物理教育委員会
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52期委員会報告


   日本物理学会物理教育委員会第52期報告   1997.8.20

           第52期物理教育委員会委員長  櫻井捷海


1.総括

 現在、大学設置基準の大綱化による教養部解体により大学での基礎物理教育に関していろいろと問題が顕在化してきている。また、今期中に、中等教育に関連しては中央教育審議会の第一答申への意見聴取、2次答申(とりまとめ)の公表、教育課程審議会の発足等の動きが予想されていた。これらにも対応でき、また、理事会からの委員会に対する要請にも対応できるように、今期の委員会では1回会議おいて下記の示すような活動方針を決め、委員会活動を開始した。

・「大学の物理教育」の刊行と基盤強化を図る。
・大学の基礎物理教育の諸問題と現状の調査を行う。
・中等教育に関連した「指導要領」「大学入試」「語りかけ」の3ワーキンググループの活動に今期で区切りを付け、報告書を作成する。
・課程審議会で教科内容を決めることなるので、ヒアリングに対して物理学会として必要な要望を行うための準備を行う。
・会長・理事会と相談しながら他学会とより公式な連携協力関係を模索する。
・学会地方支部の教育活動との連携と支援を図る。
・物理学会の事業として中高生外部に向けた啓蒙事業を行えるような整備を行う。
・物理教育の国際交流を促進する。
・理事会からの要請事項に取り組む。
・一般会員に情報を提供できる委員会のホームページを作る。
・委員会と理事会との意志疎通を計るとともに、委員数、任期、選出方法を含めて、物理教育委員会が支障無く機能し、活動できるように委員会規定を検討する。

 委員会は上記の活動方針に従って活動し、おおむね初期の目的を達成した。櫻井委員長は委員会の活動方針を理解して戴くために、1997年11月2日に米沢会長と懇談した。12月7日の理事会には兵頭委員ともに出席し、委員会の活動状況とそれに対する理事諸氏の意見を伺った。委員会からは特に「課程審議会への要望書提出の件、広くは物理学会として物理教育問題に関してどう取り組むか」に関して見解を伺った。「物理学会は研究上の利益を目的とした団体であり、組織自体が会としての意見をまとめて意志表示出来るような構造になっていないので、教育問題のような意見の分かれる微妙な問題に対するコメントは控えた方がよい、また、このような性質をもった物理学会の制約下に委員会は行動すべきである」との見解であると理解した。また、大学の基礎物理教育と外部への語りかけに関する委員会活動は評価され、報われた感があった。今期までの委員会が中等教育にウェートが寄りすぎていたとの指摘を受けたが、これは理科離れをはじめ、次期の国家の教育指針を決める中教審、課程審での議論に物理学者として影響を与えるべく、緊急に対策を考える必要があったからである。理事会の示唆も受け、次期委員会の方針は大学の基礎物理教育のウェートが移って行くものと思われる。

 確かに、中等教育問題を物理学会が直接に扱うことは、学会の性質からなじまないことは委員会としても良く理解しているが、物理学の専門家が2万人近く集まった物理学会は社会から見解を求められたり、役割を期待されることは避けられない状態にあることは紛れもない事実である。いろいろな考え方の人の集まりである物理学会が統一的な見解を出すことが出来ないのは当たり前であるが、物理学会として物理教育委員会のような委員会をもち、常に中等教育を含めて物理教育問題を考えて、議論しておくことは非常に大切なことで、また、これは物理学会としての社会的な責任でもあるとも考えている。会長・理事会が物理教育委員会に問題の検討を諮問するなど、本委員会を有効に活用されることを望んでいる。たとえば、最近話題となっている教育上の特別措置「飛び入学」では、数学と物理学がその対象となっているので、委員長としては、物理学会で議論し、統一見解は出せなくとも何らかの見解を出すべきであったと考えている。

2.教育誌「大学の物理教育」の発行

 この期の編集委員は、房岡秀郎(委員長、愛知医大)、赤羽明(埼玉医大)、柴田利明(東工大理)、鶴岡靖彦(東海大開発工)、長島弘幸(静岡大理)、並木雅俊(高千穂商大)、波田野彰(東大院総合)の7名である。予定通り、11月に96一3号(63頁)、3月に97−1号(64頁)、それに7月に97−2号(63頁)を発行した。96−3号は、「物理と数学」に関して、多くの執筆者により大学の基礎および専門教育、それに高校教育における諸問題を物理学の視点からだけではなく、数学の立場からも論じてもらい、それを特集とした。97−1号は、大学設置基準大綱化以後の物理学基礎教育の変遷を語り・論じてもらい、これを小特集とした。97−2号は、隣接分野との関連および文系物理教育に関する評論も掲載した。これら3号の執筆者合計は75人であった。編集するには、物理教育を狭い意味でとらえることなく、可能な限り、多様で、自由度の大きな雑誌となるよう心掛けた。現在、「大学の物理教育」は広範囲にわたる物理教育の議論と情報の交換の場として定着しつつある。

