日本微生物生態学会・日本土壌微生物学会

学際合同シンポジウム

環境中の未知なる培養困難微生物へのアプローチ

土壌・水圏におけるViable but nonculturable (VBNC) 微生物の
解析手法の進歩と課題

 - シンポジウムの概要と質疑応答・総合討論の全文 -

染谷 孝(佐賀大学農学部)・犬伏和之(千葉大学園芸学部)

 

1. シンポジウムの概要

 本来培養可能な細菌が、飢餓条件や塩ストレスなどにより、生きているが培養できない (Viable but nonculturable, VBNC) 状態になる現象は、コレラ菌や大腸菌O157などヒトの病原菌の環境中での生残動態を論じる上で、近年注目されています。しかも最近、VBNC状態から何らかのきっかけにより再び培養可能状態となり、病原性も復帰するという知見も蓄積しつつあり、社会的な重要度も高いことから、医学・薬学を含めた広範な学問領域からも注目されるようになってきました。

 一方、微生物生態学の分野では、従来より水圏や土壌など自然環境中の従属栄養性細菌の大部分が培養できないことが、培養法と直接計数法との大きな差によって知られていました。したがってこれらの細菌もVBNC状態にあるとの認識が生まれるとともに、遺伝子解析や蛍光染色法など、培養によらない解析手法の急速な発達によって、これらの細菌の研究が大きく進みつつあります。

 このような状況の中で、VBNC微生物の基礎と応用に関する現在の到達点と今後の研究の方向を探るため、表題のシンポジウムが、日本微生物生態学会と日本土壌微生物学会の共催により、去る9月28日、千葉大学園芸学部にて開催されました。参加者は177名あり、限られた時間ではありましたが、演者らとフロア間で熱心な討議が続けられました。この場を借りて、両学会関係各位ならびに演者・座長諸氏に厚く御礼申し上げます。

 なお、このシンポジウムの成果は以下の雑誌にて公表される予定です。

(1)解説

  「土と微生物」誌(日本土壌微生物学会誌)53号(19993月発行予定)

(2)ミニレビュー

  「Microbes & Environments」誌(日本微生物生態学会誌)

    142号(19996月発行予定)第1部及び第2部の5

    143号(19999月発行予定)第3部の3

 当日の質疑応答と総合討論(のべ1時間30分)の全記録を以下に掲載します。また、シンポジウムでの総合討論がとても活発に行われて時間が不足したこともあり、シンポジウム終了後、質問・コメントを電子メール及びFAXで受け付けました。その内容及び演者からの回答も合わせて掲載します。

2. シンポジウムプログラム

コンビーナー: 染谷 孝(佐賀大学農学部)・犬伏和之(千葉大学園芸学部)

第1部 通常は培養可能な細菌へのアプローチ 

                 座長:山本啓之(聖マリアンナ医科大学)

木暮一啓(東大海洋研)・・・・・コレラ菌の環境分布とVBNCの概念の発達

谷佳津治・那須正夫(大阪大学薬学部)河川水中の従属栄養性細菌と大腸菌O157

天野富美夫(国立感染研)・・・・・・・・・・VBNCサルモネラ菌の感染性

総合討論(1)

第2部 培養困難な水界の従属栄養性微生物をめぐって  

              座長:加藤憲二(信州大学医療技術短期大学部)

平石明(豊橋技科大)・・・水処理系におけるVBNC微生物の存在とその正体

吉永郁生(京都大学農学部)・・・・・・VBNC海洋細菌の分子生物学的検討

第3部 培養困難な土壌微生物をめぐって 

                   座長:犬伏和之(千葉大学園芸学部)

染谷 孝・越田淳一(佐賀大学農学部)・・・・・土壌のVBNC細菌の存在とその生理状態

斎藤雅典(草地試験場)・・・・・植物共生微生物・VA菌根菌の培養は可能か?

對馬誠也(東北農試)・・・・・・・・・根こぶ病菌休眠胞子の発芽と感染性

総合討論(2)  

 

3. 質疑応答・総合討論の全文

第1部 通常は培養可能な細菌へのアプローチ

   座長:山本啓之(聖マリアンナ医科大学)

(1)コレラ菌の環境分布とVBNCの概念の発達:

   木暮一啓(東大海洋研)

 丹野(広島製剤研究所) コレラ菌がVBNCの状態からヒートショックで回復するということですが、私どもも食事成分を用いてO157VBNC状態から回復させる実験をやってみたわけです。すると、ある期間は回復しますが、その後は回復度が落ちていきました。コレラ菌については、VBNCの状態に陥ってから86日目で回復が認められたとのことですが、例えば120日とか一年経っても回復するのでしょうか。

 守屋(九州大医学部) コレラ菌の場合はstrainによってVBNCになりやすいとか、なりにくいとかに、かなり差があります。 それとVBNCになる時の環境条件によってもかなり違います。例えば108乗くらいの菌濃度のstationary phaseになった菌を用いますと、数年間VBNCにならない一定の状態で菌数が保たれています。だからVBNCになった菌がいつまで回復可能かという問題は、菌がどういった状態でVBNCの状態に移ったかということにかなり左右されるのではないかと思われます。ですからこの条件ですればこの状態というのを目指しているんですけれども、なかなかそこまでまだ確立しておりません。

 丹野 VBNCは死ぬ過程のひとつなのか、それとも生き残ったものがたまたま出てきたものなのか、その点についてどう考えられますか。

 木暮 そこの分子的なメカニズムが、分からないので、defineされた系でかつ再現性のあるような系で、しかも全体の中に多分subpopulationで存在するという中で、何とかメカニズムを明らかにしていくことが必要なのではないかと思います。そこがかなり本質的な問題であると思います。

 

(2)河川水中の従属栄性細菌と大腸菌O157:

   那須正夫(大阪大学薬学部)

 水之江(九州大医学部) 河川水中でのdirect countplate countとの差はどれくらいでしたか?

