第4回空の旅医学研究会報告書

期日:平成13年2月26日 (月) 18時00分〜20時00分
会場:羽田空港西ターミナル ギャラクシーホール

シンポジューム

”いわゆるエコノミークラス症候群の現状と問題点”


肺塞栓症の診断
東京慈恵会医科大学 吉村 邦彦

突然死と肺動脈血栓塞栓症 -長時間座位の影響について-
東京慈恵会医科大学 一杉 正仁

航空機旅行に伴う肺塞栓症(エコノミークラス症候群)21例の臨床的検討
成田赤十字病院 森尾 比呂志

いわゆるエコノミークラス症候群の現状と問題点 
日本医科大学新東京国際空港クリニック 牧野 俊郎

いわゆるエコノミークラス症候群について
(財)航空医学研究センター   三浦 靖彦


座長 : 東急病院院長 (東京慈恵会医科大学名誉教授 )   酒井 紀
(財)航空医学研究センター     所長   津久井 一平

肺塞栓症の診断
東京慈恵会医科大学 呼吸器内科 吉村 邦彦


いわゆる"エコノミークラス症候群 (economy class syndrome)"は正式な医学用語ではなく、本症の実態は深部静脈血栓症(deep vein thrombosis, DVT)に伴う急性肺動脈血栓塞栓症(acute pulmonary thromboembolism,PTE)である。
急性肺血栓塞栓症(PTE)

疫学
DVTに起因するものが大半を占める。
本邦では過去10年でPTEによる死亡者数は2.8倍に増加。
PTEの致死率は20-30%と高いが、本症の生前診断率は必ずしも高くない。
DVT由来の塞栓の分布は、両肺65%, 右肺25%, 左肺10%であり、下葉が圧倒的に多い。
血栓形成の危険因子:糖尿病、肥満、高脂血症、下肢静脈瘤、経口避妊薬や女性ホルモンの使用など。
病態生理学上の特徴:肺高血圧症、肺胞過換気、低酸素血症、肺梗塞。
臨床症状:呼吸困難、過呼吸、不安、落着きのなさ、咳嗽、血痰、喀血、胸膜性疼痛、発熱、胸水。
確定診断方法
前述の自他覚症状、理学所見。
胸部X線所見、心電図所見、血清酵素値、動脈血ガス分析、肺血流スキャン(Tc-99m MAA)肺換気スキャン(Xe-133)、肺動脈
造影、下肢静脈造影(深部静脈血栓の確認)。
治療
対症的治療(鎮痛薬,鎮静薬,交感神経刺激薬,酸素吸入)、血栓溶解療法、肺塞栓摘出術(重症ケース、発症1時間以内)、
抗凝固療法。
予防
抗凝固療法、間欠的空気圧迫(intermittent pneumatic compression, IPC)
段階的弾性素材ストッキング、下大静脈内フィルタ?の挿入。
突然死と肺動脈血栓塞栓症 -長時間座位の影響について-
東京東京慈恵会医科大学 法医学講座 一杉正仁

 肺動脈血栓塞栓症(PTE)は突然死をきたす疾患で、診断には剖検による正確な原因究明が必須である。血栓形成の原因として、長期の安静座位による下肢血液の鬱滞から局所静脈内の血液粘度の亢進があげられている。しかしながら、長時間安静座位の前後での、血液レオロジー変化を検討した報告はない。

実験目的:長時間安静座位の前後における、下肢血液のレオロジー変化を検討する。
方法
被検者は 9人の健常男性(20〜22歳、非喫煙者)。
室温22〜24度、湿度40〜50%の室内で、2時間安静座位。
前腕および下腿の静脈から採血、振動式粘度計を改良した装置で血液粘度を測定。
結果
前腕静脈血の粘度に有意な変化はなかった。
下腿静脈血の粘度は有意に上昇。
下腿は著しく浮腫状となっていた。
結論:日常生活空間での2時間の安静座位で、下腿静脈血のうっ滞が生じ、易血栓形成状態となることがわかった。
航空機旅行に伴う肺塞栓症(エコノミークラス症候群)21例の臨床的検討
成田赤十字病院内科 森尾比呂志、藤森義治、寺沢公仁子、志賀孝、松尾哲 、尾世川正明


