19. 粘 土 の 触 媒 利 用

白井誠之
独立行政法人・産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター
〒983-8551 宮城県仙台市宮城野区苦竹4-2-1


1.はじめに
2.粘土の酸触媒能
  2.1. 粘土のイオン交換能と酸点発現
  2.2. 粘土の酸触媒能
  2.3. 粘土触媒の酸機能を利用するファインケミカルへの応用
  2.4. 粘土への金属錯体導入とその触媒能
  2.5. 粘土の脱重金属触媒利用
  2.6. 層間架橋粘土触媒
  2.7. 層間架橋粘土の触媒利用
  2.8. 層間架橋粘土の触媒担体利用
  2.9. 層間架橋粘土触媒による形状選択性反応
  2.10. 人工粘土の触媒作用
3.廃棄物の処分問題と粘土

1. はじめに
 粘土に触媒作用があることを初めて示したのはイギリスの化学者であるPriestleyといわれています。彼は18世紀後半に、アルコール蒸気を粘土に触れさせることで生じる気体が、白い炎を出して燃えることを発見しました。これはエチルアルコールが粘土により脱水素され、生じたエチレンが燃えるためです。粘土によりエチルアルコールの脱水素反応が進行するのは、粘土に酸点が存在することで説明できます。
 フランスのHoudryは、酸性白土を強酸で熱処理した活性白土が石油のクラッキング触媒として有効であることを見つけました。その後アメリカで実用化され、酸性白土として新潟県の蒲原粘土が用いられました。
 現在主に、スメクタイト系粘土(天然のモンモリロナイトや粒子の細かい合成サポナイトなど)が固体酸触媒として研究され利用されています。また、スメクタイト系粘土層間へ架橋剤を導入して表面積を大きくしたマイクロ多孔体(層間架橋粘土)や、その骨格内へ(触媒活性な)金属カチオンを埋め込んだ合成スメクタイトも触媒および触媒担体として用いられています。この章では粘土の触媒利用について述べます。

2. 粘土の酸触媒能
2.1. 粘土のイオン交換能と酸点発現
 モンモリロナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物の表面は負の電荷を持っていて、その電荷と反対符号を持つカチオンが層間に存在します。言い換えるとカチオンが粘土層と粘土層とをつなぎ合わせて層状構造をとっています。この吸着イオンは溶液中で異種カチオンと交換することができます。
 粘土鉱物の表面が帯電しているのは、その構造に由来します。スメクタイト系粘土鉱物において一枚の粘土層は、Si4+を4個の酸素原子が取り囲んだ[SiO4]四面体が二次元的に並んだ四面体シートと、Al3+またはMg2+を6個の酸素(あるいは水酸基)が取り囲んだ八面体が二次元的に連結した八面体シートが、四面体シート-八面体シート-四面体シートと並んでいるケイ酸塩(シリケート)層です。八面体シート中のカチオンが主にAl3+であるスメクタイト系粘土の場合、Al3+の一部がMg2+と置き換わっているため八面体シートが全体が負になり、結果的に層表面が負の電荷を持つことになります。八面体シート中のカチオンが主にMg2+である場合、一部がLi+などの一価のカチオンと置き換わっているため、スメクタイト層表面が負の電荷を持つことになります。負の電荷を持つシリケート層とシリケート層をつなぎ合わせるように層間にカチオンが存在します。このカチオンがH+の場合、その部分がブレンステッド酸点となり酸触媒能が発現します。またK+など他のカチオンが存在する場合、カチオンが層内の水分子の分極を引き起こしH+を放出しブレンステッド酸となります。また、シリケート端面の四面体シート末端では(本来4個の酸素と結合すべきであるが)3個の酸素原子にのみ囲まれているSi4+が存在する場合、その部分が電子受容体となりルイス酸点が形成されます。
 このようにスメクタイト系粘土には二種類の酸点が存在し、自身は酸触媒として機能することになります(粘土鉱物のイオン交換性については佐藤(2001)の章に詳しく記述されていますので参照してください)。

