| 法制史学会という学会について |
| ─ホームページ開設に寄せて─ |
| 法制史学会代表理事 |
| 石 井 紫 郎 |
| 法制史学会は「法制史に関する研究及びその研究者相互の協力を促進し併せて外国の学会との連絡を計ることを目的とする」(「規約」第三条)学会で、1949年に創立されました。当初の会員数は数十名だったと聞いていますが、現在の会員数は468名に達しています。 |
| 法制史という学問分野は、その名が示すとおり、法を対象とする歴史的研究を事とするものであり、法学の一分野であるとともに、歴史学の一分野でもあります。従って、法制史の研究者には、いわゆる法学の方面からこの道に入った者と、歴史学(通常は文学部に属する)の方面から入った者がありますが、本学会には、その両者の分け隔てなく、一定水準以上の研究業績があると理事会で認められた者は、みな会員(普通会員)として受け容れられています(「規約」第七条参照)。 |
| もっとも、どの大學でも、法制史を授業科目として置いているのは、通常は法学部であって、文学部系の学部がこれを置いているところは、国内外とも、私の知る限り、ないようです。その意味では、法制史は法学の一分野として自他ともに意識され、また制度上の取扱いについてもそのような傾向が見られます。例えば、本学会は日本学術会議の「登録学術研究団体」の一つですが、分野別の「区分」に関しては、同会議第二部(法律学、政治学)に属しています。 |
| しかし、研究の対象や方法において、法学部の法制史と文学部の法制史の区別があるわけではないですし、文学部の研究者の法制史が傍流とみなされるべきでもありません。かつては法学的論理を駆使した精緻な法学部的法制史と史料的実証を重視する文学部的法制史との違いが説かれたことがありますが、現在ではほとんど誰もこのような区別をすることが正当なものとは考えていないでしょう。 |
| 「法学的論理」などというものは、仮にあるとすれば、それは近代西欧法特有のものであって、それが通用する研究対象など、どの地域・どの時代の法をとってもほとんど見当たらないものであり、それを使って法制史をやろうとしたら、ほとんど常に仮想的問題設定による「空振り」か「無いものねだり」に終わってしまうことは明らかです。むしろ真の意味での法制史は、我々(現在の法学者)が知らない、各地域・各時代 に固有の「論理」を探り出すことを使命とするものなのではないでしょうか。実際、我々はこの使命達成に向けて、法学部・文学部の区別無く一緒に議論し、共同研究をしてきています。 |
| ただ、もし「法」と「文」で違いがあるとすれば、それはやはりカリキュラムの中に法制史という科目があるか否か、従って、「法」とは何か、を教える教授団の一員であるか否か、から来る意識の違いではないかと思われます。自分が専門とする地域・時代に固有の「法」の構造的特徴を提示しつつ、現行の法システムや法思考、さらに法学の相対化を行い、それを通じて、流動的な現在社会に適合する法創造への道を、学生に示唆しようとする意識が強いか否かの問題です。 |
| もし、成功しているか否かはともかく、このような意識さえもたないで教育するのなら、その「法制史」は法学部には不要のものではないでしょうか。法制史学会は、冒頭に述べたように「法制史に関する研究及びその研究者相互の協力を促進」することを主たる目的とした学会であり、その意味では「法」・「文」の分け隔てない活動が求められるし、実際にもそうしていますが、事、法学部の法制史教育に関する限りは、上述のような意識に貫かれた問題設定に基づいた活動が求められると思います。 |
| そして、これこそが、「ロースクール」化の荒波の中で、法制史が毅然たるプレゼンスを主張する道ではないでしょうか。 |
| (2002年8月1日) |