3.ワーキンググループの活動

 前々期(第50期)委員会では中等教育関連の諸問題に対応する3つのワーキンググループ(WG)を発足させた。今期の委員会はそれをそのまま継承した。それらのWGの活動について簡単に報告する。今期をもって全ワーキンググループの活動を終焉し、委員会活動が有効に行える新たな活動形態を模索する予定である。

(a)大学入試に関するWG

メンバー:原 康夫(責任者、筑波大物理) 阿部龍蔵(放送大学)
     宇野正宏(文部省)       川村清(慶大理工)
     高野文彦(元大学入試センター) 広井禎(筑波大付属高)

 大学入試の問題と試験方法は、「高校でなにを教え、なにを学ぶか」、すなわち、高校教育の根幹に大きな影響を与えている。大学入試WGは、昨年度の「入試問題作成・採点・フィードパック等の案施体制の調査とその改善のための提案」、「物埋の大学入試問題改善のための提案」等を行ってきたが、これに引き続き、今年度は過去45年間にわたる東大、慶応大学、東京教育大・筑波大の3校の入試問題の変遷を分析し、これらの大学において物理の大学入試問題は年々難しくなっていることを事実に基づいて示した。
1996年12月で調査研究を終了し、それまでの調査研究の成果を科学研究費補助金による研究「高校物理教育と大学基礎物理教育の接続の改善」(研究代表者;原康夫)の研究報告書(筑波大学大学研究センター)にまとめて発表した。

(b)学習指導要領に関するワーキンググループ

メンバー:兵頭俊夫(責任者 東大院総合) 小林徹郎(福井工大工)
     宇野正宏(文部省)       榊原道夫(東海大理)
     滝川洋一(ICU高校)     遠山絃司(文部省)
     中山正敏(九大理)       広井禎(筑波大付属高)
     房岡秀朗(愛知医科大)     湯口秀敏(浦和第一女子高)
     笠 耐(上智大理工)

 このWGは初等中等教育を規定している学習指導要領について検討することを目的として組織された。第50期に「中間まとめ」、第51期に「問題提起」をまとめている。3年目の今期は、中央教育審議会が第1次答申の検討に入り、教育課程審議会の審議も始まった時期に当ったので、中教審1次答申に対する意見と課程審への要望書をまとめる作業を中心に行った。そのために10月19日、11月22日、1月24日と3回の会合を開き、提出すべき要望書の内容を検討した。1次答申に対する意見書は時間的に間に合わず、また、課程審への次期教育課程に関する要望書に関しては、第52期理事会が2月の理事会において要望書は提出しないとの結論に達したので、要望書をまとめる作業は中止した。なお、本WGの3年間の活動の概要については、小林(K郎前責任者による「物理教育」第45巻第3号p.180の記事を参照されたい。

c)小中高生への直接的語りかけに関するワーキンググループ

メンバー:波田野彰(責任者 東大院総合文化) 兵頭俊夫(東大院総合文化)
     金城敬一(学芸大附属高)      櫻井捷海(東大院総合文化)
     高畠勇二(茗台中)         広井禎(筑波大付属高)
     増子寛(麻布中・高)

 今期は前期に引き続き、国立科学博物館・日本物理教育学会との共催事業「創造的科学学習推進事業」の実行と、科学研究費「研究成果公開促進費」研究成果公開発表(B)による中高生向けの公開シンポジウムの支援を中心に活動を行った。
 国立科学博物館との共催事業は「物理のファンタジー」というキャッチフレーズで(1)「光の不思議と謎を探る」(湯口秀敏他)1996年9月28日 (2)「空気と音の不思議と謎を探る」(増子寛他)1996年10月26日 (3)「エネルギーの不思議と謎を探る」(大井みさほ、金城啓一、濱本悟志他)1996年11月23日というテーマで行った。また、科研費「研究成果公開促進費」研究成果公開発表(B)「超伝導への招待」(上智大学10号館講堂:1996年11月10日)の支援を行った。

