マクロ画像のデジタル化

沼原利彦 1)

1)香川医科大学皮膚科学教室
〔別刷り請求先:〒761-07 香川県木田郡三木町池戸1750−1 香川医科大学皮膚科学教室 沼原利彦,numahara@kms.ac.jp, jca02363@niftyserve.or.jp
(原稿受理日 1995年1月12日)


【要約】 臨床写真のデジタル化技術として,比較的手軽に行なえる ,フォトCD, 35mmフィルムスキャナ(Nikon COOLSCAN),デジタルカードカメラ( FUJIX DIJE)を比較検討した。この検討は,Macintosh Quadra 800(漢字Talk 7.1)を使用して行なっている。
【キーワード】 臨床写真,マクロ写真,デジタル画像Nikon COOLSCANフォトCDFUJIX DIJEMacintosh,Adobe Photoshop

1.はじめに

 医療の現場では,さまざまな場面で,画像による診断や記録が行なわれている。皮膚科診療や教育に おいては,皮疹すなわち皮膚病変部の精彩なカラー写真記録が欠かせない。香川医科大学皮膚科学教室 では,1983年10月の附属病院開院から1994年末までに,約5万4千枚の臨床写真が撮影され台帳管理さ れている(図1)。皮膚科臨床写真撮影システムに必要な条件は ,等倍のクローズアップから等身大の撮影ができること, 病変部によりさまざまな場所や角度で撮影するためコンパクトで使いやすいこと ,皮膚病変の微妙な色合いの再現性がよいこと,などがある。現在 ,撮影には3台の専用カメラを使用している(図2)。撮影に使用するフィルムは ,色の再現性や教育などのプレゼンテーションの必要性から ,カラーリバーサルフィルム(いわゆるスライドフィルム,開院以来FUJICHROME)で行なっている。臨床写真を使ったプレゼンテーションを行なうとき にはこのスライドフィルムをそのまま使用することが一番多い。

 図1 臨床写真スライドの整理に利用している防湿箱

図2 臨床写真撮影カメラ
    左:MINOLTAα−7xi, AF LENS 50MM F2.8 MACRO, CLOSE UPカード,MACRO 1200AF. 右:Nikon F3, Medical-NIKKOR 120mm.

 さて,最新のパソコンは,初期のスーパーコンピュータに迫る性能を持ち ,卓上のパソコン1台で都市銀行1つのすべてのオンライン業務が可能であるとさえいわれるようになってきている。また,デジタル画像処理においても ,以前に数千万円を超えるような大型コンピュータで行なわれていたもの が,現在では数十万円から百万円程度の卓上パソコンでも可能になった。情報通信網の整備発達も合わ さって,本格的なマルチメディア時代になってきている。電子画像の発達は目覚ましいものがあるが ,解像度,色再現性,経済性,機器の完成度などの点から ,高質の画像が要求される分野ではカメラとフィルムによる撮影はまだまだ主流をしめるだろ う。ではここで,フィルムによる画像保存の欠点をあげてみよう。

 微妙な色の差が気になる皮膚科医のニーズにかなうような精彩なデジタル画像を扱うためには ,色再現性に優れ高解像の画像入力装置が必要である。こ れには,1枚あたりの画像ファイルサイズがフロッピーディスクにして数枚〜数十枚と大きなデータに なるので,パソコン自体の性能,保存メディア,大量データの整理とバックアップといったことを含め て考えなくてはならない。
 著者は,個人レベルでも可能な皮膚科臨床マクロ画像のデジタル化について,
     
  1. 35mmフィルムスキャナNikon COOLSCAN(ニコン)・・・撮影した35mmフィルムを手もとでスキャニングする方法
     
  2. コダック社によって始められたフォトCD ・・・撮影した35mmフィルムを外注でフォトCD化する方法  
  3. デジタルカードカメラFUJIX DIJE(富士写真フイルム)の・・・初めからデジタル画像記録を 行なう方法
 以上の3つの方法を試行している。本稿では,これらの特徴を比較してみたい。

