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会長あいさつ

ごあいさつ

2009年1月から日本遺伝学会長に就任致しましたので、ごあいさつを申し上げます。日本遺伝学会は、その前進の育種学会から数えますと約95年の歴史をもつ我が国で、最も長い歴史と伝統を誇る学会の一つです。英国の遺伝学会の設立よりも5年も早いという歴史をもちます。ベーツソンが遺伝学をGeneticsとして明確に定義してから間もなくの設立でありました。

その後、1953年のワトソン・クリックによるDNAの2重らせん構造の発見や2000年のヒトゲノム解析の成功なども含めて、遺伝学は約100年にわたって今もライフサイエンスの核心的分野として大きな発展を続けています。しかし一方で、その多岐にわたる広範囲な発展によって、DNAやその関連の研究が普遍的になればなるほど、遺伝学は特定分野としての存在意義が薄れてあまりにも一般化してしまい、それだけに遺伝学会としての存立基盤が危うくなる事態にも直面しています。実際、遺伝学会員の数は年々微減を続けております。より深刻な問題は、会員の年齢別人口構成において、20才代や30才代の会員数が40才以上の会員数に比べて非常に少ない点です。この状態があと10年も続けば、遺伝学会の会員数は半減する可能性すらあります。

しかしながら、ゲノム科学の発展の真只中の現在、遺伝学に関する解決すべき問題は逆に山積しつつあります。たとえば、次世代シーケンサーによる超大量な塩基配列データの蓄積、パーソナルゲノム時代におけるヒトの遺伝的多様性の研究と倫理問題、ヒト遺伝子のtransgenic技術による今後の問題、ips細胞における体細胞変異やエピゲノミクスの問題、腸内細菌や海洋微生物のメタゲノミクスによる大量な新種同定、新型インフルエンザウイルス等にみられる新興・再興感染症におけるウイルス側・宿主側の両方の遺伝的な特性の問題、生物の多様性と進化におけるメカニズムの解明など、本学会が対象としたり議論すべき問題はたくさんあります。このような中、現在の会員の皆様のもつ学術的課題の発表や意見交換はもちろんのこと、これらの問題を正当に議論したり社会に向かって提案したりするフォーラムとしての場は必須であり、それがまさに本学会の役割であると強く認識しています。

もちろんこのような広範で複雑な問題に、学会として直ちに説得力のある回答が出せる訳ではありません。しかし、この分野の急速な発展を直ちに共有し、あらゆる年齢層から議論が湧き出るような仕組みが必要と考えています。特に若い人々に訴求できる学会としてのシステムの構築が急務であると考えています。そこで私は、インターネットを活用した広範な情報発信基地として、本学会のシステム構築を目指したいと思います。まず具体的には、内容的な体制や制度の電子化から始め、活発なインターネットからの発信機能を備えることを提案したいと思います。また、これを通して本学会の将来ビジョンをより明確化し、その存在意義の再確認とロードマップの提示ができるようになればと思っています。その意味では、遺伝学用語集委員会をすでに立ち上げておりますが、単に遺伝学用語の問題だけではなく、そこから見えてくるわが国の遺伝学における課題も少しでも会員の皆様と共有できればと思います。そして、そのような共有の最大の場であります年一回の大会が成功するよう、大会委員長や準備委員会の方々をできるかぎり支援する覚悟であります。

2年という短い任期ではありますが、このような目標に向かって幹事の方々とともに尽力して参りたいと思います。学会員の方々はもちろんのこと、関係する方々の入会をお勧めするとともに、どうか今後とも本学会への御支援を強くお願いする次第です。

日本遺伝学会長

五條堀 孝