25. 層状複水酸化物のインターカレーション特性とその利用

成田榮一
岩手大学大学院工学研究科 フロンティア材料機能工学専攻
〒020-8551 岩手県盛岡市上田4-3-5



1.はじめに
2.LDHの構造と合成
3.LDHの熱分解
4.インターカレーション(取り込み)方法
5.陰イオンおよび分子のインターカレーション(取り込み)
6.その他のインターカレーション(取り込み)
7.おわりに


1.はじめに

 層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide; 以下,LDHと表記します)は粘土鉱物の一種に分類され,陰イオン交換能をもつことから陰イオン性粘土やanionic clayとも呼ばれています.天然には産出量は少ないものの,表1に示すように幾つかの種類が存在しています1).その代表的なものがMg 6 Al 2(OH)16 CO 3・4H 2Oの化学組成をもつハイドロタルサイト(Hydrotalcite)であることから,この種の化合物はハイドロタルサイト様化合物とも呼ばれています.本講座では先に日比野による“ハイドロタルサイトの合成と利用”という解説2)がなされており,扱っている対象物質はこれと同じものです.最近は多くの種類の類似化合物が合成されているところから,ここではより一般的な名称としてLDHを使い,内容的に先の解説と大きく重複しないように,LDHのインターカレーション(取り込み)特性とその利用を中心に述べることにします.

 LDHの研究は,1940年代にFrondel3)やFeitknechtら4)によって始まり,その構造は1960年代に明らかにされました5-8).LDHは通常の粘土に比較すると産出量が少なく,合成が簡単であるため,その利用においては通常合成品が用いられます.日本では1960年代後半から宮田ら9-11)によってLDHの合成,特性および利用に関する基礎研究が進められ,さらに工業化に成功して現在に至っています.工業品はおもにMg-Al系炭酸型LDHであり,C,O,Al,Mgのような自然の物質循環系に取り込まれやすく,人体にも安全な成分から構成されています.LDHの工業生産は,歴史的には製塩業において副生するニガリの高度活用から始まっているようです.これまで数多くのLDH研究が行われており,これらを基に実用面では,酸中和能から医薬用制酸剤,陰イオン交換能から陰イオン交換体や高分子材料のハロゲン捕捉剤,ブルーサイト(Brucite; Mg(OH)2)様基本層の難燃性からポリ塩化ビニルの熱安定剤などに用いられています.これらに関しては,幾つかの書籍,総説,解説などがあります12-22).また,最近はこのLDHの生体親和性ならびに環境低負荷性に着目し,機能性有機分子のコンテナー剤や医薬成分のベクター剤・デリバリー剤,環境浄化剤,高分子充填材,無機-有機ナノ複合体の出発原料などに用いる研究が急増し,注目が高まっています.

 ここでは,まずLDHのインターカレーション特性を理解してもらうために必要なLDHの構造,合成,熱分解ならびにインターカレーション方法の基本について述べ,その後にLDH層間へ各種無機および有機陰イオンや有機分子,生体関連物質を取り込んだ利用について,最近の報告例を示して解説することにします(以下,引用文献は図表に関係するものだけにします).

2.LDHの構造と合成

 LDHは,図1に示すようにブルーサイトに類似した水酸化物の正八面体基本層および陰イオンと層間水から構成される中間層が交互に積層した構造をもっています.したがって,水酸化物基本層の厚さは約0.5 nmであり,正四面体シリケート層と正八面体水酸化物層の二層または三層構造をもつ陽イオン性粘土の基本層に比べて薄く柔軟です.一例として,Zn-Al系のLDH粒子のAFM写真を図2に示します.

また,LDHは以下のように表される一般式をもつ不定比化合物です.