2.2. 粘土の酸触媒能
 上記のようにスメクタイト系粘土は酸性を有する固体であるため、固体酸として用いることができます。  固体の酸性質は強度(ブレンステッド酸点ではH+を与える能力)と量(酸点の数)から評価できます。酸処理したモンモリロナイトの酸強度はH0=-8.2〜-5.6で、90〜71%の硫酸水溶液の酸の強さに匹敵します。Houdryが用いたのはモンモリロナイトを主成分とベントナイトを硫酸や塩酸で熱処理した活性白土です。非常に強い固体酸性を持つため、クラッキング触媒として用いることができました。
 天然粘土鉱物のモンモリロナイトや合成粘土のサポナイトなどを酸触媒として利用する反応例を表1に示します。表1に示した反応は粘土を酸処理することで、その酸触媒能を高めることができます。組成等により酸量などが異なるため、天然の粘土ではその種類によって反応活性や選択性が変わることがあります。

2.3. 粘土触媒の酸機能を利用するファインケミカルへの応用
 スメクタイト系粘土をファインケミカルズ用の触媒として用いる研究も盛んになされています。有機合成では液体の強酸や超強酸を用いるのは得策ではありません。それらは腐食性と刺激臭を有することなどからその取り扱いに細心の注意を必要とすること、反応後に中和が必要となり操作が煩雑になるからです。これに対して固体酸では、手で触れることにより炎症が起こったりしませんし、反応後は濾過によって分別するだけ除去できる利点があります。
 Al3+やFe4+などの金属カチオンでイオン交換し、120℃で減圧乾燥し脱水処理したモンモリロナイトは層間がつぶれることなく、交換イオンの配位水が分極してH+を生じ強い固体酸性を示します。種々のカチオンでイオン交換したモンモリロナイトの強酸点には、カルボニル化合物が吸着することでカルボニル基が活性化され、種々の炭素−炭素結合形成反応に利用が可能です。応用例を表2に示します(泉(1994))。___-不飽和ケトンへの付加反応では選択性(1,2-付加と1,4-付加)が置換カチオン種によって制御できる特長を有します。またFreidel-Crafts反応アルキル化なども進行します。

2.4. 粘土への金属錯体導入とその触媒能
 スメクタイトのカチオン交換能を利用して触媒活性な金属錯体を導入することもできます。イオン交換により金属錯体を層間への固定化した粘土では、錯体が粘土シリケート層同士を架橋していることになります。イオン交換法でスメクタイト系粘土層間に導入したロジウム錯体を表3に示します。錯体の分子サイズに依存して層間が拡大していく様子がわかります(嶋津(2003))。
 金属錯体は様々な触媒作用を示しますが、溶液中で均一系触媒として用いると溶媒からの分離回収が問題になります。これに対して粘土層間に金属錯体を固定化した触媒では、錯体が溶出することなく、反応後の濾過回収により繰り返し使用が可能となります。表3に示されている[Rh((S)-BINAP)(COD)]+や[Rh(S)-DIOP](COD)]+をスメクタイト系粘土層間に担持した粘土は_-ケトエステル、_-ヒドロキシイソブタン酸エステルなどの不斉水素化に応用できます。

2.5. 粘土の脱重金属触媒利用
 粘土のカチオン交換能を利用して、重質油からの重金属除去が可能です。重質油に含まれるバナジウム等の重金属は、脱硫処理や改質処理で用いる触媒の劣化を引き起こします。カオリンなどの粘土で前処理することで、重質油から重金属を取り去ることができます。また飲料水からの金属除去として用いられています(北山(2004)の章に詳しく記述されていますので参照してください)。