2.使用機器

 「この研究」に用いた機器を以下にあげる。
  1. パソコン本体および補助記憶装置
    Macintosh Quadra 800 40MB RAM/1G HD/CD-ROM(アップルコンピュータ,漢字Talk 7.1),外付2G HD(マックギャラリー,Quantum EMP2100S),3.5インチ光磁気ディスク装置(ソニー,RMO-S 360)
  2. 臨床写真撮影カメラシステム
    MINOLTAα−7xi, CLOSEUPカード,AF LENS 50MM F2.8 MACRO,MACRO 1200 AF (以上 ミノルタカメラ)
  3. 35mmフィルムスキャナ
    Nikon COOLSCAN(ニコン)
  4. 臨床写真撮影フィルム
    FUJICHROME RD 135(富士写真フイルム)
  5. デジタルカードカメラシステム
    FUJIX DIJE(デジタルカードカメラDS-200F),クローズアップユニット CT-D2,スーパーマクロアダプタMA-D2,イメージメモリカード IM-16F,メモリカードプロセッサDP-200F, パワーサプライキットPK-E1P ,インターフェースセットIF-MA・DP Ver2.0(以上 富士写真フイルム)
  6. フォトレタッチソフト
    Adobe Photoshop2.5J(アドビシステムズ,割当RAMメモリ32MB) LI>フォトCD作成(外注)
    FUJIXフォトCDサービス

3.各方法の概説

 (1)35mmフィルム専用スキャナNikon
COOLSCAN
(ニコン)(図3)
 この利点は,何といっても非常にコンパクトな製品ながら手もとで35 mmフィルムの高解像度入力ができることにある。本稿で紹介する中では最高の解 像度を持ち,For Mac Photoshopプラグインセットの定価が24万8千円である。Nikon COOLSCANは,2,700dpiの解像度を持ち,1枚の35mmフィル ムから最高3,888×2,592ピクセル(ストリップフィルムでは3,648×2,393ピクセル)の画像を読み取ることができる。また ,Nikon COOLSCANは35mmフィルムであれば,ネガ/ポジ,カラー/白黒 ,マウント/ストリップを問わずにスキャニングが可能であ る。ドライバはPhotoshopプラグイン形式になっており, スキャニング時にさまざまな設定を行なうことができる。35 mmフィルム1枚をフルカラー/最高解像度でスキャニングした時のファイルサイズは 28.8MB程になり,この場合スキャニングには1枚あたり15〜20分かかる。

 図3 35mmフィルムスキャナ
    Nikon COOLSCANの前景。148(W)×320(D)×47(H)mmとコンパクトなサイズである。

 (2)コダック社によって始められたフォトCD
(図4)

 図4 フォトCD

 フィルム画像を追記型のCDに焼き付けるサービスで ,1枚のCDに約百枚の記録が可能である。現在では,コダック ,コニカ,富士系のラボで扱われている。フォトCDでは自分でスキャニングする必 要がない。フィルムに注文書を添えてラボに提出するだけである。価格設定は ,フォトCDのメディア代が1枚1,000円,一回の書き込み基本料金が500円 +35mmフィルム1コマの料金がフィルムにより80〜120円である。フォト CDの規格については,弓野正道氏が1992年のテレビジョン学会誌で解説して いる。それによると,35mmフィルムをアスペクト比1:1でスキャンし ,フォトCDマスタではRGB各2,048×3,072の解像度で取り込み ,イメージデータをフォトYCCと呼ばれる輝度および色差信 号のデータに変換し,表1に示すような5つの解像度を持ったデータとして記録している。

表1 フォトCDに記録されるデータ

(弓野正道,テレビジョン学会誌,VOL.46,NO.11,1992より)

5つの解像度のデータのうち低解像度の,BASE/16,BASE/4, BASEのデータはそのまま利用している。知っておいたほうがよいのは ,フォトCDシステムでは,4BASE以上のイメージデータではデータを 圧縮するために差分データとして記録されていることである。たとえば ,16BASEの輝度信号イメージを取り出す場合には,BASEデータを補間したものに4BASEのハフマン符号化された差分データをデコーダしたものに加算して4 BASEの1,024×1,536輝度信号イメージを作成し,このようにして得た4 BASEのデータを補間したものに16BASEのハフマン符号化された差分データをデコーダしたものに加算して最終的な2,048×3,072輝度信号イメージを得るようになっている。 PhotoshopからフォトCDの画像を最高の品質で開くためには ,フォトCDフォルダの中の,写真フォルダではなく, PHOTO-CDフォルダの中のIMAGESフォルダの中のファイルを開くようにする。このようにすると ,フォトCDを高画質で開くためのプラグインKodak CMS Photo CDにより,先述したフォトCDのデータ構築に沿って精密に画像が開かれる(図5〜7)。

図5 フォトCD形式で格納された画像情報を精密に開くには,「PHOTO_CD」フォルダ内の「IMAGES」フォルダにある図6 Photoshopから,フォトCDの「IMAGES」フォルダ内のファイルを開こうとしているところ。下方に「Kodak CMS Photo CD」と表示されているのがわかる。
図7 Photoshopで,フォトCDの画像を「Kodak CMS Photo CD」により開く時に表れるダイアログボックス。