          [M2+1-xM3+x(OH)2][An-x/n・yH2O]

            基本層   中間層

ここで,M2+はMg,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znなどの二価金属イオン,M3+はAl,Cr,Fe,Co,Inなどの三価金属イオンです.水酸化物基本層は二価金属イオンの一部を三価金属イオンが置換(固溶)することにより正電荷をもち,その電荷を補うために中間層へ陰イオンを取り込んで電気的中性を保っています.また,中間層の残りの空間は親水性が高いため,乾燥条件に応じた量の水分子を含んでいます.この中間層の陰イオンはCl-,NO3-,CO32-,カルボン酸などのn価の陰イオンであり,種類によっては交換が可能です.水酸化物基本層中の三価金属イオンは,二価金属イオンを最大モル比M2+:M3+=2:1まで置換することができ,その置換量により基本層の正電荷量,すなわち陰イオン交換容量が決まります.本講座ではLDHのインターカレーション特性について述べるので,その特色を陽イオン性粘土と比較して表2に示します.なお,LDHの構造と特性についてほかに詳しい総説や解説11-22)があるので,ここでは省略します.

 天然LDHの種類についてみると,表1に示すように,構造的には菱面体晶構造のものと六方晶構造のものがあり,一般に前者のLDHが多いようです.陰イオンとしては,自然界に普遍に存在するCO32-,OH-,Cl-,SO42-,SiO44-などで種類は多くありません.

 LDHは通常の無機塩原料から簡便な操作と温和な条件で合成できることが大きな特徴であり,二価金属イオン,三価金属イオンおよび陰イオンの組み合わせが多様で多くの種類のLDHが合成されています.一般にLDHの構成金属イオンは,二価金属イオンとしてMg,Zn,Ca,三価金属イオンとしてAl,Crがこれまで多く用いられてきましたが,最近は二価金属イオンとしてFe,Cu,Ni,Co,Cd,Mn,三価金属イオンとしてFe、V、In、Mnを用いた報告もあります.また,鉄腐食における中間生成物の“グリーンラスト”として知られているFe2+-Fe3+ 系LDHについても研究が増えています.さらにはM2+-M4+系も知られており,三価金属イオンの一部あるいはすべてを四価金属イオンに置換したMg-Al-Zr4+系やZn-Ti4+系の報告があります.このほかにM+-M3+系のLi-Al系も合成され,高分子シートの充填材などに利用されています.

 具体的なLDHの合成は,まず所定の濃度とモル比で二価金属イオンと三価金属イオンを含む混合水溶液を調製し,これをゲスト陰イオン含有含水溶液にpH調整しながら滴下し,金属イオンを加水分解することによって行います.また,FeやMnでは二価金属イオンの一部を三価金属イオンに酸化しながら加水分解することもあります.加水分解の際に,pH,温度,金属イオン水溶液の滴下速度,熟成時間などが生成LDHの粒子径,粒度分布,結晶性などに影響を与えます.二種類以上の金属イオンが加水分解するので,一般に単一金属水酸化物より細かい長径数十〜数百nmの板状粒子が生成します.また,二価金属水酸化物ゲルと三価金属水酸化物ゲルをあらかじめ調製し,これを所定のモル比で混合した後,加熱熟成することによって合成する方法もあります.

 さらに,LDHの構造や反応性について詳しい検討を行うために大きなLDH粒子を合成する試みも行われています.これには尿素を沈殿剤とする均一沈殿法の手法が用いられ,長径数μmの比較的大きなMg-Al系,Zn-Al系,Ni-Al系およびLi-Al系の炭酸型LDH粒子が得られています.これらの生成過程では初期と後期で沈殿の化学組成が異なっているため,厳密には均一沈殿法とはいえませんが,結晶核の発生が抑えられるので,比較的大きな粒子が得られます.また,水熱条件下で尿素やヘキサメチレンジアミンを沈殿剤として用いる合成も行われ,粒子径2〜30μmの高結晶性Mg-Al系炭酸型LDH粒子(以下,CO3/Mg-Al LDHのように表記します)が得られています.


