日本貝類学会創立75周年記念(平成16年度)大会プログラム

3月27日(土)
9:30 受付開始
【口頭発表】
座長 天野和孝
1. 10:30-10:45 クチキレエビス類(腹足類:クチキレエビス科)の遊泳行動とその
分類学的意義 長谷川和範
2. 10:45-11:00沖縄トラフの化学合成生物群集に生息するProvanna属の分類学的
再検討 佐々木猛智゜・奥谷喬司・藤倉克則
3. 11:00-11:15豪州産汽水棲カワザンショウ科の再検討 (1) "Assiminea" buccinoides とその近縁種群 福田 宏゜・Winston F. Ponder
4. 11:15-11:30 オマーン産カワザンショウ科(新生腹足上目:リソツボ上科)鈴木田亘平゜・福田 宏
5. 11:30-11:45日本近海産タマガイ科貝類の比較解剖学的研究 竹山佳奈゜・土屋
   光太郎・瀬川 進
6. 11:45-12:00軸舌型歯舌による貝類分類法の再検討 山崎友資

12:00-13:30 昼休み

座長 福田 宏
7. 13:00-13:15 Arthur Adamsは145年前,日本海見島沖のどこで多数の貝類を発見したか? 堀 成夫
8. 13:15-13:30豊かな内湾の貝類相 ?三重県英虞湾? 木村昭一゜・木村妙子
9. 13:30-13:45吉野川河口干潟における貝類分布特性 大田直友゜・藤本高志・向井
   大祐
10. 13:45-14:00輸入シジミ類に随伴する外来二枚貝Sinomytilus sp.(イガイ科)の形態的特徴 木村妙子
11. 14:00-14:15 ムラサキイガイの日本での初発見年と移入初期の分布について 岩崎敬二゜・石田 惣
12. 14:15-14:30大阪市内の上部更新統から産出したアジアザルガイ化石 石井久夫
13. 14:30-14:45 シロウリガイ属化石に見られる穿孔捕食痕 天野和孝

14:45-15:00 休憩

座長 岩崎敬二
14. 15:00-15:15西表島網取湾におけるラクダガイの繁殖期と生態分布の関係 上野
信平゜・寺内詩都
15. 15:15-15:30千葉県館山市坂田地先岩礁域におけるアッキガイ科腹足類の分布生態 樋口恵太゚・瀬川 進・土屋光太郎
16. 15:30-15:45 クロコソデウミウシとフジタウミウシの餌選択 平野弥生゜・井島
洋一・馬渡峻輔・平野義明
17. 15:45-16:00浅海と深海をつなぐ貝,ヒラノマクラとホソヒラノマクラ  大越
健嗣゜・平 智之・ 藤倉克則・藤原義弘
18. 16:00-16:15 ドブガイ類の殻長に対する殻高と殻幅の比率について 鈴木興道
19. 16:15-16:30二枚貝の貝殻彫刻パターンの理論形態 生形貴男
20. 16:30-16:45軟体動物の成長様式における多様性:最適資源分配モデルによる解明 入江貴博°・ 巖佐 庸

17:30-19:30 日本貝類学会創立75周年祝賀会
         会長式辞
         名誉会員推戴
         懇親会

3月28日(日)

【口頭発表】
座長 上島 励
21. 10:00-10:15 シボリガイの分類学的再検討 中野智之゜・小澤智生
22. 10:15-10:30日本および韓国産Semisulcospira属の遺伝的変異と形態変異 神谷
敏詩゜・島本昌憲
23. 10:30-10:45深海性エゾバイ科エゾバイ属巻貝の系統地理学的研究 井口 亮゜・
上野正博・前田経雄・南 卓志・林 勇夫
24. 10:45-11:00深海性エゾバイ科エゾボラ属巻貝の分子系統解析 井口亮゜・高井
晋平・上野正博・前田経雄・南 卓志・林 勇夫
25. 11:00-11:15 28S ribosomal DNAを分子指標にした二枚貝綱翼形亜綱の分子系統解析 橋本朝子゜・松本 哲
26. 11:15-11:30二枚貝綱の分子系統解析 松本政哲゜・橋本朝子

11:30-12:30 平成16年度総会
12:30-13:30 昼休み

座長 近藤高貴
27. 13:30-13:45巻貝の左右反転と適応度 ― モノアラガイの鏡像体は異常か正常か 
宇津野宏樹゜・浅見崇比呂・Edmund Gittenberger
28. 13:45-14:00陸棲巻貝における同胞種間の交配前隔離機構 高山美保゜・浅見
崇比呂
29. 14:00-14:15陸棲巻貝における同胞種間の非対称な隠蔽隔離と浸透交雑 浅見
崇比呂゜・関 啓一
30. 14:15-14:30 マイマイ属における左右性の進化と種分化 上島励゜・浅見崇比呂
31. 14:30-14:45霞ヶ浦産ヒメタニシの眼の数の異常 西脇三郎゜・升 秀夫・花輪
   俊宏・石井照久
32. 14:45-15:00 ヒメタニシの精巣の組織構造の季節変化 花輪俊宏゜・升 秀夫・
西脇三郎
33. 15:00-15:15霞ヶ浦におけるヒメタニシの精巣の病変 升 秀夫゜・西脇三郎・
花輪俊宏

【ポスターセッション】
説明時間 15:30-16:00 奇数番号(P-1, P-3, P-5, ..., P-17); 16:00-16:30 偶数番号(P-2, P-4, P-6, ..., P-18)

P- 1. ヒザラガイは沖縄にも分布する 大越健嗣゜・濱口昌巳
P- 2. ベトナム・ニャチャンで採集された浅海性多板類 齋藤 寛
P- 3. 駿河湾で1975-2000年の間に認められた暖流系貝類の分布新記録 延原尊美゜・藤森麻紀・寺田 徹
P- 4. 韓国の干潟で発見された未記載の貝類 山下博由
P- 5. 大分県佐伯市大入島石間浦の海産貝類相 山下博由゜・福田 宏・鈴木田亘平
P- 6. 茨城県沖における上部漸深海帯の軟体動物相 芳賀拓真゜・栗原行人
P- 7. 潮間帯に生育する海藻上の貝類群集 境田朋美゜・山本智子
P- 8. サカマキガイとは何者か? 繻エ康裕
P- 9. 駿河湾大瀬崎に出現したLampadioteuthis megaleia について 土屋光太郎゜・
阿部秀樹
P-10. 淡水・汽水性アマオブネ類の種多様性 狩野泰則
P-11. ユキスズメ科貝類の分子系統解析 狩野泰則
P-12. 相模川水系,金目川水系におけるタイワンシジミの出現状況 園原哲司°・
藤原靖夫・針谷 応・吉田直史
P-13. ヤマトカワニナ種群における歯舌の形態変異(予報) 高見明宏
P-14. タカラガイの貝殻形態に見られる緯度クライン:数理モデルによるアプローチ 入江貴博°・ 巖佐 庸
P-15. Lymnaea stagnalisの原殻形成様式に関する研究 三好 理゜・勝野志保・佐々木猛智・棚部一成
P-16. イガイ科穿孔性貝類 Lithophaga 属および Leiosolenus 属の機能形態 大和田正人
P-17. 新腹足類巻貝(イボニシ,Thais clavigera)におけるステロイド受容体ファミリー遺伝子発現の季節変動梶原昌朗゜・榎本 瞳・加藤健一・高橋 滋・高橋
勇二
P-18. 抱卵するスカシガイ科貝類Diodora sp. 沼波秀樹゜・宮村真友子・柏木美耶・
佐々木猛智・小串 輝

研究発表要旨

1 クチキレエビス類(腹足類:クチキレエビス科)の遊泳行動とその分類学的意義

    長谷川和範(国立科学博物館)

 2003年5月に広島大学農学部練習船“豊潮丸”の南西諸島航海中,停泊した港内で夜間実施した集魚灯に極めて多数のクチキレエビス類が泳ぎ寄っているのが観察された.クチキレエビス類の一部が遊泳能力を持つことは既に報告されているが,実際に野外で観察されたのは今回が初めてであり,その生態学的および分類学的な意義について予報的に述べる.
 集魚灯でクチキレエビス類が採集されたのは以下の3ヶ所である.5月22日,沖縄伊平屋島港内:Scissurella staminea (A. Adams, 1862) [= Scissurella declinans Watson, 1886]クチキレエビス.5月23日,沖縄伊江島港内:[遊泳を確認したがサンプルを採取できず].5月25日沖縄本島那覇港内:Sinezona ferriezi (Crosse, 1867) [日本新記録]およびScissurella sp. [未記載種].いずれも港内の水深は少なくとも5m以上あり,また多くの個体が集まっていることから積極的に遊泳していると考えられる.採集された個体は容器の中で盛んに放卵放精を行っており,繁殖のための行動である可能性がある.また,採集された個体は2属3種に同定されたが,軟体部の構造は,いずれも蓋が大きく足の左側に付着しているなどの顕著な特徴で一致しており,貝殻の形態に基づいた属分類の見直しが必要であることを示唆している.

