田村堅志
物質・材料研究機構 光触媒材料センター
〒305-0044 茨城県つくば市並木1-1
| 1.はじめに 2.製造方法 3.評価方法 4.層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットの特徴 5.層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットの実例 6.今後の展望 |
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地球表層に多く存在する粘土鉱物,カオリン鉱物,雲母鉱物などの層状ケイ酸塩は,有史以来,陶磁器,耐火物,鋳物,土木建築,石油精製(触媒),紙,化粧品およびプラスチックの充填剤などの幅広い分野で利用されてきました.プラスチックに層状ケイ酸塩を充填する主な目的としてはコスト低減,物性改善,機能付与,加工性改善などがあげられます.かつて増量からはじまったフィラーの役割は,ポリマーの品質や信頼性を向上するなどその役割も多様化してきています.特に近年,層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットの出現で,スメクタイトなどの層状ケイ酸塩がプラスチック複合材料の強化剤として脚光を浴びてきています.本稿では,層状ケイ酸塩がキーマテリアルとなっているプラスチック複合材料,層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットについて述べたいと思います.
粘土鉱物のひとつであるスメクタイトは,異方性の大きな二次元空間を有すること,膨潤性やイオン交換能を有することなどの特徴をもつため,20世紀末になって有機物質とのナノメートルレベルの複合化が検討されはじめました.ポリマーとの複合化においては,従来,タルク,カオリンそしてマイカなど他の層状ケイ酸塩がフィラーとして使われてきています.層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットは,ポリマーマトリックス中に層状ケイ酸塩がナノメートルレベルのサイズ(層の厚みがナノメートルレベル)で分散制御されている複合材料のことです.この層状ケイ酸塩には膨潤性やイオン交換能を有するスメクタイトや膨潤性フッ素マイカなどが一般に用いられています.この層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットは,従来の複合材料と比べると層状ケイ酸塩の添加量が数wt%と極めて少ないのですが,材料の性能を飛躍的に向上させるので多くの分野から注目されています2).
層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットは,様々なモルフォロジー(層状ケイ酸塩の分散状態)をとるとされていますが,大きく分けると2つのタイプに分類することができます.すなわち,ポリマー鎖が層状ケイ酸塩の層間に挿入(インターカレート)して層が数ナノメートルの間隔で積層(繰り返しユニットを形成)している挿入型ナノコンポジットと,層状ケイ酸塩層が単層剥離してマトリックスポリマー中に均一に分散した剥離型ナノコンポジットとがあります(図1a) .剥離型ナノコンポジットでは,層剥離によって高いアスペクト比のナノシートがポリマー中に分散し(図1b),それによる様々な材料物性の向上と新たな機能の発現が確認されています.
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図1 層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットのモルフォロジー(a)と層状ケイ酸塩粒子の形状変化 (b) |
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層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットの代表的な製造方法には,膨潤状態の層状ケイ酸塩の存在下でモノマーを重合する重合法と,ポリマーをダイレクトに層間に挿入するインターカレーション法とがあります(図2).例えば,重合法では,12-アミノドデカン酸のアンモニウム塩をインターカレート(挿入)した有機修飾モンモリロナイトの層間でポリアミド6(PA6)の原料であるε-カプロラクタムを開環重合させることで剥離型PA6/モンモリロナイトナノコンポジットが得られます.このナノコンポジットはマトリックスPA6中に厚さ約1nmのモンモリロナイト層が10nm以上の間隔を隔てて分散した構造を有します.また,塩化アジポイル含有のトルエン相と1,6-ジアミノヘキサン含有の水相の界面重合反応下においても,スメクタイトを共存させることでポリアミド66(PA66)/スメクタイトナノコンポジットが合成されています.
一方,インターカレーション法としては,押出機などを利用した溶融混練法やポリマーと層状ケイ酸塩双方に親和性の溶媒を使う溶媒法などが挙げられます.溶融混練法では,層状ケイ酸塩とポリマーの種類,層状ケイ酸塩の有機修飾剤,そして混練条件などを適切に選択することによって,剥離型ナノコンポジットが製造できます.また,粘土スラリー(粘土を水に分散したもの)を押出機の途中から注入し,膨潤状態にある粘土を旨く溶融ポリマーと複合化することで剥離型ナノコンポジットを製造することも可能です.押出機を用いた溶融混練法は重合法ではアプローチの難しいポリマー系に適用できること,連続製造が可能でコスト的に優位であることなどが魅力であり,この方法による材料開発が活発化しています.