 那須 培養できる細菌の数は、全細菌数の1%〜30%位で場所によって変わっております。上流域ではだいたいR2A培地で全細菌数の1%。安威川とか神崎川の下流で30%。この場合、昔は他の培地を使っていたんですが、 R2Aにしてから急に値が上がりましたので、川の中の菌を扱うにはR2Aというのは非常に良い培地と考えております。

 水之江 実際にはどういう培養法ですか。

 那須 それは例の法衛研でやっている増菌培養です。液体で振ってからやるやり方です。

 

(3)VBNCサルモネラ菌の感染性: 天野富美夫(国立感染研)

 吉田(九州大医学部) 先生がSalmonella typhimurium8カ月とか飢餓条件下においといて、その時点で動物に病原性があったというのは、re-growthさせた後でしたか。それともそのままマウスに菌を飲ませてですか。

 天野 両方やっています。 re-growthさせないでも病原性があったということです。そしてre-growthさせた方が病原性がより強かったということです。

 水之江(九州大医学部) そうしますと、何か食品に菌が混じって、そこでre-growthして、それを食べた場合に食中毒を起こすと、そういうふうに考えた方が良いのではないでしょうか。

 天野 それはひとつの考え方で非常に大事なファクターだと考えています。つまり身体の中に入る前にどういう状態にいたのかということですね。でもそれが体内に入った時にマクロファージとか生体防御細胞が色々いるわけですから、それが、log phaseの細菌とstationary phaseにある細菌とで貪食細胞に対する抵抗性がどう違うかということは、今日は別の問題として全部省きました。マクロファージがどういうふうなファクターをもって菌を殺しているかということについては、かなり詳細に研究を行っています。

 加藤(信州大医療技術短期大学部) 今のご質問の後半の答えにつながることですが、体の中でstationaryまでいった細菌に対して、マクロファージは通常とは異なるstrategyでアタックできるということですか?  stationaryに入ってもきっちりimmune systemはそれに対応できるものはやはり持っていると思われますか。

 天野 答えはイエスですけれども、その時にどのくらい何を使っているかということが違ってきます。例えば活性酸素の産生能というのは、マクロファージがサルモネラをやっつける時に大事なファクターですが、log phaseの菌は、非常に小さい菌でもマクロファージの活性酸素産生能を誘導します。一方stationaryの菌では、たくさん入れないと誘導しない。しかもその活性は弱い。ところが、マクロファージのvacuoleの中に入った場合、stationaryの菌の方が強いんです。従いましてstationaryの菌というのは、一度身体の中に入ってしまいますとマクロファージにつかまりにくいわけですね。同じだけ入った場合には、要するにマクロファージのimmune surveillanceのシステムから逃げやすくて、しかもぶつかったとしても活性酸素の産生を誘導しにくいわけですから殺されにくいわけです。vacuoleの中に入っても死ににくい。そうしますと、我々の外科の領域で膿瘍の中にサルモネラがいるという話がいくつかあります。それでなぜculturableでないようなものが、長くそこにいることができるのかという問題が今提起されていますが、その中のひとつは恐らく、膿瘍の中に貪食細胞が入ってきたとしても、このような細菌を認識しにくいし、したとしても殺しにくいという状況があって、そういうcolonizationというか、あまり増えない状態で伴なっていくというものがあるのではないかと思います。

 加藤 もう一歩踏み込んで、そこのほうにパラメーターを使って培養の方へもっていくということはアイデアとしては考えられるわけですね。

 天野 その通りです。そこで今、まだ私には荷が過ぎていますので、molecular biologyを専門にやっている若い人がいますから、その人が来れば、恐らくホスト側のその遺伝子の中で何が大事かということを大体今見当をつけていますので、それのdeletion mutantなどを使って、それが何かということを同定していこうと考えています。

 江成(北里環境科学センター) 私もPseudomonas aeruginosaを使って実験をしました時に、細菌のgrowth phaseによって全然違うデータが出てくる。そこでlog phaseを保つために何か添加すると良いということが何かおありでしょうか。

 天野 それはちょっと今のところ答えはないです。というのはご存じのように、カルチャーしていって菌が増えますと、栄養が足りなくなる事だけではなくて、お互いに菌が出すmetabolitesの影響だと思うんですが、菌はstationaryに陥ってきます。ですからlogに保つためには、新しい培地に常に移していかないとダメなわけです。ただご存じのように、ストレス応答の中で容易にlog phaseで増えたものがstationaryになりますね。同じようにstationary phaseでいたものが身体の中にある種のファクターでぱっとlog phaseに変わる。そして菌体の表面がかわる。その表面の何が変わるかということを今、同定しようとしているんですが、そういうことがあった時には身体の中身はstationaryだけれども外側だけ、菌の皮の部分だけがlogと同じmoleculeを出すということは十分考えられると思います。

 江成 それから、先程のre-growthの事なんですけれども、あれは生物学的に性状は変わってきませんでしょうか。

 天野 それをお示しするだけのデータはまだ出ていません。例えば、色々な遺伝子の発現ですとか、あるいは色々なtoleranceに関するものとかのことだと思うのですが、それはまだ全然実験していません。

 

総合討論(1)

座長;山本啓之(聖マリアンナ医科大学)

山本 それでは全体的なとりまとめを。VBNCの定義という点について木暮さんから最初に歴史的な話をしてもらいました。実はVBNC(あるいはVNC)という言葉と、さらにVBNCの中をいくつかに分けたような定義をされている方もたくさんおられます。

 もうひとつは、ではそのVBNCという状態から果たしてどのようなプロセスを経て回復するのかという問題があります。ただ、微生物生態学的というか、バクテリアの方から研究をされている方は、どちらかというとコロニー形成(あるいは増殖)が戻るという考え方で研究されているわけですが、天野さんの場合ですと、コロニー形成というよりむしろ病原性というcriteriaを使って、どうなるんだろうという見方だと僕は解釈しました。そう理解したんですけれども良いですか。

天野 ちょっと違います(笑)。それは確かに大事なポイントなんですが、ただ評価の仕方の問題なんです。立場の問題で、それは山本さんがおっしゃったように一番良いのはpathogenesisをもって評価するんじゃないんです。ただ感染のことを注目してやっている場合は、VBNCの研究をcolony formationで止めておいてはいけないだろうということです。それを、ではどこまでもっていくかという時に、culturableになってからpathogenicになるかどうかというフィルターをもうひとつかけてやるということ。では、pathogenicになった時にVBNC状態というのはどのくらい寄与しているのかということについて、その中のファクターをつかまえてやろうと、そういう考えです。