Hasegawa, K.: Swimming behaviour of scissurellids (Gastropoda: Scissurellidae), with behavioral and taxonomical implications

2   沖縄トラフの化学合成生物群集に生息するProvanna属の分類学的再検討

  佐々木猛智゜ (東大総合研究博物館)・奥谷喬司 (海洋科学技術センター)・
    藤倉克則 (海洋科学技術センター)

 Provannnidaeハイカブリナ科は深海性の化学合成生物群集に固有の分類群である.日本周辺からはProvannaハイカブリナ属に既に3種が記載されているが,分類学的再検討の結果,沖縄トラフに2新種が分布することが明らかになった.1種はかつてProvanna glabraサガミハイカブリニナに同定された種であり,南奄西海丘〜第四与那国海丘にかけての広い海域に分布する.もう一方の新種は,八重山海域の2地点(鳩間海丘,第四与那国海丘)からしか見つかっていない.本新種の形態は日本産の他種とは異なり,ラウ海盆から記載されたProvanna segonzaciに最も酷似する.沖縄トラフとラウ海盆からは他の腹足類にも酷似する類似種が知られており,化学合成生物群集の研究では少なくとも西太平洋海域全域について幅広い視点からの検討が必要である.

Sasaki, T., Okutani, T. and Fujikura, K.: Systematic revision of Provanna (Gastropoda: Provannnidae) from chemosynthetic communities in the Okinawa Trough


3 豪州産汽水棲カワザンショウ科の再検討
    (1) "Assiminea" buccinoides とその近縁種群

    福田 宏°(岡山大・農)・Winston F. Ponder (Australian Museum)

 オーストラリアの汽水棲カワザンショウ科貝類は,これまで唯1種から成るとされてきた.その種名は Assiminea buccinoides (Quoy & Gaimard, 1834) または A. tasmanica T.-Woods, 1876 とされた例が最も多い.しかし今回の検討の結果,10以上の異なる種が存在し,さらにそれらは異なる複数の属に分けられるべきことがわかった.今回はそれらのうち,上記2種を含む種群について報告する.この種群は,蓋の突起 (peg) の有無によって2群に大別可能なだけでなく,交尾嚢輸管の長さ・形 (直線的か湾曲するか)・蛋白腺への合流点の位置等の形質によって,7タクサを識別できた.分岐分析の結果それらは単系統群をなし,また,既存のどの属とも区別すべきことがわかった.この属は,日本その他多くの地域のカワザンショウ科貝類と同様,殻の形態が互いに酷似しているため種数が少なく見積もられてきたものの,実は多数の cryptic species が含まれていたという点で,本科の分類を巡る混乱の典型例であると言える.

Fukuda, H. and Ponder, W. F.: A revision of Australian brackish-water assimineids, (1) "Assiminea" buccinoides species complex (Caenogastropoda: Rissooidea)

4 オマーン産カワザンショウ科(新生腹足上目:リソツボ上科)
    
    鈴木田亘平゜・福田 宏(岡山大・農・水系保全)

 オマーン国 Sultanate of Omanはアラビア半島東部の北緯17-25度,東経52-60度に位置している.オマーン国及びその周辺地域における貝類相は,19世紀半ば (Melvill 等) から近年 (Bosch 等) にかけて報告例があるものの,カワザンショウ科に関する記述はなく,本研究が当地域における最初の報告である.演者らは2003年12月にアラブ首長国連邦国境付近から,イエメン共和国国境付近までのマングローブ林及び海岸部で調査を行った.採集された種は形態的特徴から次の3種群に分けられる.1)殻色は茶褐色,体層上に色帯を巡らし,螺塔は高く,歯舌の中歯に下歯尖を欠き,マングローブ林内の潮間帯上部のリター下などに棲息する種群.2)殻色は一様な茶褐色や薄い赤色もしくは黄色,螺塔は高く,歯舌の中歯に下歯尖を具え,マングローブ林内の潮間帯中〜上部における泥干潟や気根の表面に棲息する種群.3)殻色はオレンジ色,螺塔はやや低く,海岸部潮上帯の転石下に棲息し,地中海等に分布するPaludinella属に近縁と考えられる種群.

Suzukida, K. and Fukuda, H.: Assimineids (Caenogastropoda: Rissooidea) of Oman

5 日本近海産タマガイ科貝類の比較解剖学的研究

    竹山佳奈゜・土屋光太郎・瀬川 進(東京海洋大学)

 タマガイ科貝類の高次分類体系は殻や歯舌の形態をもとに構築されてきたが,未だ分類学的にも十分検討されているとはいえない.本研究ではこれまでほとんど報告のないタマガイ科貝類の軟体部の比較解剖を行い,形質の評価,科内の系統関係を再検討することを目的とした.日本近海産3 亜科9 属21 種の観察を行った結果,雄性生殖器の外套輸精管の構造や唾液腺の位置関係などはNatica 属のように属内において形質状態が均一ではないグループが存在することが明らかとなった.必ずしも殻と歯舌に偏重した現在の分類体系が,軟体部の形質に全く整合しないということはないものの,より多くの種・形質をの比較評価をおこない系統解析を行うことによりあたらな分類体系が確立される可能性が示唆された.

Takeyama, K., Tsuchiya, K. and Segawa, S.:Comparative anatomy of Japanese Naticidae

6 軸舌型歯舌による貝類分類法の再検討
    
    山ア友資(北海道東海大学・工)

 分類形質として重要な歯舌による分類法の有効性を検討した.標本は軸舌型のエゾバイ科8種(ベンガルバイ,アニワバイ,コエゾバイ,マレエゾバイ,ツバイ,エゾバイ属の一種,ナガバイ,ウスムラサキエゾボラ)で,成熟個体を用いた.歯舌抽出は,吻を切り取り,水酸化ナトリウムで周辺組織と分離した.その後,エタノールで脱水し,プレパラート標本はダーリア紫で染色し,キシレンで透過後,M.G.Kで封入した.観察・撮影は光学顕微鏡・SEMを使用した.側歯と中歯の尖数を記録し,種間の比較を行った.
 歯舌は,種内で変異があり,他種と変異が重なる場合がある.他に,中歯尖数の変異が大きいこと,左右の側歯尖数がほぼ一致すること,性差が無いことを示した.最頻のパターンが種間で同じとなる例として,側歯左【3】-中歯【5】-側歯右【3】の割合が,アニワバイ44.4%,コエゾバイ62.1%,ツバイ42.7%,エゾバイ属の一種54.9%であった.外部形態で,殻は厚く殻口に肥厚部を形成する国後島北西部水深500 mのアニワバイと,殻は薄く,肥厚部を形成しない日本海北部水深600 mのアニワバイの歯舌を比較した結果,有意な違いが無かった.成熟個体内において,歯舌パターンが歯舌の列の途中で変化する例を見い出した.

Yamazaki,T.: Reexamination of the whelk taxonomy by rachiglossate type of radula

7   Arthur Adamsは145年前,日本海見島沖のどこで多数の貝類を発見したか?
    
    堀 成夫(山口県萩市)

 1859年,英国人Arthur Adams はActeon号による日本近海の航海で,見島(山口県萩市)沖で多数の貝類を発見し,ヤブレガサ・コシダカシタダミ・レイシツボなど約160もの新種を発表した.しかし,よく知られているように,彼はサイズ表記も図もない簡素な原記載しか残さなかった上,彼の標本の多くも散逸してしまっていることから,未だ多くの種が正体不明となっている.この問題の解決のためには,散逸したタイプ標本の捜索のほか,見島沖の現場でトポタイプを採集して比較検討することも必要であろう.
 Adamsが多数の貝類を採集した見島沖の地点は,彼自身の原記載において「16 miles from Mino-Sima; Straits of Korea, 63 fathoms(朝鮮海峡・見島から16マイル,水深63尋)」と記されているが,それ以上の詳細データは示されていないため,これまで具体的な地点の特定はなされていなかった.しかし最近,演者は一般には公開されていない見島沖の海底地形データを検討する機会を得,Adamsの採集地点をある程度絞り込むことができたので公表する.また,海流・底質・水産事情などの面から,その地点がどのような環境の場所であるかも推察できたので,それも紹介する.

Hori, S: Account on the Arthur Adams's surveyed area off Mishima Island in Japan Sea

8  豊かな内湾の貝類相 -三重県英虞湾-

    木村昭一゜(愛知県立三谷水産高校)・木村妙子(三重大・生物資源)

 英虞湾は三重県中部に位置するリアス式海岸を持つ内湾域であるが,これまで貝類相に関する情報は非常に少なかった.演者らは2005年の三重県版レッドデータブックの改訂を目指して,2001年から県内湾域の基礎調査を行っている.また,2003年には環境省の全国干潟調査の対象地域にもなっている.演者らは同湾の湾口部から湾奥までの塩性湿地,干潟を中心に2001年から10回以上に渡って貝類相調査を行った.その結果,イボウミニナやイチョウシラトリなど多くの全国的に絶滅が危惧される種の生息を確認した.また多くの種は英虞湾が分布の北限・東限であった.本発表ではこれらの貝類の生息状況について報告すると共に,ソトオリガイ科並びにモモノハナ属の不明種の分類学的検討についてもあわせて報告する.

Kimura, S. and Kimura, T.: Rich molluscan fauna of Ago Bay, Mie Pref.