 一方、今期の会計年度1997年の「創造的科学学習推進事業」は最終年度に当たり、この事業を1998年度以降、物理学会が主催する外部への語りかけの一貫として土曜日の午後を利用した中・高校生20名程度を対象とした「楽しい物理実験室(仮)」(場所:国立科学博物館新宿分館)を国立科学博物館、日本物理教育学会との共催として恒常的におこなう行うことが理事会で認められ、これに関して講師の募集、国立科学博物館、WG、および講師間の連絡に関わる文書、実施要領の書式などを整備し、1997年度をそのための試行期間と位置づけた。そして、第一回「放射線をつかまえる」(三門正吾)を7月26日に実施した。

 また、本年度の科研費「研究成果公開」による高校生のための公開シンポジウムは”複雑系の物理入門”---生き生きと創造する自然の姿---”というテーマで1997年11月9日(日)に早稲田大学理工学部で行われる。なお学会主催の公開シンポジウムをWG解散後の来期以降も本委員会が支援することを提案し、理事会で認められた。

4.他学会との協力

 昨年度に応用物理学会、日本物理教育学会の間に物理関係三学会教育問題連絡会が設けられたが、委員の個人的なレベルでの接触にとどまり、委員会レベルでの接触はなく、連絡会は休眠状態である。日本化学会、日本数学会ともに委員の個人的なレベルでは緊密な関係が保たれている状態ではある。科学離れというよりは、学問離れの風潮が広まってきている現状を見ると、これに歯止めを掛けるには、学会間の交流と協力関係の確立が望まれる。

5.大学基礎物理教育に関する検討

 大学設置基準の大綱化の「波」による教養学部の解体などにより、基礎教育の実施組織が分散し、大学の基礎物理教育の現状・実態はつかみにくくなっている。物理教育委員会としては「大学の物理教育」誌などを通じて、情報の交換、問題点の整理、その対策など、全国的な議論が喚起されることを期待して活動してしている。今期の委員会では、大学の物理の基礎教育をめぐる諸問題を整理し、現状を明確にするための初段階として、諸学部・諸学科の物理教育の情報を提供できるコンタクトパーソンを探し出すためのアンケート調査を行い、現在回収段階である。これをもとに本調査の項目、調査方法等を検討中である。

6.国際交流

 小林昭三委員がアジア地域の物理教育における新技術に関するASPEN会議(Asian Physics Education Network)(1997/10/22-29)に物理学会の旅費援助を受けて参加し、パネラーとして物理教育におけるインターネットウェブと新技術の利用について講演した。先端技術を持つ日本としてはインターネット時代の新物理教育法に関してさらに力を入れて取り組むべきであるとの印象を持ったとの報告があった。

 理事会の要請で物理オリンピック(IPO, Internatinal Physics Olympiad)への参加の可能性関して資料調査し、議論した。日本が参加することは有意義であると思われるが、現時点ではかなり無理であり、日本の公共物理教育の現状、選抜・派遣に伴う諸問題、将来開催国となったときの生徒受け入れ、実験実施、財政的な基盤などを十分に見極めてから参加するのが望ましいとの結論に達した。

7.今後の課題

 第53期物理教育委員会はつぎの事項について力を傾けるべきであると考える。
(i)中等教育に関連した3つのWGは今期で解散することになったが、学会は物理学の専門家集団として初等中等教育にも引き続き関心を持ち続けるべきであろう。
(ii)今後、定常的に小中高生や理科の教師など外部に対し学会として語りかけ活動のできる方策と基盤を整備するよう努力することが望まれる。

(iii)大衆化と設置基準の大綱化により起因した大学の基礎物理教育の諸問題に関しても事実調査とその対策などに積極的に取り組むべきであると考える。

(iv)教育誌「大学の物理教育」に関しては、内容のさらなる充実はもとより、購読継続方法の簡素化、新規購読者への宣伝方法などを検討し、多数の購読者を確保するとともに、広く物理教育の議論と情報交換の場を提供していくべきである。

(v)物理教育のホームページの開設を行い、今期から依頼した各地方支部の連絡員を通じて、物理教育委員会の審議内容を会員各位に理解していただくとともに、地方支部・会員との物理教育関係の情報交換を活発化するべきであると考えている。

8.第52期物理教育委員会委員

委員長 櫻井捷海(東大院総合)
幹 事 川村 清(慶応大理工) 並木雅俊(高千穂商大)
委 員 伊藤寛(香川大教育)  遠藤一太(広島大学理)
    小沼通二(武蔵工大)  小林昭三(新潟大教育)
    小林徹郎(福井工大工) 監事就任のため4月1日付で委員を辞任)
    塚田 捷(東大理)   直江俊一(金沢大教養)
    波田野彰(東大院総合) 原 康夫(筑波大物理)
    兵頭俊夫(東大総合)  松澤通雄(電通大電子物理)
    宮脇澤美(中部大工)  笠 耐(上智大理工)
                      (以上16名)