山本 わかりました。要するにVBNCというものが、本当に死へ向かってのone wayに乗っかっているのか、あるいはサバイバルという形で環境の中にいるのかという問題です。実は今のところ誰もこれを識別する有効な方法は見つけておりません。

 それで、那須先生のお話の中で紹介された様々な検出方法というのは、実際に我々が利用できます。しかも、単に菌体が存在することを検出する、すなわち蛍光抗体を使うとか16Sのプローブを使うという以外にも、呼吸活性を持っているのかどうかという生理学的なcytochemicalな方法で検出することが可能になっています。ただそれが、コロニーを形成するという能力、あるいは病原性というような能力に直接つながるようなファクターにあるのかどうかという確証がまだとれていないと思います。ですから研究者によって少しずつのズレがあるのではないかと思います。

加藤(信州大医療技術短期大学部) これからの議論の前にひとつだけ確認しておきたい事があります。特に環境中のバクテリアに関してのことを考える時に、DAPIを使って全菌数を出しますけれども、バーグシュトロームのところの大学院生が95年頃にDAPI染色細胞中にゴーストがたくさんいるという問題を指摘して、海洋では問題らしいですが、その後、あまりデータは出てこないんですよね。現状での共通の認識を持ちたいと思うんですが。

木暮 私もあまりフォローしていないし、先月のハリファクス(国際微生物生態学シンポジウム)でもあまり話題は出なかったんですが、確か95年の6月に出た論文は、 通常の海水をホルマリンでfixしてDAPIで染色すると、中が実はDNAをもっていないのに、外側周辺が染まるので、もぬけの殻を測って、これがover-estimationになっているという指摘です。その後、何人かがあの方法をチェックして検討しましたけど、それはそうだという人と、いやあれは間違いだという人と2つあって、例えばJed Furmanあたりは、DAPIで染まるものの中に確かにゴーストがある程度あるかもしれないけれども、それはかなりマイナーなフラクションで、無視して良いのではないかというようなことを言っています。彼は恐らく、全体のpopulationの中のDNAの量をある程度調べて、それと菌数との対応からみると、バーグシュトロームが言ったようなゴーストがかなりあるとするとDNAの量の方からいってうまく説明できない、だから確かにゴーストはあるかもしれないけれど、大きなものではないんじゃないか、というふうに考えていると私は理解しています。

山本 確かあの方法は、DAPIの濃度が我々が普通使っている10倍とか100倍なんですよね。

木暮 ええ非常に高いですね。塩が邪魔するというようないくつかのファクターがあって、海水を固定したあと塩を薄めるために蒸留水を入れると。それからDAPIの濃度を濃くする。それからいったんメタノールか何かで洗うプロセスを入れれば、DNAを持っていないものはきれいに落ちるというような、そういうprocedureを出していますが、私自身もやってみたんですが、彼らが言うほどきれいには出ない。consistentな結果も出ないので、方法論としてどうかなというところですし、さっき言ったようなDNAの量の情報からいってもどうかな、というところが今の現状ではないかと思っています。

石浜(国立遺伝学研究所)大腸菌がstationary phaseに入った際にどのようなタンパクができるか、それが何日目に出てくるかというのは順序があるんですね。1週間目に必要なタンパクが欠損すると、そこで死んでしまう。そうするとstationary phaseにおいて遺伝子の逐次的な発現があるらしく、そういう点からいうと、もし那須先生の方法を細胞内のタンパクや遺伝子を染色するようさらに工夫なさると、stationary phaseの状態と自然界の状態との間を解明することが可能かと思います。

 もう1点は天野先生に対してのコメントなのですが、培養液中でのstationary phaseと生体中のstationary phaseというのは多分違う。つまり色々な培養条件で見てみますとstationary phase の様相は全然違います。ですからlaboratory strainstationary phaseは病原性がないけれども、生体内ではstationary phaseに入った時に病原性を発揮するんじゃないかと思っていましたので、先生の観察を正確に理解すると、生体内でまず増殖をしないといけないということを多分おっしゃったんだろうと理解したのですが。

那須 実は、我々タンパクに非常に興味を持ったんです。タンパクの場合に2つ大きな問題があったのは、抗体、特にモノクロの抗体をつくるということと、もうひとつは量がひょっとしたら少ないのかなと。我々strategyとしては、メッセンジャーRNAの検出で遺伝子発現を見ていきたいと思いまして、実は今、in situRTFLPCRを検討しています。だからRTFLin situで進むか、またはコミュニティー分析で進むかは、まだ技術的な問題があるんですが、現在メッセンジャーでそれを検討しております。ただもしどこかで良い抗体が入ったら、私達はぜひトライしてみたいので、その辺のご指導をお願いできましたら、よろしくお願いいたします。

天野 石浜先生、ご指摘ありがとうございました。その通りだと思います。特に私の簡単な実験でさえ、その違いはあります。というのは先程も示しましたんですけれども、いわゆるstationaryと一口にくくっていますが、一晩おいておいた時のstationaryと、ずっとおいていた時のstationaryとでは、もはやlaboratory strainでも違いがあります。だから恐らく、生体の中にlog phaseの状態で入って来るということは、あちこち付着したりあるいは侵入するとき大事なんでしょうけれども、それがたちどころにいろいろ攻撃等にあったらstationaryの菌ばかりになると思うんですね。その時に何がどのようにかわっていくか、ぜひ先生のその70種類のタンパクをサルモネラにもあててみたいというように私は考えております。

 染谷(佐賀大農学部) 主に天野先生に質問なんですけれども、VBNCの状態の少し手前にinjured cell、損傷細胞という状態があると思います。損傷細胞からの回復という問題と、それからさらにVBNCに陥った場合とで、これは状況が違うだろうと思います。それで、損傷細胞というのは、あくまでもculturableだけれども、そのままでは選択培地では培養できないので、リッチな培地で12時間preincubationしてやるとコロニーを作るようになるというふうに私は理解しているんですが、そういうレベルと、VBNCの状態と、今日示していただいたサルモネラ菌のサバイバルはどこの状況として把握されているのかということを確認したいのですが、どうでしょうか。