9   吉野川河口干潟における貝類分布特性

    大田直友゜・藤本高志・向井大祐 (阿南高専・建設システム)

 吉野川は四国の中央部から東西に流れる全長194 kmの1級河川で,その河口部には約100haの干潟があり,日本の各地で絶滅が危惧される底生生物が豊富にみられる.この干潟をかすめるように,全長1291mの東環状大橋の建設が2003年12月に起工された.ところがこれだけの大規模・長期間(2012年完成予定)の工事でありながら環境アセスメントは行われておらず,工事前の底生生物の現状を定量的に把握しておくことは希少種保護・保全の観点から重要である. そこで2003年10月にこの干潟のヨシ原内外に合計100個のコドラート(33×33 cm)を設置し,底生生物の定量調査を行った.また,調査地点の底質も同時に採集し粒度分析を行った.その結果,徳島県版RDB記載種8種をふくむ約20種の底生生物がみられた.今回は貝類について,分布状況および生息密度,ヨシ密度,底質粒度の相互関係を考察する.

Ota, N., Fujimoto, T. and Mukai, D.: Distribution patterns of mud snails on Yoshinogawa sandflat

10 輸入シジミ類に随伴する外来二枚貝Sinomytilus sp.(イガイ科)の形態的
特徴

    木村妙子(三重大・生物資源)

 シジミ類は国内の漁獲量の減少に伴い輸入量が年々増加し,外来シジミの定着やこれらに随伴して移入定着する貝類が近年報告されている.例えば,イガイ科の付着性二枚貝カワヒバリガイLimnoperna fortunei は,1980年代後半に店頭の輸入タイワンシジミCorbicula fluminea に混入が確認され,1990年に国内の自然水域での分布が確認された.今回は,まだ自然水域では分布が確認されていないが,1996年以来店頭や輸入貝類の仕分け場で確認されているカワヒバリガイ類似種Sinomytilus sp. について,形態的な特徴を中心に報告し,注意を促したい.また,本種と類似した殻形態を持つ海産のイガイ科ミカヅキヒバリガイSeptifer (Ciboticola) lunata との比較を行い,付着への形態的な適応について考察する.

Kimura, T. : Morphological characteristics of introduced mussel Sinomytilus sp.

11 ムラサキイガイ Mytilus galloprovincialis の日本での初発見年と移入初期の分布について

    岩崎敬二゜(奈良大学教養部)・石田 惣(福井市自然史博物館)

 本種は,分布の広さと現存量の多さ,在来種や人間社会への影響の大きさという点で,日本における海産移入種の代表的存在である.移入種の初発見年とその場所に関する情報は,その種の移入手段や移入経路を推定する上で極めて重要な情報だが,これまで本種については,1920年頃・神戸港説(朝倉, 1992; 風呂田, 1997),1925年・兵庫県説(波部, 1978),1932年兵庫港説(内橋, 1939),1934年神戸港説(金丸, 1935; 大谷, 2002)などの諸説があって,確定的なものはなかった.演者は,こういった説を検討したところ,現時点での確実な初発見記録は,当時兵庫県水産試験場に勤務していた内橋潔が,1932年に兵庫港(神戸港の西端)で発見したもの(内橋, 1939)であるとの結論に至った.また,この初記録から間もない1930年代末には,既に,北は青森県陸奥湾から南は大分県日出郡までの太平洋側に広く分布していたようである.さらに1940年代には日本海側の秋田県男鹿半島で,1950年代には北九州の洞海湾や博多湾でも発見されており,日本海への侵入も,これまで推定されてきた(Ho, 1980; 大谷, 2002)よりもかなり早い段階で起こっていたものと思われる.こういった情報から,本種の国外からの移入経路と国内での分散手段を推定する.

Iwasaki, K. and Ishida, S.: First record of Mytilus galloprovincialis in Japan

12 大阪市内の上部更新統から産出したアジアザルガイ化石

    石井久夫(大阪市立自然史博物館)
 アジアザルガイVepricardium asiaticum (Brugui?re, 1789)の化石が,大阪市内の後期更新世上町層から産出した.日本では現生も含めて初記録と思われる.本属は種の同定に混乱が多いとされるが,本研究では,Vidal (2000)の試みた肋の形態(構造,装飾)や数,小月面などに基づく分類にしたがった.化石は(財)大阪市文化財協会により,大阪市天王寺区の遺跡発掘中に採集された.標本はすべて破片だが,種を特徴づける貝殻形態や装飾は残している.左殻前半部破片から推定した肋数は,アジアザルガイとして最多の40前後になる.随伴化石には絶滅種が含まれて更新世を示すが,潮間帯と浅海の群集が混じり,化石によるアジアザルガイの生息環境推定は難しい.現生種はペルシャ湾から東南アジア(Vidal, 2000),台湾の澎湖島(大塚, 1937)に分布し,ほぼ北回帰線より南に限られる.偶産種とはいえ,約12万年前の温暖な海況を示す種類として注目される.

Ishii, H.: First record of Vepricardium asiaticum (Bivalvia) from the Japanese Pleistocene

13 シロウリガイ属化石に見られる穿孔捕食痕

    天野和孝 (上越教育大学・地学)

 シロウリガイ属は化学合成群集の主要な構成属である.現生シロウリガイ属への穿孔捕食活動はほとんど知られていないが,最近北海道の中新統望来層のワタゾコウリガイ(Calyptogena pacifica) やオウナガイ(Conchocele bisecta)に多くの穿孔捕食痕が発見された(Amano, 2003).また,その捕食者としてハイイロタマガイ属 (Cryptonatica sp.),ウスイロタマツメタ(Euspira pallida),アクキガイ科腹足類が推定されている.タマガイ科によるワタゾコウリガイの貫通した穿孔捕食痕は167個体中30個体(18%)に認められた.これは,北海道の下部更新統産のエゾタマキガイ(Glycymeris yessoensis) の穿孔捕食率(10~17%; 天野, 2004)に匹敵する.その後,新潟県の上部中新統能生谷層より産出するワタゾコウリガイにもタマガイ科によると思われる穿孔捕食痕(不完全痕)が見いだされ,Kamada (1962)により福島県の下部中新統本谷層から穿孔捕食痕をもつCalyptogena chitanii が図示されていたことがわかった.さらに,長野県四賀村の中部中新統別所層から穿孔捕食痕をもつシロウリガイ類が採集されている(小池伯一私信).以上から,中新世をとおしてシロウリガイ属にはタマガイ科やアクキガイ科による穿孔捕食活動があった事が明らかとなった.
Amano, K.: Predatory drill holes found in fossils of Calyptogena

14   西表島網取湾におけるラクダガイの繁殖期と生態分布の関係

    上野信平・寺内詩都(東海大・海洋)

 スイショウガイ科は熱帯が主分布域で,本研究を実施した沖縄県西表島網取湾にも3属19種が生息する.このうちラクダガイは殻高20cmにも達する最大種で,個体数は多くはなく,同科他種とは生態的特性が相違すると考えられるが,ほとんど未知である.本研究では繁殖期と分布様式から両者の関係を明らかにすることを目的とした. 
 調査は2002年4〜12月と2003年5〜12月に西表島網取湾の礁原で実施した.調査地点はStn.A,Bの2地点で,各々10×10mの方形区を100個隣接して設置して調査区とした.調査区内の出現個体と卵塊はすべて計数し,出現個体はすべて標識した.
 雌(n=35)と雄(n=19)の成貝では殻高,殻幅,湿重量に性差はなかった.卵塊は2002年4〜12月,2003年5〜12月に確認され,繁殖期は4〜12月,盛期は5〜8月と推定された.また標識個体の再捕率はStn.A,Bで各々2002年が54,76%,2003年が71,94%と高く,標識1年後でも45,83%と,滞留性の高いことが明らかとなった.調査期間中はいずれの時期も集中分布であり,繁殖には交尾が必要なことを考え合わせると,集中分布で滞留性の高いことが本種の個体群維持に有利と推察された.
Ueno, S. and Terauchi, S.: Relationship spawning season and ecological distribution of Lambis truncata sebae (Strombidae) at Amitori Bay, Ryukyu Isls.

15 千葉県館山市坂田地先岩礁域におけるアッキガイ科腹足類の分布生態

    樋口恵太゚・瀬川 進・土屋光太郎(海洋大)

 アッキガイ科腹足類は岩礁性海岸に広く分布しており,本学坂田実験実習場地先においても主に5属8 種が確認されている.アッキガイ類は高次の捕食者として群集構造に大きな影響を及ぼしていることから,利用資源の競合の結果として,何らかの生態的な地位の分割があると考えられる.そこで本調査では,調査区域内におけるアッキガイ科の分布状況を調べるとともに,生息場所の環境要素および微細環境ついて統計学的手法を用いて種間で比較検討を行い,各種の分布様式を明らかにすることを目的として調査を行った.採集個体数の多かった4属5種の分布様式には,鉛直的な傾度および波浪に対する傾度に沿った明確な相違が見られ,微細生息環境の利用については,分布の中心における環境要素を反映し,それぞれの種特有の傾向を示した.