欧米では航空機旅行による肺塞栓症はエコノミークラス症候群と呼ばれ、報告も多いが我が国の報告は限られている。

肺塞栓症例の臨床像
対象:1994年より2000年までに当院で経験した航空機旅行による肺塞栓症21例。
性別・年齢:男性2例、女性19例。平均60.3±9.8才で、1例を除いて40歳以上。
身長・体重・肥満
平均身長:156.8±6.5cm 。平均体重:59.3±8.2kg。
平均BMI (Body mass index):24.1±2.6。
160cm以下の低身長者:15例。 BMI> 25 の肥満者:3例。
リスクファクター:14例でリスクファクターあり。
下肢静脈瘤(n=6) 悪性疾患の既往(n=2) 肺塞栓症と思われる既往(n=2)
慢性疾患(高脂血症、高血圧症、子宮筋腫、パーキンソン病)の存在(n=10)
経口避妊薬服用(n=1) 喫煙(n=1)  
フライト
飛行時間:全例8時間以上。座席のクラス:全例エコノミークラス。
座席位置: 窓側7例、真ん中8例、通路側5例、不明1例。
発症前に席を立った回数:14例が0回。
症状
症状:呼吸困難、胸痛、動悸、意識消失等。
発症した場所:機内が10例。残り11例は空港内。
症状の特徴:多くの症例は初めて席を立った直後に発症。
転帰:全例軽快退院。
いわゆるエコノミークラス症候群の現状と問題点
日本医科大学新東京国際空港クリニック 牧野 俊郎

日本医科大学新東京国際空港クリニック(空港クリニック)は、開業以来8年間に延べ約11万人の外来患者に対応した。

クリニック受信患者の内訳(最近6ヶ月の総数7386名、一日平均患者数は40.4名)
空港勤務者4533名(61.4%)、乗務員478名(6.5%)、旅客2072名(28.0%)
その他303名(4.1%)、外国人595名(8.1%)。 
クリニックでの死亡例:過去8年間に46例死亡。
男女比は14:9。年齢は14〜84歳 (平均60歳)。
旅客42例(91.3%)、空港勤務者2例(4.3%)、乗務員・その他が各1例(2.2%)。
死亡原因:肺梗塞25例(54.3%)、急性心筋梗塞9例(19.6%)、 頭蓋内出血及び脳梗塞4例(8.7%)
末期癌による悪液質2例(4.4%)、その他6例(13.0%)。

千葉北総病院集中治療部へ転院搬送例:過去2年間に31例。
虚血性心疾患13例(41.9%)、肺梗塞12例(38.7%)、その他6例(19.4%)。
肺梗塞12例
年齢48〜78(平均62±9歳)、男女比1:11。
死亡2(男0、女2)、社会復帰10(年齢48〜78、平均61±9歳、男女比1:9)。
いわゆるエコノミークラス症候群について
(財)航空医学研究センター   三浦靖彦、福本正勝、津久井一平


「いわゆるエコノミークラス症候群」の歴史
1940年、ロンドンの防空壕内に非難していた住民が肺血栓症で多数死亡。
1954年、長時間の航空機利用により発症した下肢の深部静脈血栓症。
1968年、長時間航空機利用による深部静脈血栓が、卵円孔を通過し、脳血栓で死亡。
1977年、Symingtonが航空機利用後に発症した3症例を報告。初めて「エコノミークラス症候群、以下s-ECS」という名称を使用。
わが国における現況について
1996年、わが国の医学雑誌で初めてs-ECS例が報告。
2001年3月現在、わが国の医学会で報告例は合計で37例(重複あり)。
うち、死亡は2例。他は全例後遺症なく軽快。
「s-ECS」の今後
日本人の肺血栓症を起こす確率は人口100万人に対し年間28人。
肺塞栓による死亡はこの10年間に2.8倍に増加。
診断法の進歩や、医師の認知度の上昇なども増加の一因。
また、航空機利用者の爆発的増加。
今後も肺血栓症は増加することが予想。
「s-ECS」のRisk Factor
血液凝固能の亢進:妊娠・出産直後、経口避妊薬内服中、先天性凝固異常症
悪性疾患(癌など)、生活習慣病など
血流の停滞:長時間座位、長期臥床、静脈瘤、心不全など
血管壁の損傷:手術・骨折後、カテーテル留置、生活習慣病による動脈硬化
「s-ECS」の予防
適切な水分摂取、飲酒を避ける、足の位置を頻回に変える、足のストレッチ運動または下肢のマッサージ。
ゆったりした服装を心がける
但し、タービュランス(乱気流)による負傷事故も問題視されているため、飛行中に機内を歩き回ることは推奨できない。

日本航空健康管理室 大越裕文 編集

 

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