3.LDHの熱分解

 代表的なLDHであるMg-Al系およびZn-Al系炭酸型LDHの粉末X線回折(XRD)図を図3に,TG-DTA図を図4にそれぞれ示します.XRD図にはいずれも層状構造を示す明瞭な回折パターンが見られ,底面面間隔d003は0.76nmです.これらを加熱すると,Mg-Al系の場合,層間水が180〜300℃の範囲でほぼ完全に脱離します.この間,LDH構造は保持されていますが,層間水の脱離とともに中間層の収縮が起こります.300℃以下の焼成物は強い吸水性を示し,大気中に放置しておくと元の層間水量に戻ります.300〜450℃で基本層のAlに結合しているOH基の縮合脱水が始まり,続いて残りのOH基の縮合脱水とCO32-の分解・脱CO2がほぼ同時に起こります.一般に,Alの固溶量の増加とともに層間水の脱離温度は高くなり,基本層のOH基の縮合脱水温度は低くなります.Zn-Al系の場合,層間水がより低い170〜200℃で脱離し,約250〜350℃で基本層のOH基の縮合脱水とCO32-の分解・脱CO2がほぼ同時に起こります.Zn-Al系LDHでは,基本層の塩基度が低いため,層間水の脱離,基本層のOH基の縮合脱水ならびに脱CO2が比較的低い温度で起こります.

 500℃以上で加熱処理すると,Mg-Al系の場合,Al2O 3がMgOに固溶したNaCl型立方晶系のMgOが生成します.この固溶体は下式のように陽イオン欠陥型です.これは800℃近くまで安定ですが,約900℃でペリクレース(MgO)とスピネル(Mg Al2O 4)に変わり,加熱温度の上昇とともにそれぞれの結晶性は高くなります.Zn-Al系の場合は,約400℃でAl2O 3がZnOに固溶した六方晶系の陽イオン欠陥型ZnOが生成します.さらに約700℃でジンカイト(ZnO)とガーナイト(ZnAl2O 4)に変化し,加熱温度の上昇とともにそれぞれの結晶性は高くなります.

 ここで生成する陽イオン欠陥型の酸化物固溶体の重要な特性は,水と反応しながら溶存陰イオンを取り込み,下式のようにLDH構造を再構築することです.この再水和反はMg-Al系やZn-Al系では常温でも起こりますが,Ni-Al系やCo-Al系では高温あるいは水熱条件下でなければ進行しません.

[M2+1-xM3+x(OH)2](CO3)x/2 = (1+x/2)M2+2(1-x)/(2+x)M3+2x/(2+x)x/(2+x)O

+x/2CO2 + H2O        (熱分解反応式)

(1+x/2)M2+2(1-x)/(2+x)M3+2x/(2+x)x/(2+x)O + x/nAn- + (1+x/2)H2O

= [M2+1-xM3+x(OH)2] An-x/n + xOH-  (再水和反応式)

 また,LDHの化学組成と構造上の特徴を活用し,その焼成物を各種化学反応の触媒として用いることも行われています.

. インターカレーション(取り込み)方法

 LDH層間への陰イオンのインターカレーション法としては,これまで数種類の方法が報告されていますが,一般に(A)共沈法,(B)イオン交換法および(C)再構築法が用いられます.

(A)共沈法:この方法は,上述のように一般的な炭酸型,塩化物型あるいは硝酸型LDHを調製する方法でもあります.目的のゲスト陰イオンを含む水溶液に二価-三価金属イオン混合溶液をpH調整しながら加え,加水分解によるLDHの沈殿生成にともなって,陰イオンを直接LDH層間に取り込む方法です.

(B)イオン交換法:この方法は,まずNO3-やCl-のような電荷密度の低い陰イオンをゲストとするLDHを調製し,次いで,これを目的のゲスト陰イオンを含む水溶液に添加することによりイオン交換を行い,陰イオンを取り込む方法です.LDHの陰イオン交換能については,宮田らの先駆的な研究10)があり,一般に負の電荷密度が大きい陰イオンほど取り込まれやすく,一価陰イオンではOH-=F-> Cl->Br-> NO3->I -の順になることが知られています.