 天野 大変難しい質問で、しかもcriticalなんで、これはもう、もういっぺん勉強し直さないといけないので答えはありません。ただひとつ言えますのは、VBNC状態というのが、要するに、非常に元気に生きている時と、それから死んでいく時と、その中間にいるという状況は間違いないと思います。だからVBNC状態をどう把握するかということで、その中には、dormant、つまり死んではいないし傷も受けていなけれども静かに眠っているという状態と、損傷菌と、これらが両方入っていると思うんです。これを区別するというのはかなり難しいので、今、それを検出する方法を開発しています。その細胞がinjuredだったら行かないけれどもdormantだったら行くような、そういうふうなプローブをつけて検出することを今、考えているところです。

 水之江(九州大医学部) 木暮先生にお聞きしたいんですけれど、DVC法でポジティブであることを判定するcriteriaはどの辺にあるのでしょうか。例えばswellingelongationの程度は2倍とか。

 木暮 率直に言って客観的なcriteriaはありません。例えばそれは環境によってもずいぶん違いますし、相手にしているサンプルによっても違いまして、言ってみればオートラジオグラフィーもINTもこのDVCも含めて、どこ以上がポジティブでどこ以下がネガティブかというのは、ある程度の幅があり、カウントしている人の主観性に依存してしまいます。

 染谷 それは違う(笑)。

 木暮 それはあとで(笑)。

 水之江 最近私はlive and dead kit cell integrity でみるやり方で調べているのですが、このキットと先生のDVC法と比べられていますか。

 木暮 それは特にやっていません。

 山本 そろそろ時間がきてしまいました。「こういう検出法で、こういうふうなVBNCバクテリアを検出できます」というようなお話は午後のセッションにもいくつか出てくると思います。いささか訳の分からない、というところがVBNCというものの正体でして、この訳の分からない理由のひとつが、それぞれの研究者によって少しずつcriteriaが違うという、そういうところがあるというところを理解していただいて、午後の話を聞いていただきたいと思います。

 

第2部 培養困難な水界の従属栄養性微生物をめぐって

座長:加藤憲二(信州大学医療技術短期大学部)

(1)水処理系におけるVBNC微生物の存在とその正体:

   平石 明(豊橋技術大)

 加藤 どうもありがとうございます。群集の中の見えない部分を見る方法の示唆をいただいたのですが、ひとつふたつ、コメントなり質問なりを頂戴できるかと思います。

 斎藤(草地試験場) 2つ質問をしたいんですけれども、1つは、キノンプロファイルと16Sとを比べた時に放線菌と思われるものがキノンの方で出てくるということですけれども、それは群集の中で死んだ後ある程度キノンが残りやすいということがあるのかどうか。それから2つ目は、16Sでクローニングしてきてライブラリーを作ると再現性がないとのことですが、これはひとつにはその群集が非常にdiversityが高いから、ごく一部しかとっても再現性がないのか、それともテクニカルな別の問題があるのか、それを教えて下さい。

 平石 まず後の方ですが、両方あると思います。技術的な問題とdiversityがあるということと。それから最初の方ですけれども、最初に CTCのカウントの図を出しましたけれども、このCTCのカウントとキノンの含有率というのは非常に相関があるということがわかっています。ですから呼吸活性があるバクテリアについては、キノンがある。ただし死んでしまうと低分子ですので非常に早く分解されてturn overが早いということが言えるかと思います。

 倉石(日本食品分析センター) 私、日本食品分析センターに勤めておりますが、最近、ミクロフロラを見てくれというような依頼よりも、むしろキノンプロファイルを見てくださいという依頼が増えてきたということは、平石先生のご奮闘のおかげだと思います。活性汚泥の細菌用の分離培地は、以前、Donderoが抽出培地を使っていましたが、やはりあれが一番良いのかどうか。また、分離した菌のキノンを測った仕事があるか。それからいつも気になるのは、キノン分析の際、原生動物の存在の影響はないと考えて良いのか、という技術的なことをおうかがいしたいと思います。

 平石  Donderoの培地というのは汚泥抽出液の培地ですか。あれが一番良いですね。生菌数が高く出ます。

 倉石 ですけれども、取ってきた汚泥によって10倍もviable countが違いますので・・・。

 平石 違う場合もあります。私共の場合は100分の1に希釈して使っています。

 倉石 100分の1に希釈すれば大体皆コンスタントな値が出ますか?

 平石 コンスタントではないですけれども、多く出ることは確かです。それから分離株についてはキノンも80%は調べていまして、大体系統分類学的なデータと一致します。それと最後のご質問ですが、原生動物はユビキノン-9を持っているものが結構多いので、識別できます。またポピレーションからみてもあまり影響ないと思います。

 

(2)VBNC海洋細菌の分子生物学的検討:吉永郁生(京都大学農学部)

 倉石(東京大学) 液体培養系で低栄養細菌を培養されて、数種類もしくは数株が混じっているわけですよね。

 吉永 言い忘れましたけれども、分離は全てdilution method3回繰り返しています。 つまり最大希釈で増殖が認められた試験管からさらに希釈してMPNにやる。それで一応98%以上の確立で分離されています。また当然クローニングをするわけですね。それをもって確かとはいえないんですけれども、そうしますと多種のバクテリアのクローンがあるという証拠は認められませんでした。16Sのレベルで。

 田村(理化学研究所) 今のことに関連すると思うんですけれども、16Sリボゾーム RNAの遺伝子を増幅して大腸菌にわざわざクローニングするわけではないと思います。今はほとんどダイレクトシークエンスで塩基を配列することが主流だと思うんですけれども。