写真フォルダの画像を開いたときには,単にPICTファイルとして開かれる(図8,9)。

図8 フォトCDの「写真」フォルダの中には,5種類のサイズ を示すフォルダが存在する。図9 フォトCDの「写真」フォルダの,5種類のサイズを示すフォルダの内容を開いた場合には ,単にPICTファイルとして画像が開かれる。

 (3)デジタルカードカメラFUJIX DIJE(富士写真フイルム)(図10)

図10 左側:FUJIX DIJE. 右側:オプションのクローズアップユニットとスーパーマクロアダプターを装着している
この状態で著者の指の撮影を行なった。

 ハンディタイプのデジタルカードカメラで,Macintoshの13インチ画面にあわせた640×480画素のフルカラー画像を ,3段階の画質を選択してイメージメモリカードに記録する。 DIJE本体(図10)は,定価22万円である。また,DIJE本体 ,イメージメモリカード,メモリカードプロセッサ,パワー サプライキット,インターフェースセットなどをまとめた DIJE Macキットは定価54万5千円である。このほかのオプションとして,等倍撮影用レンズ,ズームレンズなどがある。

4.各方法で得られる画像の比較

 著者の示指を,一眼レフレックスカメラMINOLTAα−7 xi(AF LENS 50MM F2.8 MACRO,CLOSE UPカード,MACRO 1200 AF装着)+リバーサルフィルムFUJICHROME RD 135で撮影し,富士フイルム指定現像所に現像・マウントを依頼した。こ のマウントフィルムをオリジナル原稿とし,Nikon COOLSCANの最高解像度によるスキャンニング,フォトCD作成を行なった。また ,これと同じ構図の撮影を,クローズアップユニットとスーパーマク ロアダプタを装着したFUJIX DIJEの,高画質モードで行なった。いずれも,外光の影響を受けにくい ように工夫された,皮膚科外来の臨床写真撮影室においてストロボ撮影を行なっている。

 I.画素数の比較
 富士写真フイルム株式会社によると,カラーリバーサルフィルムの画素数は RGB3画素を1画素として,一般に使用される35mmフィルム(24 mm×36mm)で340万画素と算出されているという。表2に画素数の比較を示す。今回検討した方法の中で は,COOLSCANが最高の解像度2,700dpiをもっている。なお ,フォトCDFUJIX DIJEの画像は,各々独自の圧縮形式で保存されいる。

表2 画素数の比較

 II.画像の比較
 図11〜14は,実際に得られたデジタルファイルをもとにしたカラー印刷である。

図11 FUJIX DIJE
デジタルカードカメラFUJIX DIJEにスーパーマクロアダプターを装着し,高画質モードで撮影。オリジナルは 640×480画素であるが,比較のためトリミングしてある。
図13 Photo CD pict
一眼レフレックスカメラMINOLTAα−7xi(AF LENS50MM F2.8 MACRO, CLOSE UPカード,MACRO 1200 AF装着)+使用フイルムFUJICHROME RD 135で撮影したオリジナルフイルムを,FUJIXフォトCDサー ビスでフォトCD化。オリジナルの画像はフォトCDの「写真」フォルダ内「3,072×2,048」フォルダの画像を開い たPICTファイルで,比較のためトリミングしてある。
図12 Nikon COOLSCAN
一眼レフレックスカメラMINOLTAα−7xi(AF LENS 50MM F2.8 MACRO, CLOSE UPカード,MACRO 1200 AF装着)+使用フイルムFUJICHROME RD 135で撮影したオリジナルフイルムを,Nikon COOLSCANの最高解像度でスキャンした。オリジナルは2,592×3,888画素 であるが,比較のためトリミングしてある。
図14 Kodak CMS Photo CD
一眼レフレックスカメラMINOLTAα−7xi(AF LENS 50MM F2.8 MACRO, CLOSE UPカード,MACRO 1200 AF装着)+使用フイルムFUJICHROME RD 135で撮影したオリジナルフイルムを,FUJIXフォトCDサービス でフォトCD化。オリジナルの画像はフォトCDの「IMAGES」フォルダ内のファイルを ,Photoshopの「Kodak CMS Photo CD」により「3,072×2,048」で開いた画像で,比較のためトリミングしてある。

 一番自然に近かかったのが,Nikon COOLSCANであった。フォトCDのPICT画像もそれに近い結果となった。フォト CDの画像情報を精密に伸展するPhotoshopの「Kodak CMS Photo CD」による画像が,かえって赤紫調になったのが意外であった。
FUJIX DIJEは彩度がやや弱めであるが,色のバランスやコントラストがきわめて自然であり ,640×480画素ながら指紋も鮮明にとらえている。Photoshop などで彩度を少し強調すると,よりよい印象になる。なお ,図15に,各画像についてPhotoshopのヒストグラム表示を示してある。


