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■■民主主義科学者協会法律部会理事会声明■■


「東日本大震災・大津波と原発事故のもたらしている危機と困難を乗り越えるために」



2011年4月3日
民主主義科学者協会法律部会理事会

東日本大震災・大津波と福島第一原発の事故というかつてない事態に直面して、民主主義科学者協会法律部会は、3月27〜29日、かねてから企画されていた合宿研究会を予定どおり実施するとともに、「東日本大震災を前にしてわれわれに何ができるか」について、緊急の討論を行った。われわれは、法律の各分野を総合し、また、民主的な日本社会を実現することに関心を持つ法律家・研究者の集団として、今後、多くの関係者や市民と連帯しつつ、今回の事態が提起している課題の解決のために、できるかぎりの役割をはたしていく決意である。

1995年の阪神・淡路大震災をはじめ、日本各地で発生した大規模災害は、数々の貴重な教訓、経験、人的ネットワークを生み出している。東日本大震災・大津波の被災者の救援と復興に向けた対策を講ずるにあたり、それらを掘り起こし、十分に生かすべきであることはいうまでもない。と同時に、巨大地震とそれによって誘発された巨大津波による、広域にわたって地域社会を根こそぎ破壊する未曾有の災害、そしてもっぱら人間のいとなみという次元において発生した原子力発電所の深刻な事故という重層的な危機によって、かつて経験したことのない数多くの課題が突きつけられている。これらに立ち向かうにあたり、次の視点が重要であるとわれわれは考える。

第1は、時間という視点である。

われわれの前には、いま現在の緊急の対応が求められる課題、直近の明日へ向けた課題、より長期的な見とおしをもった対応を求められる課題、という三重の課題が横たわっている。

巨大地震と巨大津波の被災者は、被災の現場で、不自由かつ二次災害の危険すら孕む劣悪な生活・衛生環境の避難場所で、いまこの瞬間にも医療を含む緊急の支援を待っている。同時に、津波によって奪われた生活と産業の基盤である地域社会そのものの再生を含む、人びとの日常のいとなみの場―住まい、働き、学び、くつろぐ場―のできるだけ速やかな回復にも着手しなければならない。そのような復興は、自然現象としての地震は避けることができないとしても、地震による災害を最大限未然に防止し被害を最小限にくい止めることはできるはずだ、という視点に立ったものであることが求められる。そうであるとするならば、東日本大震災・大津波の被災者の救援と被災地の復興の課題は、首都圏直下型大地震や東海・東南海・南海連動型地震のように、今後いつ起きてもおかしくないと言われる大規模地震にいかに備えるかという課題とも共通する側面をもつものであり、災害に打ち克ちうる社会をともに築くという共同の課題として、連帯して取り組んでゆく必要がある。

福島第一原発の事故についても同様である。原発周辺地域の住民の避難と避難先における当面の生活の保障という問題がある。農産物や水の放射性物質による汚染は、(現時点では、その危険性の程度についてなお慎重な判断が必要とされるとは言え)すでにより広域の住民の生活にも影響を及ぼしつつある。と同時に、放射性物質による汚染の深刻化・広域化・長期化の可能性は、関連地域における生活基盤と産業の再生はいかに可能かという問題を否応なしに突きつけている。

他方、福島第一原発は廃炉となることが必至という状況の中で、想定される電力不足をどう乗り切るか、という問題がある。当面、解決策は「計画停電」や「節電」という形で提起されている。しかし、より根本的に問われているのは、福島第一原発の事故を老朽化した原発の上にあれこれの人的誤りが重なることによって生じた特別な事例ととらえ、問題点を是正しつつも原発に依存したエネルギー供給の構造そのものは今後も維持し続けるという道を選ぶのか、それとも脱原発への方向へと大きく舵を切り、その実現に向けた一歩を踏み出すのか、ということにほかならない。この問いは、われわれが到達した生活様式におけるエネルギー消費のあり方そのものの問いなおしをも求めるであろう。現在の世代の便益が将来の世代にどのような重荷を背負わせることになりうるのかを、いまほど痛感させる時はない。

こうして、災害からの復興は、単に元に戻す「復旧」ではなく、新たな社会のあり方の構想にもとづく未来へ向けた復興でなければならないであろう。求められているのは、いま現在の緊急の課題に的確に対応するとともに、異なる時間的射程をもった諸課題をも見とおした、複合的な取り組みである。

第2は、このような取り組みの主体(担い手)という視点である。

上記の諸課題のすべてにわたって、何よりも国のはたすべき役割と責任とが巨大なものであることは、いくら強調してもしすぎることはない。

と同時に、救援と復興への取り組みの過程においては、あくまでも現場の実情を、地域によって異なり時間とともに変化するニーズと希望を正確に把握し、それを踏まえることが必要である。とりわけ、乳幼児、子ども、妊産婦、病人、障害者、高齢者、外国人など弱い立場にある人びとへの配慮が強く求められる。そのためにも、救援、復興にさいしての意思決定や具体的活動における男女共同参画の重要性を忘れてはならない。