 吉永 pure cultureから16Sのシークエンスを解析する場合には、ダイレクトシークエンスで我々もやっています。だから先程言ったように、分離されているか保証が得られない時に限り、サブクローニングを行います。ただ、海水の中には色々なバリエーションをもったバクテリアがいるわけですね。それをダイレクトシークエンスでやると主にひとつしかとれないわけです。それをフローラを解析するという意味でいうと、100クローンをクローニングして、そこから70Aと呼ばれて、20B10Cだと、7:2:1というバクテリアのフローラとなるわけですね。そのために大腸菌クローニングをします。

 今田(東京水産大) 2点お聞きしたいんですが、FO(facultative oligotroph)OO(obligate oligotroph)をどの位継代培養するとできるのか。条件によっても違うと思うのですが。それともう1点は、ペプトンの種類によって死滅の様相が変わったりすることはないものでしょうか。

 吉永 まず第1点目なんですけれども、それは時と場合によります。ただ多くの場合は2回目位の継代でFO化します。あるいは1回目の場合でもなりますね。1年、2年と経ってFO化することはめったにないです。2点目のペプトンの種類ですけれども、一応市販されているペプトンは、一株だけについてなんですけれども全て試しています。また海水のアミノ酸組成でもってアミノ酸を混ぜ合わせて、それを濃度を高くして作った培地でも増殖できるかどうかやってみたんです。そうしますと、増殖はできませんでした。つまり海水中に存在するアミノ酸の濃度であれば良い。ただその濃度を高い濃度にしてしまうと増殖は不可能になります。

 大友(草地試験場) 高濃度のアミノ酸による阻害が、アミノ酸インバランスが原因だったら、濃度を調整して入れてやれば高濃度耐性菌になるはずなので、そういう現象が確認されてもあまり関係ないだろうという印象がひとつ。もう1点お聞きしたいのは、もしもcellが高濃度の範囲にレスポンスしようとしているのでしたら、ショックではなくて、だんだん順番にアラニン濃度を上げていった時に、少しは耐性が出てくるんじゃないかと思いますが。

 吉永 最初の点ですが、確かにそうですね。死滅に至らしめるアミノ酸に対して、アミノ酸をバランス良く組み合わせてやると回復するだろうと考えてやってみたんですけれども、なかなかうまくいきません。ただアミノ酸のインバランスと僕が言いましたのは、細胞内でのアミノ酸の蓄積量をもって言っているだけであって、その過程では色々なことが起きている可能性があって、検討する必要があると思います。第2の馴化のことはまだやっていません。

 加藤 どうもありがとうございました。まだ吉永さんのコメントなど詳しく聞きたいところですが、総合討論にまわします。

 

第3部 培養困難な土壌微生物をめぐって

     座長:犬伏和之(千葉大園芸学部)

(1)土壌のVBNC細菌の存在とその生理状態:

   染谷 孝・越田淳一(佐賀大学農学部)

 犬伏 私も同じ土壌微生物をやっているんですけれど、昔から土壌の中は闇の世界ということで言われていたんですけれども、だいぶ染谷先生のおかげで霧が晴れてきたような気がします。

 水之江(九州大医学部) マイクロコロニーをですね、まいた直後に調べられたらどうでしょうか。

 染谷 まさにその通りで、今日お見せしたのは4週間培養後なんです。4週間培養しないと土壌細菌の場合、コロニーは全部出ませんので。しかしお話の通り、多分23日位からどんどんマイクロコロニーは出ていると思いますので、今そのタイムコースを追って検討中です。

 水之江 まいた直後に菌がもうすでに集団であるという可能性は?
 
染谷 それはあまりないです。土壌試料を分散処理してからフィルターにのせて観察しますと、23個細胞がくっついているという状態も当然あるんですが、全体からしますと1割とか多くて2割程度です。ですから最初の段階で集団になっているということはほとんど無視しても良いと考えています。

 水之江 バイオフィルムとか自然界では菌が凝集している場合、ホモジナイズくらいではなかなか外れないと思うんです。

 染谷 それは例えば(OHPを示して)、これはフィルターの上に土壌懸濁液を載せて染めているわけですが、この辺は最初からマイクロコロニー的になっているわけですよね。ただ全体はバラバラの状態ですので、その中で複数くっついている細胞が1割程度はあります、ということです。

 丸本(山口大農学部) マイクロコロニーをつくるということは、そのような状態はVBNCではないという判断をするべきでしょうか。

 染谷 細胞が1020個のマイクロコロニーというのは、これはもちろん肉眼では見えませんし、実体顕微鏡でもほとんど識別不可能です。いわゆる通常のコロニーとはいえないですから、マイクロコロニーは決してvisibleなコロニーではない、やはりVBNCだというふうに考えています。

 

(2)植物共生微生物・VA菌根菌の培養は可能か?:

   斎藤雅典(草地試験場)

 丸本(山口大学農学部) 先程、胞子の中に細菌 (Burkholderia) が入っているという大変興味深いお話を伺ったんですが、無菌状態で菌根菌の胞子を宿主植物に接種した時に、もう既にやはりそういう細菌が入っているというようなチェックをしたデータはありますでしょうか。

 斎藤 表面殺菌といわれるような方法でバクテリアのコンタミのない条件でやっても、その中に細菌がいる。では、胞子をつぶしてプレートアウトしたらバクテリアが出くるかというと、出てこない、ということです。電顕で見てもよく見えないですね。先程、平石先生の時にありました、16Sを使ったFISHなどの蛍光染色で胞子の中にバクテリアがいることが確かめられています。

 丸本 では、いつ感染しているのかまだわかっていないわけですね。

 斎藤 少なくとも我々が植え継いでいるのは、胞子で植え継いでいるわけですから、胞子の中にバクテリアがいて、それが次から次へと伝わっていくということだと思います。

 浜田(工業技術院生命研) 今の議論に関連したことなんですが、Burkholderiaは膜の中とかvesicleの中に入っているのでしょうか。

 斎藤 そうではないですね。一般的な液胞の中にアトランダムに入っている。

 浜田 だいたいBurkholderiaは植物病原菌として有名ですから、タマネギとか甘蔗とかで二次感染した可能性もあると?