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| 図2 層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットの製造プロセス | ||||
ナノコンポジットの物性は層状ケイ酸塩の層剥離の度合いに大きく影響を受けるので分散状態の評価が非常に重要です.層状ケイ酸塩の分散状態は,X線回折(XRD)測定および透過型電子顕微鏡(TEM)観察などによって評価することができます.XRD測定ではポリマー中に分散している層状ケイ酸塩の底面間隔の変化で膨潤あるいは剥離の様子が観測できます.山形産モンモリロナイト(MMT)をドデシルアミン(C12)で有機修飾した層間化合物(C12-MMT)を調製し,二軸ニーダーを使ってPA6と溶融混練してナノコンポジットの調製を試みました.図3にC12-MMTとC12-MMT/PA6ナノコンポジット(MMT;2.5, 5 wt%)のXRDパターンを示します.C12-MMT粉末の底面間隔はd =1.7nmを示しています.PA6との複合化によってC12-MMTは層剥離が進行し,底面反射のピークは観測されなくなります.同時に低角度側には非晶質成分の増加を示唆するようなハローパターンが現れます.これは層状化合物が溶液中で1層まで剥離分散したときと類似した回折パターンです.このときの低角度側の散乱強度は,ケイ酸塩添加量の増加に伴って強くなります.これはポリマーよりも高い電子分布密度を有するケイ酸塩の単層ナノシートが増量していることに起因しています.
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| 図3 C12-MMTおよびC12-MMT/PA6ナノコンポジットのXRDパターン: (a) C12-MMT,(b) C12-MMT(2.5 wt%)/PA6ナノコンポジット,(c) C12-MMT(5.0 wt%)/PA6ナノコンポジット. ●:PA6 | ||||
ナノコンポジット中の層状ケイ酸塩の分散状態はTEM観察によって更に明確に確認することができます.TEM観察試料は,試料からウルトラミクロトームなどを使って超薄切片を調整し,TEM試料台(マイクログリッド)上にのせたものを観察します.図4aに前述のC12-MMT/PA6ナノコンポジット(MMT;5 wt%)のTEM観察像を示しました.分散しているMMTの層断面方向から観察したものです.分散しているMMT粒子は,厚みがほぼ1nmであり,それぞれ10nm以上の間隔を隔てて均一に分散しています.
ところでナノコンポジットの優れた物性は,何によって発現するものなのでしょうか?いろいろな議論のある中で,分散しているケイ酸塩粒子のアスペクト比(長さ/厚さの比)の大きさが一つの要因として挙げられています.古くからフィラー充填系複合材料の弾性率については,フィラーの形状因子との関係について多くの経験則が提案されていますが,Halpin-Tsaiの式が板状フィラー充填系の弾性率を示すのに最もよく適合するといわれています.Halpin-Tsai式では板状フィラーをディスク状粒子として取り扱い,その形状因子としてアスペクト比を導入しています.その複合材料のフィラー充填方向の弾性率は,次式 (1), (2)
E’= Ec /Em = (1+2(l/t)ηφf ) / 1-ηφf (1)
η = { Ef / Em -1} / { Ef / Em +2(l/t)} (2)
E’:相対弾性率,Ec : 複合体弾性率,Em : ポリマー弾性率,Ef : フィラー弾性率,
φf : フィラー体積分率, l : フィラー長さ,t : フィラー厚さ,l/t : アスペクト比
で表されます.以下の条件下において,上記の式に従い複合系の弾性率はフィラーのアスペクト比と添加量の増加に伴って増加します.
1) 分散粒子は形態,サイズ共に均一な状態で等方的にポリマー中に分散している.
2) ポリマーマトリックス中の粒子−粒子間相互作用がない.
3) 複合後のポリマー,フィラーそれぞれの性質は単体時と等しい.
