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第10回 耐熱ばね材料
1.熱へたりのメカニズム
耐熱ばねの明確な定義はないが,常温より高い温度で用いられるばねを耐熱ばね,また,この常温より高い温度で発生するへたりを熱へたりと称している。ばねが高温で用いられる時,折損が起きてはならないことはもちろんであるが,へたりが常温より大きくなることが問題となる。
ところで,へたりの捉え方には,クリープと応力リラクセーション(応力弛緩)の2種類がある。応力一定下のひずみの変化がクリープ,ひずみ一定下の応力の変化が応力リラクセーションである。応力とひずみのどちらを主に扱うかという違いであり,材料内で発生している現象は同じと考えてよい。
さて,高温の場合のへたりはどのようなメカニズムで発生するのであろうか。高温になるとへたり発生の原因は,以前「ばねのへたり」で説明した転位によるすべり(以下転位すべりと記す)だけではなくなる。図1に純ニッケルのクリープ変形機構領域図(等ひずみ速度線は消去してある)という図を示す。温度が高くなると転位すべり以外に転位クリープ,拡散クリープという現象が低応力下でも発生するようになることに注意されたい。
転位クリープは転位すべりと拡散クリープの中間的存在で,転位すべりと回復により,塑性変形が時間的にゆっくりと進む現象である。拡散クリープは温度の高い領域で,原子の拡散による物質移動そのものが変形の源になる現象である。つまり常温と高温ではへたり発生のメカニズムが異なる。また,金属材料は高温で長時間保持されると,多少なりとも金属組織の変化が生じる。特に常温で高強度の材料ほど高温では変化を起こしやすい。常温ではあまり問題にならなかった結晶粒径が問題になる場合もある。材料と温度にもよるが,熱へたりを常温でのへたりの延長と考えることは,大きな危険が伴なうので注意されたい。

2.耐熱ばね材料の種類
耐熱ばね材料に適用される材料は,既存のばね用材料と耐熱鋼を中心とする耐熱性の高い構造用鋼に大別される。耐熱ばね材料調査委員会が実施したアンケート結果を図2に示す。様々な材料が幅広い温度で使用されている。しかし,注意しなければいけないのは,この図の各データのばね設計基準は統一されておらず,許容へたり量はまちまちであるということである。そのことを考慮せず,最も右側の実績値が,いずれの条件においてもその材料の使用可能最高温度と考えてはならない。これらの材料について,分類・解説すると以下のようになる。
2.1炭素鋼
薄板ばねとしてはSK5を含むみがき特殊帯鋼,線ばねとしてはピアノ線・硬鋼線,SWO-A,B,Vが用いられているが,使用温度は低い範囲に限られる。
2.2 低合金鋼
線ばね用としてはSWOSC-V,B SWOSM-A,B,C, SWCV-Vが,大荷重のばねには,ばね鋼のSUP6〜SUP13が用いられる。薄板ばねの場合はみがき特殊帯鋼にSUPlOがあるが,低合金鋼が用いられる温度域ではむしろ次のステンレス鋼が用いられるケースが多い。
2.3 ステンレス鋼
ステンレス鋼は耐熱性があるだけでなく,耐酸化性,耐薬品性にも強いので重宝な材料である。薄板ばねではオーステナイト系のSUS301,SUS304,SUS316が用いられ線ばねではSUS304,SUS316が用いられる。析出硬化系のSUS631,SUS631J1はJIS鋼種の中では最も耐熱性に優れており,薄板,線ばねで用いられている。
2.4 工具鋼
SKDを主とする低合金工具鋼も耐熱性に富んでいるので,高温用途に用いることができるが,市販の鋼材形状の種類が少なく,適用できるばね形状が限られるのが難である。
2.5 耐熱鋼・耐熱合金
構造材料で用いられる耐熱鋼及び耐熱合金は,−般のばね材料より常温での強度が低いが,設計応力次第で耐熱ばね材料にも適用できる。Feベースの合金を耐熱鋼,Ni及びCoベースの合金を耐熱合金あるいは超合金と呼んでいる。
耐熱鋼は@少量のCr,Moを含む低合金鋼A10%前後のCrを含むフェライト系耐熱鋼B相当量のCrとNiを含むオーステナイト系耐熱鋼に分類される。 耐熱ばねとして代表的な材料にオーステナイト系耐熱鋼のA−286(SUH660)があげられる。Niベースの耐熱合金にはInconel,Hasteloyといった種類の材料があり,成分系の違いによりさらに細分化されている。これらのいくつかはJISにも耐食耐熱超合金(NCF)として規格化されている。耐熱ばね用としては析出硬化系のlnconel
X−750(NCF750)、lnconel718(NCF718)が,Ni-Coベースの合金ではRefractaloy26がさらに高温域で使用されている実績がある。

3.耐熱ばね設計のポイント
耐熱ばねの設計に際しては,常温で使用するばねの場合と異なった事頂について考慮する必要がある。圧縮コイルばねについては、JSMA No. 12に設計基準が設けられているので,詳細はこれを参照されたい。
高温で使用するばねで注意しなければいけない点について触れる。
3・1弾性係数の温度依存性
弾性係数はばね定数あるいは荷重設計のためには非常に重要な要素である。高温となると常温より弾性係数は低下するので,設計にあたっては使用する温度域の弾性係数が重要となる。図3に代表的な耐熱ばね材料の横弾性係数の温度依存性を示す。

3・2 使用条件と許容へたり量
高温では常温と異なったメカニズムでへたりが発生し,常温のようにへたりを無視できない場合が多い。設計にあたっては,まず,事前に応力,温度,時間などから使用中における許容へたり量を把握し,適切な材料を選択しなければならない。しかし,現在公開されている熱へたりのデータはそう豊富ではない。耐熱用ばね材料調査委員会による「耐熱用ばね・材料の高温データ集」第1巻・第2巻に数多くのデータがまとめられているが,現在は在庫切れとなっている。前述の耐熱圧縮コイルばね設計基準には,主な材料についての応力,温度,許容へたり量の関係が示されており,その一部を表1に示す。
これらはいずれも40〜500時間のデータであり,耐熱ばねを設計する上では必ずしも十分ではない。SWOSC-VとSUS304-WPBについては,3000時間までの共同研究がばね論文集34号に示されており,この研究成果を他の線径,材料にも適用すれば非常に有効な設計資料となる。
3・3 高温での酸化及び雰囲気
許容へたり量以外にも高温で用いられる場合には,酸化によるばね材料の損耗も注意しなければならない。また,雰囲気についても高温ガスの場合は,常温より影響が強いので注意を要する。
3・4 ショットピーニング.ホットセッチングと熱へたり
250℃以上の温度で使用される耐熱ばねの場合,加熱雰囲気により残留応力が解放されてしまうのでショットピーニングは効果がない。ショットピーニングにより導入されたひずみがへたりを助長させるので,耐熱ばねにはむしろ逆効果である。
常温で耐へたり性を高めるのに有効であったホットセッチングは,耐熱ばねでも基本的には有効である。ただし,その実施温度は使用温度より高温でなければならない。

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