Higuchi, K., Segawa, S. and Tsuchiya, K.: Distribution of muricid gastropods on the rocky shore in Banda, Tateyama, Chiba Prefecture

16 クロコソデウミウシとフジタウミウシの餌選択

    平野弥生゜1・井島洋一1・馬渡峻輔2・平野義明1
(1千葉大学海洋バイオシステム研究センター,2北海道大学大学院理学研究科)

 移入種の可能性が指摘されているクロコソデウミウシPolycera hedgpethi Marcus, 1964は,相模湾の人工構造物に付着するフサコケムシ上で頻繁に,時に高密度で発見される.このウミウシと,しばしば同所的に発見されるウミウシに,フジタウミウシPolycera fujitai Baba, 1937がいる.ともにコケムシ食者であることが知られているが,それらの餌選択についての詳細な研究は行われていない.そこで,2種のウミウシの餌を調査し餌選好性を比較したところ,2種ともフサコケムシとともにホソフサコケムシも食べることがわかった.フサコケムシを有意に好むクロコソデウミウシに対して,フジタウミウシでは餌種の間に好みの差が認められず,餌選択性の程度に違いが見られた.したがって,クロコソデウミウシの好むフサコケムシがフジタウミウシにとっても重要な餌であることが明らかとなり,クロコソデウミウシがフジタウミウシに不利益をもたらす可能性が示唆された.

Hirano, Y. M., Ijima, Y., Mawatari, S. F. and Hirano, Y. J.: Prey preference of a possibly introduced nudibranch, Polycera hedgpethi and its congener, P. fujitai

17 浅海と深海をつなぐ貝,ヒラノマクラとホソヒラノマクラ

大越健嗣゜・平 智之(石巻専修大学)・藤倉克則・藤原義弘(海洋
科学技術センター)

 鯨が死ぬと海底には大量の有機物が供給される.その多くが腐敗し消失した後も鯨骨は物理的な付着基盤として機能するだけでなく硫化水素等を発生させ深海の熱水や冷水域と同様の環境を一時的に創り出す.それら鯨骨は深海の生物群集をつなぐ飛び石として生物の分散に寄与するというステッピング・ストーン仮説が提唱されて以来,鯨骨生物群集が注目されている.本研究では鯨骨生物群集の中でのメガベントスである,鯨骨付着二枚貝の特性を把握することを目的とした.2003年7月,鹿児島県野間岬沖海底230m付近に沈んでいる鯨骨を調査した.付着していた二枚貝はイガイ科のヒラノマクラ Adipicola pacifica とホソヒラノマクラ Adipicola cryptaであった.ヒラノマクラの方が数が多く,付着位置は鯨骨の上方,ホソヒラノマクラは下方に少数付着していた.足糸は両者とも細く,外套膜縁辺部が水管状になり出水孔は管状に融合し入水孔は融合していなかった.ヒラノマクラは足と入水孔が長く伸張し,一方ホソヒラノマクラは短かった.貝殻はヒラノマクラは浅海の,ホソヒラノマクラは深海のイガイ科の特徴を有していた.鰓には両種とも硫黄を含んでおり化学合成の可能性が示唆された.

Okoshi, K., Taira, T., Fujikura, K. and Fujiwara, Y.: Bivalves attached to deep-sea whale-bone

18 ドブガイ類の殻長に対する殻高と殻幅の比率について

    鈴木興道(国土交通大学校・河川工学)

 代表例を下表に示すように,ドブガイ類の殻長に対する殻高,殻幅及び殻頂位置を,小川原湖から琵琶湖に至る計8ヶ所の湖沼と河川にて測定した.この結果,殻長を1とする殻長:殻高:殻幅:殻頂位置の全体比率は,1:0.52〜0.86:0.23〜0.57:0.20〜0.40という範囲が認められた.特に木曽川のドブガイ類は大型で殻幅が分厚く,琵琶湖産マルドブガイに重複分布すると共に,良き生息環境が推察された.

表−1.ドブガイ類の殻長に対する殻高、殻幅及び殻頂位置の比率
測定地 殻高比 殻幅比 殻頂位置比
小川原湖 0.58〜0.74 0.33〜0.47 0.20〜0.29
霞ヶ浦 0.62〜0.82 0.30〜0.49 0.22〜0.34
木曽川上流 0.53〜0.75 0.32〜0.57 0.21〜0.40

Suzuki, O.: Ratios of shell hight and width comparison with shell length on Anodonta

19 二枚貝の貝殻彫刻パターンの理論形態

    生形貴男(静岡大学・理・生物地球環境)

 二枚貝の殻彫刻には,共心円状,放射状,双叉状,V字状,対心円状,対角状,直線状などのものがある.これらのパターン形成は,彫刻要素の挿入と側方への移動によって表せる.その移動速度は成長縁上の部位毎に異なり,その位置を媒介変数とした周期関数によって近似的に表せる.この周期関数の振幅,波長,矩形度,および彫刻要素の挿入頻度の4つのパラメターで定義される理論形態モデルによって,上記の基本パターンを統一的に再現できる.50種以上の二枚貝でパラメターを実測したところ,各タイプの中間的なパターンが多数あった.二枚貝の殻彫刻の慣例的な類型は,離散的な範疇ではなく,連続的な変異のうちの典型を便宜的に指すに過ぎないと考えられる.この結果は,二枚貝の多様な殻彫刻が共通の発生基盤に制御されている可能性を示唆する.

Ubukata, T.: Theoretical morphology of bivalve shell sculptures

20 軟体動物の成長様式における多様性:最適資源分配モデルによる解明

入江貴博°・ 巖佐 庸 (九大・理・生物)

 体外に殻を持つ軟体動物には,成長期に軟体部の増大と殻の厚化を同時に行うグループと,主に軟体部を先に増大し,続いて殻の厚化に専念するグループがある.発表者は,前者による成長パターンを「同時殻成長」,後者によるそれを「逐次殻成長」と名付けた.これらに加えて,体外に殻を形成しない軟体動物も存在する.これらの成長パターンの違いは,異なった各々の環境下で軟体と殻に最適な資源分配がなされた結果として生じたものである可能性がある.この仮説を検証するために我々は,軟体体積の2/3乗に比例して得られる資源を成長期の各時刻で軟体部と殻に自由に分配できるという決定成長生物の最適成長モデルを構築した.ポントリャーギンの最大原理による必要条件を満たす解を計算した結果,(1) 死亡率や成長率の値に依存して,殻をまったく形成しない成長スケジュールが最適となりうる.(2) 殻を形成する場合には,常に「逐次殻成長」よりも「同時殻成長」のほうが有利であることが明らかになった.従ってこのモデルは,有殻の軟体動物に同時殻成長者が多いという観察を説明するが,逐次殻成長者の進化を説明しない.

Irie, T. and Iwasa, Y.: Diversity in the growth pattern of mollusks: an analysis with an optimal resource allocation model

21 シボリガイの分類学的再検討

    中野智之゜ ・小澤智生 (名古屋大学・環境)

 内湾域のマガキ上に生息するシボリガイ,ウミニナ類の殻上で生活するツボミガイ,岩礁帯に普通に見られるヒメコザラは,殻形態や色彩の著しい変異のために,しばしば混同されてきた.これらはもともとDunker (1860, 1861)によって別種として記載されたが,現在の笠貝類の分類では,明確に別種とする根拠が見つからないために,異なる生息微環境で生活する同種の生態型とみなされている.これらの笠貝の分類学的再検討を行うために,mtDNAのCOIと16S領域の一部,計961bpの塩基配列に基づき分子系統解析を行った.その結果,これらは異なる3つのクレードを形成し,さらに沖縄に生息するシボリガイは別のクレードを形成した.これは形態学的にも区別されるため,新種リュウキュウシボリガイとして報告する予定である.また他の3種についても同一湾内においてお互いに生殖隔離が成立していると考えられるので,別種として取り扱う事が妥当であると思われる.

Nakano, T. and Ozawa, T.: Systematic reconsideration of Patelloida pygmaea (Dunker, 1860) (Gastoropoda: Lottiidae)

22 日本および韓国産Semisulcospira属の遺伝的変異と形態変異

    神谷敏詩゜(東北大・理)・島本昌憲(東北大・総合学術博物館)

 東アジアに広く生息している淡水性腹足類Semisulcospira属の種は,その形態変異が大きいことで知られている.これらのうち,S. libertinaS. reinianaは,生体酵素アロザイムの遺伝子座Mpiをマーカーにして識別可能で,S. libertinaは遺伝子型AAを示し,S. reinianaは,BBを示す.両種は形態変異に富み,成貝の殻形態のみから両者を識別することは困難であるが,典型的な形態として,S. libertinaの殻表は平滑であるのに対し,S. reinianaには,顕著な縦肋が認められる.
 本研究では,韓国産の標本についてもその形態変異と遺伝的変異を検討した.その結果,韓国にも日本産のS. libertinaS. reinianaと同じ遺伝子マーカーを示す個体が生息していることが確認された.しかし,殻底の螺肋数が極端に少ない個体が存在するなど,日本産の個体以上に形態変異が著しい個体群が生息することも確認された.

Kamiya, S. and Shimamoto, M.: Genetic and morphological variation of Semisulcospira in Japan and South Korea

23 深海性エゾバイ科エゾバイ属巻貝の系統地理学的研究

    井口 亮゜・上野正博(京大院農)・前田経雄(富山県水産試験場)
    ・南 卓志(日本海区水産研究所)・林 勇夫(京大院農)

 本研究では,日本周辺に生息する深海性エゾバイ科エゾバイ属 (Genus Buccinum)巻貝8種 (B. tsubaiB. miyauchiiB. aniwanumB. striatissimumB. bayaniB. tenuissimumB. inclytumB. isaotakii)を対象に,その種間関係,種内の遺伝的集団構造を,形態及びミトコンドリアの16SrRNA領域,COI領域の部分塩基配列を用いて調べた.その結果,殻と陰茎の形態で特徴づけられる4つのグループに分けられた.またB. tsubaiB. striatissimumB. tenuissimumB. inclytumを対象に遺伝的集団構造を調べた結果,明確な遺伝的分化が見られる種と見られない種が存在した.こうした遺伝的分化の違いを,日本海の海底地形及び氷期の環境変動の知見と併せて考察していく.