Fornesらは,これらの古典的な複合理論とナノコンポジット物性との関係について調べており,PA6/モンモリロナイトナノコンポジット系においてHalpin-Tsai式とのよい一致を報告しています.ナノコンポジットの場合,アスペクト比は層剥離の程度によって大きく変化します.その際,できるだけ正確にケイ酸塩粒子のアスペクト比を知ることが重要になります.Fornesらは,TEM像を2値価処理して,その画像データから分散粒子の長さと厚さを計測し,ナノコンポジット中の分散粒子の平均アスペクト比を見積っています.TEMで観察される微視的なイメージにとらわれると全体像を見誤ることがあるので,統計的なデータ解析によってその組織構造に関する情報をできるだけ正確に把握することが重要です.図4bに図4aのTEM像を2値化処理した画像データを示しました.ここではMMTの厚みは平均値で1.2nmであり,ほぼ単層剥離しているといえます.解析の結果,平均アスペクト比は76と見積もられ,Fornesらが報告している結果とほぼ一致しました.
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図4 モンモリロナイト層の分散状態 |
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層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットは,層状ケイ酸塩の添加量が少なくても(非強化ポリマーとほぼ同程度の比重で)タルクやマイカを充填しただけの従来型複合材料にはみられない優れた性質を示します.以下にナノコンポジットの代表的な特徴について紹介します.
4.1 機械的特性
層状ケイ酸塩の層剥離が進むとナノコンポジットの引張強さ,弾性率,荷重たわみ温度(Heat Distortion Temperature : HDT)などが際立って向上します.HDTはプラスチック試験片に一定荷重をかけて,一定速度で昇温させたときに所定の変形を示す温度のことで,この温度が高くなるほど耐熱性に優れた材料であるとみなされます.重合法で合成されたPA6/モンモリロナイトナノコンポジット(3wt%添加系)は非強化型PA6の曲げ弾性率のおよそ2倍,HDTもおよそ70℃以上の向上を示すことが報告されています.一方で引張伸びや耐衝撃強度は低下する傾向を示します.
有機修飾した合成フッ素マイカ(OFM)と合成フッ素ヘクトライト(OHT)をそれぞれPA6と溶融混練法で複合化し,その機械的性質の違いについて調べました.図5は曲げ弾性率とHDTの関係を示しています.PA6単体と比較するとPA6/OFHT,PA6/OFMどちらもケイ酸塩添加量に応じた右肩上がりの物性向上を示しています.特にOFM複合系については,OHT複合系と比べて際立った物性向上を示します.この剛性,耐熱性への寄与の違いは,図6に示したTEM像にみられるようにOFMがOHTに比べて二次元的に大きな結晶であることに起因しており,剥離によって分散している粒子のアスペクト比に著しい差が生じたためであると考えられます.
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図5 溶融混練で調製したPA6ナノコンポジットの曲げ弾性率と荷重たわみ温度の関係 |
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| 図6 PA6系ナノコンポジットのTEM像:(a) PA6/OHT(5wt%),(b) PA6/OFM(5wt%) | |||||||
また,溶融混練により調製したPA66/OFM(30wt%)の高濃度複合ペレット(マスターバッチ)をPA66ペレットと任意の配合比で混合して,射出成形により異なるケイ酸塩濃度のナノコンポジット試験片を作成しました.そして,これらのナノコンポジットとガラス繊維(GF)強化PA66の曲げ弾性率と比重の関係について比較しました(図7).PA66/OFMナノコンポジットはPA66/GF系と比較すると,軽くて,高い剛性(高比弾性率)を示すことがわかります.
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図7 PA66ナノコンポジット30%MBのドライブレンド希釈による射出成形材料の比重と曲げ弾性率の関係 PA66-GF強化系との比較 |
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4.2 寸法安定性
ナノコンポジットは,成形収縮率が小さく,異方性が少ないので寸法安定性に優れています.また,熱膨張係数の減少も大きな特徴であり,寸法精度が要求されるような精密部品への応用が期待できます.また,GF強化系ポリマーは,自動車,電気・電子分野など耐熱性の要求される分野で広く利用されていますが,GFの複雑な配向によって冷却時の収縮率に異方性が生じ,ソリが発生することが多くあります.GF強化系にナノコンポジットを混ぜるとGFの配向がランダムになり,発生するソリを改善することができます(図8).