(C)再構築法:この方法は,前述した炭酸型LDHに特有な熱分解-再水和反応を利用するものであり,熱分解物の再水和法,浸漬法あるいは再生法ともよばれています.すなわち,まず炭酸型LDHを熱分解して層間水の脱離とCO32-の分解・脱CO2ならびに水酸化物基本層の縮合脱水を行い,酸化物固溶体(前駆体)を得ます.次いで,これを目的のゲスト陰イオンを含む水溶液に添加し,再水和反応に伴ってLDH構造を再生する際に陰イオンを層間に取り込む方法です.炭酸型LDHはもっとも合成しやすく,空気中のCO2による汚染を防ぐ必要がないのでよく用いられます.

 このほかに,炭酸型LDHを脂肪族カルボン酸溶融塩中に添加して,層間CO32-を熱分解しながらカルボン酸イオンを取り込ませる方法,炭酸型LDHを食塩-塩酸混合水溶液中に添加して,層間CO32-を酸分解しながらCl-を取り込ませる方法など新しい方法も提案されています.

 いずれの方法においても,生成するLDHの面間隔ならびに結晶化度はゲスト陰イオンの電荷密度,サイズ,取り込み量および配位によって多様に変化するのが特徴です.これらの方法をインターカレーションの目的,ゲスト陰イオンの電荷密度とサイズおよびホスト水酸化物基本層の金属イオンの種類と正電荷密度に応じて選んで用います.

5.陰イオンおよび分子のインターカレーション(取り込み)

5.1 無機陰イオン

 LDHの無機イオン交換能については,宮田らによって初めて明らかにされました.その序列については,上述のとおりです.次いで,有害金属イオンの除去の立場から,CO3/Mg-Al LDHを用いる再構築法によるクロム酸,過マンガン酸,バナジン酸などの取り込みが報告されました.この場合も,陰イオンの電荷密度が大きいほどLDH層間に取り込まれやすくなります.その後,分子形状選択性の触媒や吸着剤の合成を目的にイソポリ酸,ヘテロポリ酸,あるいはケイ酸イオンを取り込んだMg-Al系,Zn-Al系,Zn-Cr系架橋型LDHの合成が行われました.無機陰イオンの場合,サイズが大きくても負電荷を大きくすれば取り込みは可能です.これらの架橋型LDHはある程度の触媒能をもっていますが,耐熱性・耐久性に乏しいという欠点があります.最近は環境浄化への応用が再び注目され,セレン酸,ホウ酸,フッ化物などの有害陰イオンの取り込みに関する研究が多く行われています.図5に一例を示すように,CO3/Mg-Al LDHを用いる再構築法によってヒ酸と亜ヒ酸は除去されますが,負電荷密度の大きいヒ酸の方が取り込まれやすく,その速度は大きくなります.

 一方,Ca-Al LDHはセメントに深く関連する化合物であり,鉄に対する防錆作用をもつNO2-を層間に取り込んだNO2/Ca-Al LDHを合成し,コンクリート鉄筋の腐食防止に用いる試みがあります.これは,LDH層間のゲスト陰イオンの徐放性を利用した例です.また,PtCl62-,IrCl63-,RuCl63-のような貴金属錯イオンの回収,Mg-Fe LDHを前駆体とするスピネル合成,磁性核MgFe2O4へのMg-Al LDHの合成など様々な新しい試みが行われています.

5.2 有機陰イオンおよび有機分子

 当初のLDH研究では,脂肪族カルボン酸,芳香族カルボン酸あるいは芳香族スルホン酸など界面活性剤や染料の中間体陰イオンの取り込みが行われましたが,最近のLDH研究の傾向としては,機能性有機陰イオンの取り込みに関する研究が急増しています.例えば,大型の板状や円筒状有機分子,医薬成分が挙げられます.また,負電荷をもたない機能性有機分子,双性イオンであるアミノ酸,あるいは生体関連物質の取り込みなども注目されています.

