日本児童青年精神医学会(The Japanese Society for Child and Adolescent Psychiatry)とは
西暦 1960年11月16日
会員数: 2776名 会員の構成:正会員2384名 団体会員375名 名誉会員12名
(2002年8月現在)
わが国においては、すでに20世紀の初頭名古屋大学医学部精神科および東京大学医学部脳研究室に児童部が開設された。戦後、児童福祉法の制定によって児童相談所が設置されると共に、国立国府台病院児童病棟、東京都立梅ヶ丘病院が開設され、国立精神衛生研究所に児童精神衛生相談部が設置された。
1950年代後半から、幼児自閉症および登校拒否の症例報告がなされはじめ、児童精神医学への関心が一気に高まってきた中で、1958年、日本精神神経学会に「児童精神医学懇話会」が創設され、多くの研究者・臨床家が参加した。1960年に雑誌「児童精神医学とその近接領域」が創刊されたのを機に、同懇話会が発展的に解消して「日本児童精神医学会」が設立された。
1970年代後半より青少年の心の健康に関する関心が高まり、乳幼児期から青年期までを視野に入れた研究領域が必要となり、1982年、学会名を「日本児童青年精神医学会」に変更し、学会誌名も「児童青年精神医学とその近接領域」とした。
1990年7月、アジアではじめて、国立京都国際会館において第12回国際児童青年精神医学会を開催し、1996年4月には、本学会が中心となってアジア児童青年精神医学会を創設し、東京・虎ノ門パストラルで第1回学会を開催した。さらに、1999年5月には、ソウル(韓国)で第2回学会を行った。
「現在までに、全国に8つの地方会および関連研究会が設立され、定期的な学会活動を続けている。そこでのテーマはその時々に関心の高いテーマで,ADHD,摂食障害,広汎性発達障害,不登校,引きこもり,学習障害,学級崩壊,携帯電話とメンタルヘルス,薬物使用の問題,等などが取り上げられている.」
国民的課題としても,21世紀における国民運動としての「健やか親子21」には、「思春期の心の問題」が大きく取り上げられ、「児童青年精神医学」の確立が強い社会的要望であるとして明記された。今ほど児童青年精神医学の展開が期待される時はない。
本学会の独自性
「本学会の構成員としては,精神科医師,小児科医師,臨床心理技術者,教師や養護教諭等学校・教育関係者,児童福祉関係者,司法関係者,保護者,などからなる子どもに関係するあらゆる分野の専門家が参加している.この分野のチームケアないし各分野の連携の重要性を反映し,子ども達に関与するあらゆる人達がこの分野に貢献している.」
児童青年精神医学は、子どもが示す多彩な問題行動や精神身体症状を検討し、発達レベル、気質および生物学的背景、家族力動、友人関係、保育所・幼稚園・学校における行動などを総合的に評価し、発達的視点を重視した診断・治療・予防を行いながら、子どもの精神的健康の達成を企図するものである。対象とする疾患群は、
A 発達障害(精神遅滞、自閉症、特異的発達障害など)
B 神経症性障害(拒食・過食などを含む心身症的障害・
いじめ・暴力・学級崩壊・自殺・薬物乱用を含む情緒・行動障害など)
C 器質性障害(器質性行動障害、注意欠陥多動障害など)
D 精神病性障害(感情障害、精神分裂病など)
E パーソナリティ障害(性格傾向の偏り、ボーダーライン・チャイルドなど)
F 家庭生活における諸問題(乳幼児の虐待、養育拒否、崩壊家庭など)
である。
「最近では疾患より,メンタルヘルス(精神保健)を対象とした活動にも高い関心が寄せられている.阪神淡路大震災を契機に災害時のメンタルヘルス,不登校,学級崩壊,いじめ(いじめられ)等の学校精神保健,時代を反映したIT(携帯電話やコンピュウタ‐)と子どもの心,薬物への誘惑等は,今日的課題としてますます重要視されている.」
「世界各国におけるこの分野の育成・発展は,それぞれの国情を反映し,様々な段階にある.欧米では、すでに1950〜60年代に児童青年精神科医療が確立されており、独立した地位を確立している.
