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植田浩史氏の著書は、戦前機械金属工業生産が頂点に達した戦時期における機械金属工業を中心に、下請け・協力工業の実態を、受発注側の動きと政府の統制による政策的対応の二つの面から検討した研究書である。
序章「課題と問題意識」、1−3章で1930年代の機械金属工業の展開と下請工業を分析し、4−5章では戦時統制下の下請=協力工業政策の形成と展開および挫折を考察し、6−8章で下請・協力関係と政策的に進められた下請=協力工業整備の展開過程を一次資料(『国策研究会文書』、『協力工場名簿』、『協力工業台帳』等)に基づいて検討し、補章で自動車部品工業と下請工業を戦前から戦時にかけてフォローし、終章でまとめを行うと同時に戦後の下請・サプライヤシステムの展開について展望している。
戦時期における下請=協力工業研究に関する著者の結論は、「中小企業を大量動員した戦時期下請・協力工業は、日本の中小企業発展の一つの道を閉ざし、強制的に軍需生産に動員することで中小企業の近代化を図ろうとしたプランに基づき作り上げられようとされたが、そのプランは実現されることなく、戦時生産の崩壊と共に消滅していった」「1980年代以降特徴づけられる日本的な下請・サプライヤシステムとは高度成長期以降の条件の中で形成されたものと考えるのが妥当である」とするものであり、この時期の状況を明らかにすることによって、戦後あるいは高度成長期の意味を改めて問うことが可能になる、としている。
本書の功績は、全構造的把握への目配りを堅持しつつ、下請工業について戦前・戦時・戦後にわたる検討を行ない、戦時期の下請工業をそれ自体として当時の歴史に即して位置づけた点である。その結果、1980年代以降に現れた「日本的経営システム」、その一環としての日本的下請(サプライヤ)システムの源流を戦時期に求める「通説」を、戦時期の下請=協力工場と政策の分析を通じて論破することになった。著者の結論は、「高度成長期における変化が決定的な意味をもっていたのであり、戦時期の変化を過大評価することは出来ない」、「戦時期の変化は戦時期という特殊な条件において成立した」と考えるべきであるというものである。また、戦後に国際的な広がりをもって展開されている「日本的サプライヤシステム」研究の空白を埋める研究、としても高く評価しうる。
本書の成果は、著者が日本経済史の研究者であると同時に「下請中小企業」の現状分析の研究者でもある、という独自の視点によってもたらされた、といえよう。戦後の「下請中小企業」の現実を知悉しているからこそ、戦時期との質的な差異をよく弁別しえたのである。また、「当時の歴史的条件に即した分析によって、いかなる下請制が存在していたか」を比重正しく検証する、経済史家としての確かな方法論にも裏付けられている。なお、初めて封を切った大部な一次資料(『国策研究会文書』、『協力工場名簿』、『協力工業台帳』)や、研究対象と同時代の先行研究者であった豊崎稔・藤田敬三・小宮山琢二たちが全国から収集した貴重な資料を活用し、彼らの研究成果をも継承している点も特筆すべきである。
以上の理由により、本著作は学会賞を授与するにふさわしい優秀な研究と認められる。
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