| 1.企画の背景 2.テーマについて 3.各パネリストの報告要旨 4.参考情報 |
1.企画の背景
アジア国際法学会日本協会の下部組織である国際法研究者・実務家勉強会(以下、アジア国際法学会勉強会)では、2007年10月より、実務上問題となっている国際法上の論点につき、弁護士その他実務家と国際法研究者との合同勉強会を開催している。これまで、国際条約の国内実施に係る問題を中心に、8回の勉強会を開催している。本ワークショップは、日本国際経済法学会のプログラムの一部ではあるが、アジア国際法学会勉強会企画の一つとしても位置づけられる。 |
2.テーマについて
著作権の権利制限に関しては、欧米では、フェアユース(フェアディーリング)に該当する場合には権利侵害とならないとする包括的な権利制限の一般規定を定めている国があるほか、韓国でも権利制限の一般規定を導入する動きがある。こうした中で、日本でも、2008年11月に公表された知的財産戦略本部デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告書「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について」では、コンテンツの流通を促すことなどを目的として、権利制限の一般規定(いわゆる日本版フェアユース規定)の導入を提言するなど、権利制限の一般規定導入をめぐる動きが活発化している(なお、第171回国会において、ネット検索エンジンサービスに伴う複製等に関する個別・具体的な権利制限規定を追加する等の著作権法改正法が成立している。文科省関連ホームページを参照)。
また、著作権の権利制限については、国際条約において、ベルヌ条約などで権利制限に対する一定の制約(いわゆるスリーステップテスト等)が設けられており、各国著作権法の権利制限規定は国際条約の国内実施規定としての側面も有している。
本ワークショップは、上記のような著作権の権利制限の一般規定をめぐる内外の動向および国際条約との関係を踏まえつつ、権利制限の一般規定導入に係る法的諸問題について議論することを目的とする。
具体的には、日本における一般規定導入を巡る議論、及び諸外国における権利制限規定をめぐる動向を分析し、あわせて、権利制限規定の運用において国際条約がどのように反映されうるか、また権利制限規定の運用が(たとえばWTO紛争処理制度において)国際条約上どのように評価されうるかなど、国際法と国内法の関係に係る問題を検討する。 |
3.各パネリストの報告要旨
「日本版フェアユース規定の導入をめぐる議論」 TMI総合法律事務所弁護士 牧山 嘉道
権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入する必要性の有無、及び権利制限の一般規定を導入する場合において検討すべき課題について扱う。
権利制限の一般規定導入の必要性の有無については、@権利制限の一般規定のない現行法における問題点(不当に権利侵害とされる利用行為の存在、新規ビジネスへの萎縮効果等)、A現行法上の個別規定の解釈論・改正等による解決の可能性と限界(個別規定の拡大解釈・類推適用、権利濫用、黙示的許諾等の解釈論、個別規定の改正、当事者間の協議等)、B導入の必要性を考える場合に検討すべき事項(権利者へ与える不利益、権利制限の一般規定の導入による経済的効果、比較法的観点、法社会学的見地、憲法的見地等)について検討する。
権利制限の一般規定を導入する場合において検討すべき課題については、@権利制限の一般規定の趣旨・目的(不当な結果の回避、技術の進歩への対応、新産業創出・ビジネス振興等)、A許容される利用行為の内容(許容される行為の範囲、権利制限の対象となる権利、主たる基準、許容される行為の内容を決める考慮要素、補償金支払制度等との関係、現行法の下での裁判所による判断の考慮等)、B具体的な規定の類型、C現行法上の個別規定等との関係(個別規定の改正・見直しによる調整等)、D関連する条約との適合性(ベルヌ条約、WIPO
著作権条約条等に規定されるスリーステップテスト等)、E著作者人格権との関係、F権利制限の一般規定の強行法規性、G刑事罰との関係、H実効性・公平性担保のための環境整備(裁判外での解決方法、権利者側の負担軽減等実質的な公平性の確保、ガイドラインの整備等)、I現実のメリット・デメリット等について検討する。
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「諸外国における権利制限規定をめぐる動向」 上智大学准教授 駒田 泰土
本報告においては、まず近年の諸外国における著作権等の制限規定に関する動きを簡単に紹介する。とくに2001年の欧州情報社会指令(2001/29/EC)の採択、その5条5項が定めるいわゆる3
step test*1が各加盟国に与えた影響について説明し、同テストを定めるベルヌ条約等との関係において、わが国はどのような立場をとるべきかについての示唆を得ようと思う。
ところで、わが国においては、現在、著作権等を制限する一般条項の導入に向けた議論が本格化している。これは、著作物等の利用手段が多様化した今日では、実質的には公正といいうる利用が形式的には侵害と評価されてしまう例が多くみられるようになり、現行法の解釈やその都度の個別制限規定の立法ではもはや対応できないのではないかとの問題意識の高まりを受けたものである。しかし、著作権等を制限する一般条項は、上述の3
step testとの整合性という点で議論があるため、その詳細な検討が一応必要である。本報告では、主として米国法110条5項に関するWTOパネル報告(WT/DS160/R,
2000)を導きの糸としながら、この点に関する欧州の議論を参照し、考察を深めることとしたい。
*1著作者(等)の権利が制限される場合は、一定の特別な場合に関するものであることを要し(第1ステップ)、また当該制限は、著作物(等)の通常の利用を妨げるものであってはならず(第2ステップ)、さらに当該著作者(等)の正当な利益を不当に害しないものでなければならない(第3ステップ)とする原則。
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「権利制限規定と知的財産権条約―理論上及び実践上の問題―」 早稲田大学准教授 福永 有夏
国内著作権法の権利制限規定と知的財産権条約の関係をめぐる理論上及び実践上の問題を扱う。
まず実践上の問題として、第一に、国内著作権法権利制限規定の知的財産権条約との適合性に注目する。とりわけ、WTO紛争処理制度において、権利制限規定そのものやその適用が、TRIPS協定の規定するスリー・ステップ・テストとの関係でどのように評価されるかを検討する。第二に、知的財産権条約が権利制限規定に与えうる影響を検討する。とくに、ベルヌ条約やTRIPS協定が、国内裁判所による権利制限規定の適用にどのような影響を与えているのか、また与えるべきかを論じる。なお、以上の分析を行うに当たっては、一般制限規定の導入に伴って生じうる帰結についても言及する。
以上の実践上の問題についての検討を踏まえつつ、国際法学における主要な理論的な課題についての考察も試みる。第一に、国際法と国内法の関係をめぐる問題について考察を加える。知的財産権条約は、締約国がとるべき国内政策について広範な規制を行うとともに、国内裁判所など国内手続による条約の履行確保を求めている。知的財産権条約の国内実施をめぐる問題は、国際法と国内法とに新たな関係が生まれつつあることを示唆している。第二に、国際法の分断性をめぐる問題についての考察も行う。知的財産権条約は、人権条約が保障する人権(たとえば表現の自由)との間に潜在的な衝突を含んでいる。スリー・ステップ・テストの適用は、知的財産権条約と人権条約との調整にかかわる問題を提起している。
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4.参考情報
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