国際化が叫ばれる現在、わが国ではまさに児童青年精神医学が市民権を得,独立した医療の一分野となる事が切望されている.特に少子化がすすむ中で、子どもの精神発達や障害の問題はますます重要な取組むべき問題とされる.」次代を担う青少年の健全な育成を考えるとき、児童青年精神医学の確立は緊急な課題である。
日本児童青年精神医学会は、「児童青年精神医学とその近接領域の向上発展のために、それらの研究を促進する」(会則第2条)ことを目的として1960年に創立され、その実現のため学術研究のみならず関連する諸領域の臨床と実践に係わる広範な現実的諸課題にも積極的に取り組んでまいりました。今日、国内外の児童青年期精神科医療ならびに近接領域の実践は拡大・発展を続け、多くの成果を結実させております。反面、近年の急速な医学研究の進歩と社会の変化によって、日々さまざまな新たな課題に直面しております。
日本児童青年精神医学会はこのような状況に鑑み、児童青年精神医学の向上と21世紀に生きるすべての子ども(児童および青年)の幸せを願って、ここに学会が進むべき基本理念を明示します。同時に、会員は常にこの基本理念を堅持すること、学会のすべての組織機構はこの理念の実現のために機能することを、宣言します。
1.会員は、全ての子どもを掛けがえのないパートナーとして、その尊厳と人権を尊重し、児童青年精神医学が保健・医療・福祉・教育・司法等の向上発展に寄与するよう、献身しなければならない。
1 会員は、全ての子どもを掛けがえのないパートナーとして、その尊厳と人権を尊重し、児童青年精神医学が保健・医療・福祉・教育・司法等の向上発展に寄与するよう、献身しなければならない。2 会員は、本学会がその学術的根拠を児童青年精神医学とその近接する学際的領域に広く求めることに留意し、高い科学的水準・関連諸領域との協力・公正な国際的視野に基づいて、契約関係にある子どもの最大の利益に反するような諸条件の変革に努力する責任を有する。
3 会員は、臨床・研究・教育ならびに社会的活動を行うに当たって、各々の所属する臨床専門分野に置ける科学的水準と専門的能力を維持すると共に、各分野が定める倫理的規範を遵守しなければならない。
4 会員は、市民として国内法を遵守すると共に、臨床・研究活動に従事するときは、国連による「児童の権利に関する条約」「障害者の権利宣言」を始めとする国際法を遵守せねばならない。既成の条文が有効でない新たな課題に対しては、関連学会、医師会、諸官庁など関連機関が発布する綱領・宣言・提言などを尊重し、それらの内容に齟齬が存在する場合は速やかに本学会に検討を求め、最も高い倫理的基準の普遍化に努力しなければならない。
5 会員は、契約関係にある子どもの権利、その家族の権利、同僚および他の専門職の権利を尊重しなければならない。
6 会員は、契約関係にある子どものケアに当たっては最大限の責任を負う。会員は守秘義務を遵守し、法の制約の下で契約関係にある子どものプライバシーを完全に保護しなければならない。
7 会員は、子どもが成長発達の途上にあることを深く自覚し、全ての子どもが最大の利益を自己決定するための最善の環境を準備しなければならない。とりわけ世界中の子どもが自然環境、社会価値、科学技術等の地球規模における変動の時代に生きている多難さを常に念頭において、個体差・個性の差異・ジェンダーの選択・国籍・人種などいかなる差異によっても公正さが侵害されることなく、子どもたちが多様に共生できる諸条件を整備する責務を有する。
8 会員は、全ての人の児童青年精神医学へのアクセスを支援し、児童青年精神医学とその近接領域に関する知識や情報を公表すると共に、地域社会の改善、メンタルヘルスの向上に寄与しなければならない。
9 会員は、学会を民主的に運営し、本理念等学会の定める規定を侵害しない限り全ての会員が完全な自由の下で活動できる条件を整備すると共に、相互に研鑽と点検を行う責務を負う。
(前文)