Iguchi, A., Ueno, M., Maeda, T., Minami, T., and Hayashi, I.: Phylogeographic studies of deep-sea Buccium species (Gastropoda: Buccinidae) around Japan

24 深海性エゾバイ科エゾボラ属巻貝の分子系統解析

    井口 亮゜・高井晋平・上野正博(京大院農)・前田経雄(富山県水産
    試験場)・南 卓志(日本海区水産研究所)・林 勇夫(京大院農)

 日本周辺に生息する深海性エゾバイ科エゾボラ属を対象に,螺肋が発達したエゾボラモドキタイプと発達していないチヂミエゾボラタイプに分けて,ミトコンドリアのCOI領域の部分塩基配列を用いて分子系統解析を行った.その結果,チヂミエゾボラタイプは明らかな単系統性を示したが,エゾボラモドキタイプは多系統であった.また,チヂミエゾボラタイプは,海底谷によって遺伝的交流が妨げられている可能性が示された.このような遺伝的分化を,エゾバイ属巻貝の結果と併せて考察していく.

Iguchi, A., Takai, S., Ueno, M., Maeda, T., Minami, T., and Hayashi, I.: Molecular phylogenetic analysis of deep-sea Neptunea species (Gastropoda: Buccinidae) around Japan.

25 28S ribosomal DNAを分子指標にした二枚貝綱翼形亜綱の分子系統解析

    橋本朝子゜(神奈川大学・理・生物)・松本政哲(京大・理・生物物理)

 二枚貝綱翼形亜綱は,その進化の過程において適応放散を繰り返してきた.そのため,非常に多様な分類群で,その生活様式も変化に富む.現在までに翼形亜綱の進化に関して,形態学的,そして分子系統学的観点から研究が行われてきたが,まだ一致した見解が得られていない.特に,翼形亜綱の高次分類に関して大きな相違がある.その要因として,形態においては,収斂進化や平行進化に惑わされてきた可能性が挙げられる.また分子系統解析においては,解析に用いられた分子指標の信頼性が大きく関わっていると考えられる.よって,現在まで翼形亜綱を対象に行われてきた18S rDNAとCOI遺伝子に加え,今回新たに,28S ribosomal DNAを分子指標に,系統解析を行った.本研究において,まず28S ribosomal DNAの分子指標として,他の二つの遺伝子より有用であることを確認した.また,翼形亜綱内部で生じた著しい収斂進化の例を示すことが出来た.

Hashimoto, A. and Matsumoto, M.: Phylogenetic relationship of the Subclass Pteriomorphia with nuclear 28S ribosomal DNA

26  二枚貝綱の分子系統解析
    
    松本政哲゜(京大・理・生物物理)・橋本朝子(神奈川大・理・生物)

 Treatise Invertebrate Paleontology によれば,現存する二枚貝綱は6つの亜綱に細分されている.これら亜綱の妥当性,そして亜綱間の系統関係に関して,現在までに多くの議論がなされてきた.最近の形態形質に基づく分岐分析によれば,二枚貝綱は,ProtobranchiaとAutobranchiaに二分される見解が支持されるようになってきた.しかしながら,海外のグループによる18S rDNAに基づく分子系統解析は,既存の体系と大きく異なる結果を提示している.そこで私達は,28S rDNAのほぼ全長を用いて二枚貝綱全体を包括する分子系統解析を行った.現在の結果は,形態形質に基づく分析と整合的な部分(例えば,Protobranchia以外のグループの単系統性など)が数多く見受けられた.一方で,深いレベルの関係は有意に解決することができなかった.

Matsumoto, M. and Hashimoto, A.: Molecular phylogenetic analysis of the Bivalvia

27   巻貝の左右反転と適応度 ― モノアラガイの鏡像体は異常か正常か

    宇津野宏樹゜・浅見崇比呂(信州大・理・生物)・Edmund Gittenberger
    (Institute of Evolutionary and Ecological Sciences, Univ. of Leiden)

 有肺類では,発生の左右極性が母親の単一座位の遺伝子型により決定され,遅滞遺伝する.この現象は,右巻のソトモノアラガイLymnaea peregraで立証されてから,左巻のキセルガイや左右二型のミゾマイマイPartula suturalisでも確認された.Johnson (1982) は,少数派の巻型は,多数派の巻型との交尾が物理的にむずかしいために淘汰されることをしめした.一方Gould et al. (1985) は,右巻のオオタワラガイCerionでは,逆巻の殻が右巻とは鏡像対称ではないことから,発生の左右反転は正常な形態形成をさまたげると主張した.しかし,かたちをくらべても,異常かどうかはわからない.本研究では,タケノコモノアラガイL. stagnalisの鏡像変異をもちい,両親の核ゲノムを共有する同一遺伝子型の右巻と左巻を作成し,生存率と成長率を比較した.

Utsuno, H., Asami, T. and Gittenberger, E.: Left-right reversal and fitness in snails: is the lymnaean enantiomer normal or abnormal?

28 陸棲巻貝における同胞種間の交配前隔離機構

  高山美保゜・浅見崇比呂(信州大・理・生物)

 配偶者を識別する交配前隔離のメカニズムは,軟体動物ではほとんど未知の状態にある.カタツムリでは,頭瘤にフェロモンの分泌腺があることが組織学的に示唆されているものの,近縁な種間でフェロモンが隔離機構として機能している証拠は,まったく得られていない.そこで,コハクオナジマイマイとオナジマイマイの交尾前隔離がフェロモンの識別により実現しているのかいなかを探るために,Y字官をもちいての配偶者選択実験をおこなった.その結果,物理的に他個体の体や粘液に接触できなくても,同種個体を能動的に選択することが判明した.コハクからは正常に繁殖できる雑種個体が産まれる点で,交配後の隔離機構が進化していないことは確実である.本研究結果は,移動力が低い動物でありながら,異種を識別するメカニズムが,地理的隔離の後に期待される雑種崩壊(交配後隔離)より先に進化した例を立証している.

Takayama, M. and Asami, T.: Premating-isolation mechanism between sibling species of land snails

29 陸棲巻貝における同胞種間の非対称な隠蔽隔離と浸透交雑

    浅見崇比呂゜(信州大・理・生物)・関 啓一(東邦大・理・生物)

 コハクオナジマイマイ(コハク)とオナジマイマイ(オナジ)は,陰茎内壁の形態が明瞭に異なる.しかし,アロザイムとmtDNAの変異解析から,両者の間で浸透交雑が進行していることがあきらかである.交尾相手の種を選べる実験条件下では,約2割の頻度で種間で交尾する.このとき,たがいに陰茎を同時に挿入する雌雄二役の対面交尾が,種間で対称に成立する.ところが,コハクのみが産卵する.原因は,交尾継続時間の種間差にある.オナジはコハクから精包をうけとるまえに,コハクに精包をわたして交尾をおえる.そのため,オナジは父親になれるが母親にはなれず,コハクは母親にしかなれない.その次世代は雑種強勢をしめすため,コハクのmtDNAはオナジの集団に浸透しやすく,オナジのmtDNAは相対的に浸透しにくいと予測される.ところが現在までの解析結果は,この予測に反する事例をしめしている.

Asami, T. and Seki, K.: Interspecific asymmetry of cryptic isolation and introgressive hybridization between sibling species of land snails

30  マイマイ属における左右性の進化と種分化

    上島 励(東京大・理・生物)・浅見崇比呂(信州大・理・生物)

 陸貝には右巻きと左巻きがあるが,この両者は貝殻だけでなく体の左右が全て逆になる.右巻きと左巻きの貝は向かい合って交尾することが物理的にできないため,集団内に生じた逆巻きの突然変異に対しては強い淘汰が働き,その結果として逆巻きの種が進化することは難しいと考えられている.マイマイ属Euhadraでは既知種の内の約1/4が左巻きであり,逆巻き種の頻度が著しく高いことが知られている.そこで,マイマイ属における左右性の進化過程を明らかにするため,mtDNAを用いた本属の分子系統解析を行った.またマイマイ類における左右性の遺伝様式を確認するためにオナジマイマイの逆巻き突然変異個体を用いた交配実験を行った.これらの結果を総合して,マイマイ属において逆巻き種がどのように進化したのか,また左右逆転を介した種分化がどのような意味を持っているのかについて考察する.

Ueshima, R. and Asami, T.: Speciation by reft-right reversal in land snails of the genus Euhadra

31 霞ヶ浦産ヒメタニシの眼の数の異常

    西脇三郎゜・升 秀夫(筑波大・基医)・花輪俊宏(湘央学園)・           
    石井照久(秋田大・教文)

 秋田県八郎潟にすむヒメタニシには眼の数の様々な異常個体がみられる(石井他,2002,2003).霞ヶ浦ではヒメタニシに生殖異常がみられるが,眼の状態についても調査したところ八郎潟に類似の異常がみられた.調査個体は2003年5月,8月,11月に霞ヶ浦湖内の小川,石田,高山と湖岸の養魚場において採集した.眼の数を(右眼数:左眼数)で表すと,正常な(1:1)のほか(0:0),(0:1),(0:2),(1:0),(1:2),(1:3),(2:1)の異常な型がみられた.眼の数の異常個体の出現率は,小川13.8 % (n = 130),石田6.3 % (n = 32), 高山8.5 % (n = 82), 養魚場 1.5 % (n =132)であった.これらの眼の数の異常の原因は 今のところ不明であるが,発生の過程で引き起こされるものと考えられ,何らかの発生毒性をもつ化学物質が霞ヶ浦湖内に広く存在すると推測される.