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図8 射出成形平板(100×100×2mmt)のそり変形:(a) PA66 / GF(15wt%),(b)PA66 / GF(15wt%) / O-FM(2wt%) |
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4.3 摩擦摩耗特性
機械は,歯車,軸受,ネジ,バネなどの多くの要素に支えられて稼動しています.機械要素の摺動特性の向上はエネルギーロスの削減にも繋がるので,近年,より注目を集めています.プラスチック複合材料においても摺動特性向上の材料開発が盛んですが,ポリマーナノコンポジット系では,シリカ/フェノール樹脂ナノコンポジットなどで摩擦係数の低下が確認されています.そして層状ケイ酸塩系/ポリマーナノコンポジットにおいても摺動特性が改善され,非強化グレードに比べ,限界PV値1)が著しく改良されることが報告されています.軸受などの摺動部品などへの応用では,信頼性,耐久性が求められることから,今後ナノコンポジットのトライボロジー(tribology:摩擦・摩耗・潤滑)に関する研究は極めて重要な分野です.
4.4 ガス透過性
ポリマーのガス透過性は,気体がポリマー内に溶解し,拡散・透過することに関係しています.層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットにおいては高いアスペクト比をもつ分散粒子が障害物効果を示すといわれています(図9).マトリックス中に粒子が存在することにより拡散経路が長くなり,拡散に有効な断面積が小さくなるため,マクロな透過性が低下します.このようなガスバリア性の向上をNielsenらは相対ガス透過度P’として次に記す近似式で表しています.
P’= Pc / Pp = φp / 1+(l/2t)φf (3)
ここで複合材料のガス透過度をPc,ポリマーのガス透過度をPp,ポリマー体積分率をφp,フィラー体積分率をφf ,フィラーの長さを l,そして,フィラーの厚さをtで表します.
これによると添加したフィラーのアスペクト比が大きいほど,また体積分率が多いほど複合系のガス透過度は減少することになります.具体的に厚みが30μmのPA6/モンモリロナイトナノコンポジットフィルムでは,モンモリロナイト添加量が僅か2wt%で酸素透過度(23℃)はおよそ半分に減少することが報告されています.このバリヤ性の向上はPA系のみならず様々なポリマー系で検討されており,多くの包装材料や工業材料への応用が期待されています.
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| 図9 ナノコンポジットフィルムのガス透過行路長の模式図 | ||||
4.5 難燃性
プラスチックには火災を防ぐために高い難燃性が求められている分野があります.従来は,比較的少量(〜数十wt%のレベル)でも高い難燃性を発揮し,プラスチック本来の特性を損なわない臭化物などのハロゲン系難燃剤などが使用されてきました.しかし,ハロゲン系難燃剤は燃焼時に有毒物質を発生する危険性があり,問題視されています.また,環境に対する関心の高まりも手伝ってノンハロゲン系の難燃プラスチックの研究開発が活発になっています.様々なノンハロゲン難燃化技術が提案されていますが,決め手になるようなものはまだ見つかっていません.その様な状況下でナノメートルサイズの微粒子分散系の難燃技術が注目されています.
燃焼現象は,以下の素過程のサイクルによって継続されます(図10).
?酸化反応によって発生する熱源により材料が加熱される.
? 熱がポリマー内部に伝熱しポリマーが分解を起こす.
? 分解して生成した可燃性ガスが気相に拡散する.
? 材料表面より少し離れた気相中で酸化反応を起こす.
難燃化はこれらのいずれかの過程を遮断してやればよいわけです.例えば,ハロゲン系の難燃剤は気相中での酸化反応を抑制する作用,すなわち?の過程を遮断する効果があります.
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| 図10 燃焼のサイクル | ||||
層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットの場合は,ナノ粒子の作用によってポリマー表面に遮蔽膜が形成され,分解物の拡散,および熱・酸素の遮蔽効果,即ち?の過程を遮断することで材料を燃えにくくするといわれています.その挙動は,コーンカロリメータによって顕著に観察することができます.コーンカロリメータは試験体に円錐型(コーン)の電気ヒータで輻射加熱しながら電気スパークで着火することにより,試験体の燃焼時間,燃焼熱量(カロリー),そして熱速度を計測する試験装置です.ナノコンポジットの燃焼時の発熱速度はポリマー単体と比較すると著しく低下します.この難燃効果は,僅か数%のナノ粒子によるものであり,従来の難燃剤を多量に添加する手法とは大きく異なる難燃手法といえます.しかし,難燃剤の添加量を減らして環境に配慮したとしても実用段階では実質的な難燃性が要求されます.また,用途によって求められる難燃性レベルは異なり,試験方法もそれぞれ違っています.例えば,電子機器(動作電圧が100V以上)に使用されるプラスチック部品には,UL-94規格2)に基づいた難燃性が要求されています.ナノコンポジット単独(他の難燃剤を併用しない)ではUL試験に合格することは困難といわれており,今後の重要な研究課題になっています.