 図15 画像ヒストグラムの比較 
FUJIX DIJE/高画質モード(図11),Nikon COOLSCAN/最高解像度(図12),PhotoCD/3,072×2,048 (図13),Kodak CMS PhotoCD/3,072×2,048(図14),についてPhotoshopの画像ヒストグラム(グレー ,赤,緑,青)表示を示す。

5.考 察

 (a)35mmフィルムスキャナNikon COOLSCAN, (b)フォトCD,(c)デジタルカメラFUJIX DIJE,各々長短があり,1つにこだわらず目的によって使 い分けるとよい。
  1. Nikon COOLSCANの利点は何といっても,非常にコンパクトな製品ながら ,必要な時にいつでも手もとで35mmフィルムの高解像度入力ができることにある。ただ ,最高解像度でカラーフィルムを読み取るには15〜20分かかるので ,高解像度で一度に多数のフィルムを扱うのは苦しい。
  2. フォト CDは,スキャニングから収納スペースまで,コストと画質など ,総合的に優れたメディアである。スキャニング作業から解放されるので ,多数の画像を扱う場合には最適な選択となるだろう。ただし ,日数がある程度かかることは見込んでおく必要がある。また ,高解像度のフィルムでは独自の圧縮が行なわれているので ,目的によっては注意が必要な場合がある。
  3. FUJIX DIJEの長所は,フィルムの現像やスキャンが必要ないので ,結果がすぐに使える機動力にある。コンパクトで機能性や 色調は優れているので,モニタ画面出力を中心とする場合には一考の価値がある。
 高解像の画像ファイルを扱う際に忘れてならないのが ,巨大なデジタル画像ファイルの保存である。たとえば, Nikon COOLSCANの最高解像度でスキャンした35mmフィルムのファイルサイズは ,28.8MBであるので,3.5インチ128MBのMOを使用しても4枚程しか収納できない。1つの解決法が,画像ファイルの圧縮保存形式を利用することで ある。画像ファイルの圧縮保存は,うまく使えば見た目の画質をあまりそこなわずに保存スペースを節 約できる利点がある。しかし,圧縮率の高い方法は画像情報がある程度失われ歪められる。 PICTのJPEG圧縮もこのタイプである。このような圧縮形式は,画像の一部を引き伸ばして利用する目的や ,定量的な画像解析を行なう目的にはふさわしくないし, ひとたび失った画像情報はもとにもどすことはできない。なお ,TIFFのLZW圧縮は,圧縮率は低いが画像情報の失われないタイプの保存形式である。ところで,圧縮保存形式のファイルは,保存するときに圧縮の ,書類を開く時に解凍の操作を行なうので,圧縮なしファイルの“書き込み/読みだし” に比べて数倍時間がかかることも意外に忘れがちな盲点であり ,大きなファイル程その影響が大きいのである。
 精彩なデジタル画像を得るためには,単に高質の スキャニング装置やデジタルカメラといった入力装置だけの問題ではない。入力装置とともに ,色再現性に優れ高解像の出力装置がなければ意味をなさな い。大きなサイズの情報を扱うため,コンピュータ自体の処理能力も必要であるし ,それを効率よく保存するための知識も必要になってくる。これから は,画像を授受するための情報通信網の整備や,画像通信技術の進歩もますます重要になってくるだろう。また ,診療や研究では,分野ごとに対象とする画像の性質が異なっており ,それに併せて最適化された専用機の開発にも期待したい。

 機器の貸与・技術資料を提供いただきました富士写真フイルム株式会社電子映像事業本部営業部,技術資料を提供いただきました日本コダック株式会社に深謝します。なお,本文の中で記述した機器や定価については,最新のものを確認してください。


文  献

【1】弓野 正道:
フォトCDの規格,テレビジョン学会誌,Vol. 46,NO. 11,1494 - 1493,1992

Digital imaging for macroscopic photographs

Toshihiko Numahara 1)

1) Department of Dermatology, Kagawa Medical School

Abstract
Three easy digital imaging methods for clinical photographs were examined. Photo CD, Nikon COOLSCAN(35mm-film-scaner), and FUJIX DIJE(digital-card-camera) were the methods. The comparative study was performed on Macintosh Quadra 800 computer(Kanji Talk 7.1).

Keywords: clinical photograph, macrosciopic photograph, digital imaging, Nikon COOLSCAN, Photo CD, FUJIX DIJE, Macintosh, Adobe Photoshop