Nishiwaki, S., Masu, H., Hanawa, T. and Ishii, T. : Aberration in the number of eyes of Sinotaia quadrata histrica in Lake Kasumigaura

32 ヒメタニシの精巣の組織構造の季節変化
 
    花輪俊宏゜(湘央学園)・升 秀夫(筑波大・基医)・西脇三郎

 霞ヶ浦に生息するヒメタニシの精巣には細精管の変形・萎縮,精子形成の減少という異常がみられることをすでに報告した.しかし精巣の組織構造の異常を正確に把握するためには,コントロールとしての正常な精巣の組織構造の理解が不可欠である.そこでこれまでの研究で解剖学的に異常の見られなかった霞ヶ浦湖岸にある養魚場産のヒメタニシの精巣について精子形成を中心に精巣の組織構造の季節的変化を検討した.用いたヒメタニシは2000年12月から2001年11月にかけて養魚場で毎月1回採集した.解剖して摘出した精巣は解剖学的に異常のないことを確かめた後,10%ホルマリンで固定,通常のパラフィン切片法で薄切し(2~4 μm),ヘマトキシリン・エオシンで染色後比較観察した.その結果,精子形成は春から秋にかけて活発に行われるが,冬期は停滞するという季節変化が認められた.

Hanawa, T., Masu, H. and Nishiwaki, S.: Seasonal change in histological structure of the testis of Sinotaia quadrata histrica

33 霞ヶ浦におけるヒメタニシの精巣の病変

    升 秀夫゜(筑波大・基医)・西脇三郎・花輪俊宏(湘央学園)

 霞ヶ浦に生息するヒメタニシの精巣の黒変と腫瘤様病変について組織学的に検討した.材料は2001年4月から2002年3月にかけて湖内の石田,蓮河原,高山,小川および湖岸の養魚場から採集した.精巣の黒変と腫瘤様病変の発生率は,石田47.5%(n=257),蓮河原48.9%(n=262),高山51.8%(n=251) , 小川10.6%(n=226),養魚場0 %(n=340)であった.これらの異常な精巣は10%ホルマリンで固定後,4~6μmのパラフィン切片としヘマトキシリン・エオシンで染色し観察した.黒変した精巣では細精管の萎縮,正型精子と異型精子の消失など退行性変化と細精管を囲む結合組織の増大する進行性変化がみられた.腫瘤様変化を示す精巣では細精管内に多数の細胞の増加がみられた.これらの細胞は(1)核の大きさが不揃いである,(2)細精管上皮とは異質の細胞群である,(3)拡大増殖または浸潤増殖など連続性があるなどから炎症または腫瘍が疑われた.これらの精巣の病変の原因物質は今のところ不明であるが,湖内の化学物質汚染との関係が強く示唆される.

Masu, H., Nishiwaki, S. and Hanawa, T. : Histological lesion of the testis of Sinotaia quadrata histrica in Lake Kasumigaura

P-1 ヒザラガイは沖縄にも分布する

    大越健嗣゜(石巻専修大学)・濱口昌巳(瀬戸内海区水研)

 ヒザラガイAcanthopleura japonicaは国内では北海道南部から屋久島まで分布するとされている.しかし,近年北海道南部からの発見の報告はほとんどなく,一方屋久島以南の奄美大島周辺まで分布している可能性があるとの情報が寄せられている.演者らは日本全国からヒザラガイを採集し,その形態と遺伝子からクロタイプ,メダマタイプ,シオタイプの3つに分け,その特性に関する情報の集積をはかってきた.本研究では東北以北と奄美大島以南におけるヒザラガイの分布の有無を確認することを目的とした.
 2003年夏から秋にかけて,北日本側では青森県の下北半島,北海道の函館から寿都までの渡島半島沿岸を調査した.南日本側は奄美大島と沖縄本島で調査を行った.
 北日本側では脇野沢から大間にかけての下北半島沿岸の複数か所でヒザラガイの生息を確認した.以前調査した津軽半島側も含め,両半島沿岸にはヒザラガイ・クロタイプが分布していることが明らかになった.南日本側では,奄美大島でヒザラガイ・シオタイプの生息を確認した.それらはオニヒザラガイと分布域が一部重なっていた.また,今回初めて沖縄本島においてもヒザラガイ・シオタイプの生息を確認した.以上のことからヒザラガイは北海道から沖縄まで分布していることが明らかになった.

Okoshi,K. and Hamaguchi, M.: Discovery of Acanthopleura japonica in Okinawa

P-2 ベトナム南部ニャチャンで採集された浅海性多板類

    齋藤 寛(国立科学博物館・動物研究部)

 ベトナム南部ニャチャンにおいて磯採集,および潜水による多板類の調査・採集を行ったところ,6科9属9種が得られた.このうちケハダヒザラガイ属の1種は未記載種と考えられる.またタクミヒザラガイ科およびモヒザラガイ属はベトナム沿岸からの初めての記録となる.前者は南西諸島にも分布するハナヤカカブトヒザラガイ,後者はモヒザラガイ属の1未詳種である.本調査では採集されなかったが,ニャチャンを含むベトナム南部沿岸から記載され,その後紅海産の種のシノニムとされていたケムシヒザラガイ属の1種,Cryptoplax dawydoffi Leloup, 1937について分類学的検討を行った結果,両種は別種であることがわかった.

Saito, H. Shallow water chitons from Nha Trang, Vietnam

P-3  駿河湾で1975-2000年の間に認められた暖流系貝類の分布新記録

延原尊美゜・藤森麻紀(静岡大学教育学部)・寺田 徹(静岡市)

 著者の一人である故寺田徹は,1975-2000年まで駿河湾内各地の漁港およびその周辺にて貝類を収集し続けてきた.特に地頭方周辺,相良漁港,土肥,八木沢における採集頻度は高く,25年間の貝類相の変化をほぼ連続的に追跡できる.これらの貝類資料中には,これまで駿河湾より南の海域に分布北限が記録されていた暖流系貝類19種(巻貝16種,二枚貝3種)が認められる.オナガガイ,ミミガイ,カラスキなど,70年代後半にのみ散発的に採集される偶発分布と考えられるものもあるが,オニノハ,ウネダカモミジボラ,ケマンガイなどは25年間を通じて複数回採集されている.とくに,ウネダカモミジボラやケマンガイは沿岸水支配下にある御前崎側にも分布が認められており,将来想定されている温暖化を監視する上で今後の動向が注目される.

Nobuhara, T., Fujimori, M. and Terada, T.: New records of warm-water molluscan species in Suruga Bay during 1975-2000

P-4  韓国の干潟で発見された未記載の貝類

    山下博由(日韓共同干潟調査団)

 日韓共同干潟調査団では,1999年から韓国の干潟で底生生物の調査を行なってきた.これまでの調査結果から,韓国の干潟で確認された分類学的・生物地理学的に重要な貝類を紹介する.韓国の干潟・塩生湿地において,10種の未記載種を確認した.カワザンショウ科3種・フトコロガイ科1種・ゴクラクミドリガイ科1種・ウロコガイ上科2種・オキナガイ科1種の8種は日本から記録のない種で黄海沿岸の固有種であると考えられる.ウロコガイ上科のシャミセンヒキ(和名新称)はミドリシャミセンガイに寄生する種で,韓国の研究者によって記載準備が進められている.オオシャミセンガイには近似種が寄生する.ミズゴマツボ科のトライミズゴマツボ・ドロアワモチ科のヤベガワモチは福田宏博士によって日本から報告された未記載種であるが,韓国にも広く分布する.ツメタガイ科・タケノコガイ科においても未同定種がある.これらの種を韓国の干潟の環境特性と共に紹介する.韓国では世界最大規模のセマングム干拓事業が進行中であるが,同地域でも6種の未記載種が確認されており,干拓事業の見直しを求めている.