 斎藤 それはあると思いますね。いわゆるVA菌根菌との共生系とは別にですね、後の段階で入ってきたやつがもちろんあると思います。

 Mandjunath, A.(University of Agricultural Science, Bangalore of India) The growth of arbuscular mycorrhizal fungi from spores stops after 7-8days. But the growth within roots continues to grow. Is this because of the exhaustion of nutrients in spore?

Saito, M. As fas as I guess it, such regrowth of hyhae was only observed in the Glomus species which produce vesicle. I suppose vesicle contains some storage nutrient. Such hyphal growth may be due to nutrients storaged in besicle.

 

 Mandjunath  Do you think that the culturing of mycorrhizal fungi on artificial medium is further complicated by the identification of obligately symbiotic bacterium such as Burkholderia harboring inside the spores of the fungi?

 

  Saito I'm not sure.

 

 寺島(千葉県林試) 菌糸がある状態で分離できた、あるいは生やすことができたということは、培地等を検討すればある程度は人工培養の可能性はあるということなのでしょうか。

 斎藤 植物の根の中の菌糸と土壌中で伸びる菌糸が一体になっている、つまり機能的な分化をしている。そういう機能的な分化を培地上で再現することができれば、人工培養ができるかなと考えていますけれども、それを具体的にどういうふうにやるか、難しいと思います。

 

(3)根こぶ病菌休眠胞子の発芽と感染性:對馬誠也(東北農業試験場)

 河原谷(大阪府立農林センター) 文献紹介されたArnoldの文献の中で、アメーバというものと植物根毛の中で普通見られる変形体というものは同じと考えてよろしいですか。

 對馬 それは私もちょっとわからないです。普通、根こぶのライフサイクルの絵の中では、変形体とアメーバというのはちゃんと使い分けているんです。池上先生の中ではきちんと使い分けていますので。ただArnoldの論文は一貫してアメーバシストという言葉を使っていまして、実際私は写真を見ていませんので、その辺がちょっとわからないんですけれども、要するに一次変形体か二次変形体の一歩手前のものなのか、その辺もあの文献からは私はわかりません。

 河原谷 そのアメーバで感染が可能だということは、変形体でも植物に対する感染は可能なんでしょうか。休眠胞子までいかなくても。

 對馬 Arnoldの論文では、そういうことが可能だということを言っているのかもしれないですけれども、私が知る限り、変形体を接種して発病したということは知りません。

 河原谷 私共も通常は休眠胞子からの遊走子で感染というふうに伺っているものですから。

 犬伏 斎藤さん、先程の菌根菌の胞子のお話で、あれはpolycarionが結構あるでしょうか。それが今のpolycarionにつながるように思うんですけれども。

 斎藤 接合菌で非常に大きな胞子をつくるので多核です。数がわかりませんが、とにかく1つの胞子の中に何百何千という核があります。

 犬伏 それが培養困難だというひとつの原因になっているとは考えられませんか?

 斎藤 接合菌の中に多核のものはたくさんありますけれども、培養できるものもありますから、多核性と培養性とでは違うと思います。

 染谷 例えば人の病原菌のリケッチャとかクラミジアというのはエネルギー合成系の一部とかタンパク合成系の一部が宿主に依存していて、そういうところがいわば退化しているというような話がありますが、そのアナロジーとして考えますと、植物病原菌の場合、生物として全うするようなエネルギー代謝とか何かは完結しているのでしょうか。

 對馬 少なくともその辺が多分わかっていないと思います。カルスの中で増殖しますと、生きた細胞の空間を自分で作り出して、その空間が必要なのかなとか考えています。それから、植物体のデンプンを利用というようなことがあって、菌が自分ひとりでは全てを完結できるのかどうか疑問です。ただ歴代の根こぶ研究者が必ず人工培養のことを持ち出しますので、可能性がないということまでは言っていないと思います。

 染谷 同じ質問を、斎藤さん、菌根菌の場合はどうなんでしょうか。

 斎藤 質問の主旨は、そういう代謝系を宿主に依存することがあり得るかということだと思うんですけれども、VA菌根菌に関しては違うと思います。というのは、植物の根の中に入っている菌は、植物の細胞質と明らかにそれぞれのplasma membraneで仕切られていますから、そういった意味ではバクテリアの共生は、細胞の中に完全に入り込んでいるわけではないです。

 

 

総合討論(2)

座長:犬伏和之(千葉大園芸学部)・

加藤憲二(信州大医療技術短期大学部)

 犬伏 それでは、残る時間もあと30分足らずになってきましたが、第2部と第3部のところでまとめて総合討論をお願いしたいと思います。

  その前に、岡見先生の方から放線菌についてのコメントをスライドを使ってご紹介いただけるということです。第2部の平石先生のところで、キノンで見た場合に放線菌が出るけれども分離培養はできないということもありました。それでは総合討論の一部として岡見先生、お願いいたします。

 岡見(微生物化学研究所) 私自身もVBNCだと思っております。なぜかと申しますと、 viable but no culture、ということは私は教養がないということで、そういう意味で(笑)、私はVBNCだと思いますが、それをもしカルチャーという教養の方を取りますと、今度はculturableということになりますと、私はculturableであるかは証明できませんから、そういう意味では私はVBNCではない。私は、VBNCというタームがいろいろな角度から見られて、いろいろなコンセプトがそこで生まれているように思います。

  私は放線菌について少しスライドで考察してみたいと思います。放線菌が土壌の中にいるのは、先ほど染谷先生の写真にも菌糸状として染まっているのが見えました。この状況は大変昔からWaksmanやそのもっと前からも、土壌の切片の中で菌糸が形成されているのが良く観察されております。ご承知のように放線菌の中でも、このStreptomycesというのは菌糸状になりまして、土壌中ばかりでなく、河川の中にも海の中にもおります。そしてそれは菌糸になり、分岐して、時には気中菌糸というのを作ってその上にconidiaという胞子状のものを作るわけです。そういうライフサイクルがありまして、ファージもあれば、プラスミドもある。そういういろいろな形態も分化しているし、いろいろな生理的状況も2次代謝産物も非常にたくさん作るわけでから、バクテリアの中でも最も分化した仲間であると思います。その放線菌が、ほとんどのものは、saprophyticでありまして、中にはポテトにつくS. scabiasのような病原性をもったようなものもありますが、しかもそのほとんどは皆、 culturableであります。その意味では、この菌はVBNCではないかもしれません。ただ私が今日スライドでお目にかけるのは、VBNCという状態があるということを、VBNCを対象にされる方に一度注意してみていただきたいし、私もそれを考えたいと思っているわけです。

