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2011年度の美術史学会の活動に向けて

2011年度の美術史学会の活動に向けて
 1949年にわずか201名の会員数で創設された美術史学会も63年が過ぎました。2011年5月に同志社大学で開催された第64回全国大会の総会時には、会員数は2458名で当初の12倍ですが、昨年度同時期より16名減少しています。近年は、ほぼこれと前後する数を維持しています。
 引き続き1年間、学会代表委員を拝命しましたが、前年度同様に常任委員会メンバーと協議の上、全学会員の皆様のためにも、わが国における美術史学研究をさらに振興させるためにも、美術史学会の活動環境の整備や運営に鋭意努力していくつもりです。
 学会は、人文系の学会として飛躍的な発展を遂げ、また美術史学研究は一段と高度化するとともにその裾野が広がりました。
 その一方で、21世紀に入って、国立博物館、国立美術館および文化財研究所の独立行政法人化や公立美術館博物館への指定管理者制度の導入、その後間もなく、政府による独立行政法人国立博物館・文化財研究所・国立美術館の事務及び事業改善の内容の発表や独立行政法人国立博物館と独立行政法人文化財研究所の統合、そして一昨年度には独立行政法人等の事業仕分けなどが行なわれました。これらに代表されるように、美術史学会員、および美術史学研究とその公開に従事する研究者や学芸員を取り巻く環境は急激に変化し、むしろ悪化の傾向にあります。学会としては、こうした政府の方針に対し、国立博物館と文化財研究所の統合の際に後者の事業活動の継続を憂慮することをアピールする要望書を関係省庁・機関に提出しましたし、2009年11月には「地方分権改革推進委員会第3次勧告における博物館法の見直しに対する反対声明」を、2010年5月には「美術品の国家補償制度の設立に対する意見表明」をそれぞれ関係大臣・副大臣・大臣政務官、あるいは文化庁長官に提出しました。特に2011年3月25日に参議院本会議、3月29日に衆議院本会議でそれぞれ可決された美術品国家補償法が施行されるにあたって、学会からの意見表明が反映されることを願っています。
 この逆風のなかにあって、歴代学会代表と常任委員会の努力が実り、美術館・博物館学芸員の科学研究費代表申請資格の取得が各館の個別申請により可能となり、すでに毎年いくつかの公私立の美術館博物館がその資格の取得に成功していることは喜ぶべきことです。
 したがいまして、学会員の研究活動の環境を大きく変えるような政策や外的な動向に対しては、今までどおり、美術史学会としてさまざまな形でアピールし、場合によっては要望書を提出していくことが必要です。
 一方、全学会員の皆様に対しては、これまでどおり学会活動に参加しやすい環境整備を目指していきます。しかし、学会の現状を冷静に分析しつつ、学会活動と運営について長期的な展望に立つとき、いささか不安なこともあります。
 第一に、学会員数は、入会者数と学会費未納による自然退会者をふくむ退会者数がほとんど拮抗しており、過去数年来、ほぼ横ばいの状態です。学会は会員の会費だけが収入源でありますから、特別の企画事業を展開しない限り収入の増加はあまり見込めません。一方で、学会の環境整備を充実するには支出の増加は必定です。環境整備の拡充のために貯蓄している環境整備費については、再び多少の積立ができるように努力していく方針でいます。数年前には会員資格を拡大して、入会者の増加を図る規約改正を行ないましたが、今のところ会員の増加を促進するまでには至っていません。将来的には団体会員とか賛助会員を募集するかどうかも、常任委員会においてあらためて検討していく必要があります。
 学会活動への会員の皆様の参加としては、学会誌への論文等の投稿と大会や例会での研究発表やパネラー発表だけでなく、なによりも大会および例会への参加が大きな柱でしょう。このため、できるだけ多くの会員が直接参加できるように常任委員会として引き続き努力していきます。しかし、掲載論文が増えると当然ながら編集出版費が増えますし、大会で研究発表数を増やすには、発表会場の制約の問題を考えなくてはなりません。特に、近年大会参加者が増加したことは、それ自体としてはまことに慶賀すべきことですが、日本東洋・西洋部会ともに350人以上を超える参加者を収容できる講義室や講堂などを複数備えた大学がほとんどないという、ゆゆしき問題があります。最近4回の全国大会は、大学生活協同組合学会支援センターに大会運営に協力していただいて、従来どおり当番大学の講義室・講堂・大会議室を利用して行いました。常任委員会で議論を重ねた末に来年度の第65回全国大会は、最終的に國學院大学に当番機関をお願いしました。今後は大会会場として学外のシンポジウム・コンフェランス専用施設などを高額料金で借り上げ、これまでどおりの当番大学による大会運営を続けていくべきなのかどうかは、特に喫緊の検討課題です。
 しかし、学会はこうした目先の問題や課題に対処するだけではいけません。今日、我が国の人文学全般が沈滞気味であると各方面から声があがり、人文学の再編の動きが表面化しつつあります。学会もまたこの機会に、終戦後まもない1949年の学会創設当時に立ち返って、学会創設の理念、ひいては学会を支える美術史研究の存在理由を問い直すことが必要であると思います。近年、全国大会シンポジウムを、外国人研究者を交えた発表や討論の場としたり、また外国人研究者による講演会等を開催することによって、会員の皆様が世界の美術史研究の動向の一端に直接触れる機会を増やしています。もとより美術史は、研究方法の点では、美学、歴史・文化学、精神分析学、文学、人類学、民俗学、宗教学などの隣接学問分野から影響を受けたり、あるいは影響を与えたりしながら発展してきました。それゆえ、美術史はかねてより学際的な研究を歓迎するとともに、その研究の領域も、今では絵画・彫刻・建築・工芸一般という、いわゆる「美術」だけでなく、広告ポスター、アニメ、まんが、テレビ・コマーシャル、ビデオなどメディア・アートにまで広がっています。また一方で、世界的にはいわゆる「世界美術史」の構築をめざす研究動向とともに、世界の各地域の伝統の上に独自の美術史研究方法を模索する動きが、美術史のグロバリゼーションとリージョナリズムの並行現象でもあるかのように、競合しています。こうした美術史の置かれた世界的な状況のなかで、学会が我が国の美術史の伝統を振り返り、今後どの方向に歩むべきかを慎重に考えることは、美術史が人文学の一研究領域として生き残るために欠かせないことであると確信しています。これに関連して、「平成25年度科学研究費補助金の「系・分野・分科・細目表」の改定」に対しては、日本学術振興会に三度にわたり美術史学会の要望を提出してきました。
 以上、昨年度から検討し、すでに文部科学省や日本学術振興会に要望していることに対しては回答を求め、また引き続き検討すべき課題に対しては一応の方針を提示するべく努めます。そのためには、学会員の皆様からのご意見を反映させながら、常任委員会の全委員と慎重に協議を重ねていくつもりです。
 最後に、2011年3月11日に起こった東日本大震災および原発事故被害に対する学会としての対応を検討することが新たな課題です。すでに5月の全国大会前日の東西支部合同常任委員会において、東日本大震災被災地域会員の学会費の免除を決定して、免除申請方法について本ホームページに掲載しました。一方、 被災地の美術館・博物館等文化施設が特別・常設展示や作品収集などの震災前の活動を十全に再開できるまでには、長い月日と資金を要することが予想されます。学会としても、その活動の再開・復旧に対して、今後、特に学術的な観点からの美術品の修繕・保管対策などを含む支援の仕組みづくりを検討し、積極的に協力していきたいと考えております。
 学会員の皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。

2011年6月20日

学会代表 小佐野重利

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