉄・硫化カドミウム-粘土層間架橋体による難分解性農薬(ヘキサクロロシクロヘキサン)などの光分解、ハイドロタルサイト(未焼成物/焼成物)によるCO2回収およびNOx, SOx, NO2の分解などに関する、触媒あるいは触媒担体としての研究報告例があります。

7.2. 浄化材としてのハイドロタルサイト
 スメクタイトとともに粘土試料として良く用いられているハイドロタルサイトは、スメクタイトのような止水機能はもっていませんが、かなり大きな陰イオン交換能と、後述のような極めて特異的な加熱による構造変化を示す層状の無機化合物です。ハイドロタルサイトは、スメクタイトの吸着機能を補完する材料として最近注目されています。ハイドロタルサイトは、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oの構造式で表され、菱面体晶系に属する層状の結晶構造をもった鉱物の一種です。天然に産することは稀ですが、常温・常圧下で容易に合成できます。基本骨格層内のMg2+,Al3+イオンは、いずれも容易に他の2価,3価陽イオンで置換することができますので、一般式[M2+1-xM3+x(OH)2]x+[An-x/n・mH2O]xで表される一連のハイドロタルサイト様化合物を、ここでは簡単のために単にハイドロタルサイトと呼びます。上記の一般式で、M2+,M3+はそれぞれ2価,3価の金属イオンを、Anは層間陰イオンを表します。式中それぞれxは0.16≦x≦0.33、1/5≦M3+/M2+≦1/2の値をとります。ハイドロタルサイトは包接化合物の一種で、Mg(OH)6八面体が綾共有で平面的に配列した基本構造をもち、ホスト層内のM2+←M3+の置換で生ずる正電荷を補償するように層間にはゲストとして水を配位した交換性の陰イオンが存在します。層間にはイオンサイズが小さく電荷の大きな陰イオン種ほど選択的に取り込まれますが、とくにCO32-イオンを取り込んだハイドロタルサイト[Mg1-xAlx(OH)2(CO3)x/2・mH2O]は安定で、CO32-オンを他の陰イオンで交換することは非常に困難です。また、Mg1-xAlx(OH)2(CO3)x/2・mH2Oを加熱しますと、層間水の脱水に続き400〜450℃でホスト層のOH基が縮合脱水し、図12に示すような陽イオン欠陥を有する塩化ナトリウム型のMg-Al酸化物固溶体が生成します。ハイドロタルサイトの(001)面の構成原子が、塩化ナトリウム型酸化物の(111)面を構成します。この酸化物固溶体は、水溶液中から陰イオンをその構造内に直接取り込んで、元のハイドロタルサイト構造に戻ります。この反応はトポタクテイックに進行します。また、酸化物固溶体は、耐熱性が高いため酸化物触媒の前駆体として用いられることも多くなっています。なお、表3中のグリーンラストとは、ハイドロタルサイト基本層内の2価と3価の金属イオンがともに鉄であるものをそのように呼んでいます。

8.おわりに
 冒頭でも触れましたように、現在進行中の環境汚染は、地球上の生物そのものの生存さえも脅かしかねない規模と深刻な内容を孕んでいます。このような環境汚染の改善へ向けた様々な努力が随所でなされていますが、その一方で、われわれは豊かさを求めエネルギーと資源を多消費し続けています。世界各地で起きている大規模な森林破壊や異常気象による大きな被害、あるいはまた廃棄物処理・処分場をめぐる環境汚染報道などをみますと、地球規模での環境汚染問題が改善されているという実感を著者は持てないでいます。今ほど、われわれの生き方そのものが、本質的に問われている時代はかってなかったのではないかと思います。本稿では、環境汚染問題と浄化材としての粘土の係わりについて、主に技術的な側面について述べてきました。とくに、廃棄物問題に関する項では、エネルギーと資源の多消費の現状を読者の皆さんともども認識したいと思い、あえて幾つかの統計データを用いました。本稿が、少しでも環境問題に興味をお持ちの読者のお役にたてれば幸いです。
 最後に、本講座を執筆するにあたり、とくに下記の資料を参考あるいは引用させて頂きました。ここに記して、それぞれの著者の方々に心より感謝申し上げます。

参考・引用文献:
岡本博司(2002), 環境科学の基礎, 東京電気大学, 東京, pp.167.
Gerard Kiely(1997), Environmental Engineering, McGraw-Hill, Singapore, pp.979.
小林純子, 湯川英明(1997), 地球環境問題をひもとく, 化学工業日報社, 東京, pp.185.
福嶋喜章(1991), スメクタイト研究会会報, 1(2), 16-24.
勝見 武(1999), スメクタイト研究会会報, 9(2), 11-22.
山田裕久, 田村堅志, 井伊伸夫(2003), スメクタイト研究会会報, 13(1), 16-24.
日比野俊行(2003), 粘土科学, 42 ,139-143.


1 12