  まず、スライドをお願いします。この放線菌の中でも土壌微生物と致しまして非常に有名な菌でStreptomyces griseusというのがございまして、それはストレプトマイシンを作ったり、いろいろなものを作ります。で、その菌をいろいろな培地に塗りますと、非常にいろいろな形を示します。ここではpHを変えた場合、それから培地を替えた場合ですが、それぞれコロニーを見ますと、違っておりますし、酸度アルカリ度に対するsensitivityも違う、ということでございます。

 (角型シャーレ内のpH勾配のある培地上の放線菌コロニーを示して)端の方を見ますと、いろいろな形のコロニーが見えます。そしてどうもそれぞれ様相が違う。そういう意味で、昔からこの菌は変わりやすいとか、多様性を示すとか言われているわけです。このpHを変えただけでもいろいろな形のコロニーが現れて参ります。

  (バラの花の形に変形したコロニーを示して)これはそのひとつでございますが、普通はこういう格好のコロニーが多いわけでございますが、中にはこういうセクターを作って、白いコロニーが出来てくる場合もあります。先ほどのバラみたいなものも、pHがアルカリ側の方で観察されるちょっと変わったコロニーであります。pHによって、だんだん生えにくくなったり、この放線菌は好酸性のため、酸性側の方が良く生える。

  これは先ほどのS. griseusNo.4という培地のところで同じ写真でございますが、これを1ヶ月置きますと、ここら辺の菌はどんどこ早く生育いたします。こちらはプレートのpHgradientを作ったもので、その上にS. griseusconidiaを一面に播いたわけです。こちらにもコロニーがあるわけですが、作りにくくなっている。しかし1ヶ月たつとこちらより早く菌糸は増殖している。この培地の端の方ではpH8.5くらいになっています。好アルカリか耐アルカリか、同じS. griseusがまた別のかたちのコロニーを作ります。1週間ではviableではあるが、culturableなものとしては現れていない。同じ放線菌の中でも状況によりまして、culturableになったりならなかったりする。そういう意味で、このVBNCとは、時間やpH、培地や温度などの様々な条件によってculturableになったりならなかったりすることがあるんだということだと思います。そういう意味で、私どもが自然界からなるべくたくさんの物質を作る放線菌を取り出そうとするときは、なるべくたくさんの条件を用意しなければならない、と考えているわけです。

 犬伏 どうもありがとうございました。短い時間でしたが、放線菌に関するculturabilityについてのコメントをいただきました。それでは第2部と第3部の総合討論に移らせていただきます。

 木暮 ちょうど今年はじめのMicrobiology、イギリスの雑誌で議論がありまして、その中でVBNCという段階は、そういう状態の菌を培地の上に突然載せると、基質の突然の導入が起きて、細胞内インバランスが生じて活性酸素あるいはフリーラジカルが生じて、それで死滅に至るので菌が増殖できないんだと言うモデルが出ていました。それと吉永さんの貧栄養細菌の話で、高濃度の培地ではアラニンがどんと入ってきて細胞内にインバランスが生じるという話を聞いて、非常に近いような印象を受けました。もう一つは、貧栄養細菌というのは要するに、基質が過剰に入ってきた場合に細胞内に流入したものを処理できなくなり、インバランスが生じて死んでしまう。もし、過剰に入ってきてもすぐにそれを処理するか、取り込みを止めるような機能があれば、そういう環境あるいは高濃度の培地でも生きられるのではないだろうか。つまりそういうことで貧栄養細菌というものをカテゴライズできるのではないか、と思われたので、その辺りのコメントをお聞きしたいです。

 吉永 まさにその通りで、私も同じ考えです。活性酸素と、DNAのフラグメンテーションということが予想されて、それに関するアポトーシス系統で扱われている試薬を試したことがあるのです。まだ予備実験の段階で、きちんとした形でデータはありませんが、可能性はあると思います。

 あともう一つの方の、シャットアウトの系と代謝の系ですね。これもまさにその通りで、偏性低栄養細菌には過剰の基質の流入を抑える扉がまずない、ということが一つ。それから、入ってきたものを代謝して、増殖につなげられないまでも、無毒化するということもできない。その部分が、他の通性の低栄養細菌であるとか、Vibrio harveyiであるとかとは異なるようなイメージをもっています。それが、通常culturableなものがunculturableになるstateで同じようなことが起こっているかどうかについては、まだまったく分かりません。

 染谷 今の話に関連することなのですが、吉永さんの話は、strict oligotrophですので、栄養が過剰だと困るという話がいろいろ出てきたのですが、むしろVBNCの場合は、大腸菌やコレラ菌、一般の土壌細菌でも水圏でもそうなのですが、低栄養環境にいかにアダプトするか、ということの関連でVBNCという概念が出てきたと思うのですが、そのような低栄養環境へのadaptationという観点でどなたかコメントいただけないでしょうか。

 加藤 まず吉永さん、責任を持って(笑)。

 吉永 通性低栄養細菌を低栄養環境で純化させた場合に、ある特定アミノ酸で高濃度の時に阻害が起こるという現象を見い出しています。その場合は非常に低濃度のペプトン培地で純化するものですから、適応が起こっていると考えられ、取り込み系も変化しているようです。その場合はグリシンをある程度の濃度入れると、以前は増殖可能であったにも関わらず、同じような現象が出てきた、ということがあります。その時の取り込み系を見てみると、低濃度のグリシンの取り込みは上がっているが、高濃度の取り込みの時にブロックされない可能性がある。そういうことを考えますと、大腸菌なども低栄養な環境下に入った場合にそうしたアダプトの仕方をするかもしれない。ただそれは厳密にはアダプトとはいえない。純化というのは増殖を伴いますから、一つの細胞がアダプトするというよりは、集団の中で進化していくような感じがあって、元のものとは違うものになっていることが多いです。ただ遺伝的には16Sのレベルではまったく変わっていない。ゲノムの構成は変わらないが、発現のパターンが変わってくるのか、もっと些細なというか、遺伝子レベルよりも下流のところで変わってくるのか、まったく分かりません。世の中で行われているVBNC研究の中でculturableでない細菌の一部は、低栄養細菌である可能性が高い、と言う印象をもっています。