(1)脂肪族カルボン酸:有機陰イオンの取り込みについては,宮田11)がイオン交換法によりドデシル硫酸やナフトールイエローなどの陰イオンをMg-Al LDHに取り込ませた先駆的な研究があります.次いで,同じ方法でドデシル硫酸などの陰イオン界面活性剤を脂肪族長鎖アルコールと一緒にZn-Cr LDHに取り込ませ,陰イオンのサイズ,取り込み量と配位構造の関係を定量的に調べられました.さらに,再構築法により各種モノカルボン酸とジカルボン酸がMg-Al LDHに取り込まれ,その後共沈法を含めて多くの脂肪族カルボン酸について取り込みが行われました.これらの場合,ホスト水酸化物層とゲスト陰イオンの静電相互作用のほかにゲスト陰イオン同士の相互作用も大きく影響し,脂肪族カルボン酸の場合,炭素鎖の長いものほど疎水相互作用が強くなるため取り込み量は多くなります.生成LDH複合体のd003はゲスト陰イオンのサイズによって異なりますが,同じゲスト陰イオンでも取り込み量と配位によって多様に変化します.

(2)芳香族カルボン酸,芳香族スルホン酸:芳香族陰イオンの取り込みは,脂肪族陰イオンの場合と基本的には同じですが,構造異性体をもつものでは,官能基の位置,すなわち負電荷の分布も影響を及ぼします.芳香環についている官能基の数と位置の違いにより取り込み量や配位が異なり,生成LDH複合体のd003はこれに応じて変化します.また,脂肪族カルボン酸の場合と同様にゲスト陰イオン同士の相互作用も大きく影響します.

(3)ポルフィリン,フタロシアニン類:機能性大型有機分子をLDH層間に取り込んだ例としては,生体模倣型触媒としての利用の観点から,陰イオン化したポルフィリンやフタロシアニンなどが以前から知られています.これらの場合,d003は2.2〜2.4 nmに拡張し(出発Cl/LDHのd003=0.8 nm),ゲスト陰イオンは複数の負電荷をもつことから水酸化物基本層に対して垂直方向に配位して取り込まれます.機能材料の開発の観点から,最近もポルフィリンやフタロシアニンのスルホン酸イオン,あるいはフェロセンカルボン酸などの取り込みが行われ,その構造ならびに触媒や電子移動機能などが調べられています.

(4)シクロデキストリン(CD):環境有害物質の除去や医薬成分のデリバリーの観点から,シクロデキストリン(CD)のような円筒状の構造をもつ大型環状有機分子の取り込みも行われています.CDはグルコピラノースが基本単位となった環状オリゴ糖であり,その基本単位の数と構造により多くのものが知られています.その内部空孔は疎水性をもっており,様々な有機分子を包接できることから食品や医薬品への応用が行われています.LDHへの取り込みについては,安価な工業的製造法が確立されているβ-CDについておもに研究が行われており,通常これを陰イオン修飾してからイオン交換法によって取り込みを行っています.図6に示すように,カルボン酸メチル化β-CD(Mg-Al系)23)やスルホン酸プロピル化β-CD(Zn-Al系)24),を取り込んだ例もありますし,カルボン酸エチル化β-CD(Zn-Al系)やヘキサ硫酸化β-CD(Mg-Al系)を取り込んだ例もあります.これらはCD空洞軸を水酸化物基本層に対して垂直方向に一分子層もしくは二分子層,あるいは水平方向に一分子層を形成して取り込んでいます.また,この複合体についてキシレンやヨウ素の吸着能,熱安定性が調べられています.

