「生理学領域における動物実験に関する基本的指針」
Guiding principles for the care and use of animals in
the field of physiological sciences.
日本生理学会
平成15年12月5日
生理学の教育、研究の場では動物実験は必須の手段となっている。そして動物実験を通じて行われた生理学の教育、研究は生命現象の理解と解明に大きな役割をはたし、この研究成果は、医学・医療に応用され、人類の健康維持と動物の福祉にはかり知れない貢献をしている。今後、日本における生理学教育の一層の充実と生理学研究の飛躍的な発展のため、生理学実験者が主として脊椎動物を用いる動物実験を実施するにあたり、科学的な動物実験計画の立案と動物の福祉という高い倫理性に基づいて十二分な配慮をするため、ここに基本的指針を定める。生理学領域の実験者は以下の指針を遵守し、厳正適格な実験を遂行しなければならない。また、本指針の遵守を保障するため、本学会の学術集会、および日本生理学雑誌、Japanese Journal of Physiologyに発表する研究は、各大学・研究機関等に設置された動物実験委員会、あるいは本学会の動物実験委員会の承認を得たものに限ることとする。
動物実験に際しての実験計画立案の科学性と動物福祉の立場に立った倫理的規範は、すでに「動物の保護および管理に関する法律、法律第105号、平成11年改定」、「実験動物の飼養及び保管等に関する基準、昭和55年総理府告示第6号」、「International guiding principles for biomedical research involving animals. CIOMS 1984」、「Guide for the care and use of laboratory animals. DHEW Publication. No. (NIH) 85-23, 1996」、「動物実験に関する指針、日本実験動物学会 1987」、「サル類を用いる実験遂行のための基本原則、日本霊長類学会 1986」等に示されており、本学会もこれらの精神をふまえ、昨今の「動物の愛護および管理に関する法律」の制定、「鳥獣保護事業計画基準」の制定などに鑑み、 従来の「生理学領域における動物実験に関する基本的指針」(昭和63年12月19日制定)を改訂するものである。
基本原則
実験に用いる動物の生命を尊重し、動物の人道的取り扱い及び福祉を最大限に追及しなければならない。このために次の3項目に努力を払わなければならない。
1) 飼育施設の整備、実験方法の改良、施術技術の向上等を通じ、実験に伴う動物の苦痛やストレスを最小限に抑える。
2) 動物実験に置き換えることのできる方法を積極的に取り入れる。
3)できるだけ少数の実験動物 で有効に科学的成果を生む。
具体的指針
- 動物の入手と搬入の方法
すべての動物は合法的に入手しなければならない。野生動物を実験に使用する場合は、自然保護を考慮し正規の手続きを経て取得したものに限る。輸入動物を使用する時は、自然保護のためのワシントン条約を遵守しなければならない。動物の搬入に当たっては、実験者および飼育技術者への感染、および動物相互間の感染を防止するために、獣医師など専門的知識を有する者が必要に応じて動物の検疫を行う。特に人獣共通感染症については綿密な検査が必要である。
- 動物の飼育管理
1)建物・設備
動物は、清潔で環境統御の行き届いた動物実験施設で飼育することを原則とする。やむを得ず、動物実験施設以外で飼育する場合でも清潔で環境統御の行き届いた室内空間を整備し、特に逃亡、盗難に対して十分な対策を講じ、騒音・臭気等を防止し、感染予防策を講じた周到な飼育管理条件の確保が必要である。
2)動物の飼育環境と飼育管理
動物を飼育するケージは、動物種と個体の大きさに応じて快適に生活できる広さが必要である。ケージとその周辺は清潔に保ち、換気、照明、温度、湿度のコントロールを行う。飼料は嗜好にあった、栄養学的に適したものを与え、新鮮な水が容易に得られるようにする。さらに動物種特有の行動や運動が出来るように配慮し、動物の不安やストレスを軽減するよう心掛ける。
3) 疾病管理
動物の健康状態は毎日調べ、病気の動物を発見した場合、速やかに獣医師など専門的知識を有する者の助言を受けて、治療あるいは感染拡大の防止等のために適切な処置をとらなければならない。
- 動物実験の計画と実施
1) 実験計画の立案
動物を用いる実験および教育用の実習を計画するにあたっては、以下のことを明確にしなければならない。実験目的と結果が科学的に価値が高く、動物を使うことが必要不可欠であること。実験手技は、動物に無用な苦痛を与えないように、動物福祉の観点から洗練されたものであること。なるべく少数の動物で目的とする科学的成果が得られるような計画であること。実験者および飼育技術者が動物から危害や感染を受けないよう予防的処置を行なうこと。また関連法規を遵守すること。
2)実験計画書の審査
実験者は、動物実験に先立ち、動物実験計画書を各研究機関に設置された動物実験委員会等に提出して審査を受け、承認を受けなければならない。
3)動物実験ファイルの作成と保存
実験者は、動物実験の実施状況を記載した動物実験ファイルを作成し保管しなければならない。動物実験ファイルには、承認された動物実験計画書のコピー、健康上の問題および事故が生じた場合の対応と経過の記録、研究成果と発表方法の記載 を含むものとする。
4)実験者の資格
実験者は、実験手技と実験動物の取り扱いに習熟していなければならない。十分な経験のない研究者は、必ず熟練した実験者の指導の下で実験を行わなければならない。
5)疼痛・身体拘束等による苦痛の除去、軽減
動物に苦しみや痛みを与えないように、特に実験中は最大限の努力を払わなければならない。動物の身体を拘束する場合は、十分に馴らしてから実験を行なう。給水、給餌の制限をする場合には、動物が苦痛を感じない範囲で健康状態をチェックしながら行なう。痛覚やストレスの研究は各所属機関の動物実験委員会等の審査を経て、特に許可された場合に限り、必要最小限の実験を行う。
6) 外科的処置
動物に外科的処置 を施す場合には、術前管理、滅菌、消毒、感染予防などの配慮をし、動物の苦痛を取り除くために術前・術中の投薬と麻酔、術後の投薬と介護に十分配慮し なければならない。
7)実験終了後の処置
実験終了後に動物を処分する時には、動物福祉の観点に沿った安楽死処置をしなければならない。総理府告示:「動物の処分に関する指針」に準拠し、麻酔薬の過剰投与などでこれを行なう。屍体および実験に使用した施設や器具等による環境汚染を防止しなければならない。
- 実験者・飼育技術者の衛生と安全
動物の飼育管理と実験の全体を通じて、実験者・飼育技術者にとって安全で健康的な職場環境を維持することが必要である。動物による咬傷等の防止、感染の防止、消毒・洗浄用薬剤による環境汚染の防止に努め、特に人獣共通の感染症に対して検疫と感染防止に万全を期することが重要である。
- 動物の飼育および実験実施状況の監視
各研究機関の動物実験委員会は、動物の飼育と実験が人道的に動物の福祉を配慮して行われているかどうかを監督する任務を負っている。動物実験を計画する会員が所属する研究機関に動物実験委員会がない場合は、過渡的に生理学会の動物実験委員会がその役を代行し、本学会は当該研究機関に動物実験委員会を設置するよう助言と支援を行う。
- 実験成果の公表
生理学会の学術集会および学会刊行誌(日本生理学雑誌、Japanese Journal of Physiology)に発表する研究は、各研究機関の動物実験委員会、または本学会の動物実験委員会の審査を受けて承認されたものに限る。