4.6 成形加工性
フィラー充填系の射出成形では,一般にフィラーの充填量の増加に伴って流動性は低下します.流動性の低下は,射出成形製品では未充填製品の発生の原因になります.ナノコンポジットは,射出成形と同じくらいの高せん断速度領域になると非強化系ポリマーとほぼ同レベルの流動性を示すため成形性が損なわれることはありません.従って,ナノコンポジットは射出形成分野ではその高い弾性率を活かして,部品の薄肉化を図ることが可能です.薄肉成形性の向上は省資源化にも繋がります.また,金型内での結晶化速度が核剤的効果により速くなり,しかも成形品は低収縮率,低ソリ性に優れているので,成形サイクルの大幅な短縮が可能になります.
4.7 リサイクル性
廃製品を成形加工によりリサイクル(再び溶融して別の製品などに成形)するときナノコンポジットのリサイクル性は一つの特徴あるパフォーマンスとなります.繊維状フィラー充填複合材料の場合,リサイクル成形することで繊維状フィラーは破壊され,短くなっていくので物性は著しく低下します.しかし,ナノコンポジットの場合,押出機で数回混練するなどの加工履歴(100%リサイクル)を加えても,物性低下を示しません.
以下に代表的なナノコンポジットについて紹介します.
5.1 ポリアミド(PA)
層剥離型ナノコンポジットとしては,PA系ナノコンポジットの工業化が早く,1990年代になって豊田中央研究所のグループによってPA6/モンモリロナイトナノコンポジットが実用化されました(ナイロン6クレイハイブリッド:NCHと呼ばれています). PA系では続いてPA6/膨潤性フッ素マイカ, PA66/膨潤性フッ素マイカ系が実用化され,更にPA12, PA-MXD6など多岐に渡るPA樹脂3)に波及して,機械的特性,バリア性,難燃性などに優れたPAナノコンポジットが提案されています.
5.2 ポリオレフィン(PO)
ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)をベースポリマーとするナノコンポジットの研究も盛んに行われています.例えばPP系ナノコンポジットは自動車分野への応用が期待されています.非極性ポリマーであるPPに層状ケイ酸塩を層剥離させて複合化することは通常は困難とされています.そこで,例えばPPに反応性モノマーをグラフト(graft)して有機修飾ケイ酸塩との親和性を向上させる方法が用いられます.代表的な変性PPとしては,無水マレイン酸(MAH)やグリシジルメタクリレート(GMA)変性のPPなどが挙げられます.自動車分野では剛性と耐衝撃性などの物性バランスが要求されるので,ゴム成分なども含めたモルフォロジー制御が重要になっています.また,リサイクル可能なオレフィン系エラストマー(thermoplastic olefin elastomer :TPO)でも層状ケイ酸塩/TPOナノコンポジットの研究開発が進められています.
5.3 ポリ乳酸(PLA)
ポリ乳酸(PLA)は生分解性ポリマーとして広く知られているだけでなく,化石燃料を原料としないバイオマスプラスチックとしても注目されています.PLAはポリエチレンテレフタレートに近い機械的強度を有し,透明性にも優れていますが,PLA単体ではその脆性や耐熱性不足などの性能面で抱えている課題も多くあります.また,結晶化速度が遅いため成形サイクルが長くなるという欠点もあります.PLAの応用展開を図るためにはこれらの課題を克服していくことが必要であり,その一つの手段としてPLAナノコンポジットの検討が進められています.PLAの場合,水酸基を有する有機修飾剤をインターカレートした層状ケイ酸塩がマトリックスへの分散性を良好にする傾向があり,剥離型PLAナノコンポジットを得ることもできます.
5.4 エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は,その硬化物が,接着性,耐湿性,機械的強度,そして電気絶縁性に優れていることから,封止材をはじめとする実装材料や接着剤などに広く使われているポリマーであり,その種類も豊富です.層状ケイ酸塩/エポキシナノコンポジットとしては,早くからその成功が知られていましたが,1990年代はじめになって多くの基礎的な研究が報告されるようになりました.基礎研究には,グリシジルエーテルビスフェノールA型エポキシが使われる例が多いようですが,一緒に使う硬化剤の種類や硬化条件によって,分散粒子の層剥離性は敏感に影響を受けます.