日本児童青年精神医学会は、1996年8月の世界精神医学会総会において採択された「マドリード宣言」と1999年8月の同総会で承認された倫理ガイドライン特別項目を基本にして、ここに会員の遵守すべき倫理綱領を制定する。
今日、国内外において子ども(児童及び青年)の精神保健をめぐる深刻な問題が多様に出現しており、その背景には家族・学校・地域社会における人間関係や慣習、生活環境、文化の変貌等がある。そのため、児童青年精神科医をはじめとして臨床と実践の仕事に携わる専門家への期待が世界的に高まっている。
さらに、精神科医療、保健、福祉、教育、司法等対人援助分野の専門性に対する社会の意識も大きく変化し、各分野の専門家と子どもとの関係のあり方、治療・援助方法などに変更を求め、研究上また臨床上において新たな倫理的基準を求めるようになってきた。
医療は、癒しのサイエンスであり、かつアートである。この組み合わせのダイナミクスは、精神的に病み、また障害をもつものを保護し、ケアし、治療することを専門とする精神科医療、とりわけ児童青年期精神科医療において顕著に現れている。ここでは、治療的介入や研究活動が子どもの心身の機能および人権に対して侵襲的なものにならないよう十分な配慮が必要である。
1 (基本原則)
児童青年期精神科医療は、子どもの精神障害などに対して、最良の治療を提供し、かつ精神的に悩む人達のハビリテーション、精神保健を含めた予防医学的活動の推進、心身の発達支援を目指す児童青年精神医学を中心とした学際的領域である。
会員は、子どもに対して習得した科学的知識と臨床経験並びに倫理的原則に調和した最高の治療・援助を提供するよう努める。
会員は、契約関係にある子どもへの制限が最小限になるような治療的介入を工夫し、必要があれば他分野との連携を積極的に図る。また、会員は保健資源の公正な配置に注目し必要があればその改善のために努力する。
2 (会員の義務)
会員は、この分野の科学的知識・技術の習得の義務とともに最新の知識を他に伝達する義務をもつ。また、研究に従事する会員には、科学的に未開拓な領域の発見と検証に努力する義務がある。
3 (国際協力)
会員は、国際的視野と見地の下で臨床と研究を進めるとともに、国内外の専門家と協力して世界の子どもたちの精神保健の維持と改善に努力する。
4 (発達する存在への配慮)
会員は、治療や援助の対象としている子どもが急激な発達的変化の途上にあることに十分に留意しなければならない。
子ども期は発達上の個人差が著しく、症状の変化も激しい時期にあるので評価は慎重でなければならないし、薬物の使用などの医療的処置やその他の臨床的対応にも慎重でなければならない。
契約関係にある子どもが年少であったり、障害のために的確な判断ができない場合は、会員は保護者と十分に話し合いを行い、子どもの人間としての尊厳と権利を保護するために法的助言を求める。
治療援助を行わなければ、子どもまたは子どもの周囲の人達、あるいは両者の生命と安全を危険に晒すことになるという場合を除いて、会員は子どもまたは保護者、あるいは両者の意思に反した治療はいかなるものも行うべきではない。
5 (インフォームド・コンセント)
会員が一人の人を調査・評価する場合、その目的、その結果の用途、その結果によって起こり得る影響を、調査・評価される当事者および/または保護者に告知・説明し、理解・了承を得る努力をする義務がある。会員が第3者的状況にかかわっているような場合、これは特に重要である。
会員は、諸種の事情で契約関係にある子どものインフォームド・コンセントを得られない場合であっても、アセントを得る努力はするべきである。
治療・援助過程において、子どもとその保護者はまさしくパートナーとして認められるべきである。治療・援助者と子どもおよび保護者との関係は、子どもおよび保護者が十分な情報を得た上で自由に自己決定ができるように、相互信頼と尊敬に基づかなければならない。また、会員は、子どもとその保護者が自身の個人的価値と考えに基づいて合理的な決定ができるように、必要な情報を提供していかなければならない。