 染谷 私はもっと積極的な問題があると思っております。平石さんがちらっと見せてくれた、culturabilityがバイオフィルムの増殖性と関係があるというデータ、sludge retention timeと、プレートカウントのDAPIカウントに対する比率(で示されるculturability)がちょうど逆になるという話です。これはどの様に解釈したらよろしいのでしょうか。

 平石 2通り考えられます。1つは同じグループがsludge retention timeの違いによって、低栄養条件に移行していった。そのためにunculturableになってきたということと、もう一つは菌相が変わってきた、もともと培養が困難なようなものに移行してきた、と両方考えられますが、どちらかは分かりません。

 染谷 いずれにせよ、フローラの変化はあるにしても、低栄養環境へのadaptationの現れと考えてよろしいでしょうか。

 平石 そうですね。ひとつ面白いのは、retention timeの長いもの(すなわち増殖速度の遅いもの)
DNA-RNA contentを取ると、RNA含量が非常に低いんですね。11位で、ほとんど増殖していない。定常期でずっと推移しているような、そういう状況です。

 加藤 自然界の細菌のDNA-RNA比は1ぐらいですね。

 染谷 すみません、もうひとつコメントして良いですか?

 加藤 ダメです(会場爆笑)。・・・手短かにどうぞ。

 染谷 oligotrophismとの関連を、整理はできなくても、ちょっと指摘しておきたいと思います。私は土壌が専門ですが、少し水処理にも関与していますので、ちょっとその話で例がありますので紹介させていただきます。合併浄化槽という小さなユニットで家庭排水を処理するものがありますが、メーカー間というか機種によって仕組みが異なると全く処理能力が異なってきます。処理水のBODを見ますと、23 ppmのものを出すものから2025 ppmの汚い水しか出さないものがある。問題はこういう時に、oligotrophicな微生物がいるだろうし、バイオフィルムの問題でもあります。処理水質のBODの中で微生物が暮らしているわけです。そのバイオフィルムのculturability、全菌数に対するプレートカウントの比率を見ると、まだデータは少ないものの、BODに対してやはりこういった正の相関がある。つまり、富栄養の環境ではculturabilityが非常に高く、低栄養ではculturabilityが低い。ここで注意しなければならないのは、これは活性が低いのではないということです。いずれの場合も、100 ppmを越す負荷がかかる環境にあって、23 ppmまで落とせるものと、2025 ppmまでしか落とせないものがあるということです。23 ppmまで落とせるものの方がBOD除去率が高いわけですから、活性が高いと言える。活性が高く低栄養性で、しかもnonculturableであるというという関係がありますので、この辺が平石さんのデータ、あるいは那須さんが観察している河川の上流から下流にかけての細菌のculturabilityとも符合するようですので、一つ話題提供させていただきました。

 加藤 話題提供いただいたわけですが、それを議論する時間がなくなってしまいました。実は、最後のまとめをやれと言われてまして、こういう事態も予測していましたので・・・。何せオーガナイザーが染谷さんですから(笑)。今日はいろいろな立場の方々がみえていただいて、ご覧になっているいろいろな生き物とかフィールドとかによって、VBNCに対する考え方もずいぶん違うということが、はっきりしてきました。それで、どういう形で今の我々の話をまとめるかということは、煮詰まってはいないのですが、それぞれの立場の方でご意見がおありでしたら、コンビーナーのひとりの染谷の電子メールアドレス someyatcc. saga-u.ac.jp へメールをお寄せください。今週一杯ということで。それを我々が拝見して整理して、微生物生態学会のホームページ(http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jsme2/)に載せます。これに対してまたfeedbackをいただいて、さらに討論した上で何らかのステートメントを出したい、と考えております。

  ここで少しまとめさせていただきますと、viableculturableな菌は間違いなく存在する、それから研究手段はほとんど満足できるものがある。ですからそれを早くシェアしてしていただきたいと思います。特に現場のフィールドで社会との接点でお仕事なさられている方は、早くシェアしていただいたら良いと思います。問題はこの間にギャップがあることです。このギャップは、physiologyの分野からはかなり説明が進んでいる。それに対して、 ecologybiologyの方からどの程度説明ができるかという点ではないでしょうか。非常に興味深いことは、天野さんのお話にもありましたように、大腸菌などではactivityinfectionという具体的に見える形で問題提起できるということです。そういうところで、このギャップから何を生み出すかということが、サイエンスとしての課題となろうかと思います。

 木暮 基本的には、stationarystarvedというストラテジーは非常に明瞭で、現実的でいいと思うのですが、もう1つはやはりVBNCになるというのには、いろいろなストレスが実際かかっている。starvationだけじゃなくて熱がかかってもいいですし、salinityでもいいですから、この研究を進めていく上には、やはりいろいろなストレスをかけて、その都度その都度何が起こっているのか、というのをdescribeして、最終的にそれがstarvationと一致すればいいし、違えばそれも面白い。それだけ広いスタンスでVBNCを捉えていった方が、研究の幅が広がるのではないでしょうか。

 加藤 それでは、コンビーナーの犬伏さんにマイクを渡します。どうもありがとうございました。

 犬伏 どうも加藤先生ありがとうございました。演者の皆さん、座長の皆様、それからフロアの参加者の皆さん、白熱した議論を最後までありがとうございました。発言したりない方は、懇親会の席で、ぜひ活発な議論を続けていただきたいと思います。本日は皆さんありがとうございました。

 

4.  シンポジウム終了後に受け付けた質問・コメントとそれらに対する回答

ただいま工事中です。いましばらくお待ち下さい。