実装材料の分野でエポキシ樹脂にフィラーを充填する一番の目的は材料の低膨張率化です.そのため,従来技術ではフィラーが必然的に高充填化されることとなり,材料の流動性を損なうので成形の点で不利になります.いろいろな実装材料において,低い添加量で大きな効果があげられるナノコンポジットは期待されており,今後この分野で実用化されるものも増えてくると考えられます.
以上,代表的なポリマーについて簡単に紹介しましたが,それ以外にポリスチレン,ポリエステル,エラストマー,吸水性ポリマー,ポリイミド,フェノール系,そして光硬化系ポリマーなど検討されているポリマーは益々多品種に拡大しています.
5.5 その他の無機層状物質/ポリマーナノコンポジット
これまで紹介してきた層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットには,膨潤性の層状ケイ酸塩,主にスメクタイトや膨潤性合成フッ素マイカなどが使用されています.しかし,それ以外に多くの無機層状物質があり,その特色を活かしたナノコンポジットの研究も試みられていいます.例えば,カオリナイト,セリサイト,フッ素フロゴパイトなどの非膨潤性の層状ケイ酸塩,そして層状複水酸化物(LDH)や層状チタン酸塩など類似の層状物質のナノコンポジットなどが検討されています.
6.今後の展望
高分子材料の分野では付加価値の高いプラスチック製品ほど複合材料に依存しています.高比弾性,高比強度のナノコンポジット開発が進む一方で,市場ニーズの多様化により要求される性能はますます高度化しています.これらの社会ニーズに応えるために物質,材料,合成法および加工プロセスなど各方面からの研究開発が進められています.また,新しい機能の発見も多様なポリマーとの組み合わせの中で明らかになってきています.
実用化されているナノコンポジットの多くは層状ケイ酸塩が1層レベルで剥離している剥離型ナノコンポジットが多いようです.それは,飛躍的な性能の向上が示されているからです.しかし,実用化のレベルになると完全に層剥離したナノコンポジットであっても,性能が不十分で従来の高充填系複合材料に頼らざるをえないケースも多々あります.例えば,剥離型ナノコンポジットは高比強度,高比剛性を有しますが,衝撃に対しては弱く(脆性であり),実用段階で大きな問題になるため,低コストで優れた耐衝撃強度も有するGF強化系が用いられるケースが多くあります.これに対しては靭性の大きな材料との組み合わせたナノコンポジットが考えられますが,双方の優れた性質をトレードオフしてしまわないような界面設計や最適なハイブリッド構造の構築が必要になってくると思います.今後,多方面からの研究が進んで,耐久性,信頼性,安全性の面でも満足できる層状ケイ酸塩/ポリマーナノコンポジットが次々に開発されることが期待されます.
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注
1)限界PV値:限界PV値とはすべり試験において,すべり性能を維持できなくなる限界の圧力(P)と速度(V)の積の値のことです.限界PV値が高いほど,すべり性能に優れた材料と言えます.
2)UL-94規格:米Underwriters Laboratories Inc.が定めたプラスチックス材料の燃焼試験に関する安全性基準の1つです.UL-94には,垂直試験と水平試験の2つがあり,難燃性のランクは燃えにくい方から,5V,V-0,V-1,V-2,HBに分かれています.UL試験では一般に試料の厚みが薄くなると,試験に合格するのは難しくなるといわれています.
3)PA樹脂:ポリアミド(PA)はアミド結合(−NH−CO−)を含む高分子です.PAにはωアミノ酸の重縮合反応で合成される「m−ポリアミド」と,ジアミンとジカルボン酸の共縮重合反応で合成される「m,n−ポリアミド」とがあります.いずれも名称中のmまたはn部分の数字はモノマー成分の炭素数に由来する数字です.例えば, 「m-ポリアミド 」としては,PA6(ナイロン6);ε−カプロラクタム(炭素数6),PA12(ナイロン12);ラウリルラクタム(炭素数12)などがあり,「m,n−ポリアミド」としては,PA66(ナイロン66);ヘキサメチレンジアミン(炭素数6)とアジピン酸(炭素数6),PA610(ナイロン610);ヘキサメチレンジアミン(炭素数6)とセバシン酸(炭素数10)などがあります.PA-MXD6はメタキシリレンジアミン(MXDA)とアジピン酸(炭素数6)の共重合体です.