被災者は、単に支援を受動的に待つ存在ではなく、生活の再建に向けて自ら立ち上がりつつある。それを支えるためにも、避難にさいしてコミュニティーのつながりを最大限維持するよう配慮することが求められる。復興の中心的担い手となるべき自治体も、大きな打撃を受けている。その力量を支えつつ、自治体間の横のつながりやボランティアの役割を適切に組み込むことも重要である。

繰り返しになるが、救援と復興において国の役割と責任が大きいことは言うまでもない。だが、課題の巨大さと緊急性を理由に、復興のあり方や財源など基本的な問題をめぐる多角的な議論と合意形成を省いた、もっぱら中央集権的な復興と秩序形成に突き進むことがあってはならない。

救援と復興のさまざまな担い手を信頼関係でつなぐものとして、情報の重要性は言うまでもない。地震と津波については、被災と被災者についての情報の蒐集自体が困難に遭遇し、情報の統合と効果的な活用がなお未解決の課題となっている。過去における「不都合な」情報の隠蔽が問題になってきた原発については、未曾有の事故に直面したいま、情報の適時で正確な開示はもちろんのこと、市民の理解と納得が得られるような、情報の意味することについての信頼のできる説明や、その情報にもとづいて行動することを余儀なくされる人びとへの具体的な支援という点において、少なからぬ問題があることを改めて露呈している。

東日本大震災・大津波の被災者に対して、国際社会からはかつてなく広い精神的・物質的支援が寄せられている。日本の原発事故は、ドイツをはじめ諸外国の原発政策に早くも影響を及ぼしている。福島第一原発の状況が劇的に悪化するとすれば、国境を超えて被害を拡げ、日本は加害者となる危険性がある。これらの災害の帰結として日本経済がどのようなゆくえを辿るかは世界経済のゆくえと不可分であり、国際社会の注視のもとにある。だからこそ、信頼のできる情報の発信が、国際社会に対しても不可欠である。

第3は、科学者の責任という視点である。

東日本大震災・大津波と福島第一原発の事故に直面して、科学者の口からほとんど異口同音に「想定を超えた」ものであるという驚きが表明された。自然現象である地震・津波と人工物である原発の事故とは区別されなければならないが、このような言明をどう考えるか、「想定」ははたして妥当なものであったのかが深刻に問われている。とりわけ福島第一原発については、すでに知られているように、実際に生じた事故のシナリオを予測した警告が繰り返しなされてきた。

もちろん、原子力行政を含む政治や原発関連企業が科学者の知見に真摯に耳を傾け、それを適切に生かした想定を立て施策を行ってきたかが問われなければならない。今回の事故に対する政治的・法的な責任の所在を明らかにすることは、避けて通ることのできない課題である。

と同時に、科学者の責任も重い。個別的分野の専門人としての知見にもとづく想定や政策にかかわる発言に、いかなる問題があったのか、真摯な検証が求められなければならない。これまでの自らのいとなみに率直に向き合うことなくして、復興と新たな社会の構築に向けた責任ある発言は不可能であろう。科学者の一員としてのわれわれ法律家集団も、原発の是非のような自然科学的知と社会科学的知との結合を求める基本的問題に、他分野の科学者とともに正面から向き合ってきたかどうか、反省を迫られている。

このような中で、法律家に課されている課題は何か。

法律家は、対応を求められている個別的問題と政策目標をめぐる法の現状を点検し、その目標を達成するのに適合的な法的制度設計について提案を行なう、という役割をはたすことができる。今回の大災害は、こうした役割をはたすべき課題があらゆる法分野に広がっていることを示している。このことを受け止めた法律家の活動は、日本学術会議などをつうじてすでに開始されている。

そのさい法律家は、政策目標によって法的手段がいつでもただちに正当化されるわけではなく、緊急事態であっても、人権という実質的価値や手続を踏むことの価値についてしかるべく目を向けるべきことを主張する。

それにとどまらず、法律家は、すでに述べたような新たな社会のあり方の構想にもとづく未来へ向けた復興の大きなデザインを描く作業にも、他の分野の科学者とともに積極的に参加し発言することが求められている。

民主主義科学者協会法律部会は、この秋に予定されている定例の学術総会において、日程を拡張し、「脱原発を目指すエネルギー政策と法」、「大震災をいかに乗り越えるか―その法制の検討」(いずれも仮題)をテーマとする2つのコロキウムを実施することを計画している。われわれは、他の分野の科学者や市民とともに、東日本大震災・大津波と原発事故のもたらしている危機と困難を乗り越えるために何をなすべきか、何ができるかについて、持続的に考えてゆく決意である。

最後に、何よりも尊いいのちを犠牲にされた方がたに、心からの哀悼の気持ちをお捧げしたい。また、被災の現場や不自由な避難場所で苦闘されている被災者の方がたにはお見舞いと激励の気持ちを、そして、さまざまな場所でさまざまな立場から救援活動にあたっている無数の方がた、福島第一原発の決定的危機の回避に取り組んでいる方がたには感謝と連帯の気持ちをお伝えしたい。


声明(PDF版)