 一方,未修飾のCDは陰イオンでないためイオン交換法ではLDH層間に取り込むことができませんが,再構築法を用いて未修飾のα-,β-およびγ-CDをMg-Al系LDHに取り込ませた例25)もあります.この場合,LDH層間に取り込まれる駆動力は水素結合であり,非イオン性の大型有機分子でもLDH層間に取り込むことが初めて示されました.図7に示すように,生成複合体のCDは空洞軸をLDH基本層に対して垂直方向に二分子層を形成して取り込まれていると考えられています(d003=2.1〜2.2 nm).また,生成LDH複合体からのCDの放出はイオン交換に伴って容易にできるので,LDHはCDの分子コンテナーとして有効です.CDは未修飾のほうが安価で安全性が高く,さらにはそれ自身に血糖抑制などの薬理作用も見出されているので,大きな利点があります.CDには多くの種類があり,それぞれ数多くの有機分子に対して包接作用があるので,本来LDH層間に取り込みのできない有機分子でもCD包接体としてLDH層間に取り込むことが可能となりました.

(5)カリックスアレーン類:別のタイプの大型円筒状有機分子として,いくつかのフェノール基本単位からなるカリックスアレーンが知られており,そのスルホン化した水溶性のカリックスアレーンスルホン酸(CS4とCS6)を共沈法によってLDH層間に取り込んだ例26,27)も報告されました.興味深いことは、図8に示すように,CS4の場合,Mg-Al系では空孔軸をホスト層に対して垂直方向に,Zn-Al系では水平方向に配位することで,複合体の吸着能も大きく異なっていることです.再構築法でも合成が可能であり,カリックスアレーンには種類も多いので,多様な有機/無機ナノ吸着剤の開発が可能となります.

(6)医薬成分:CO3/Mg-Al LDHは,酸に対して安定した中和能をもち,人体に対して無毒であることから,胃用の制酸剤に用いられています11,28).現在市販されている胃薬の多くには,“合成ヒドロタルサイト”として含まれています.また,LDHの有機分子の取り込み能力を活用し,再構築法により医薬成分をMg-Al LDH層間に取り込み,医薬成分の苦味防止に使う試みもあります29).最近はLDHを医薬成分のベクター剤・デリバリー剤やコンテナー剤に利用しようとする研究が増えています.最近の研究例を表3に示します.ゲスト医薬成分の種類としては,抗ガン剤,鎮静剤,解熱剤,抗炎症剤,抗痙攣剤,ビタミン類などです.いずれも芳香環や複素環にカルボキシル基がついた水溶性のものが多く,共沈法と再構築法による取り込みがほとんどです.camptothecinのように負電荷をもたない分子は,図9に示すように陰イオン界面活性剤によってミセル化してから,イオン交換法によって取り込んでいます.また,ドラッグデリバリーの観点から,LDH層間からの放出挙動についても調べられています.この場合は,おもにCl-によるイオン交換が行われています.

(7)生体関連物質:生物活性あるいは生体親和性をもつ新規な無機-有機複合体の合成を目的に,アミノ酸,ヌクレオチド,糖類のような生体関連物質をLDH の層間に取り込んだ研究も最近活発に行われています.これらの研究例をまとめて表4に示します.

 アミノ酸はタンパク質を構成する成分であり,アミノ酸自身も多くの機能をもっています.また,アミノ酸は水溶性の双性イオンであり,低pH領域では陽イオン,高pH領域では陰イオンとして存在しています.これまでアミノ酸と粘土との相互作用は,スメクタイトのような陽イオン性粘土について調べられてきました.これに対して,Arrheniusのグループ1)は原始地球上の化学進化に関連してFe2+-Fe3+系LDHとアミノ酸との相互作用を調べています.アミノ酸は,LDHが安定に存在し得るアルカリ性水溶液では一般に陰イオンとして存在しているので,LDH層間に取り込まれることは予想されていました.古い例では,イオン交換法によるCl/Mg-Al LDHへの塩基性アミノ酸であるヒスチジンの取り込みがあります.