2.6. 層間架橋粘土触媒
 イオン交換によりスメクタイト系粘土層間に多核金属水酸化物カチオンを導入することができます。その後余分な前駆体イオンを水洗して取り除き、多核金属水酸化物カチオン挿入粘土を焼成すると、脱水反応により多核金属水酸化物カチオンが酸化物となります。この酸化物は粘土の層と層とを結ぶ柱(ピラー)となります。酸化物であるピラーのサイズが層間距離となります。この層間に酸化物を有する多孔体は層間架橋粘土(ピラードクレー)と呼ばれています。層間架橋粘土の層間にはマイクロ細孔が存在する多孔体です。表面積も粘土の10数m2g-1に対して層間架橋粘土は数100 m2g-1にまで拡がります。
 アルミナ架橋粘土を例にして示します(図1)。アルミニウムイオンをアルカリ中で加熱処理するとKeggin構造を有する多核水酸化アルミニウムイオン[Al13O4(OH)24]7+となります。これを粘土を分散させた溶液に加え、粘土層間のカチオンとイオン交換させます。加熱処理するとアルミナ酸化物クラスターAl13Oxが粘土層間に形成され、表面積が500 m2g-1の多孔体になります。XRDではアルミナ架橋粘土での底面間隔が17_と測定されます。粘土の一層が9.6_であるので、約7〜8_のアルミナ微粒子が粘土の層間にあることになります。
 Al2O3以外にも種々の酸化物を架橋体にした粘土多孔体が作られています。異種金属の多核カチオンを用いると異種金属酸化物ピラーが得られます。表4に層間粘土架橋体の酸化物ピラーの種類と前駆体の例を示します(山中(1994))。
 最終的に得られる層間架橋粘土の細孔構造(表面積、細孔容積、底面間隔など)は、用いる粘土の種類とそのカチオン交換容量、前駆体カチオンの種類だけでなく、前駆体カチオンの調製条件(濃度、pH、温度など)、水と粘土の混合比、前駆体カチオンと粘土との混合条件(混合比、温度、時間など)、洗浄・乾燥・焼成条件などにも依存します。また粘土は層間への可逆的な水分子の挿入により膨潤性を有していますが、層間架橋粘土では安定な支柱が存在するので可逆性は無くなります。

2.7. 層間架橋粘土の触媒利用
 層間架橋粘土は熱的に安定なマイクロ多孔体です。特に金属酸化物ピラーが触媒活性点として機能する場合、層間架橋粘土はマイクロ領域にある層空間に微粒子(ピラー)が高分散担持された触媒とみなすことができます。例えば、Al2O3架橋粘土多孔体やCr2O3架橋粘土多孔体では、Al2O3やCr2O3ピラーが強い酸点となり、優れた酸触媒能を示します。また繰り返し導入により複数のピラーを導入した架橋粘土多孔体の調製により酸強度を変えることもできます。架橋体の持つ触媒作用により、層間架橋粘土多孔体は広い範囲で触媒として利用できます(表5)。

2.8. 層間架橋粘土の触媒担体利用
 層間架橋粘土は熱的に安定な多孔体であり触媒担体としても用いることができます。金属微粒子を担持した触媒反応例を表6に示します。
 担持金属微粒子と架橋体との複合効果によりピラーの高機能化も可能です。例えば、Al2O3架橋粘土にPtを担持することで、そのクラッキング能を高めることができます。TiO2とV2O5の組み合わせは一酸化窒素の還元反応に高活性を示しますが、TiO2架橋体にV2O5を担持することで粘土層間に高分散のNOの還元サイトを導入することができます。また、軽油中に含まれるチオフェンやジベンゾチオフェンなどの含硫黄芳香族化合物を低減する深度脱硫触媒として、Al2O3にNiとMoの複合硫化物担持した触媒が有効であることが知られています。Al2O3架橋粘土にNiとMoの複合硫化物を担持すると脱硫に高活性な組合わせを持った活性種(Ni-Mo-S相)を粘土層間に形成することができます。