Yamashita, H.: Undescribed molluscan species discovered in Korean tidal-flat

P-5 大分県佐伯市大入島石間浦の海産貝類相

    山下博由(貝類保全研究会)・福田 宏(岡山大・農・水系保全)・
    鈴木田亘平(同前)

 大入島(おおにゅうじま)は,豊後水道に面した佐伯湾に浮かぶ周囲23.2kmの離島である.島の南東部の石間浦は岩礁・岩礫地の海岸で,2haの豊かな藻場を有している.石間浦において2003年から貝類相の調査を行なっている.石間浦ではこれまでに約180種(生息種160種以上)の貝類が確認された.温帯内湾に黒潮支流の影響が加わった貝類相が構成されており,黒潮の影響を示す種としてはビロウドヒザラ・ヤタテガイ・インコタマエ・シロアオリ・ヒリョウ・チャワンガキなどが生息している.内湾の種としてはミヤコドリ・ヒナユキスズメの生息が確認されたが,この2種は大分県のレッドデータブックにおいて絶滅危惧IA類に指定されている.注目される種としては,Eatonina (Mistostigma) sp. セトウチヌバタマホシノミキビ・Alvania sp.・Murchisonella sp.などが挙げられる.セトウチヌバタマホシノミキビは山口県上関町長島・光市牛島以外では初めての産出例.Alvania sp. は,A. circinata マキウネツボに似るが顕著な縦肋をもつ点で異なり,これまで山口県柳井市・上関町などから未詳種として報告されている.Murchisonella sp.は和名ヒサスケゴウナに近似した種で,潮下帯から生貝が採集された.石間浦は種多様性の高さ・生物量の多さ・レッドリスト登載種及び大分県新記録種が多く確認されたことなどから,重要な貝類生息地であると位置付けられる.同地には大分県土木建築部による大入島東地区港湾環境整備事業があり,6.1haの埋立が計画されており,生態系保全への配慮を求めている.
Yamashita, H., Fukuda, H. and Suzukida, K.: Marine malacofauna of Ishima-ura, Onyujima Island, Saiki, Oita Prefecture
P-6 茨城県沖における上部漸深海帯の軟体動物相

    芳賀拓真゜(筑波・第二・生物)・栗原行人(国立科学博物館・地学)

 常磐沖(茨城県北部〜福島県南部)は黒潮と親潮の混合水域である.そのため,本海域の軟体動物相を解明することは興味あるテーマである.沿岸域については,僅かながら局所的な目録のなかで報告されているが,陸棚以深についての報告は少なく,特に微小種についての知見は極めて乏しい.目録のなかでは正確な水深が示されず,未だ概要を把握することが難しい.
 芳賀は,2002年2月に茨城県日立市沖水深350mのサンプルを調査する機会を得た.同時に底質も採取することができたため,そのなかより多数の微小種を検出した.同定された軟体動物は,腹足綱22種,掘足綱1種,二枚貝綱16種の全39種類である.個体数において,Platyschides opportunus ハラブトツノガイ,Neilonella soyoae ソウヨウハトムギソデガイ,Axinopsida rubiginosa サビツキハナシガイ,Abra profundorum profundorum スミスリュウグウザクラが優占していた.全種類中,約44%が親潮要素,約18%が鹿島灘〜房総半島沖に固有の種類であると考えられる.Dacrydium nipponicum ハンゲツミジンヒバリガイ,Axinopsida rubiginosa サビツキハナシガイ,及びMaorithyas yamatotaiensis ヤマトウスハナシガイは,模式産地以外からの初記録と思われる.
 常磐地域を含む関東地方北部は,新第三紀の漸深海帯の貝化石を多く産出する.古環境を推測するには現生のファウナとの比較が不可欠である.よって,常磐地域及びその近隣海域の漸深海帯軟体動物相の解明は,古環境復元のための比較資料としても重要である.

Haga, T. & Kurihara, Y.: Molluscan fauna of upper bathyal zone off Ibaraki Prefecture, central Japan

P-7 潮間帯に生育する海藻上の貝類群集

  境田朋美゜・山本智子(鹿大・水産)

 海藻はさまざまな海洋生物が餌場や棲み家,隠れ場,また保育場として利用する種多様性の高い場所である.貝類もまた藻体上に多数出現することが知られており,藻場を形成する大型海藻上の貝類群集についてはこれまでに多くの研究が行われている.しかし,潮間帯に生育するような小型の藻類上に出現する貝類についての知見は乏しい.そこで本研究では2003年の6,8,10,12月に鹿児島県串木野市長崎鼻の岩礁潮間帯において,海藻の季節消長に伴う貝類群集の季節変化,および海藻の形態と葉上の貝類組成の関係を明らかにすることを目的として調査を行った.
調査の結果, 24種類の海藻上から少なくとも37種の貝類が出現した(未同定種含まず).貝の種数が多かった海藻は,褐藻ウミトラノオと有節サンゴモであった.これらの海藻は枝が複雑に入り組んだ構造をしていることから,海藻の形状と貝の種数には何らかの関係があると考えられる.チャツボは多くの海藻で出現が確認されたが,6月に紅藻ピリヒバ・マクサ・コブソゾで,8月にはウミトラノオで特に多くの個体数が出現するという季節変化を示した.これは上記の紅藻3種が8月には消失,あるいは葉状部が枯れてしまったので,チャツボが生活の基質をウミトラノオに移したためと推測される.

Sakaida, T. and Yamamoto, T.: Molluscan community associated with intertidal algae
P-8  サカマキガイとは何者か?

    繻エ康裕(北海道立網走水産試験場)

 サカマキガイは日本各地で最も普通に見られる移入淡水産腹足類であり,日本国内ではPhysa acutaとして同定され,単一種と考えられてきた.近年の分類学的な研究ではPhysella属として扱われる場合が多く,日本産サカマキガイの属,種レベルの再確認の必要性が高まっている.現状として,サカマキガイに限らず日本における淡水産基眼目相の研究は遅れており,海外からの移入種対策の面からも,希少生物保護の観点からも,淡水産基眼目の分類学的研究の重要性が増している.
 今回,日本国内の複数産地で得られたサカマキガイの生殖器系の解剖学的観察から,いくつかの知見が得られており,それについて報告する.

Kuwahara, Y.: What is 'SAKAMAKIGAI'?

P-9 駿河湾大瀬崎に出現したLampadioteuthis megaleia について

    土屋光太郎(海洋大)・阿部秀樹(東京都)
 
 Lampadioteuthis megaleia はケルマディック海域を模式産地とする外洋性の小型のイカ類であるが,世界的に採集例も少なく,北太平洋域からは正式な報告はなかった.本種はLycoteuthidae に属し,1亜科1属1 種とされているが,その分類学的位置づけについては,いまだに疑問が残されている.西伊豆大瀬崎周辺は冬季に沿岸湧昇が卓越し外洋性の生物が観察されることで知られる海域であるが,著者の一人、阿部は2003 年3月5日、大瀬崎において本種を水中で観察、撮影するとともに標本を採集した.これは日本沿岸域における初記録であり,これにあわせて北太平洋域で採集された標本を用い,本種の分類,生態についての知見を述べる.

Tsuchiya, K. and Abe, H.: Occurrence of Lampadioteuthis megaleia in Osezaki, Suruga Bay

P-10 淡水・汽水性アマオブネ類の種多様性

     狩野泰則(宮崎大学・農・生物環境科学)

 Neritidaeアマオブネ科はNeritopsinaアマオブネ上目に属し,熱帯から温帯域の潮間帯岩礁,河口干潟ならびに淡水河川等に生息する巻貝の一群である.本類における種分類は主に殻と蓋の形態・色彩に基づいているが,これら形質には大きな種内変異があるとされる.特に非海産の属では19世紀に無数の種名が提唱されたこともあり,現状では正確な種同定ができないことが多い.
 今回,淡水・汽水性アマオブネ類における分類学的再検討の第一歩として,本邦各地より得られた約60個体について,mtDNA(COI,658bp)の塩基配列を決定し,個体間の形態的差異と遺伝的距離の比較を試みた.その結果,Clithon, Neritina, Neripteronの各属に,僅かな形態的差異により識別できる隠蔽種が多数存在する可能性が示唆された.本邦には35-40種の淡水・汽水性アマオブネ類が生息すると考えられる.

Kano, Y.: Unexpected species diversity of amphidromous neritid gastropods revealed by molecular taxonomy

P-11 ユキスズメ科貝類の分子系統解析

     狩野泰則(宮崎大学・農・生物環境科学)

 Phenacolepadidaeユキスズメ科(含シンカイフネアマガイ科)はNeritopsinaアマオブネ上目に属する笠貝・巻貝の一群である.熱帯から温帯域の内湾および河口干潟転石下の還元的環境,また深海の熱水・冷湧水化学合成群集に生息する.これまでに8(亜)属50種以上が記載されているが,実体のよく分からない種が多い.また科内分類群の系統仮説は全く提唱されていない.
 本研究では,国内外より得られた24種52個体について,mtDNA(COI, 16S & 12S; 2.4kbp)の塩基配列を決定し系統樹を構築,形態や生息環境の進化について考察した.その結果,(しばしば属や種の標徴とされる)殻表面の彫刻には大きな種内変異があり,これは必ずしも適切な分類形質とはいえないことが分かった.本科において一般に有効とされる6属のうち,PhenacolepasおよびCinnalepetaPlesiothyreusのシノニム,OlgasolarisShinkailepasのシノニムである可能性が高い.

Kano, Y.: Molecular phylogeny of the Phenacolepadidae

P-12 相模川水系,金目川水系におけるタイワンシジミの出現状況
       
    園原哲司°(向上高校)・藤原靖夫・針谷応・吉田直史(向上高校生物部)

 1999年,神奈川県伊勢原市石田の3面コンクリート農業用排水路で,シジミによく似た黄色い二枚貝の生息を確認した.千葉県立中央博物館の黒住耐二氏に同定していただいた結果,それは外来種(移入種)のタイワンシジミ(カネツケシジミ型:Corbicula fluminea f. insulalis)であることが判明した.
 そこで2001年から2003年かけて,外国産シジミ類の出現状況を確認するために相模川水系,金目川水系全域でタイワンシジミおよびマシジミの生息調査を実施した.その結果,119ヶ所の調査地点のうち55ヶ所でタイワンシジミの生息を確認した.在来種であるマシジミが生息していたのは,ゴルフ場の遊水池一ヶ所のみだった.マシジミは,河川や水路では絶滅に近い状態であり,一方,タイワンシジミは相模川の両岸全域で繁殖を拡大していた.
 繁殖拡大のプロセスに主要な農業用水路が密接に関係していることが明らかになった.また,ホタルの幼虫放流といった自然保護に関係する活動に伴って,外来種のタイワンシジミが広がっていることも判明した. 