6 守秘義務)
治療・援助関係の中で得られた情報は守秘されるべきであり、その子どもの精神保健の改善にのみ用いられるべきで、それ以外に使用してはならない。
会員は個人的理由で、また経済的あるいは学問的な利益のために、契約関係にある子どもに関する情報を本人や家族の了解なしに使用することも禁じられる。
守秘義務の不履行は、秘密を保持することによってその子どもや保護者または第3者が重大な身体的・精神的な危害を被る可能性が高い時にのみ妥当とみなされる。しかし、こうした状況の時も、会員はできるだけ子どもがとるべき行動について、先ず子どもまたはその保護者に助言すべきである。
7 (職責上の人権侵害行為(パワー・ハラスメント)の禁止)
会員は、いかなる理由があっても職責上、子どもや保護者に対してセクシャル・ハラスメントなどのパワー・ハラスメント行為をしてはならない。また、会員はパワー・ハラスメント行為と誤解されないように自己の行為に対して日常的に配慮する必要がある。
8 (研究上の留意事項)
子どもを対象とする研究を行う場合、会員は研究の計画と実施に関する国内または国際的ルールに従う。ここでいう研究とは臨床研究、疫学研究、社会的研究、生物学的基礎研究などを含む。
子どもは、心身ともに急激な発達の途上にあるため、研究対象とする場合には彼らの精神的・身体的安全性についてはもちろんのこと、その自律性の保護には特別な注意を払う必要がある。
会員が研究を行う場合、原則としてその研究計画書を各施設の倫理委員会に提出し、その審議と承認を得てから行わなければならない。
この倫理綱領の内容が、施設における倫理委員会の規定と矛盾する場合には、より患者の利益を優先した判断を下すべきである。
施設内に倫理委員会が設置されていない場合においても、何らかの形で倫理的検討を行う必要があり、その経緯を記録に残す必要がある。
付記
1 この学会基本理念と倫理綱領は、国内外における研究と臨床の進展、ならびに関連する領域の規範の変化に応じて、再検討される。
2 臨床研究上遵守すべき規範については、日本精神神経学会が承認(1997年5月30日)した「臨床研究における倫理綱領」を当面準用する。
国内学会
A. 日本精神神経学会 http://www.jspn.or.jp/
B. 日本小児科学会 http://plaza.umin.ac.jp/~jpeds/
C. 日本小児神経学会 http://www.yo.rim.or.jp/~JSCN/jscnhome.html
D. 子どものメンタルヘルス関連学会
国際学会
A. IACAPAP (International Association for Child and Adolescent Psychiatryand Allied Professions)
国際児童青年精神医学会 http://www.iacapap.org/
B. ISAP (International Society for Adolescent Psychiatry)
国際青年期精神医学会
C. ASCAPAP (Asian Society for Child and Adolescent Psychiatry and Allied Professions)
アジア児童青年精神医学会
D. WAIMH (World Association for Infant Mental Health)
世界乳幼児精神保健学会 http://www.waimh.org/
日本児童青年精神医学会に関連する地方会および関連学術団体が全国各地で設立され、学術活動と共に啓発活動を展開している。
主なものは、
- 北海道児童精神保健学会
- 北海道乳幼児療育研究会
- 東北児童青年精神医学会
- 関東児童青年精神保健懇話会
- 神奈川児童青年精神医学研究会
- 近畿児童青年精神保健懇話会
- 九州児童青年精神医学懇話会
などである。
- 全国情緒障害児短期治療施設職員懇話会