2.9. 層間架橋粘土触媒による形状選択性反応
 多孔体触媒の細孔と分子形状の幾何学的関係により、触媒反応の速度や選択性が変化することがあります。特定の分子の拡散や特定の反応の進行がこの立体的因子によって阻害されることで発現する反応の選択性を形状選択性といいます。均一な細孔を持つゼオライトでは形状選択性に関する報告が多数あります。粘土および層間架橋粘土は層間距離が均一ではありませんが、形状選択性を発現させることができます(辰巳(1994))。
 ルテニウム金属微粒子をスメクタイト粘土層間に担持触媒を用いて種々のオレフィンの水素化反応を行うと反応速度は、エチレン > プロピレン > 1-ブテン > i-ブテン > 1-ペンテン > シクロヘキセンの順で減少します。シリカ担持ルテニウム触媒との活性の比較から、層間による立体障害により形状選択性が発現していることがわかります。
 オレフィン水素化に活性なロジウムカチオン錯体Rh(PPh3)3+をイオン交換により粘土層間に担持した触媒を用いてアルキンの水素化反応を行うと、反応速度は1-ヘキシン ≒ 2-ヘキシン > 3-ヘキシン >> ジフェニルアセチレンの順に減少します。この傾向は同じ錯体を用いた均一系の触媒反応においても観測されます。架橋粘土触媒を用いた場合、層間に担持されているRh(PPh3)3+に対してアルキン分子がその三重結合を(粘土層に対して)垂直に配位することで反応が進行するため、水素化反応の活性序列がより顕著に現れます。

2.10. 人工粘土の触媒作用
 水ガラスと2価の金属塩化物を出発原料として、水熱法により、シリケート層の八面体シート内に触媒活性な化学種を有するスメクタイト系粘土を合成することができます(鳥居(1996))。天然の粘土では組成が一定でなかったり、不純物の混入などにより触媒作用の産出地依存性が見られる場合があります。これに対して合成粘土では組成が均一であることに利点があります。また、合成スメクタイトではシリケートの結晶サイズが小さく、マイクロ〜メソ領域の細孔を持つ多孔体(表面積>数百m2g-1)となります。また天然のスメクタイトに比較して層の積層が余り発達しておらず、シリケート端面が多く露出しており、それらが種々の触媒作用を示します(表7)。特に四面体構造のシリカに挟まれている構造により(シリカ表面上に担持されているカチオンとは異なった)特異的な触媒作用を示します(荒井(1999))。

 合成スメクタイトはイオン交換サイトを有しており(天然スメクタイトと同様に)イオン交換と水素還元により、スメクタイトと細孔内に種々の貴金属を担持することができ、それらを触媒として用いることができます(表8)。貴金属微粒子は八面体シートのカチオンと相互作用して特異的な触媒作用を示します。

3. まとめ
 本稿では粘土を触媒自身および触媒担体として利用する研究について紹介しました。粘土の特徴はその膨潤性と(膨潤性を利用することで)層間距離を制御できることにあります。しかし粘土の触媒としての利用は未だ十分とはいえません。架橋体の構造や架橋体の配置などの精密な制御により、形状選択性等を更に高機能化させることができます。調製技術と共に、粘土の触媒利用は更に発展するものと思います。

参考文献
佐藤努(2001)粘土科学, 41, 26.
泉有亮,卜部和夫,尾中篤(1994)季刊化学総説「マイクロポーラス・クリスタル」 21, 113.
嶋津省吾(2003)SMECTITE, 13, 25.
北山淑江(2001)粘土科学, 43, 23.
山中昭司(1994)季刊化学総説「マイクロポーラス・クリスタル」 21, 39.
辰巳敬(1994)季刊化学総説「マイクロポーラス・クリスタル」 21, 100.
鳥居一雄(1996)粘土科学, 36, 119.
荒井正彦,白井誠之(1999)表面, 37, 21.