共沈法では,Wiltonら30)が生物活性または生体親和性をもつ新規な有機/LDH複合体の合成を目的とし,Mg-Al LDHへのアスパラギン酸(Asp),グルタミン酸(Glu)およびポリアスパラギン酸(p-Asp)の取り込みを行いました.酸性アミノ酸であるAspおよびGluは残基にカルボキシル基をもつことから,二価の陰イオンとしてLDHへ取り込まれやすいこともわかりました.さらに,図10に示すように,Asp/LDHを加熱処理することにより二次元的に制御されたLDH層間内でAspの重合を行い,p-Aspを得ています.また、Aisawaら31)は各種LDH 成分(Mg-Al,Mn-Al,Ni-Al,Zn-AlおよびZn-Cr系)を用いる共沈法によりフェニルアラニン(Phe)の取り込みを行い,図11に示すように,共沈率はpHおよびLDHの金属成分に大きく影響されることを明らかにしました.また,図12にXRDを示すように,生成LDH複合体の構造はLDH成分によって大きく異なることも明らかとなりました.

 イオン交換法では,Fudalaら32)がアミノ酸/粘土鉱物複合体の合成を目的とし,モンモリロナイトおよびNO3/Zn-Al LDHを用いてPheとチロシンの取り込みを行いました.図13に示すように,LDHの場合,脱プロトン化したアミノ酸二分子が,モンモリロナイトの場合,プロトン化されたアミノ酸一分子が中間層を形成してと考えられました. このことから,層間におけるアミノ酸の配向は粘土鉱物およびアミノ酸の電荷に影響されることが示されました.

 また,酸性アミノ酸は側鎖基にカルボキシル基をもつため,Cl/Mg-Al LDHに陰イオンとして取り込まれやすいことも確認されています.一方,弱酸性から弱アルカリ性で存在するアミノ酸双性イオンについてもZn-Al LDH層間に取り込まれることが明らかとなりました.取り込み方法としては,イオン交換法,共沈法ならびに再構築法のいずれによっても行われています.Zn-Al系,Ni-Al系,Mn-Al系は中性領域でも安定なので,双性アミノ酸を取り込むことが可能です.アミノ酸の種類別では,一般に酸性アミノ酸が取り込まれやすく,塩基性アミノ酸は取り込まれにくい傾向があります.

CO3/Zn-Al LDHを用いた再構築法では、中性アミノ酸は集合体を形成し、図14のように一価陰イオンの場合の2〜3倍量が取り込まれるという興味深い報告もあります33).また,アミノ酸が縮合してできたオリゴペプチドの取り込みも行われ,分子鎖が大きくなるほどLDH層間に取り込まれやすくなることもわかりました34).さらには,これらアミノ酸のLDH層間における分子配向についてのシミュレーション研究も行われています.

 遺伝情報を保持,伝達する生体高分子として核酸があります.核酸は5種類のヌクレオチドで構成されており,そのヌクレオチドは糖,塩基およびリン酸の縮合物で,デオキシリボ核酸(DNA)の場合,糖はデオキシリボース,リボ核酸(RNA)の場合はリボースです.

 Choyら35,36)は,NO3/Mg-Al LDHを用いるイオン交換法により各種ヌクレオチド(AMP, CMP, GMP)/LDHおよびDNA(herring testis)/LDHを合成しました.図15に示すように,ヌクレオチド分子は水酸化物基本層に対して垂直に配位して取り込まれ,DNAは二重らせん構造の表面に存在しているリン酸が負電荷をもつことから,静電気的相互作用によって基本層に対して水平に取り込まれるものと考えられます.また,図16に示すようなATP/Mg-Al LDHによる白血病細胞HL-60へのATP輸送効率について検討を行いました37).この場合,ATP輸送効率は温置2時間において,ATP単独に比べると約25倍まで増加することがわかりました.ATPは正電荷をもつLDH層間に保持されているため,負電荷をもつ細胞壁との静電気的反発を抑えることができるためと考えられました.このほか,Li-Al LDHを用いたAMP,CMP,GMP混合物の選択的取り込み,Mg-Al LDHへのATPの取り込み方法の違い,Mg-Al LDHとZn-Al LDHへの各種ヌクレオチドの取り込み挙動の違いおよびLDH層間でのヌクレオチドの熱安定性の増加について報告があります.