Sonohara, T., Fujiwara, Y., Harigai, M. and Yosida, T.: Invasion of Corbicula fluminea into the Sagami river system

P-13 ヤマトカワニナ種群における歯舌の形態変異(予報)

     高見明宏(財団法人東海技術センター)

 沿岸及び河川棲ヤマトカワニナ種群8種の歯舌の形態を観察した.中歯と側歯における中央の歯尖の形態に,種間で大きな変異が認められた.中歯中央歯尖には,鋭角三角形,鈍角三角形,台形の形態変異があり,先端部に小さな切れ込みをもつ種も認められた.側歯中央歯尖には,細長く先端部が尖る,幅広く先端部が平坦化する,先端部に小さな切れ込みをもつという変異が観察された.中歯と側歯の形態変異の組み合わせるによってヤマトカワニナ種群の分類が可能かどうかを検討する.中歯や側歯の中央歯尖の先端が平坦化する変異は,カワニナ種群では観察されていないが,韓国産のカワニナ属の数種で報告があり,ヤマトカワニナ種群と類似性が示唆される.

Takami, A: Morphological variations of the radula in some Semisulcospira niponica species group

P-14 タカラガイの貝殻形態に見られる緯度クライン:数理モデルによる
      アプローチ

 入江貴博°・ 巖佐 庸 (九大・理・生物)

 タカラガイ科のいくつかの種 (e.g. Cypraea caputserpentis) は,その生活史と貝殻形態に顕著な地理的変異を示している.成貝の体サイズは高緯度ほど大きいが,殻は低緯度ほど厚い.この勾配変異を説明するために,我々は最適成長スケジュールを計算する数理モデルを構築した.このモデルでは,タカラガイの生活史が3ステージから構成される:幼貝期(体サイズを増大する)とカルス形成期(殻を厚化する)を終えたタカラガイは成貝期(繁殖を行う)に至る.生涯繁殖を最大にするような幼貝期とカルス形成期の長さを計算した結果,我々は以下のような結果を得た.(1) 死亡率および生長率に関係する環境要因の緯度勾配を考えたときに,幼貝形質に関して観察された勾配のパターンを説明するためには,死亡率(捕食圧など)の負の緯度勾配が必要である.これに対して,(2) 殻の厚さの地理的パターンは,殻を破壊するような捕食圧の負の緯度勾配と水温のような成長を促進する要因の負の緯度勾配のどちらによっても説明できる.これらの結果は,タカラガイが示す貝殻形態の緯度勾配を成立させた進化的背景を考える上で重要な意味を持つ.

Irie, T. and Iwasa, Y.: Latitudinal cline in the shell morphology of cowries: an approach with a mathematical model

P-15 Lymnaea stagnalisの原殻形成様式に関する研究

三好 理゜1・勝野志保1・佐々木猛智2・棚部一成1
(1東京大学・理・地球惑星科学,2東京大学総合研究博物館)

 現生軟体動物において,原殻の形態と幼生生態との間に直接的な対応関係が成立することが経験的に知られており,発生を直接観察することの困難な深海性の種や化石種の幼生生態の推定に応用することができると考えられている.しかし,大部分の種では原殻の形成過程について調べられていないため,幼生生態と原殻形態との因果関係については十分に理解されていない.
 本研究では,Lymnaea stagnalisの原殻形成過程について走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡を用いて観察を行った.その結果Lymnaea stagnalisでは,トロコフォア幼生期に分化した殻腺から有機質の殻体が分泌され,初期ベリジャー幼生期に外套膜が分化し,外套膜からの分泌によって有機質の殻体が付加成長し,後期ベリジャー幼生期に有機質の殻体が1.5巻き程度まで捩れたあとに殻頂部から殻体の石灰化が起こることを確認した.初期の原殻は付加成長ではなく一挙に分泌され,また石灰化過程も変態後の殻体形成とは異なる機構によるものであることが示唆される.

Miyoshi, O., Katsuno, S., Sasaki, T., and Tanabe, K.: Larval shell formation in the pulmonate snail Lymnaea stagnalis

P-16 イガイ科穿孔性貝類 Lithophaga 属および Leiosolenus 属の機能
形態

大和田正人(神奈川大学・理・生物)

イガイ科貝類の生活様式は,表在性,埋在性,穿孔性の3 つに大きくまとめることができる.表在性生活には mytiliform ,埋在性生活には modioliform と呼ばれる生活形の対応していることが知られている.しかし,穿孔性生活に対応する生活形は現在のところ知られていない.そこで,本研究ではイガイ科の代表的な穿孔性貝類であるLithophaga 属と Leiosolenus 属を対象に,穿孔性生活と殻形態の関係について調べた.また,得られた結果が系統と機能のどちらを強く反映するか検討するために,18srRNA の塩基配列を用いて系統解析を行った.その結果,両属に共通する特徴的な殻形態は穿孔性生活に都合の良いこと,そうした殻形態はそれぞれの属で独立に進化した可能性のあることが分かった.

Owada, M. : Functional morphology of boring shell Lithophaga and Leiosolenus in Mytilidae.

P-17 新腹足類巻貝(イボニシ、Thais clavigera)におけるステロイド
受容体ファミリー遺伝子発現の季節変動

梶原昌朗゜・榎本 瞳・加藤健一・高橋 滋・高橋勇二(東京薬科大、生命科学、環境ストレス生理)

 軟体動物の性成熟過程へのステロイドホルモンの関与を示す実験事実が蓄積されてきている。しかし、ステロイドホルモンの情報受容機構はほとんど明らかにされていない。我々は、脊椎動物と進化的に保存されたステロイドホルモン受容体ファミリー遺伝子の存在を仮定し、新腹足類に属するイボニシからそれら遺伝子をクローニングし、ステロイドホルモンの作用機構を明らかにすることを目的として実験を行った。
 茨城県ひたちなか市沿岸で採取したイボニシの神経節から全RNAを抽出し、cDNA を合成した。脊椎動物のエストロゲン受容体遺伝子のcDNA配列を参考として退縮プライマーを設計しPCR法を用いて全長cDNAをクローニングした。また、定量RT-PCR法、および、in situ hybridization 法を用いて遺伝子の発現状態を明らかにした。
 イボニシの神経節から全長2379 bpのエストロゲン受容体オルソローグcDNAをクローニングした。神経節と卵巣で本遺伝子の発現が確認され、性成熟の開始時期である3月に高い発現量を示した。
 以上の結果から、本遺伝子は性成熟に何らかの関与することが示唆された。

Kajiwara, M., Enomoto, H., Kato, K., Takahashi, S. and Takahashi, Y.: Seasonal and tissue-preferential expression of steroid hormone receptor family gene in gastropod, Thais Clavigera.

P-18 抱卵するスカシガイ科貝類Diodora sp.

沼波秀樹゜・宮村真友子・柏木美耶(東京家政学院大)・佐々木猛智(東京大)
・小串 輝(名古屋港水族館)

名古屋港水族館で飼育されているスカシガイ科貝類で,外套孔内に卵や幼生を抱卵・保育するものが観察された。本科貝類中でも抱卵する種はBoutan (1886)によって観察・報告されたFissurella reticulata Recluz, 1843だけである。そこで本種の抱卵数,成熟,成長量などについて研究した。成貝は家政学院大学の実験室内に設置した水槽で飼育し,成長量を測定した。水槽内の環境条件は,水温26℃,塩分濃度35‰,12時間点灯であった。また25個体(殻長2.43〜7.38 mm)をブアン固定後,パラフィン切片とし,ヘマトキシリン・エオシン染色を施して組織を観察した。飼育環境下の平均成長速度は殻長方向に1.14 mm/月で,殻長9 mm以上の個体が見られないことから,寿命は1年程度と推測された。組織切片を観察した結果,殻長4.48〜7.38 mmの12個体に卵の形成が確認され,本種は殻長4.5 mm程度で繁殖可能になると考えられた。また精巣の明確な像は得られなかったが,雌雄同体もしくは性転換する可能性が考えられる。抱卵数は殻長5.25 mmの個体で約170個,同6.71 mmで約290個であった。卵は外套腔内に最も多く,残りは足側面と外套膜の間に見られた。発生が進行し,ベリジャー幼生(殻長約0.2 mm)になると外套腔から離れることが確認された。幼生は外套腔から出ると僅かな時間であるが遊泳でき,観察用シャーレの表面に浮かび上がることから正の走光性があると考えられた。これらのことから親から放出され幼生は短時間浮遊して着底後,約4ヶ月で殻長約4.5 mmに成長して繁殖に参加し,約1年間で殻長約9 mmになり死亡すると推定された。

Numanami, H., Miyamura, M., Kashiwagi, M., Sasaki, T. & Ogushi, A.: Brooding biology of Diodora sp. (Fissurellidae).