 一方,LDHへの糖の取り込みについては比較的研究例が少ない状況です.先に述べたCDはオリゴ糖の一種ですが,生体関連の糖としては、AisawaらがMg-Al LDHを用いる再構築法によって行った五炭糖38)と六炭糖39)の取り込みの例があります.いずれも非イオン性のゲスト物質ですが,再水和反応によってOH-とともにLDH層間に取り込まれました.図17と図18に示すように,五炭糖では水酸基が一つ多いリボースがデオキシリボースよりも著しく取り込まれやすいこと,表5に示すように,六炭糖ではエカトリアル位のOH基よりもアキシャル位のOH基を多くもつものほど取り込まれやすいことが明らかとなりました.取り込みの駆動力はホスト水酸化物層とゲスト物質に働く水素結合と考えられます.このような取り込みは,キシリトールなどの多価アルコールでも観察されました.言い換えれば,LDHの二次元空間が糖のOH基の数と立体位置を認識したといえます.さらに最近,多糖類でバイオポリマーの一つであるアルギン酸を共沈法によりZn-Al LDHに取り込ませた報告もあります.

 LDHの特長の一つは生体親和性が大きいことであり,これら生体関連物質を層間に取り込んだLDHは,バイオ複合材料,バイオセンサー,ドラッグデリバリー剤としての用途が期待されています.


6.その他のインターカレーション(取り込み)

 これまでおもにLDH層間への陰イオンの取り込みについて述べましたが,LDH層間の有機陰イオンに関しても興味深い研究が行われています.例えば,スピロピランの層間光構造変化,クロロスチルベンカルボン酸の層間光二量化反応,ステアリン酸の層間自己組織特性,ベンゾフェノンとベンツハイドールの層間立体選択的反応,フッ素系界面活性剤の層間取り込み-放出による回収,陰イオン界面活性剤の層間取り込み-加熱による除去・分解,芳香族陰イオン取り込みによるLDH混合層の形成,紫外線吸収剤の層間取り込み,有機抗菌剤の層間取り込み,芳香族有機陰イオン/Ca-Al LDHのセメント水和速度の調整,などが挙げられます.これらは,LDH層間の二次元空間をゲスト陰イオンの化学反応や構造変化の制御に用いる例,ゲスト陰イオンの熱分解反応に用いる例,ゲスト陰イオンの取り込み-固定化あるいは取り込み-徐放のコンテナー機能を用いる例といえます.

7. おわりに

 筆者がLDHの研究を始めて20年になります.個人的な話で恐縮ですが,そのきっかけは工業高専に移籍し,20才ぐらいの若い学生を相手に卒業研究を指導することになったことです.研究テーマ探しにあたっては,次のことを条件にしました.(1)安い試薬と簡単な器具で実験できること(研究資金が乏しいため),(2) 毒性や危険性のない原料を用いて,温和な条件で合成できる材料であること(付きっきりで指導できないため),(3)合成や反応において変化がわかりやすい材料であること(実験に興味をもたせるため),(4)化学組成が多様で分析しやすい材料であること(化学量論を理解させるため),(5)多くの分析機器で評価する研究であること(機器分析を多く学ばせるため),(6)人があまり研究していない材料であること(研究にオリジナリティーをもたせる苦肉の策),などでした.その結果,選んだ材料がLDHでした.本講座でご紹介したように,LDHの特徴はまさにこの条件に合致していました.教育上もたいへん有効な材料でした.この間,LDH研究は漸増傾向でしたが,21世紀に入ってから急増し,現在では年間250報ほど発表されるようになりましたので,(6)はあてはまらなくなりました.また,LDHはおもしろい材料であるにも関わらず,実用例が少ないといわれてきましたが,こちらも少しずつ増えてきました.生体親和性,環境低負荷性,資源循環性といった特徴も注目されるようになり,さらに新しい応用が期待されています.

引用文献

1)Kuma, K., Paplawsky, W., Gedulin, B. and Arrhenius, G. (1989), Origins Life Evol. Biosphere, 19, 573-601.

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